119 / 278
119. 女神 (3) 出現
しおりを挟む
.
━━━━危ない!
頭の中を声が霞めた。
京司朗は振り向き様に発砲した。
左肩に衝撃をくらった。
肩は熊の振り下ろした鋭い爪に裂かれ、京司朗は地面に倒れた。それでも頭部への命中は避けられた。
あと一秒二秒動くのが遅かったら完全に体をもっていかれたかもしれない。
━━━━声が聞こえた気がした
「う・・・」
京司朗の肩に痛みが走る。
起きて銃を構えなければ殺られる。京司朗は上体を起こし、木で背中を支えた。
幸いライフルは京司朗の手の届く範囲に落ちていた。
撃った弾は外れたのか。いや、どこかに命中したはずだ。外れていたならとっくに熊の餌食になっている。ダメージにはなっているのだ。
京司朗の左肩は作業用ジャケットが裂かれ、血でみるみるうちに染まっていく。
熊は痛みがあるのか、血のニオイで興奮しているのか、身悶えに似た動きをしている。わかっているのは京司朗を餌として認識していることだ。人間を餌としてとらえている。
こいつは人間の味を覚えている。過去、この山で何人か行方不明になっているのはこいつの餌になったのかもしれない。
━━━━死ぬのはかまわないが生きたまま餌になるのはごめんだ。
生きたまま喰われるなら潜ませている護身用の銃で自らの頭を撃ち抜くか舌を噛みきる。
京司朗は常々、いつ死んでもいいと思ってきた。
両親の事件から、生きながらも生きることを諦めている男だ。
惣領貴之に出会い、惣領家の一族に加えてもらった。不自由のない暮らしができたのは運がよかった。
実力をつけ、地位を確立し、欲しいものは何でも手に入れてきた。
だが一瞬の満足でしかなかった。
けれどやっと、心の渇きを潤す術を知った。
走っても走ってもどこにも辿りつけなかった心に、居場所を与えてくれる女をみつけた。
心の渇きが癒された時、辿りつける場所を知った時、気持ちは満たされた。
━━━━本当に欲しいものは、この手にはできない幻だったのか
熊が身悶える動きを止め、京司朗を標的にみている。
京司朗は意識が朦朧とし始めた。
━━━━まずいな。自分で死ぬしかないか。
京司朗は護身用の銃に手をかけた。
『くるくる回せるんですか?!』
突然声が降って湧いた。『危ない』と頭のなかを霞めた声と同じ声だ。
あれはみふゆの声だったのか。
『見たいです』
そうだ。
ピザを作る約束をしたばかりだ。
生地をくるくる回すのを見たいと言っていたみふゆとの約束だ。
『リクエストに答えよう』
京司朗は確かにみふゆにそう答えた。
「・・・まだ死ねない」
京司朗は呟くと、視線を熊に合わせて睨みながらライフルに手を伸ばした。
━━━━死にたくない
京司朗は初めて生への執着をみせた。
熊は目の前の京司朗を味わいたい一心で狙いを定めている。
熊が京司朗めがけて爪を振り下ろす。
京司朗は朦朧とする意識を気力で補い、体を倒してライフルで熊を撃った。
発砲音が響いた。
二発の発砲音だった。
一発は京司朗が。
もう一発は━━━━━
「仙道さん!!」
矢口だった。
「高城さん、仙道さんをお願いします。ここは俺が引き受けます」
矢口が京司朗と高城の前に立ち、熊と対峙した。
二発とも命中したにも関わらず、熊は倒れず唸り声を出している。
「仕留めます。こいつは完全に人間を餌としてとらえている」
いつもふざけた口調の矢口が、真面目な言葉を発していた。
「犬はどうした・・」
京司朗が切れ切れの息で聞くと、
「三頭仕留めました。二頭が逃げて・・・」
京司朗の肩の止血をしている高城が言いかけたが、
「仙道さん・・、ライフルを俺に・・・」
と、京司朗のライフルを手にした。
「戻ってきたか・・・」
「みたいです。ご丁寧に仲間を引き連れて・・」
逃げた二頭が引き連れてきた仲間の数は、大型、中型を含めた十頭にのぼり、半円形に三人を囲んでいた。
「ここが一時合流地点だ」
地図を見ながら三上と村井が打ち合わせをしている。
三上の非常召集で十五人がすぐに集まった。これからもっと集まるだろう。来れない連中は、ほとんどが災害の後始末に追われているのだ。
三上は五人一組の隊を組んだ。三上と村井の二隊に別れて地図を元に山中を捜索、残りは上空から赤外線カメラ搭載のドローン二台を使った捜索にまわった。
「仙道さーん!」
「矢口ー!高城ー!!」
山中に三人の名を呼ぶ声が響くが反応は無い。
霧が濃い。さっきより一段と濃くなった気がする。
さほど奥には入っていないはずなのに、霧のせいでどこから山に入ったのか印しがなければわからなくなっているだろう。
「三上さん!」
村井の隊が合流地点にやってきた。
「三上さん、まずいんじゃないですか?もっと人を増やした方が・・・」
村井が言うと、三上は
「ああ、明るいうちに・・」
と、無線をとろうとした。
「━━━━なんの音だ・・?」
「音?」
「今、音が・・」
リーン・・・リーン・・・
「鈴・・?」
三上が辺りを見回した。
シャンシャンシャン・・
小さな音から大きな音に変化する。
リーン、リーン、シャンシャンシャン・・
近づいてくる。
リーン、リーン、シャンシャンシャン・・
リーン、リーン、シャンシャンシャン・・
霧の中に人影が浮かんだ。
三上の側にいた東屋透が霧の中を指差した。
「み、三上さん、三上さん!・・・あ、あれ、あれ・・あれ・・・!」
女が立っていた。
着物を着ている。
ただの着物じゃない。
十二単だ。長い黒髪を真ん中から分けている。
平安時代の絵巻物の絵姿と同じだ。
「三上さん・・、あの顔は・・」
村井が目を見開いている。その場にいる十人もの男達が信じられないと言いたげに目を剥き出しにしていた。
「あ、ああ・・・」
三上はごくりと唾を呑み込んだ。
「お嬢さん・・・」
三上が言った。
十二単の女の顔はみふゆによく似た顔をしていた。
正確には今のみふゆより幼い顔立ちをしている。
女というより少女だ。
少女の後ろには両手に鈴を持ち鳴らしている男がいた。細身の男だが顔は見えず、首から下だけが見えている。少女は十二単なのに、男はワイシャツにズボンと、現代の出で立ちをしている。
みふゆによく似た少女は何度も振り返り、三上らを招くように霧の中を進みはじめた。
三上はあとを追った。
「み、三上さん!ダメだ!ヤバいって!」
周囲が騒然としたが、三上は「ついてこれる奴だけ来い」と言って、十二単の少女のあとを辿っていった。
呆然としていた村井が男達を振り返り「お前達はここにいろ!」と言い三上のあとを追った。が、数人の男達が三上と村井に続いた。三人の男が残ったが「ま、待ってくれ!」と追いかけていった。
京司朗の危険を感知し、飛び起きたみふゆを貴之は抱き締めた。
「助けないと・・、助けないと・・」
みふゆはうわごとのように繰り返した。
「大丈夫、大丈夫だ。それは夢だみふゆ。京司朗は大丈夫だからもう一度眠るんだ」
「夢・・・」
みふゆの、恐怖で強ばった体の震えが貴之に伝わった。
「そうだ、だからもう一度眠るんだ。今度は楽しい夢を見るといい」
「・・ゆめ・・・」
みふゆはそう言うと再び瞼を閉じ、眠りについた。
「会長・・」
桐島が戸惑いながら貴之に声をかけた。
「急いで屋敷に戻れ」
貴之は感情を押し殺した声で桐島に命じた。桐島は「はい」と返事をした。
野犬の集団が近づこうとしているが、近づいてはこない。熊の存在が野犬達の動きを鈍らせていた。
熊も多数の野犬の存在に、同様に動きが鈍っていた。いっそ野犬と熊で殺し合いになってくれれば逃げ道ができるのに、と高城は考えていた。
「矢口」
京司朗が口を開いた。気力だけで意識を保っている。
「一発で仕留められるか?」
「やります。仕留めます」
矢口が言いきった。
「熊はお前に任せる。高城、お前と俺とで犬を仕留めていく」
京司朗が作業着の内ポケットから護身用の銃を取り出した。
熊が倒れれば犬供は一斉に飛びかかってくる。
一発も外せない。
「わかりました」
高城が答えた。
「矢口」
京司朗が指示した。
「はい」
矢口の指先に力がこもった。
━━━━危ない!
頭の中を声が霞めた。
京司朗は振り向き様に発砲した。
左肩に衝撃をくらった。
肩は熊の振り下ろした鋭い爪に裂かれ、京司朗は地面に倒れた。それでも頭部への命中は避けられた。
あと一秒二秒動くのが遅かったら完全に体をもっていかれたかもしれない。
━━━━声が聞こえた気がした
「う・・・」
京司朗の肩に痛みが走る。
起きて銃を構えなければ殺られる。京司朗は上体を起こし、木で背中を支えた。
幸いライフルは京司朗の手の届く範囲に落ちていた。
撃った弾は外れたのか。いや、どこかに命中したはずだ。外れていたならとっくに熊の餌食になっている。ダメージにはなっているのだ。
京司朗の左肩は作業用ジャケットが裂かれ、血でみるみるうちに染まっていく。
熊は痛みがあるのか、血のニオイで興奮しているのか、身悶えに似た動きをしている。わかっているのは京司朗を餌として認識していることだ。人間を餌としてとらえている。
こいつは人間の味を覚えている。過去、この山で何人か行方不明になっているのはこいつの餌になったのかもしれない。
━━━━死ぬのはかまわないが生きたまま餌になるのはごめんだ。
生きたまま喰われるなら潜ませている護身用の銃で自らの頭を撃ち抜くか舌を噛みきる。
京司朗は常々、いつ死んでもいいと思ってきた。
両親の事件から、生きながらも生きることを諦めている男だ。
惣領貴之に出会い、惣領家の一族に加えてもらった。不自由のない暮らしができたのは運がよかった。
実力をつけ、地位を確立し、欲しいものは何でも手に入れてきた。
だが一瞬の満足でしかなかった。
けれどやっと、心の渇きを潤す術を知った。
走っても走ってもどこにも辿りつけなかった心に、居場所を与えてくれる女をみつけた。
心の渇きが癒された時、辿りつける場所を知った時、気持ちは満たされた。
━━━━本当に欲しいものは、この手にはできない幻だったのか
熊が身悶える動きを止め、京司朗を標的にみている。
京司朗は意識が朦朧とし始めた。
━━━━まずいな。自分で死ぬしかないか。
京司朗は護身用の銃に手をかけた。
『くるくる回せるんですか?!』
突然声が降って湧いた。『危ない』と頭のなかを霞めた声と同じ声だ。
あれはみふゆの声だったのか。
『見たいです』
そうだ。
ピザを作る約束をしたばかりだ。
生地をくるくる回すのを見たいと言っていたみふゆとの約束だ。
『リクエストに答えよう』
京司朗は確かにみふゆにそう答えた。
「・・・まだ死ねない」
京司朗は呟くと、視線を熊に合わせて睨みながらライフルに手を伸ばした。
━━━━死にたくない
京司朗は初めて生への執着をみせた。
熊は目の前の京司朗を味わいたい一心で狙いを定めている。
熊が京司朗めがけて爪を振り下ろす。
京司朗は朦朧とする意識を気力で補い、体を倒してライフルで熊を撃った。
発砲音が響いた。
二発の発砲音だった。
一発は京司朗が。
もう一発は━━━━━
「仙道さん!!」
矢口だった。
「高城さん、仙道さんをお願いします。ここは俺が引き受けます」
矢口が京司朗と高城の前に立ち、熊と対峙した。
二発とも命中したにも関わらず、熊は倒れず唸り声を出している。
「仕留めます。こいつは完全に人間を餌としてとらえている」
いつもふざけた口調の矢口が、真面目な言葉を発していた。
「犬はどうした・・」
京司朗が切れ切れの息で聞くと、
「三頭仕留めました。二頭が逃げて・・・」
京司朗の肩の止血をしている高城が言いかけたが、
「仙道さん・・、ライフルを俺に・・・」
と、京司朗のライフルを手にした。
「戻ってきたか・・・」
「みたいです。ご丁寧に仲間を引き連れて・・」
逃げた二頭が引き連れてきた仲間の数は、大型、中型を含めた十頭にのぼり、半円形に三人を囲んでいた。
「ここが一時合流地点だ」
地図を見ながら三上と村井が打ち合わせをしている。
三上の非常召集で十五人がすぐに集まった。これからもっと集まるだろう。来れない連中は、ほとんどが災害の後始末に追われているのだ。
三上は五人一組の隊を組んだ。三上と村井の二隊に別れて地図を元に山中を捜索、残りは上空から赤外線カメラ搭載のドローン二台を使った捜索にまわった。
「仙道さーん!」
「矢口ー!高城ー!!」
山中に三人の名を呼ぶ声が響くが反応は無い。
霧が濃い。さっきより一段と濃くなった気がする。
さほど奥には入っていないはずなのに、霧のせいでどこから山に入ったのか印しがなければわからなくなっているだろう。
「三上さん!」
村井の隊が合流地点にやってきた。
「三上さん、まずいんじゃないですか?もっと人を増やした方が・・・」
村井が言うと、三上は
「ああ、明るいうちに・・」
と、無線をとろうとした。
「━━━━なんの音だ・・?」
「音?」
「今、音が・・」
リーン・・・リーン・・・
「鈴・・?」
三上が辺りを見回した。
シャンシャンシャン・・
小さな音から大きな音に変化する。
リーン、リーン、シャンシャンシャン・・
近づいてくる。
リーン、リーン、シャンシャンシャン・・
リーン、リーン、シャンシャンシャン・・
霧の中に人影が浮かんだ。
三上の側にいた東屋透が霧の中を指差した。
「み、三上さん、三上さん!・・・あ、あれ、あれ・・あれ・・・!」
女が立っていた。
着物を着ている。
ただの着物じゃない。
十二単だ。長い黒髪を真ん中から分けている。
平安時代の絵巻物の絵姿と同じだ。
「三上さん・・、あの顔は・・」
村井が目を見開いている。その場にいる十人もの男達が信じられないと言いたげに目を剥き出しにしていた。
「あ、ああ・・・」
三上はごくりと唾を呑み込んだ。
「お嬢さん・・・」
三上が言った。
十二単の女の顔はみふゆによく似た顔をしていた。
正確には今のみふゆより幼い顔立ちをしている。
女というより少女だ。
少女の後ろには両手に鈴を持ち鳴らしている男がいた。細身の男だが顔は見えず、首から下だけが見えている。少女は十二単なのに、男はワイシャツにズボンと、現代の出で立ちをしている。
みふゆによく似た少女は何度も振り返り、三上らを招くように霧の中を進みはじめた。
三上はあとを追った。
「み、三上さん!ダメだ!ヤバいって!」
周囲が騒然としたが、三上は「ついてこれる奴だけ来い」と言って、十二単の少女のあとを辿っていった。
呆然としていた村井が男達を振り返り「お前達はここにいろ!」と言い三上のあとを追った。が、数人の男達が三上と村井に続いた。三人の男が残ったが「ま、待ってくれ!」と追いかけていった。
京司朗の危険を感知し、飛び起きたみふゆを貴之は抱き締めた。
「助けないと・・、助けないと・・」
みふゆはうわごとのように繰り返した。
「大丈夫、大丈夫だ。それは夢だみふゆ。京司朗は大丈夫だからもう一度眠るんだ」
「夢・・・」
みふゆの、恐怖で強ばった体の震えが貴之に伝わった。
「そうだ、だからもう一度眠るんだ。今度は楽しい夢を見るといい」
「・・ゆめ・・・」
みふゆはそう言うと再び瞼を閉じ、眠りについた。
「会長・・」
桐島が戸惑いながら貴之に声をかけた。
「急いで屋敷に戻れ」
貴之は感情を押し殺した声で桐島に命じた。桐島は「はい」と返事をした。
野犬の集団が近づこうとしているが、近づいてはこない。熊の存在が野犬達の動きを鈍らせていた。
熊も多数の野犬の存在に、同様に動きが鈍っていた。いっそ野犬と熊で殺し合いになってくれれば逃げ道ができるのに、と高城は考えていた。
「矢口」
京司朗が口を開いた。気力だけで意識を保っている。
「一発で仕留められるか?」
「やります。仕留めます」
矢口が言いきった。
「熊はお前に任せる。高城、お前と俺とで犬を仕留めていく」
京司朗が作業着の内ポケットから護身用の銃を取り出した。
熊が倒れれば犬供は一斉に飛びかかってくる。
一発も外せない。
「わかりました」
高城が答えた。
「矢口」
京司朗が指示した。
「はい」
矢口の指先に力がこもった。
10
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王命って何ですか? 虐げられ才女は理不尽な我慢をやめることにした
まるまる⭐️
恋愛
【第18回恋愛小説大賞において優秀賞を頂戴致しました。応援頂いた読者の皆様に心よりの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました】
その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。
貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。
現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。
人々の関心を集めないはずがない。
裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。
「私には婚約者がいました…。
彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。
そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。
ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」
裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。
だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。
彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。
次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。
裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。
「王命って何ですか?」と。
✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
