春風

福福夢狸

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春風〜第七章【リプレイ、愛し合う熱】

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 終電間近の電車に揺られながら、直哉と並んで座る。  
 窓の外を流れる夜景はどこかぼんやりしていて、心の中も同じようにふわふわと浮いていた。

 隣にいる直哉の手のひらが、そっと私の手を包み込む。  
 指を絡めるその仕草に、胸の奥が、きゅうっと、締めつけられた。


 電車を降り、改札を抜け、駅から少し歩いたところにあるという直哉のマンションへ向かう。  
 駅前の喧騒を離れ、夜の住宅街を共に歩く。夜風は少し冷たかったけれど、彼の隣を歩いていると、不思議と寒さは感じなかった。




 彼が借りているアパートに着くと、直哉が鍵を取り出して部屋のドアをそっと開ける。
  
 直哉の部屋は、思ったよりも、ずっと整っていた。

 シンプルな家具に、黒とグレーを基調とした落ち着いたインテリア。  
 生活感はあるけれど、ごちゃつきはなく、無駄なものがない。

 きちんと畳まれたブランケット。  
 机の上も、パソコンと小さな観葉植物だけが置かれていて、どこか几帳面さが滲んでいる。

(……なんか、直哉っぽいかも)
 そんな感想が、ふっと心に浮かんだ。

 きちんと整えられ、無理に飾ろうとしておらず、けれど、どこか優しくて、居心地がいい。 

「狭いけど……まあ、ゆっくりして」

 バツが悪そうに笑う直哉に、私は小さく首を振った。

「ううん……すごく落ち着く」
 
 本当に、そう思った。
 誰にも邪魔されない場所。  
 心臓の音が、自然と早くなる。

「……先に、シャワー浴びたいかな……時間かかるから、直哉が先でも良い?」
「ああ、分かった」
 
 照れたように笑い、直哉はバスルームへと向かう。  
 私は、彼の背中を見送ると、少し深呼吸をした。
 
 
 一人になった静かな時間。  
 手荷物を部屋の隅に置き、直哉の部屋を見渡しながら、胸の奥で、期待と緊張がせめぎ合う。
 誰にも邪魔されない、二人だけの空間――。
 この部屋なら、二人で、ちゃんと向き合える。

 (直哉も、同じ気持ち、なのかな……)
 一人ベッドに腰を下ろし、待っていると、やがてシャワーの音が止み、部屋の扉が開いた。


 濡れた髪をタオルで拭きながら、上半身裸の直哉が現れる。
 柔らかな腹筋と、肩から腕にかけてのしなやかな筋肉に、思わず視線を奪われた。

「沙月、空いたよ……」

 目を逸らしながら言う直哉に、小さく頷き、私は交代するようにバスルームの方へ向かった。


 脱衣スペースに入ると、頭に被っていたキャスケット帽を外す。
 ふわりと解かれた髪が、肩に流れ落ちる。  
 軽く手で髪を梳くすくと、ほのかな香りが、ふわりと広がり、ひときわ自分の存在を意識させた。

 手を伸ばし、ワンピースの胸元に並んだ小さなボタンに指をかける。
 
 パチン、パチン――  

 控えめな音を立てながら、ひとつ、またひとつ。ワンピースのハーフボタンを外していく。 
 全てを外し終えると、柔らかな白い布地が、するりとからだを撫で、静かに足元へと落ちた。  

 
 露わになったのは、素肌を包んでいた、胸元に小さな波型のレースがあしらわれた、薄くしなやかなピンクベージュのキャミソール。
 それと同じ色味の、裾にほんの少しレースが施された、薄手のペチパンツ――(ショートパンツのようなインナー)。その布越しに、女のしなやかなラインがうっすらと透けていた。 
 

 扉の向こうの部屋に直哉がいる――


 そう思うと、自分でも、恥ずかしくなるくらい、心臓の鼓動が速くなる。
 
 手先が震えるのを感じながら、キャミソールの裾を摘み、肌をなぞるようにキャミソールをたくし上げた。
 布が胸をすべり、肩紐がするりと抜け落ちると、静かに頭上を通して脱いでいく。
 
 次いで、両手でペチパンツのウエストをそっとつまみ、滑らせる。
 布地を太ももになぞらせ、膝、ふくらはぎと降ろしていき、静かに抜き取ると、足元にふわりと落とす。

 残ったのは、肌に溶け込むような薄ピンクの、繊細なブラとショーツだけ。
 ブラのカップの上や、ショーツのサイドと裾には、ほんのわずかに小花模様の刺繍レースが施されている。
  
 ためらいながら、背中に手を回す。  
 ブラのホックを外すと、胸を支えていた布がはらりと落ち、床に静かに広がった。

 最後に、ショーツのゴムに指をかける。  
 ゆっくりと腰を滑らせ、足首からそっと抜き取ると、脱いだ衣服をまとめ、バスルームに入る。

 
 バスルームに入った私は、備え付けれていた鏡が目に入る。

 鏡に映る――何も纏っていない素肌の私。
 細い腰から緩やかに広がるヒップ、ふっくらと膨らんだ胸――女の柔らかい曲線。
   
 露わになっている素肌は、ほのかに火照っていた。

 思わず両腕で自分を抱きしめる。  
 浴室の少しひんやりとした空気が、熱を帯びた肌を撫で、ますます体温が上がる気がした。

 浴室には、他に誰もいないのに、直哉の視線を意識してしまう。  
 そんな錯覚に、身体の奥がかすかに疼いた。

 胸も、お腹も、脚も……全身が、彼に触れてほしくて仕方ない、そんな熱を帯びていた。
 
 私は、そっとシャワーのハンドルをひねる。
 あたたかな水流が、火照った身体をやさしく撫でていった。
 
 シャワーを浴びながら、これからの事を思うと、心臓がドクドクと早鐘を打つ。



 
 しばらくして、シャワーを浴び終えた後。
 お湯で温まった身体をバスタオル一枚に包むと、バスルームのドアをそっと開けた。
 
 バスルームを出ると、部屋の空気が一段と熱を帯びて感じられた。

「……お待たせ」
  
 そう声をかけると、下着姿でベッドに腰掛けていた直哉がこちらを振り向き、息を呑んだ。
 彼の目が、驚きと――確かな熱を帯びたものに変わっていく。

 
 ふわりと広がるタオルの下、すらりと伸びた脚。
 バスタオルに包まれた腰回りは、細く引き締まりながらも、女性らしい柔らかな丸みを描く。
 濡れた髪から滴る雫が、肌をつたう。

 それが、夜の光の下で柔らかく浮かび上がる。

 胸元も、布一枚でかろうじて隠されているだけ。
 柔らかな双丘が、呼吸に合わせて小さく上下している。

 
 私の身体を、まるごと見つめるその視線に、肌が焼けるようだった。

「……すごい、綺麗だ……」
「……え、えっと……ありが、と……」
 
 呟くように零れた直哉の言葉に、顔が熱くなり、私は恥ずかしさを誤魔化すように、少しだけ笑った。 

 二人の距離が、自然と近づく。

 指先が触れ、肌がふれる。  
 そして、唇が重なる。
 甘く、柔らかく、震えるようなキス。
 触れるたび、求める気持ちは高まり、抑えきれなくなっていった。
 
 バスタオル越しに押し当てられる、硬くなった彼の熱。
 下着越しでも、はっきりわかる直哉の熱に、身体が熱くなる。

 私はそっと、彼の下着に手を差し入れた。
 手の中に収まった直哉の昂りは、脈打つように熱く、力強かった。
 
「……沙月っ……」

 耳元で囁かれる声に、背筋が震える。
 私は手の中に収まり、窮屈そうにしている直哉の昂りを解放してあげる為に、そっと、彼の下着を下ろした。


 解放された直哉の熱は、雄々しく天を衝くように立ち上がる。
 その逞しさに、自然と、ごくりと喉が鳴った。

 指先で直哉の熱を包み、ゆっくりと上下に擦る。
 
「……っ……」
 
 擦るたびに、直哉が少し声を漏らす。


「直哉……そこ、座って?」
 
 私は、直哉をベッドに腰掛けさせると、腰を下ろして、脈打つたびに硬さを増していく直哉の熱を、そっと唇に含んだ。

「っ……沙月……そんな……そこ、口に含んだら……」
 
 直哉が喉を震わせ、息を詰める。

 顔を仰け反らせ、快楽に耐えるように目を閉じた姿が、たまらなく愛おしかった。
 上目遣いでその顔を見ながら、私はさらに深く、彼を口内に迎え入れる。
 雄々しくぬめる熱を舌で舐め、甘く締めつけると、直哉の腰が小さく跳ねた。

「……っ、あ……」

 低く、漏れる喘ぎ声。
 
 その声に、私の下腹部も、きゅんと疼く。
 身体の奥で、女の本能が疼いているのを感じ、私は空いた片手で、熱を帯びた秘裂に、指先を這わせる。
 ぬるりと濡れたそこを、震える指先で慰めながら、直哉を口で愛し続けた。
 
 直哉が、掠れるような声で言った。

「……沙月、もう……離れて……」 

 でも、私は首を横に振る。
 まだ、直哉を感じていたかった。


 そして――
 直哉がビクリと震え、次の瞬間、ドピュッと、音が立つほどの熱い奔流が私の口内に溢れた。

「……っ、沙月……!」

 溢れ出す彼の証を、私は零さないように全部受け止める。 
 とめどなく溢れる彼の白い想いを、喉の奥で受けとめる。

 放たれた彼の想いが落ち着いた辺りで、咥えていた彼の熱を離し、口内に残る、まだ熱を持ったままの彼の想いを、すべて飲み込んでいく。
 
「……飲んだの?」

 直哉が驚いたように聞く。

「……もしかして、顔に出したかった?」

 悪戯っぽく微笑むと、直哉は顔を赤くした。
 ぬるりとした熱い固まりが、喉に絡まる感じが、彼が私で感じてくれたという証がして、何だか嬉しくなる。

「……っ、いや、そういう訳じゃ……」
「……ゴメン……どうしても、直哉の、飲みたくなって」

 小さく微笑むと、彼は顔を赤らめたまま目を逸らした。
 もっと彼を感じたい、彼と一緒になりたい。 


 私は、巻いていたバスタオルを指先で、そっとほどき、夜の光の中に裸身をさらした。 
 
 柔らかく、艶やかな肌。
 きゅっと締まった腰、柔らかく張った胸、滑らかに繋がるヒップ。  
 スレンダーながらも、女性らしさを失わない曲線美。

 そのすべてを、愛しい人に、惜しみなくさらけ出す。
 直哉が、眩しそうに目を細める。

 私は、ベッドに横たわり、彼に手を伸ばす。

「……来て?」
 
 直哉がそっと私の上に覆いかぶさると、顔を寄せ合い、唇を重ねる。

「んっ……」

 湿った吐息が漏れる。
 舌先が触れ合うたびに、くちゅ、ちゅっ、と甘い水音が静かな部屋に響いた。

「……沙月……」

 直哉が耳元で囁く。
 熱を帯びた囁きに、身体の奥がまた疼き、私は自然と直哉の首に腕を絡め、さらにキスを深く求めた。

 くちゅっ、ちゅぷっ、……ちゅっ。
 くちゅ……んっ……ちゅ、くちゅっ。
 
 互いの呼吸を確かめ合うような、湿った熱のあるキスが続き、直哉の指先が、そっと私の頬を撫でる。

 指の腹は徐々に滑り、首筋から鎖骨へと、繊細に辿っていく。
 肌と肌が触れ合うたび、じんわりと温もりが伝わってくる。

「……沙月、きれいだ」

 小さな囁きとともに、彼の手がゆっくりと胸元に触れる。
 指先が輪郭をなぞるように滑り、やわらかな曲線を確かめるように、包み込む。

 優しく、でも確かな圧で揉みしだくように撫でられ、思わず声が漏れそうになる。

「ん……っ」

 片手で支えられている胸が、その形を変えながら彼の掌に馴染んでいく感覚。形を変えるたびに、甘く痺れる感覚が広がる。
 直哉の手は焦らすように、下からすくい上げるように形を確かめ、やがて、ゆっくりと親指の腹が先端へと辿り着く。

 そこで、そっと――かすかに触れる。

 ぴくん、と背中が跳ねた。
 呼吸が浅くなり、胸の奥がじんわりと熱くなる。

 直哉は、その反応を確かめるように、もう一度、優しく先端を撫でた。
 指先の動きに合わせて、そこは敏感に応えるように立ち上がっていく。

 「あっ……ん……っ」

 肌を通して伝わる鼓動と体温。
 愛おしさが、官能の熱と一緒にふくらんでいき、吐息が漏れる。  

 くちゅっ、ちゅっ。

 直哉が再び唇を重ねてくる。

「……ぷ、っ……はぁ……」

 重ねた唇が離れると、今度は、直哉が濡れた舌先で乳房の先を舐める。  
 甘い刺激に、思わず小さく腰をくねらせる。

「なお、や……」

 名を呼ぶ声が震える。  
 直哉の口が胸元を吸い上げるたび、ちゅぷ、くちゅっと、艶かしい水音が部屋に満ちる。


 彼の唇は、乳房とその突起を慈しむようにたっぷり味わったあと、さらに下へ、腹部をなぞり、へそのあたりを柔らかく舐めた。

「ふぁ……っ」

 ぴくんと身体が跳ねる。  
 直哉の手も、同時に太腿へと滑り、そっと秘めた場所へと伸びていった。

 バスタオル一枚の下、熱く湿った秘裂に、指先が優しく触れる。  
 沙月の身体が、小さく震えた。

 くちゅ……ちゅ……ぐっちゅ……
 彼の指が動くたびに、秘裂から水音が聞こえてくる。

「……こんなに、濡れてる……」

 低く囁く直哉の声に、恥ずかしさと歓びがないまぜになり、顔が火照る。

 そのまま、彼の唇も下へ、太腿をなぞりながら、ついに秘裂へと――  
 柔らかな舌が、秘めた花を、そっとすくい取るように舐めた。

「んんっ……! なお……や……っ」

 快感に、背が反り返る。

 くちゅっ、ちゅぷっ、ぬちゅっ――  
 甘く湿った音が、二人だけの世界を満たしていく。


 直哉の舌が、名残惜しむように秘裂を舐め上げ、ゆっくりと顔を上げた。  
 艶やかに濡れた瞳で、じっと私を見つめる。

 そして、直哉は、自らの昂りを手に取り、私の秘裂へとゆっくりと導いてきた。

(……来る……)

 自然と、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。  
 身体の奥まで、彼を迎え入れる準備はとっくに出来ていた。

 彼の昂りが、私の秘裂に押し当てられ、濡れた音を立てた。  
 ぬちゅっ、ぐちゅっ――そんな淫靡な音が、肌と肌の間から零れる。

「なおや……きて……」

 恥ずかしいくらい素直に、懇願してしまった。

 けれど、直哉はそれ以上、私の中へ入ってこなかった。

 代わりに、彼は自身の昂りを、秘裂に沿わせるようにして、押し当ててくる。  
 とろとろに濡れた私の秘所に、彼の硬く脈打つ昂りが擦りつけられ、くちゅっ、ぐちゅっ、といやらしい音を響かせる。

「んっ……ぁ……!」

 擦れるたびに、甘い快感が電流のように駆け抜ける。  
 自然と腰が浮いてしまい、もっと彼を求めてしまう。

 けれど直哉は、あくまで貫かず、自身の熱を私の入口で擦りつけるだけ。

 ぐちゅっ、くちゅっ……ぬちゅっ。

 湿った音と、肌の温もりと、直哉の重み――  
 それだけで、頭が真っ白になりそうだった。

「な、なおや……なん、で、……こない、のぉ……っ?」

 震える声で、問いかける。  
 でも直哉は、何も言わず、ただ優しく、そしてどこか意地悪そうに、自身の昂りを私の濡れた花弁に擦りつけ続けた。


 焦らされ、期待を裏切られる快感に、涙が滲みそうになる。
 ずっと欲しかった、直哉の熱。  
 それを、こんなにも近くに感じながら――まだ、繋がれない。
 
 そんな焦れったさに、涙がひと粒、こぼれる。

「なおやっ……んっ…やだ、あっ……からかって……ばっかり……じゃ……」

 悔しさと快感がないまぜになり、喘ぎながら、彼の名を呼んだ。

 ぐちゅっ……ぬちゅっ……くちゅ、ぐちゅ……。

 秘裂に沿わせる直哉の熱が、私の敏感な部分を擦り上げるたび、身体の芯まで痺れるような甘い疼きが走った。

「な、おやぁ……っ……なんか……怒ってる?」

 喘ぎ交じりに言葉をこぼすと、直哉は一瞬驚いた顔をして、それから、俯いた。
 
「怒ってない……」

 けれど、その目は明らかに嫉妬を滲ませており、切なげに吐息を洩らしながら、さらに熱く、熱を擦りつけてくる。

「……っ、あ……っ……なお……や……っ」

 甘く、切なげな声が漏れる。

「……やっぱり、怒ってる、よ」 

 潤んだ瞳で見つめ返すと、直哉は少し困ったように苦笑して、私の頬をそっと撫でた。

「……ごめん、怒っては、ないよ……」
「じゃあ……なんで?」

 問いかけると、直哉は、一瞬だけ目を伏せてから、小さく息を吐いた。

「……ねぇ、沙月って、初体験……いつ?」
「……え?」

 直哉がぽつりと、聞いてきた。

「……いや、やっぱ、答えたくないなら、いいや……」
「なんで今、それを聞くの……?」
 
 問い返すと、彼は「なんでもない」と言葉を濁した。
 急に何かと思ったが、直哉が嫉妬していることに、私は気づいた。

「…………私は……大学入って、少ししてから、今の彼氏と……」
「……アイツだけ?」
「うん……」

 直哉は、私の答えに、安堵したのか、嫉妬しているのか分からない複雑な表情を浮かべる。
 
「……そっか……なんか、男慣れしてそうに見えたから、他の男にも……こうやって、甘えた顔、見せたのかなって……」

 ぽつりと、寂しそうに呟かれたその言葉、その不器用な嫉妬に、胸がぎゅっと締めつけられた。
 けど、同時に嬉しくもあり、私は、微笑みながら問い返す。 

「……じゃあ、直哉は、どうなの?」 
「え……?」
「直哉も、なんか女慣れしてそうだった……他の女の子と、身体、触れてたんじゃないの……? キスや、それ以外も、いっぱい…………」

 さっきのキスや手の動き、私の弱い所を探り、触れる仕草はとても初めてとは思えなかった。

 言葉を詰ませながらも、私が感じた思いを伝える。
 私の言葉に、直哉が一瞬だけ目を伏せる。
 だが、すぐに申し訳なさそうに小さな声で答えてくれた。
  
「……あ、いや、うん……俺も、大学の時に、付き合ってた後輩の女の子と……」
「『…………』」

 お互いに、少しだけ、沈黙が流れる。

 私も、同じだった。
 直哉が別の女と結ばれていた過去に、嫉妬して、胸が苦しくなっている。  


 だから――


「……直哉は、怒ってないみたいだけど……私は怒ってる」

 私は、小さく笑って言った。

「えっ……なんで?」
「……だって、違う女と、こんなふうに、してた……なんて……やだ」
 
 ぽつり、ぽつりと、本音が零れる。 
 絞り出すように呟いた声が、震えていた。

 直哉は驚いた顔をして、私を見つめた。
 私は、そんな彼の頬に、そっと触れる。
 
「だから、私が全部、忘れさせてあげる」 

 そして、小さな声で告げた。

「だから……直哉も、忘れさせて……アイツに、触れられた記憶も、思いも、全部、直哉で塗りつぶして……」

 仰向けになり、両腕を広げる。
 全てを受け入れる覚悟を込めてーー


 直哉が、強く、そして優しく唇を重ねた。
 言葉にしなくても、このキスが彼の答えだった。

「……ねぇ、なおや……来て……」

 震える声で、愛する人を誘った。

 直哉は、優しく、でも迷いなく私の身体に覆いかぶさった。  

「そういえば、二人の初えっちが、浮気って……なんか……やばいね?」

 私が冗談っぽく呟くと、直哉は苦笑し、そのまま昂ぶる熱を、私の秘裂にそっとあてがいーー
 

 今度こそ、深く、私の奥へと、ゆっくりと沈めてきた。

「っ……ぁあ……っ!」

 身体を重ねた瞬間、熱が、とろりと二人の奥底まで流れ込んでいく。
 身体が引き裂かれるような痛みと、満たされる甘い苦しさ。
 その全てが、愛おしかった。

「……っ、直哉……っ」

 思わず声が漏れた。  
 身体の中を満たしていく直哉の存在感が、甘く、苦しく、そして嬉しかった。

 直哉も、小さく震える息を漏らす。

「……沙月……」

 互いの熱を、奥深くで繋ぎながら、ゆっくりと動き出す。  
 最初の一押しだけで、私の全身がビクンと跳ねた。

「んぅ、あっ、あっ……はぁっ……あぁ……っ」

 快感の波が、一気に広がる。

 直哉の額が私の首筋に触れ、息がかかるたび、肌がぞわぞわと泡立つ。

「……っ、好きだ、沙月……」
 
 耳元で囁かれたその言葉に、身体がビクンと震えた。
 彼が腰を動かすたび、甘い衝撃が全身に駆け巡る。

「……直哉…………私も、私も好き……だよぉ……っ」

 その言葉にした途端、涙とともに、また快感の波が押し寄せた。 
 濡れた秘裂が、ぬちゅ、ぬちゅっ、と淫らな音を立て、直哉を受け止める。

 言葉にならないほど、胸がいっぱいになる。  
 私の身体は、彼を迎えるたびに小さく震え、女らしい胸や腰のラインが艶やかに波打った。

「あぁん……っ……おっく……はぁ……あぁ……んっ……」

 彼の動きが、徐々に強く、速くなる。
 打ち付けられるたびに、子宮の奥に甘い痛みと快感が重なり、喘ぎ声が自然と溢れ、押し寄せる快感に、無意識の内に、掴んだシーツに力が入り、シワが出来る。

「あっ……んっ……あぁっ……なおや……っ」

 直哉も堪えきれず、震える声を漏らす。

「……沙月の中、熱くて、気持ち……っ、いい……」

 彼の熱い囁きが耳をくすぐり、さらに快感を煽った。

 繋がったまま、指を絡め、唇を重ねる。  
 貪るようなキス。  
 舌と舌が絡み合い、吐息ごと貪り合う。

 直哉が、私の中で脈打つたびに、身体の奥が甘く締め付ける。

「っあぁ、直哉……っ、好き……っ!」

 とめどなく溢れる言葉。  
 もう恥ずかしさも、理性もなかった。

「な、直哉……もっと……きて……っ」

 必死で、彼にしがみつく。 
 直哉も、堪えるように目を細めながら、私の腰を掴み、深く、そして力強く私を貫いてきた。

「っ……さっ、つき……っ……」

 交わるたび、私たちの肌と肌が打ち鳴らす音が、ベッドに静かに響く。

「ん、あっ……ぁあっ……なおやっ……!」

 沙月の喘ぎ声が、甘く、そして艶っぽく部屋に溶けた。
 直哉もまた、熱く濡れた吐息を漏らしながら、私の奥を求め続ける。

 繋がった身体と心。  
 そこにあったのは、欲望だけじゃない。

 互いを失いたくないと願う、強い、強い想いだった。

「イッて……沙月……イけ……っ」
「……なおや……なおやっ、ひぁっ……イッ、ちゃ、あっ、あぁああっ……!」

 直哉が身体を密着させて私を包み込むように抱いてくる。
 彼の体重を感じながら、心も身体も、すべて彼に染め上げられていく。
 すでに何度も何度も、快楽の波が押し寄せているのに、彼の想いを受け止めるたびに、私の全身は、さらに高みへと昇っていく。

「っ、く……もう、……イきそう、っ……!」

 直哉の声が震えた。  
 腰を深く押し込めながら、堪えきれないような、かすれた声で囁いた。
 私も、すでに限界だったけどーー

「……まっ……て……だめっ……中、出しちゃ……んぁあっ……!」

 か細い拒絶も、快楽に溺れた声にかき消される。

 そして――

「あっ、あぁぁ……イ、ク……イクっ……沙月、受け止めてッ!!」
 
 直哉が、私の腰を強く掴み、奥深くに限界を迎える自身の昂りを押し込んだ瞬間。  
 熱いものが、ドクドクと、脈打ちながら私の最奥に注ぎ込まれた。
 
「いあっ、中、あつ……んっ、い……イッ、ちゃ……イ、クぅ……あぁぁぁっ!」


 世界が一瞬、真っ白に溶けた。
 彼を抱き締めている指先に、爪が立つほど、無意識に力がこもる。


「ひぁっ……あぁん……んぅ、あぁあっ……な、かぁ……いっぱ、い……でて……る……」
 
 光の粒が弾けるような快感が押し寄せ、時間も、音も、すべてが遠のいて――彼と彼の熱だけが存在していた。


 互いの絶頂と絶頂が重なり、私は直哉の胸の中で、泣きながら達し、身体を小刻みに震わせ、彼の全てを受け止める。


 ようやく絶頂した熱が収まると、直哉は、ゆっくりと私の中に繋がっていた自身の熱を引き抜いた。

「あっ……んぅ」

 引き抜かれる感覚に小さく声が漏れると同時に、私の秘裂から、とろりと彼の白い、熱の名残りが溢れる。  
 その感覚に名残惜しさと、幸福感を感じながら、私は涙に濡れた頬を彼の胸にすり寄せた。

「……だめ……って、言ったのに……浮気……なのに……中、出しちゃ……う、なんて……」

 息も絶え絶えに、ふわりと微笑みながら呟く。
 直哉が、そっと私の髪を撫でた。

「ごめん……けど……これって、浮気なのか?」

 その言葉に、私は小さく首を振った。

「……ううん……本気、だよ」
「そっか……良かった」

 涙が滲んだ笑顔で、彼を見つめる。
 見つめた彼が微笑んで、もう一度、私の唇を奪った。  
 やさしく、愛おしく、何度も、何度も。 

 離れていた分の想いを埋めていくように、二人の身体は、まだ熱を帯びたまま、春の夜を溶かしていった。



 
 朝焼けが、うっすらとカーテンの隙間から差し込んでいた。 
 あの後も何度も愛し合い、今はベッドの上で、直哉の腕の中に抱かれながら、私はまだ微かに熱の残る身体を寄せていた。

 彼の心音が、静かに耳に響く。  
 ゆっくりと、穏やかに、私の鼓動と重なっていく。
 身体の中に残っている彼の白い、温かな熱の名残も、この充足感をさらに強めてくれている気がする。

「……ねえ、直哉」

 小さな声で、ぽつりと尋ねた。

「ん?」

 直哉が、眠たげに応える。

「……そういえば、何で、後輩の子と、別れたの?」

 ふと、気になってしまった。  
 彼の『過去』の話。  
 今さらだって分かってる。でも、知りたかった。

 直哉は、少しだけ間を置いて、それから答えた。

「……先輩は優しいけど、俺をちゃんと見てないって、言われた。まぁ、今思うと……その通りだったな……って思うけどね」

 静かな声だった。  
 淡々と、でも少しだけ寂しそうな響きを含んでいる。

「……ふぅん……」

 私は、彼の胸に顔を埋めながら、呟いた。

「……勿体ないね、その子」

 本当に、勿体ないと思った。  
 こんなに優しくて、真っ直ぐな人を、手放すなんて。

 直哉が、クスッと笑ったのが、胸に伝わった。

「沙月は……どうしてアイツと?」

 優しい声で、今度は直哉が問いかけてくる。

 私は、少しだけ、考えるふりをした。  
 答えは、ずっと胸の奥にあった。

「大学入って、寂しかった時に、優しくしてくれて……」

 そして、言葉を切る。

「……あと……」

 直哉が、少し首を傾げる。

「……あと?」
「……名前が……直哉に似てたから……」

 ぽつりと告げると、直哉が一瞬、ぽかんとした顔をした。

「……え?」

 顔を赤らめながら、私は彼の胸にぎゅっと顔を埋めた。

「もう……いいでしょ! アイツの話は!」
 
 拗ねたような声を出し、彼の胸を軽く叩く私に、直哉は優しく笑い、さらに腕を強く絡めてきた。
 彼の温もりが、全身に染み込んでくる。
 そして、耳元に、熱を含んだ囁きが落ちる。
 
「はは……うん、そうだな……今は、もう少し、沙月を感じていたい」

 その声は、先ほどまでの優しいものとは違った。  
 低く、甘く、そして、欲情を滲ませた声。

 ぞくり、と背筋が震える。  
 身体の芯から、再び熱が立ち上る。

「直哉……」

 名を呼んだだけで、身体の奥がきゅんと疼く。

 直哉の手が、そっと私の頬を撫で、額にキスを落とした。

 ゆっくりと、唇を辿りながら、頬、耳、首筋へ。  
 小さなキスのたびに、くすぐったくて、甘くて、たまらなかった。

「……もう、やだぁ……っ」

 思わず漏れた声に、直哉がくすっと笑う。

「沙月……可愛い」

 そのまま、私の胸を、腰を、指先で優しく撫でながら、直哉はそっと囁いた。

「沙月、愛してる」

 囁きながら、彼の指先が熱を帯びた私の素肌をなぞっていく。  
 官能と愛情に満ちた空気が、再びベッドの上に満ちていった。


 ──夜が明けて、春の朝日が昇っても、  
 二人の温もりは、まだ溶けあったままだった。
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