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第三夜

捌 秀吉の昔語り

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「茶々、茶々、儂の茶々…」 
 秀吉は荒い息を繰り返す茶々に覆い被さり、口づけをした。 
 秀吉の唇の匂いが、遠い日に嗅いだ母の匂いに重なる。 

 (これが女の匂い…母上も父上に愛されておいでであったか……母上…) 
 ぼんやりした頭で茶々は思った。 
 (…ははうえ…) 
 茶々の目に涙が浮かぶ。 

「…でんか…」茶々が秀吉にきつく抱きついた。「茶々を…もっとなぶってくださいませ…悪い子の茶々を…」 
「茶々?」 
「何もかも…忘れさせてくださいませ…」 
 美しい瞳に涙をためた茶々が秀吉をじっと見つめた。 

 (お市様のことでも思い出したか…) 
 茶々の涙を指で取り、豊かな髪を秀吉は優しく撫でた。 
「茶々、そなたは極上のよき女子じゃ。」 
 秀吉はそっと口づけて、茶々の胸を優しく撫でる。茶々が小さな吐息をついた。 
「ほれ、このように淫らでよき女子じゃ。」 
「あぁ…でんか…」 
「離さぬぞ。そなたの居場所は儂のもとじゃ。」 
「殿下…」 
「茶々、そなたにも儂のすべてを見せよう。」 
 そういうと、秀吉は仁王立ちになり、あっという間に自分の夜着を脱ぎ、放り投げた。 

 男にしては小さな体である。もうすでに五十になっているはずなのに、筋肉の締まった細い躯であった。 
 そして、ほのかな灯りに浮かぶその躯には、皮膚がひきつった多くの傷痕があった。 
「このように多くの傷…」 
 しとねの上で、秀吉を見上げ、茶々は目を見張る。 
「驚いたか?しかし、これぐらいで驚いていては戦場いくさばには連れていけぬぞ。」 
 秀吉が茶々の横に寝転ぶ。 
「醜いであろう?」 
 茶々がゆっくりと首を振る。 
「儂は足軽であったゆえな」秀吉がフフと笑った。「このような身をさらした女子は、おねとそなただけじゃ。」 
「おねさまと?」 
「あぁ、これさえも、皆、怖がるでな」 
 秀吉が二寸ほどの左腕の傷痕を笑いながらさすった。 
「…殿下…」 
 自分を特別扱いする秀吉の微笑みに、茶々の女としての心が満たされる。茶々は愛しげに、目の前にあった大きな傷痕をそっと撫で、口づけた。 

「それは、桶狭間での傷じゃ…御館様も儂もまだ若かった…」 
 秀吉がふと遠い目をする。 
 なにかを思い出す瞳に、茶々はけ者にされたような不安を感じた。 
「次は茶々も連れていってくださいませ。」 
 美しい瞳で秀吉を捉え、茶々はそう願った。 
「怖うはないのか?」 
「殿下がおられれば怖うなどございませぬ。茶々は、どこまでも殿下と共に参りまする。」 
「茶々。」 
 擦り寄せてくる美しく張りのある躰を、秀吉が抱き締める。 
 そして、わずかに皺だった傷だらけの躯を、茶々は抱き締めた。 
「茶々の居場所は殿下のもとにございますれば…」 
 どちらからともなく交わした口づけは、お互いを求めて激しさを増した。 

「茶々……」
「あぁ……でんか……」
 求め合う息も次第に荒くなる。 
 裸の男女が絡み合い、広い部屋の中に男と女が求め合う音だけが広がっていった。

「茶々…そなたも儂もただの獣じゃ…」 
「殿下…」 
「そなたの望みどうり、乱してしんぜよう。」 
 秀吉の手は、茶々の敏感な部分へと延びる。 
「あぁ…」 
 茶々が返事の代わりに艶めいた吐息をあげた。 
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