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「あれ……、もしかして聡志?」
チャイムとほぼ同時に、フロントによって解錠された部屋に入ってきたデリヘル嬢が、俺の顔を見るなり目を丸くしてそう言った。
「なんで俺の名前を……」
「ちょ、オレのこと忘れたのかよ。オレだよオレ!」
デリヘル嬢はオレオレ詐欺よろしく、サングラスにニット帽を被ったまま自分を指してオレオレと連呼した。
大学までずっと共学だったが、一人称をオレと呼ぶ女性に知り合いはいなかった気がする。
顔見知り程度の女性には数人いた気がするが、風俗をするような感じの人はいなかったし、こんなにモデルのようなスタイルのいい女性もいなかった。
「えーっと、すいません、どこかでお会いしたことがありますか? 俺のほうは心当たりがないのですが……」
「えー、オレのこと忘れちゃったのかよ。あんなに仲良くしてたのにさ」
そこまで言ってデリヘル嬢は自分がサングラスにニット帽で、顔も分からない状態だと気づいた。
『あ』という口をし動きをピタリと止まると、慌ててサングラスとニット帽を脱ぎだした。
「オレだよ、麗だよ。久し振り、聡志!」
「う、らら……?」
今度は俺が目を丸くする番になった。
『三十歳まで童貞でいたら魔法使いになれる』
巷でよく聞く都市伝説。
これが本当ならば草食系男子が増えている昨今、世の中魔法使いだらけになっている筈だ。その上級職である賢者も然り。
ならば『三十歳でセカンド童貞』は?
とうに童貞は卒業しているが、しばらくエッチとはご無沙汰しているセカンド童貞はどうなるのか、という問題。
同じように魔法使いにでもなるのか、それとも別な何かになってしまうのか。
こいつもまた都市伝説か、暇人の作り上げた噂だろう。
そう思っていた。
「セカンドドーテーはぁ、女になっちまうんだよぉ~」
酔っぱらった会社の先輩が俺の背中をバンバンと叩きながら言った。
なんでこんな話になったのか覚えてていない。なにせ俺も『程よい』を超えて酔っぱらっていたから。
「いや、先輩。それどこ情報ですか。またネットの●chとかいう掲示板で見たんでしょう」
「ちげ~って。これはぁ、俺のセンパイのセンパイの知り合いの後輩のおと~とがぁ、セカンドドーテーでぇ~、誕生日の三日後にぃ、女になっちゃったんだよぉ~」
「先輩、それ絶対嘘ですって」
胡散臭いにも程がある。しかもかなり遠い知り合い情報だ。
もしこれが本当ならばネットニュースはおろか、全国放送のテレビニュースで流れている筈だ。
「先輩飲み過ぎですよ。もうお開きにして帰りましょう」
そう言って、まだ呑みたそうにしている先輩を引きずって居酒屋を出た。
ここまではよかった。
ただ、俺はこの話を笑って済ませられなかった。
実は俺はセカンド童貞なのだ。
前の彼女と別れたのは三年前。プロジェクトが忙しくなり、彼女に会う時間が少なくなったときだった。
連絡は毎日していたし、疲れていたってできるだけ会うようにはしていた。
それなのに彼女は浮気して俺を捨てていった。お決まりの『私よりも仕事が大事なんでしょう!?』というセリフと責任転嫁を残して。
そこから彼女はいない。
エッチもしていない。
オナニーはしているが、それでおしまいだ。
問題はそこじゃない。
最近、チンコが小さくなった気がする。寒くてタマごと引っ込んでいるだけじゃないかと思ったが、そうでもないっぽい。
暖かい部屋でオナニーをしていても、フル勃起のチンコは俺の知っているムスコではなかった。
太さ、長さ。『あれ? まだ半勃ち?』と思えてしまうくらい情けないものだったのだ。
「まさか……」
そんなことはあり得ない。ただの気のせいだ。
そう思えば思うほど、俺のチンコは小さくなっていくように感じた。
「このままじゃ本当に……」
信じたくはなかったが、三十歳の誕生日を二か月後に控えた今日、思い切ってデリヘルを使うことを決めたのだ。
「なんで聡志がいるんだよ」
「それはこっちのセリフだ! な、な、なんで麗がデリヘル嬢……」
「いや、オレ『嬢』じゃなくて男だけどな」
「そんなの見れば分かるよ!」
「入ってきたときは女だと思ってたくせに」
確かにモデル並みにスタイルの良いデリヘル嬢が来たと勘違いしていた。
しかし麗の格好を見れば、誰だって女だと勘違いする。
大物女優がするようなティアドロップのサングラスに、ユニセックスな感じのグレーのニット帽。白いロングコートにライトグレーのワイドパンツを穿いて現れれば、大抵の人間は勘違いするだろう。
しかも麗は肩まで伸ばした栗色のセミロングヘアをしている。
声だって男にしては高めのハスキーボイスだ。
「それはおいといて! どうしてデリヘル嬢を呼んだらお前が来るんだよ! おかしいだろう!」
「いや、だって聡志が店に電話したからだろう?」
「は?」
なにをおかしなことを言っているんだ、と顔を顰めると麗はスマホを取り出して俺に見せてきた。
「聡志が見たサイトってこれだろう?」
「ん? ああ、確かにこれだけど」
「下のほうまでちゃんと見た? なんて書いてある?」
スマホを受け取り下までスクロールしていく。
「!?」
「分かった?」
書かれている一文を読んで驚愕した。
そこには『男性同性愛者専用風俗店 女性のご利用はお断りしております』と赤字で書かれていた。
「聡志? さーとーしー?」
頭が追い付かない。
俺が普通の風俗だと思って電話をかけたのが同性愛者用の風俗で、やってきたのが当たり前だが男で、それが俺の幼馴染で……。
「う、麗、お前ってソッチの人間だったのか?」
「あれ? 知らなかった? ソッチというか両刀? どっちもいけるけど、どっちかっていうと男のほうが好きかな」
知るわけがない。
俺の知っている麗は黒髪短髪の、文武両道の男の俺からみても羨ましいくらい男前のやつだった。
当然女子からモテモテで、彼女のいない時期を知らない。
「うちの店を選んだってことは、聡志もゲイってこと?」
「んなわけあるかっ!」
「だよな。サイト見てそんな顔してるんだもん、ノンケだよな」
麗は少しだけ残念そうな顔をして苦笑する。
「それよりなんで麗がこんな仕事を?」
「んー。楽しそうだったから? それよりどうする? キャンセルする? それともプレイしてく?」
「え、プレイ……」
「どっちにしろ呼んじゃたから金はかかるけどね。オレはどっちでもいいよ?」
風俗というシステムを知らなかったのだが、キャンセルでも料金は発生するようだ。
「別に無理してプレイしなくても大丈夫だよ。人恋しくて呼ぶお客さんもいるくらいだし」
「そうなんだ。へぇ……」
実は風俗を使うのが初めてだった。
呼んだら嬢がやってきて、勝手に時間いっぱいサービスしていくものだと思っていた。
変な感心をしている俺を放置し、麗はどこかへ電話し始めた。
ひと言ふた言電話の相手と話すと、さっさと電話を切って俺に向き直った。
「せっかく再開したんだしさ、少し話そうよ。今回の料金はオレが払っとくから」
「いや、悪いよ。キャンセル料払うから、店に戻っていいよ? そうすれば他の客つくだろう?」
「もう店にはショートタイムですって連絡入れた。だからオレに少し付き合ってよ」
そう言って麗はコートを脱ぎベッドに腰掛けた。
「大丈夫、襲いやしないから聡志もこっちおいで」
腰掛けたベッドの横をポンポンと叩いて俺を呼ぶ。
なんかその呼び方って女扱いなんじゃないのか? と思いつつ素直に麗の隣に座った。
改めて麗を見ると、長髪でユニセックスというか女性寄りの格好はしているもののやはり男前、イケメンだった。
切れ長で二重の目にアッシュグレーのカラコンの顔は、女だといっても疑う人間はいないだろう。
男だとはっきり認識できるのはその体格。
スラリと長身ながらしっかりとついた筋肉。カットソーから覗く胸筋は羨ましいほどだ。脱いだら腹筋や上腕筋も凄いんだろうなぁと思ってしまうくらいに。
「なに? オレのことじっと見て。久し振りに会った幼馴染がイケメン過ぎてうっとりした?」
「ばっ、馬鹿なこと言うなよ! ただ綺麗な顔してるのに凄い筋肉してるなぁって思って……」
「脱いだらもっとスゴいよ? 見てみる?」
「えっ……」
ニヤリと笑う麗。
揶揄われていると分かっているが、見てみたいのは確かだった。
「見る?」
「うん」
ちょっと躊躇ったが好奇心のほうが勝ってしまった。もう一度聞かれ、つい即答してしまった。
俺の返事を聞いて麗はカットソーを脱ぎ、両腕を広げた。
「どう? あんまりつき過ぎるとアンバランスになるから、調整しながら鍛えたんだ。見た目だけじゃなくて実用的だよ?」
「本当にいい筋肉しているな。デスクワークばっかりの俺とはまるで違うよ」
「聡志、デスクワークなんだ。ジムに行ってちょっと鍛えるだけで随分変わるよ?」
「そこまで時間が取れなくて。食事もコンビニ飯ばっかりだよ」
「うわー、不健康。もう腹出てるんじゃないの?」
「ちょっ……!」
言うなり麗は俺のシャツに触れた。
手慣れたもので、あっという間にプチプチプチ~っとすべてのボタンを外して、シャツを開けさせた。
「あ、ちょっと出てきてる。もう三十になるんだから、見た目もだけど健康を考えて少しダイエットしたほうがいいよ」
「そう言われてもなぁ」
自炊なんて久しくしていないし、かなり忙しい時期を抜けたといっても普通に忙しい。飯を作る時間があるならば、その時間休んでいたい。
そんな面倒臭がりなこといっているから、同い年の麗よりもたるんだ身体をしているし見た目だって老け込んでいるのだと分かってもいる。
体型はもちろんだけど、麗は肌も張りがあってツヤツヤしていて若々しい。触ったら気持ちよさそうだ。
「聡志……?」
困惑気味の麗の声にハッとすると、声のとおり困惑した顔をした麗の顔が目に入った。
「別にオレはいいんだけどさ……」
「?」
麗の視線の先に目をやると、麗の首筋や胸を撫でる俺の手があった。
「!? いや、これはっ、その……」
「触りたかったんだろう? もっと触ってもいいよ。だけどオレにも聡志を触らさせて」
俺の返事を待たず、麗は露わになった俺の胸に手を置いた。
指先だけを立てて肌に触れさせ、麗はゆっくりと胸の上で円を描いた。
胸から乳首へと円を小さくしながらなぞり、その指を腹へと下ろしていく。
その滑らかな指先の動きに、ゾクゾクとしたものが背中を走っていく。
「ふ、ぅ……」
「綺麗な肌してるね。少し肉はついているけど、スベスベでモチモチしていて気持ちいい。聡志はオレみたいに筋肉つけなくていいよ。このままでいて」
「さっき、言ったことと、逆のこと、言ってるって……わか……。う、らら、それ以上は……」
「それ以上は? ここ、こんなになってるよ? 触って欲しくないの?」
脱がされていないズボンの上から麗の指がモノを撫でる。
若干勃ちかけたモノに与えられる刺激に、ビクンと反応してしまう。
「う、らら……」
男相手に興奮して勃起するなんてありえないと思いつつ、この状況に抗えない。
布越しに撫でられる快感を直に味わいたいとまで思ってしまう。痺れた脳が、このまま続けて欲しいと願っている。
「聡志、このままシないか? オレとセックス、しないか?」
「うらら……」
「無理にとはいわない。でもオレは、聡志とセックスしたい」
そういって麗は俺の手をとって麗の股間にあてた。
俺以上に硬く膨らんだモノが、ワイドパンツ越しにはっきりと感じることができた。
「優しく愛してあげる。聡志、セックスしてもいい?」
「うらら、俺……」
潤んだ麗の瞳が近づき、艶やかな唇がそっと重なる。
「聡志……」
もう一度唇が重なろうとしたとき、突然ベッドの上でアラームが鳴った。
「わっ!?」
「もう時間なのかよ。……いいところで」
さっきまでの甘い雰囲気はどこへいったのか、麗は大きく溜息をつくとコートのポケットからスマホを取り出しアラームを止めた。
「ごめん、時間になったわ。その気にさせておいて申し訳ないが、オレ帰るね」
「え、あ、うん」
何事かと思ったアラームは、麗とのプレイ時間の終了を知らせるものだったらしい。
アラームを止めた麗は脱ぎ捨てたカットソーとコートを着て、テキパキと帰り支度を始めた。
「偶然とはいえ、会えて嬉しかったよ聡志。今度は店、間違えるなよ」
「注意するよ……って、そうだ代金!」
「最初に言っただろう、いらないって。じゃあな」
俺の額にチュっとキスをすると、フロントに電話を入れた麗はバイバイと手を振って部屋から去っていった。
「……連絡先聞くの忘れてた」
嵐のような展開に、連絡先を交換しておくのを忘れていたことを今になって思い出した。
せめて名刺くらい渡しておけばよかったと後悔はしたが、全ては後の祭りだ。
「麗、もしかしたら今の生活あまり知られたくない?」
だからあいつから連絡先を教えてこなかったのか?
「逆に良かったのかな……」
本音をいえば、もう少し話していたかった。
もう少し麗に触れられて、あの先の快楽も味わってみたかった。
チャイムとほぼ同時に、フロントによって解錠された部屋に入ってきたデリヘル嬢が、俺の顔を見るなり目を丸くしてそう言った。
「なんで俺の名前を……」
「ちょ、オレのこと忘れたのかよ。オレだよオレ!」
デリヘル嬢はオレオレ詐欺よろしく、サングラスにニット帽を被ったまま自分を指してオレオレと連呼した。
大学までずっと共学だったが、一人称をオレと呼ぶ女性に知り合いはいなかった気がする。
顔見知り程度の女性には数人いた気がするが、風俗をするような感じの人はいなかったし、こんなにモデルのようなスタイルのいい女性もいなかった。
「えーっと、すいません、どこかでお会いしたことがありますか? 俺のほうは心当たりがないのですが……」
「えー、オレのこと忘れちゃったのかよ。あんなに仲良くしてたのにさ」
そこまで言ってデリヘル嬢は自分がサングラスにニット帽で、顔も分からない状態だと気づいた。
『あ』という口をし動きをピタリと止まると、慌ててサングラスとニット帽を脱ぎだした。
「オレだよ、麗だよ。久し振り、聡志!」
「う、らら……?」
今度は俺が目を丸くする番になった。
『三十歳まで童貞でいたら魔法使いになれる』
巷でよく聞く都市伝説。
これが本当ならば草食系男子が増えている昨今、世の中魔法使いだらけになっている筈だ。その上級職である賢者も然り。
ならば『三十歳でセカンド童貞』は?
とうに童貞は卒業しているが、しばらくエッチとはご無沙汰しているセカンド童貞はどうなるのか、という問題。
同じように魔法使いにでもなるのか、それとも別な何かになってしまうのか。
こいつもまた都市伝説か、暇人の作り上げた噂だろう。
そう思っていた。
「セカンドドーテーはぁ、女になっちまうんだよぉ~」
酔っぱらった会社の先輩が俺の背中をバンバンと叩きながら言った。
なんでこんな話になったのか覚えてていない。なにせ俺も『程よい』を超えて酔っぱらっていたから。
「いや、先輩。それどこ情報ですか。またネットの●chとかいう掲示板で見たんでしょう」
「ちげ~って。これはぁ、俺のセンパイのセンパイの知り合いの後輩のおと~とがぁ、セカンドドーテーでぇ~、誕生日の三日後にぃ、女になっちゃったんだよぉ~」
「先輩、それ絶対嘘ですって」
胡散臭いにも程がある。しかもかなり遠い知り合い情報だ。
もしこれが本当ならばネットニュースはおろか、全国放送のテレビニュースで流れている筈だ。
「先輩飲み過ぎですよ。もうお開きにして帰りましょう」
そう言って、まだ呑みたそうにしている先輩を引きずって居酒屋を出た。
ここまではよかった。
ただ、俺はこの話を笑って済ませられなかった。
実は俺はセカンド童貞なのだ。
前の彼女と別れたのは三年前。プロジェクトが忙しくなり、彼女に会う時間が少なくなったときだった。
連絡は毎日していたし、疲れていたってできるだけ会うようにはしていた。
それなのに彼女は浮気して俺を捨てていった。お決まりの『私よりも仕事が大事なんでしょう!?』というセリフと責任転嫁を残して。
そこから彼女はいない。
エッチもしていない。
オナニーはしているが、それでおしまいだ。
問題はそこじゃない。
最近、チンコが小さくなった気がする。寒くてタマごと引っ込んでいるだけじゃないかと思ったが、そうでもないっぽい。
暖かい部屋でオナニーをしていても、フル勃起のチンコは俺の知っているムスコではなかった。
太さ、長さ。『あれ? まだ半勃ち?』と思えてしまうくらい情けないものだったのだ。
「まさか……」
そんなことはあり得ない。ただの気のせいだ。
そう思えば思うほど、俺のチンコは小さくなっていくように感じた。
「このままじゃ本当に……」
信じたくはなかったが、三十歳の誕生日を二か月後に控えた今日、思い切ってデリヘルを使うことを決めたのだ。
「なんで聡志がいるんだよ」
「それはこっちのセリフだ! な、な、なんで麗がデリヘル嬢……」
「いや、オレ『嬢』じゃなくて男だけどな」
「そんなの見れば分かるよ!」
「入ってきたときは女だと思ってたくせに」
確かにモデル並みにスタイルの良いデリヘル嬢が来たと勘違いしていた。
しかし麗の格好を見れば、誰だって女だと勘違いする。
大物女優がするようなティアドロップのサングラスに、ユニセックスな感じのグレーのニット帽。白いロングコートにライトグレーのワイドパンツを穿いて現れれば、大抵の人間は勘違いするだろう。
しかも麗は肩まで伸ばした栗色のセミロングヘアをしている。
声だって男にしては高めのハスキーボイスだ。
「それはおいといて! どうしてデリヘル嬢を呼んだらお前が来るんだよ! おかしいだろう!」
「いや、だって聡志が店に電話したからだろう?」
「は?」
なにをおかしなことを言っているんだ、と顔を顰めると麗はスマホを取り出して俺に見せてきた。
「聡志が見たサイトってこれだろう?」
「ん? ああ、確かにこれだけど」
「下のほうまでちゃんと見た? なんて書いてある?」
スマホを受け取り下までスクロールしていく。
「!?」
「分かった?」
書かれている一文を読んで驚愕した。
そこには『男性同性愛者専用風俗店 女性のご利用はお断りしております』と赤字で書かれていた。
「聡志? さーとーしー?」
頭が追い付かない。
俺が普通の風俗だと思って電話をかけたのが同性愛者用の風俗で、やってきたのが当たり前だが男で、それが俺の幼馴染で……。
「う、麗、お前ってソッチの人間だったのか?」
「あれ? 知らなかった? ソッチというか両刀? どっちもいけるけど、どっちかっていうと男のほうが好きかな」
知るわけがない。
俺の知っている麗は黒髪短髪の、文武両道の男の俺からみても羨ましいくらい男前のやつだった。
当然女子からモテモテで、彼女のいない時期を知らない。
「うちの店を選んだってことは、聡志もゲイってこと?」
「んなわけあるかっ!」
「だよな。サイト見てそんな顔してるんだもん、ノンケだよな」
麗は少しだけ残念そうな顔をして苦笑する。
「それよりなんで麗がこんな仕事を?」
「んー。楽しそうだったから? それよりどうする? キャンセルする? それともプレイしてく?」
「え、プレイ……」
「どっちにしろ呼んじゃたから金はかかるけどね。オレはどっちでもいいよ?」
風俗というシステムを知らなかったのだが、キャンセルでも料金は発生するようだ。
「別に無理してプレイしなくても大丈夫だよ。人恋しくて呼ぶお客さんもいるくらいだし」
「そうなんだ。へぇ……」
実は風俗を使うのが初めてだった。
呼んだら嬢がやってきて、勝手に時間いっぱいサービスしていくものだと思っていた。
変な感心をしている俺を放置し、麗はどこかへ電話し始めた。
ひと言ふた言電話の相手と話すと、さっさと電話を切って俺に向き直った。
「せっかく再開したんだしさ、少し話そうよ。今回の料金はオレが払っとくから」
「いや、悪いよ。キャンセル料払うから、店に戻っていいよ? そうすれば他の客つくだろう?」
「もう店にはショートタイムですって連絡入れた。だからオレに少し付き合ってよ」
そう言って麗はコートを脱ぎベッドに腰掛けた。
「大丈夫、襲いやしないから聡志もこっちおいで」
腰掛けたベッドの横をポンポンと叩いて俺を呼ぶ。
なんかその呼び方って女扱いなんじゃないのか? と思いつつ素直に麗の隣に座った。
改めて麗を見ると、長髪でユニセックスというか女性寄りの格好はしているもののやはり男前、イケメンだった。
切れ長で二重の目にアッシュグレーのカラコンの顔は、女だといっても疑う人間はいないだろう。
男だとはっきり認識できるのはその体格。
スラリと長身ながらしっかりとついた筋肉。カットソーから覗く胸筋は羨ましいほどだ。脱いだら腹筋や上腕筋も凄いんだろうなぁと思ってしまうくらいに。
「なに? オレのことじっと見て。久し振りに会った幼馴染がイケメン過ぎてうっとりした?」
「ばっ、馬鹿なこと言うなよ! ただ綺麗な顔してるのに凄い筋肉してるなぁって思って……」
「脱いだらもっとスゴいよ? 見てみる?」
「えっ……」
ニヤリと笑う麗。
揶揄われていると分かっているが、見てみたいのは確かだった。
「見る?」
「うん」
ちょっと躊躇ったが好奇心のほうが勝ってしまった。もう一度聞かれ、つい即答してしまった。
俺の返事を聞いて麗はカットソーを脱ぎ、両腕を広げた。
「どう? あんまりつき過ぎるとアンバランスになるから、調整しながら鍛えたんだ。見た目だけじゃなくて実用的だよ?」
「本当にいい筋肉しているな。デスクワークばっかりの俺とはまるで違うよ」
「聡志、デスクワークなんだ。ジムに行ってちょっと鍛えるだけで随分変わるよ?」
「そこまで時間が取れなくて。食事もコンビニ飯ばっかりだよ」
「うわー、不健康。もう腹出てるんじゃないの?」
「ちょっ……!」
言うなり麗は俺のシャツに触れた。
手慣れたもので、あっという間にプチプチプチ~っとすべてのボタンを外して、シャツを開けさせた。
「あ、ちょっと出てきてる。もう三十になるんだから、見た目もだけど健康を考えて少しダイエットしたほうがいいよ」
「そう言われてもなぁ」
自炊なんて久しくしていないし、かなり忙しい時期を抜けたといっても普通に忙しい。飯を作る時間があるならば、その時間休んでいたい。
そんな面倒臭がりなこといっているから、同い年の麗よりもたるんだ身体をしているし見た目だって老け込んでいるのだと分かってもいる。
体型はもちろんだけど、麗は肌も張りがあってツヤツヤしていて若々しい。触ったら気持ちよさそうだ。
「聡志……?」
困惑気味の麗の声にハッとすると、声のとおり困惑した顔をした麗の顔が目に入った。
「別にオレはいいんだけどさ……」
「?」
麗の視線の先に目をやると、麗の首筋や胸を撫でる俺の手があった。
「!? いや、これはっ、その……」
「触りたかったんだろう? もっと触ってもいいよ。だけどオレにも聡志を触らさせて」
俺の返事を待たず、麗は露わになった俺の胸に手を置いた。
指先だけを立てて肌に触れさせ、麗はゆっくりと胸の上で円を描いた。
胸から乳首へと円を小さくしながらなぞり、その指を腹へと下ろしていく。
その滑らかな指先の動きに、ゾクゾクとしたものが背中を走っていく。
「ふ、ぅ……」
「綺麗な肌してるね。少し肉はついているけど、スベスベでモチモチしていて気持ちいい。聡志はオレみたいに筋肉つけなくていいよ。このままでいて」
「さっき、言ったことと、逆のこと、言ってるって……わか……。う、らら、それ以上は……」
「それ以上は? ここ、こんなになってるよ? 触って欲しくないの?」
脱がされていないズボンの上から麗の指がモノを撫でる。
若干勃ちかけたモノに与えられる刺激に、ビクンと反応してしまう。
「う、らら……」
男相手に興奮して勃起するなんてありえないと思いつつ、この状況に抗えない。
布越しに撫でられる快感を直に味わいたいとまで思ってしまう。痺れた脳が、このまま続けて欲しいと願っている。
「聡志、このままシないか? オレとセックス、しないか?」
「うらら……」
「無理にとはいわない。でもオレは、聡志とセックスしたい」
そういって麗は俺の手をとって麗の股間にあてた。
俺以上に硬く膨らんだモノが、ワイドパンツ越しにはっきりと感じることができた。
「優しく愛してあげる。聡志、セックスしてもいい?」
「うらら、俺……」
潤んだ麗の瞳が近づき、艶やかな唇がそっと重なる。
「聡志……」
もう一度唇が重なろうとしたとき、突然ベッドの上でアラームが鳴った。
「わっ!?」
「もう時間なのかよ。……いいところで」
さっきまでの甘い雰囲気はどこへいったのか、麗は大きく溜息をつくとコートのポケットからスマホを取り出しアラームを止めた。
「ごめん、時間になったわ。その気にさせておいて申し訳ないが、オレ帰るね」
「え、あ、うん」
何事かと思ったアラームは、麗とのプレイ時間の終了を知らせるものだったらしい。
アラームを止めた麗は脱ぎ捨てたカットソーとコートを着て、テキパキと帰り支度を始めた。
「偶然とはいえ、会えて嬉しかったよ聡志。今度は店、間違えるなよ」
「注意するよ……って、そうだ代金!」
「最初に言っただろう、いらないって。じゃあな」
俺の額にチュっとキスをすると、フロントに電話を入れた麗はバイバイと手を振って部屋から去っていった。
「……連絡先聞くの忘れてた」
嵐のような展開に、連絡先を交換しておくのを忘れていたことを今になって思い出した。
せめて名刺くらい渡しておけばよかったと後悔はしたが、全ては後の祭りだ。
「麗、もしかしたら今の生活あまり知られたくない?」
だからあいつから連絡先を教えてこなかったのか?
「逆に良かったのかな……」
本音をいえば、もう少し話していたかった。
もう少し麗に触れられて、あの先の快楽も味わってみたかった。
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