†我の血族†

如月統哉

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†禍月の誘い†

放課後

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…放課の鐘が高らかに鳴り響く中、累世、恭一、夏紀の三人は、揃って帰路についていた。
先程の話題を切り出しにくいであろう二人に代わって、累世自身が口を開く。

「──俺の父親…」
「……」

累世の呟きに、恭一と夏紀は、黙ったまま、これまた揃って耳をそばだてた。

「…、俺は正直、父親には会ってみたいと思っている。でも、会ってしまったら…、恐らくは恨みつらみばかりをぶつけてしまうだろう」
「…唯香さんのことか」

恭一が溜め息をつくと、累世は頷いた。

「お前たちは、うちの事情を知っている。だからこそ、こんな愚痴めいたことは、お前たちにしか話せない」
「…分かってる、累世」

労るように、夏紀が優しく頷く。
彼らはそのまま、しばらく無言で歩を進めた。
ややあって、累世が再び口火を切った。

「…お前たちは知っているだろうが…
俺の母親の神崎唯香は、とある事情で、生命活動が17歳のまま…止まっている」
「それも分かってる。だから俺たちは、見た目が俺らと同年齢だから、あえて“唯香さん”って呼ぶようにしているんだ」
「…気を使わせたな」
「気にするなよ、そんなこと」

恭一が肩を竦めた。

「見た目が明らかに俺らと同級なのに、年上呼ばわりはおかしい…
かといって、呼び捨ても気が引けるだろ?
だから夏紀と相談して、こう呼ぶように決めたんだ」
「…そうか」

話している間に、彼らは神崎家の近くの、角の道にさしかかった。

「唯香の体の異常は、恐らく…俺の父親が原因なんだろう」
「…? どうして、そう思う?」

恭一が訊ねてくる。
累世は、いたたまれずに目を伏せた。

「…勘に頼りたくはないんだが…
唯香の様子を見ていると…何となく、な」
「……」

恭一も夏紀も、それ以上は声をかけられずに黙り込んだ。
その重苦しい雰囲気に耐えかねてか、累世が伏せていた目を正面へと向ける。

…いつの間にか、神崎家の前へ来ていた。

その、風格のある洋風の作りの建物を見て、恭一が感嘆の息をつく。

「…いつ見てもでかいよな、お前んち」
「そうか? 普通はこんなものだろう」
「いや。ひとつの学校がまるまる収まるくらいのスペースは、決して狭くはないと思うぞ」

夏紀が、頬を掻きながら呟いた…その途端。

「るーいせっ! お帰りなさーい!」

やたらハイテンションに、門をぶち壊さんばかりの勢いで累世に抱きついてきたのは、言わずと知れた唯香だった。

「!唯香っ…」

この突然の不意打ちに、累世は唯香と共に、背中から地面に倒れ込んだ。
正確には、突進してきたと言っても過言ではない唯香を受け止めたためにこうなったのだが、そこは累世、母親の性格をきっちりと把握していたため、あえてその件には触れなかった。

しかし、これによって腰をしたたかに打った累世は、恭一と夏紀の手前もあってか、さすがに唯香に食ってかかった。

「ったく、いつもいつも…もっと普通に応対出来ないのか!?」

しかし、対する唯香は、そんな息子の怒りもどこ吹く風だ。

「えー? だってせっかく愛息が帰って来たっていうのに…」
「!…あ、愛息っ…!? 帰宅早々、鳥肌が立つようなことを言うな!」

累世が二度噛みつくと、唯香は思わず首をすぼめた。

「はーい、ごめんなさい累世っ」
「全く…、どっちが親だか分かりゃしない」

ぶつぶつと呟いて、累世は自らの体を起こし、身に付いた埃を払った。
続けて、唯香の手を引きながらも、ゆっくりと起き上がらせると、その体についた埃を、同様に払う。

…そこまできて初めて、唯香は傍らで固まっている、開いた口が塞がらないらしい『傍観者』の存在に気付いた。

「…え!? きょ、恭一くんに、夏紀くん? …いつからそこにいたの!?」
「…相変わらず、反応は最悪なまでに鈍いな、唯香さん」

…だが、こうでなければこの累世の母親はやっていられない。
恭一は苦笑すると、隣で何か言いたそうにしている夏紀に話を譲った。
すると、夏紀は唯香に、すぐさま人懐こい笑顔で話しかける。

「今日は、ちょっと…唯香さんに話があって」
「あたしに…?」

唯香は怪訝そうに夏紀に目をやる。

「んー、何だろう…? じゃあ、立ち話も何だし…先に家に入らない?」
「はい、お邪魔します」

即答した夏紀は、今だに口を開け、フリーズしたままの恭一と、それとは逆に、この対応に閉口した累世を引きずるようにして、屋敷の中へ来るようにと促す、唯香の後に続いた。
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