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†染まる泡沫†
強者への挑戦
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★☆★☆★
──その頃、レイヴァンとアズウェルは、音速を超えた、まさしく光速にも近い早さで、激しい攻防を繰り返していた。
レイヴァンが魔力を放てば、アズウェルが避け、懐に入り込む。
それに気付いたレイヴァンが、すかさず間合いを取り、その後を躊躇いなく追うアズウェルに、片肘による強烈な攻撃を仕掛ける。
しかしアズウェルは、それをそつなくかわすと、続けてレイヴァンに向けて、強力な足技を繰り出した。
それをレイヴァンは、返す肘で苦もなく受け止める。
「!レイヴァンっ…」
ぎりっ、と、苛立ちも露わに歯軋りをするアズウェルの、刹那的な隙を見定めたレイヴァンは、不意に空いた片手を、アズウェルの鳩尾に向けた。
それにアズウェルが気付いた時には既に手遅れ、レイヴァンの強大な魔力の片鱗を、瞬間、その身に受けたアズウェルは、否応無しに空下の地面へと叩き付けられた。
…地面がアズウェルを中心に陥没し、周囲に土による紋を食い込ませる。
「…、あの程度では…」
常人ならば、とうに屍と化すであろうその惨状を目にしたはずのレイヴァンは、顔色ひとつ変えることなく…
むしろ厳しい表情もそのままに、呟いた。
戦いを繰り返していて分かったが、アズウェルの身体の頑強さは、恐らくは他のシレン兄弟の、誰よりも上だ。
その魔力の属性が作用しているのかどうかは定かではないが、あの年齢にして、この異常なまでの打たれ強さは、まずあり得ない。
「……」
レイヴァンが出方を測りかねると、まるで爆弾でも投下されたような地から、平然と起き上がったアズウェルは、埃や土によって汚れた服を軽く払いながら、さも興味深そうにレイヴァンを見上げた。
「…、惜しいね。本当に勿体無い…
それだけの力がありながら、サヴァイスの下に甘んじているなんて」
「…この期に及んで、まだ無駄口を叩くつもりか」
言うなりレイヴァンは、その両手に、強大な魔力を集中させた。
その、神懸かった眩い蒼の光をその目に映したアズウェルは、ふと、表情を頑ななものへと変えると、そのまま他愛なく呟く。
「…レイヴァンは話以前に、聞く耳すら持たない…か。
じゃあやっぱり、サヴァイスの方を先に倒すしかないか…」
「──いい加減に思い上がるのはやめろ、貴様」
レイヴァンが、はっきりとした侮蔑を含めて毒づいた。
「お前如き若輩に、サヴァイス様が倒せると思うのか?」
「やってみなければ分からないだろう?」
「その台詞は俺を倒してから吐くんだな」
言うなりレイヴァンは、上空に在る自分の体を、残像のみを残しながら、魔力によって一瞬にして空下へと運んだ。
相変わらずその手には、彼の感情と力が、強く籠もった蒼の魔力がある。
間髪入れず、レイヴァンが自らの手首を降るようにそれを投げると、蒼の魔力は刃となり飛散し、切り裂くような唸りをあげてアズウェルを襲う。
同時にレイヴァンは、アズウェルのすぐ近くの領域まで踏み込んだ。
「!く…」
たまらずにアズウェルが臍を噛む。
彼にとって、この一連の攻撃は、決して捌き防げないものではなかったが、レイヴァンの齎す全ての速さ…
“早さ”に翻弄されている自分が、はっきりと存在することが分かったからだ。
それでもそれも刹那のことで、アズウェルは瞬時に体勢を立て直すと、攻撃を仕掛けてきたレイヴァンを、正面から迎え撃った。
──再び、繰り返される爆音。
舞い上がる砂と埃。
何かの破片、そして血──
「!…やっぱり、強い…ね、レイヴァン…!」
アズウェルが片目を閉じる形で苦笑する。
…その肩から、滑るように血が落ちる。
しかし、強敵であるはずのアズウェルから、賞賛を受けたはずのレイヴァンの表情は、元々端正なものである彼のそれを、更に引き締める形で負に染まる。
「…、あれをとっさに避けただと…?」
「…心配しなくても、今の攻撃は、避けるのが精一杯だよ、レイヴァン…
今の俺なら、ね」
「…なに?」
レイヴァンが聞き咎めると、アズウェルは不敵に笑いながら、故意に血の流れる右腕を持ち上げ、その手のひらを上へと向けた。
「…!?」
その後、目の当たりにした異様な光景に、レイヴァンは思わず我が眼を疑った。
…アズウェルの手のひらに、周囲の土砂が集中し、その手のひらがそれを屠る形で、凄まじい早さで吸収してゆく。
そして厄介なことには、それに比例してアズウェルの魔力が上がっていく。
それに気付いたレイヴァンは、彼の右腕を切断すべく、とっさに攻撃を仕掛けようとした。
「…いいね、その判断力。
でも、少し気付くのが遅かったかな…」
まるで悪戯っ子のように楽しみ笑ったアズウェルは、瞬間、強く地を蹴った。
…向かった先にあるのは、サヴァイスの住まう、精の黒瞑界の居城。
「!アズウェル…」
…レイヴァンは珍しく舌打ちをした。
★☆★☆★
近付いて来る者は
仇なす者
憎むべき者
滅ぼすべき者──
感情が以前に比べて、明らかに劣化しているのが分かるこの時に…
このタイミングで襲い訪れる仇敵とは、なんと無粋なことだろう。
…蝶の羽根を奪うように
高い場所から落としてやろうか
それとも二度と立てないように
その足はおろか、心までをも
ずたずたに折り曲げてやろうか?
お前はそれを覚悟で、この位置まで来るのだろうから。
「…アズウェル=シレン…
シレン4兄弟の末弟…」
薄暗い部屋の中で、サヴァイスは独り、呟いた。
そのさらりと伸びた黒髪は、まるで闇を誘い、吸収するかのように、確かな影の中にもその存在を留めている。
「…そして、かのレイヴァンをもってしても、その手にあまる者…」
ゆらり、とサヴァイスはその体を揺らめかせた。
それによってわずかに動きを見せた髪は、またすぐに元の位置へと還元する。
それ程に暗く、静かな自らの空間内で…
サヴァイスは、その“時”が来るのを待っていた。
「…この、精の黒瞑界を荒らした罪、そして流した夥しい血の量…
果たして、奴ひとりの命で贖えるか…?」
──その頃、レイヴァンとアズウェルは、音速を超えた、まさしく光速にも近い早さで、激しい攻防を繰り返していた。
レイヴァンが魔力を放てば、アズウェルが避け、懐に入り込む。
それに気付いたレイヴァンが、すかさず間合いを取り、その後を躊躇いなく追うアズウェルに、片肘による強烈な攻撃を仕掛ける。
しかしアズウェルは、それをそつなくかわすと、続けてレイヴァンに向けて、強力な足技を繰り出した。
それをレイヴァンは、返す肘で苦もなく受け止める。
「!レイヴァンっ…」
ぎりっ、と、苛立ちも露わに歯軋りをするアズウェルの、刹那的な隙を見定めたレイヴァンは、不意に空いた片手を、アズウェルの鳩尾に向けた。
それにアズウェルが気付いた時には既に手遅れ、レイヴァンの強大な魔力の片鱗を、瞬間、その身に受けたアズウェルは、否応無しに空下の地面へと叩き付けられた。
…地面がアズウェルを中心に陥没し、周囲に土による紋を食い込ませる。
「…、あの程度では…」
常人ならば、とうに屍と化すであろうその惨状を目にしたはずのレイヴァンは、顔色ひとつ変えることなく…
むしろ厳しい表情もそのままに、呟いた。
戦いを繰り返していて分かったが、アズウェルの身体の頑強さは、恐らくは他のシレン兄弟の、誰よりも上だ。
その魔力の属性が作用しているのかどうかは定かではないが、あの年齢にして、この異常なまでの打たれ強さは、まずあり得ない。
「……」
レイヴァンが出方を測りかねると、まるで爆弾でも投下されたような地から、平然と起き上がったアズウェルは、埃や土によって汚れた服を軽く払いながら、さも興味深そうにレイヴァンを見上げた。
「…、惜しいね。本当に勿体無い…
それだけの力がありながら、サヴァイスの下に甘んじているなんて」
「…この期に及んで、まだ無駄口を叩くつもりか」
言うなりレイヴァンは、その両手に、強大な魔力を集中させた。
その、神懸かった眩い蒼の光をその目に映したアズウェルは、ふと、表情を頑ななものへと変えると、そのまま他愛なく呟く。
「…レイヴァンは話以前に、聞く耳すら持たない…か。
じゃあやっぱり、サヴァイスの方を先に倒すしかないか…」
「──いい加減に思い上がるのはやめろ、貴様」
レイヴァンが、はっきりとした侮蔑を含めて毒づいた。
「お前如き若輩に、サヴァイス様が倒せると思うのか?」
「やってみなければ分からないだろう?」
「その台詞は俺を倒してから吐くんだな」
言うなりレイヴァンは、上空に在る自分の体を、残像のみを残しながら、魔力によって一瞬にして空下へと運んだ。
相変わらずその手には、彼の感情と力が、強く籠もった蒼の魔力がある。
間髪入れず、レイヴァンが自らの手首を降るようにそれを投げると、蒼の魔力は刃となり飛散し、切り裂くような唸りをあげてアズウェルを襲う。
同時にレイヴァンは、アズウェルのすぐ近くの領域まで踏み込んだ。
「!く…」
たまらずにアズウェルが臍を噛む。
彼にとって、この一連の攻撃は、決して捌き防げないものではなかったが、レイヴァンの齎す全ての速さ…
“早さ”に翻弄されている自分が、はっきりと存在することが分かったからだ。
それでもそれも刹那のことで、アズウェルは瞬時に体勢を立て直すと、攻撃を仕掛けてきたレイヴァンを、正面から迎え撃った。
──再び、繰り返される爆音。
舞い上がる砂と埃。
何かの破片、そして血──
「!…やっぱり、強い…ね、レイヴァン…!」
アズウェルが片目を閉じる形で苦笑する。
…その肩から、滑るように血が落ちる。
しかし、強敵であるはずのアズウェルから、賞賛を受けたはずのレイヴァンの表情は、元々端正なものである彼のそれを、更に引き締める形で負に染まる。
「…、あれをとっさに避けただと…?」
「…心配しなくても、今の攻撃は、避けるのが精一杯だよ、レイヴァン…
今の俺なら、ね」
「…なに?」
レイヴァンが聞き咎めると、アズウェルは不敵に笑いながら、故意に血の流れる右腕を持ち上げ、その手のひらを上へと向けた。
「…!?」
その後、目の当たりにした異様な光景に、レイヴァンは思わず我が眼を疑った。
…アズウェルの手のひらに、周囲の土砂が集中し、その手のひらがそれを屠る形で、凄まじい早さで吸収してゆく。
そして厄介なことには、それに比例してアズウェルの魔力が上がっていく。
それに気付いたレイヴァンは、彼の右腕を切断すべく、とっさに攻撃を仕掛けようとした。
「…いいね、その判断力。
でも、少し気付くのが遅かったかな…」
まるで悪戯っ子のように楽しみ笑ったアズウェルは、瞬間、強く地を蹴った。
…向かった先にあるのは、サヴァイスの住まう、精の黒瞑界の居城。
「!アズウェル…」
…レイヴァンは珍しく舌打ちをした。
★☆★☆★
近付いて来る者は
仇なす者
憎むべき者
滅ぼすべき者──
感情が以前に比べて、明らかに劣化しているのが分かるこの時に…
このタイミングで襲い訪れる仇敵とは、なんと無粋なことだろう。
…蝶の羽根を奪うように
高い場所から落としてやろうか
それとも二度と立てないように
その足はおろか、心までをも
ずたずたに折り曲げてやろうか?
お前はそれを覚悟で、この位置まで来るのだろうから。
「…アズウェル=シレン…
シレン4兄弟の末弟…」
薄暗い部屋の中で、サヴァイスは独り、呟いた。
そのさらりと伸びた黒髪は、まるで闇を誘い、吸収するかのように、確かな影の中にもその存在を留めている。
「…そして、かのレイヴァンをもってしても、その手にあまる者…」
ゆらり、とサヴァイスはその体を揺らめかせた。
それによってわずかに動きを見せた髪は、またすぐに元の位置へと還元する。
それ程に暗く、静かな自らの空間内で…
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