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天国から地獄へ
しおりを挟む一真さんと別れた後、車の中で私は一真さんのことを考えていた。
ステキな時間を過ごせてとても夢心地な気分だった。
『俺と結婚して欲しい』
まっすぐに私を見据えて、私の名前を呼んで伝えてくれた気持ち。
嬉しいけれど、いまだに信じられない……。
でも、彼と一緒にいられたらきっと幸せになれるだろう。
愛と優しさに溢れた日々を作り上げていけると思う。
そのためにはお父様とお母様にしっかり説明をしなくてはいけない。
一真さんは自分の方から御堂家に伝えることを提案してくれたが、私自身のことを彼に任せるのは気が引けた。
自分のことはしっかりと自分でケリをつけなければいけない。
しっかりと話せばお父様もお母様も、そしてお姉様も分かってくれる。
そう言い聞かせていると、車が御堂家の広大な敷地へと入っていく。
車が止まり、扉が開くと覚悟を決めるように私は車から降りた。
そして玄関の扉を開いた時、玄関の前にはお母様と零お姉様が腕を組んで立っていた。
「あっ、お母様……お姉様……」
足がすくむ。
それでも逃げることはできない。
「あの、お話をしないといけないことが……」
そこまで言った瞬間。
──パァンッ!!
鋭い音が響き、視界がぐらりと揺れる。
「……っ、」
立っていられず、よろけてそのまま尻餅をついた。
何が起きたのか、すぐには理解できなかった。
左の頬に熱が走る。
「お母、様……」
頬を押さえながら顔を上げると、お母様は冷え切った目で私を見下ろしていた。
「凰条様は零がいいと言って縁談の話をくれたのに、姉の婚約者を取ろうだなんてこの泥棒猫め……!」
「ち、違います!私は――」
言葉を紡ぐ前に、母の声が鋭く私を遮る。
「何が違うって言うの!?零がせっかく行く気になったというのに、待ち合わせ場所に行ったら、あんたが先に出しゃばって、凰条様を誘惑したんでしょう!」
「違います!私、そんなつもりじゃ……!」
「ウソをつくじゃない!」
母の声は怒りに震えていた。
そしてその横でニヤリと口角を上げているお姉様。
後ろからお父様もやってきて厳しい目で私を見据えた。
「澪、お前は御堂家を不幸にすることしかしないな。零が選ばれていればいいものを、お前はそれを掻き乱して御堂家を崩壊させたいのか!」
「お父様……私、そんなつもりは……」
「これからお前はもう外には出るな。今後一切だ。ずっと家にいて掃除や家事、雑用をしていろ」
「これも、もうあんたにはいらないわよね?」
私の手からするりとスマホが取られる。
「あっ!」
そしてそれをお姉様は床に強く打ち付けた。
「っ……!」
「勘違いしてんじゃねぇよ、愚図が。凰条さまは私のものだから」
目の前で強く叩きつけられたスマホはヒビが入り電源が入らなくなっていた。
3人は私の前から去っていく。
「っ……」
喉の奥が震え、堪えようとするほどに涙がにじむ。
「う……っ、ひっ……」
涙が頬を伝い、冷たい床に落ちていく。
説明すれば、分かってくれるだろうと思っていた。
今は聞いてくれなくても、いつかは私の話を聞いてくれるんじゃないか。
いつも淡い期待をしては打ち砕かれてしまう。
「……一真、さん……」
あたたかい腕の中で囁かれた言葉が、優しく触れた指先が、胸の奥に焼きついて消えない。
「う、う……」
私は泣き崩れることしか出来なかった──。
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