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自分の気持ち
しおりを挟む「蓮、くん……っ」
じりじりと玄関まで追い詰めてくる蓮くん。
「蓮くんが言ってる、監禁するって本気なの……」
思わず声が震えた。
しかし蓮くんは迷わず答えた。
「本気だよ」
まっすぐな目。
まるで私以外見ることがないと言うかのように純粋な目だった。
「柚子ちゃんはさっきの僕を見て、僕から逃げたくなった?」
「それ、は……」
その質問には答えられなかった。
だってあまりにも蓮くんが悲しそうな顔をしていたから。
どうしてそんな風に問いかけてくるの?
そう思った時、蓮くんは小さくつぶやいた。
「僕には柚子ちゃんしかいないんだ」
私、しかいない……?
どういうこと?
「柚子ちゃんだけが僕にとって特別な女性なんだ」
蓮くんが切なげな顔をしていて、思わず手を伸ばしたくなってしまう。
蓮くんに何があったの?
どうして今、こんな顔をしているの?
私は一歩一歩蓮くんに近づく。
正直まだ、彼の行動に戸惑ってる。
でも伝えないといけないことがある。
「私、蓮くんのこと何も知らない……ずっとセフレの関係だったから」
「そう、だね」
「何回も夜を一緒に過ごしたし、買い物だって行ったけど……蓮くんが今考えてることとか、抱えてるものとか何も知らない」
「うん……」
「だから……!離れるかどうか決めるのも、もっとちゃんと知ってからにしたいって思ってる」
私がそう言い放った瞬間、蓮くんは顔をあげた。
彼は驚いた表情を浮かべている。
「気持ち悪いって言わないの?あっち行ってって、逃げたりしないの?」
「……しないよ。その代わり教えて蓮くんのこと」
もっともっと彼のことを知りたい。
私が知っている上っ面の蓮くんじゃなくて、もっと彼の抱える深いところまで。
それから蓮くんは私に話してくれた。
自分のされた過去や、私を好きになってくれたきっかけを……。
「蓮くんが、女の人にレイプされたことがあるなんて……知らなかった」
彼の過去の話を聞いたら、心が苦しくてぐちゃぐちゃになった。
きっと蓮くんはもっと苦しかっただろう。
誰も味方になってくれない中、一人で抱えて頑張って消化しようとしていたんだ。
「……っ、ぅ」
思わず涙が頬を伝って零れた。
「どうして柚子ちゃんが泣くの?」
蓮くんはすごく優しい表情をしていた。
「だって……苦しいから……っ」
「すごいな、柚子ちゃんは……」
蓮くんはそういうと、私の涙を指ですくった。
そしてその涙を口元に持っていく。
「泣いてる女性がキレイだと思ったのは、柚子ちゃんがはじめてだよ」
すごく優しく言葉を吐いて、私の頭を優しく撫でてくれて……蓮くんは私を包み込んでくれた。
「ただ大事にしたいだけだったんだ。柚子ちゃんは僕にとって特別な人だから。他の人に傷つけられないように守りたかった」
「うん……」
さっきまで蓮くんの行動に戸惑っていた。
蓮くんのことを知って、こんな人だとは思わなかったって彼の行動に引いて……。
でもね、私だって蓮くんのことが好きで好きでたまらないの。
だから……。
彼のことを支えてあげられる女性になりたいって思った。
「ねぇ、蓮くん……ずっと私のこと好きでいてくれたの?」
「うん、そうだよ」
「マッチングする前から、私に会いたいって思ってくれた?」
「うん。どうやって柚子ちゃんと接点を作るか必死で考えてた」
蓮くんの大きな愛が今は嬉しくも感じる。
「蓮くん……実は言ってなかったことがあるんだけど」
「ん?」
「私も蓮くんのこと……好き」
小さな声で伝えると、蓮くんは嬉しそうに声をあげた。
「本当に?」
「うん……」
返事をすると、蓮くんは私を勢いよく包み込んだ。
「柚子ちゃん……っ!嬉しい。柚子ちゃんと両想いになれるなんて嬉しいよ」
私たちは見つめ合うと、そのままキスを落とす。
「……んっ」
両想いになったキスはとても甘くてとろけそうだった。
「良かった……監禁しないで済んで」
「えっ」
「柚子ちゃんが出て行っちゃいそうなら、この部屋に監禁するつもりって言ったでしょ?どうやって監禁しようかなって思ってたんだ」
う、う……。
監禁の話しは本当だったんだ……。
「でも良かった。柚子ちゃん大好き。ずっと僕の側にいてね」
抱きしめられて心地よくなる。
「蓮くんこそ、私のこと嫌いになったりしないでね」
「しないよ。死んでも好きでいるよ」
蓮くんは大丈夫かな。
前の男の人みたいに“重い”“キモイ”って言ったりしないかな。
今の蓮くんの気持ちが変わらなきゃいい。
変わらないで欲しいな。
それから1週間が経った。
蓮くんと付き合うことになった私は毎日ルンルンだった。
好きだった人と付き合うことになったと告げて、それから佐山くんにも伝えることにした。
どんな罵声が飛んでくるのか、覚悟はしていたんだけど佐山くんは深くため息をつくだけにとどめた。
「バカだって思ってるよね」
「ああ、思ってるね。まじでお前選択ミスったなってな」
う“……こんなにハッキリ言われるなんて。
「でも、そんなバカな選択するのが恋愛なんじゃね?」
佐山くんはそんな風に言葉をくれた。
「ありがとう。色々迷惑をかけまして……」
「ホント、お宅の彼氏には今後俺に接触しないよう強く言ってくれる?」
「それはもちろん」
任せてと胸を張ると、佐山くんにコツンと叩かれた。
「痛て……っ」
「威張んな」
「ごめんなさい……」
「まっ、俺じゃ無理だったしな」
「えっ?」
「ずっと泣きそうな顔してたじゃん。アイツしか無理だったんだろ」
そんな指摘をされて私はかあっと顔が赤くなった。
全部私、蓮くん中心に世界が回っているだろうな。
「もう何も協力しねぇからな」
「うん。佐山くん、ありがとう!」
私がそう告げると、佐山くんは背中を向けた後、すっと手をあげた。
頼もしかったし、なんだかんだ優しいんだよなぁ。
今度何かお礼しないと……。
仕事に戻ろうとすると、私のスマホが鳴った。
電話だ。
その相手は蓮くんからだった。
嬉しい……!
蓮くんから電話がくるなんて。
どうしたんだろう。
私の声、聞きたくなっちゃったとか?
浮かれながら電話に出ると、蓮くんは静かな声で言った。
「もしもし柚子ちゃん、今大丈夫かな?」
「うん、大丈夫だよ。どうしたの?」
「あのね、今日会う予定だったでしょ?」
「うん」
「実は今日会社の忘年会で社長が来ること忘れて……本当は参加しない予定だったんだけど、社長から表彰があるから参加するように言われちゃったんだよね」
えっ。じゃあ今日は蓮くんと会えないってこと……。
楽しみにしてたのに。
蓮くん、忘年会なんか参加しないって言ってた。
私といる方が楽しいって。
「私がいるのに……」
ボソッとつぶやいてしまう。
そこまで声が出そうになってはっと口を閉ざした。
重い、今のは重いに決まってる……。
「だ、大丈夫だよ!私とはいつでも会えるから気にしないで!」
「本当にごめんね」
モヤモヤが私の心を支配する。
あんなに好きだって言ってくれたのに、私は蓮くんのこと拘束することは出来ないんだもん。
ああ、なんか足りないな。
ポッカリ開いた心に蓮くんを埋めたくなってしまう。
「次会えるのは3日後になっちゃうかな」
「えっ、そうなの?」
「うん。フライトでドイツに行った後、忘年会があるから……その日は帰りが遅くなっちゃうだろうし」
パイロットの忘年会ってどんな感じなんだろう。
きっとCAさんも呼んで盛大にやるんだろうな……。
そうなると、キレイな女の人がたくさんいる場所に蓮くんはいくことになる。
嫌だな。
私だけの蓮くんなのに、他の人に笑いかけたりするの……本当に嫌だな。
満たされていた心がどんどん寂しくなっていく。
「あっ、じゃあ私……その日待ってようかな。蓮くんが飲んでる場所で」
私がそう提案した時、蓮くんは驚いたように言った。
「いや、何時に終わるかも分からないから、そんな待ってもらうなんて出来ないよ。それに来て欲しくないかも」
──ズキン。
「あっ、そう、だよね……」
嫌だ、私……蓮くんが飲んでいる場所にわざわざ行くなんて言ったら重いに決まってるじゃん。
せっかく蓮くんと両想いになれたのに、また関係を壊すつもり……?
ダメだよ。ちゃんと我慢しないと。
今までの私は封印しないと。
「冗談だよ!全然楽しんできてね」
私たちはそう言って電話を切った。
寂しい。嫌だ、行って欲しくない。
蓮くんを監禁したいのは私の方だ。
私の家に閉じ込めてずっと一緒。
私しか見られない状況にしたいよ……。
ああ、また上手に恋愛できてない。
ねぇ、お母さん……。
お母さんが教えてくれた愛の注ぎ方、間違っちゃってるみたい。
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