平凡顔のせいで神子なのに疎まれています

小実そしる

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言いなりになんかならない

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 真っ直ぐに対峙した王様の瞳からは、怒りにも似た激情を感じた。ひどく恐ろしくて足がすくむ一方で、それ以上に、その隣に明彦の姿がないことに安堵していた。
 こんな風に、王様のことで一喜一憂する自分が嫌だった。
 それでも、もう自分ではどうしようもないのだ。
 もっとその瞳を見ていたいとも思うし、今すぐこの場を駆け出してしまいたい衝動にも駆られる。
 今までに感じたことのない複雑な感情で、頭も心もぐちゃぐちゃだった。
 ただ、黙って王様のことを見つめるしかできない俺に、感情の読めない冷めた声が先ほどと同じ質問をした。

「なぜ、ここにいる」
「……林で、迷ってしまって、それでここに」
「……侍女はどうした。護衛も付けずに一人で出歩いているのか?」

 責めるような口調に、少しだけムッとした。
 人前でなるべくメリーさん達と一緒に歩かないようにしているのは、俺のせいでみんなが白い目で見られるのが嫌だからだ。
 その発端となったのは、紛れもなく王様の言動だ。だというのに、どうして俺が責められなければいけないんだろうか。
 その感情が、無意識のうちに表に出てしまったのかもしれない。
 俺の態度を咎めるように、王様の眉間に深い皺が刻まれた。

「今後は、一人での行動は禁ずる。良いな?」
「……俺に、断る権利なんてあるんですか」
「何が言いたい」

 絶対的な強者の風格を纏った声に、思わず一歩後ずさってしまった。そのまま逃げ出したくなる気持ちをなんとか踏んばれたのは、脳裏にアランさんの顔が過ぎったからだった。
 ここで、逃げては駄目だと思った。
 きちんと、伝えなければいけない。神子としてではなく、俺自身として王様と向き合わなくちゃいけないと思った。
 そう思わせてくれたのは、ひとえにアランさんのおかげだ。
 たった数時間の出来事だったけど、アランさんと過ごした時間は、確かに俺の心を強くしてくれた。
 怯みそうになる自分を、ぐっと拳に力を入れて鼓舞する。真っ直ぐに王様の目を見つめ返しながら、宣戦布告した。

「もう、俺は一人じゃありません。今の俺には、信頼できる人がいます。だからもう、貴方に怯えるのはやめにします。たとえ貴方が俺を神子として認めてくれなくても構いません」
「どういう意味だ」
「貴方の思い通りになる気はないってことです。先に俺のことを拒んだのは貴方なんですから、俺がどうしようと構わないですよね?」

 王様のように有無を言わせない物言いなんてできない。それでも、俺なりの精一杯の仕返しのつもりで言った。
 まさか反抗されるなんて思わなかったのかもしれない。俺を見る青灰色の瞳がゆらりと揺れた。
 一瞬、その瞳が泣きそうに歪んで見えたのは、きっと俺の目が涙で霞んでいたからだ。
 瞬きの間に、俺を見る王様の目は、いつも通りの冷ややかなものに変わっていた。

「後悔することになるぞ」
「……貴方の言いなりになるよりはマシです」
「なんだと?」
「っ……」

 人気のない場所で良かった。もしここが王宮内で、周りに俺を疎ましく思う人たちに囲まれていたなら、きっと、情けなく眉を垂らした泣きっ面を晒していたに違いない。
 それくらい、内心では震えが止まらなかった。
 でも、今ここで怯んだら負けだとわかっていた。だから、絶対に引いちゃ駄目だ。

「貴方は俺をブサイクだからっていう理由で神子とは認めないのかもしれないですけど、それでも俺はれっきとした一人の人間なんです。俺が神子じゃなかったとして、俺自身まで否定されるような謂れはありません」

 あの日、王様は俺に名前すら聞いてくれなかった。

「俺には、添田賢一という名前があります。神子である前に、俺自身としての意思があるんです。だから、貴方の言いなりにはなりません」

 はたして、王様は今何を思っているんだろうか。
 感情の乏しい瞳を見ただけでは、その気持ちは探れない。
 それでも、王様が俺を見る目は、これまで向けられてきたものとは確かに違って見えた。
 肉付きの薄い唇がわずかに開いて、風にかき消されてしまいそうなほど小さな声でポツリとこぼした。

「なぜ、お前なんだ」

 それは、責めているものとは違う、嘆くような声だった。その声に、どうしようもなく胸が締め付けられた。
 これはきっと、神子としての俺が心を痛めているんだ。そんなことできるはずもないのに、王様の心を癒してあげたいだなんて、愚かしくも願ってしまう。
 泣かないでと、言ってしまいそうになった。
 それを遮ったのは、常の調子に戻った淡々とした王様の声だった。

「日が暮れる。城に戻るぞ」
「え……?」

 今までの会話がなかったみたいに、王様は突然話を切り替えた。
 俺、わりと真剣に話してたんですけど。食い下がろうかとも思ったけど、ここで王様の機嫌を損ねてしまえば、いよいよお城に帰れなくなってしまうかもしれない。
 何か文句があるのか? とでも言いたげな王様に、念のため確認してみた。

「いいんですか?」
「なんのことだ」
「……俺と一緒に歩くの、嫌なんじゃないんですか?」

 嫌味でもなんでもなく、どちらかといえば俺なりの気遣いだった。でも、王様からしたら不愉快な言動だったのかもしれない。
 案の定、王様の目がすっと細められた。

「凍え死にたいのなら、勝手にしろ」

 言うだけ言って、王様は颯爽と踵を返した。

「あ……っ、し、死にたくないので待ってください!」

 長い足を生かしてズンズンと進んでいく後ろ姿に、慌ててその後を追っていた。


 身長が高いこともあるけど、それ以上に王様の背中は大きくて堂々として見える。王たる風格、とでもいうんだろうか。
 後ろ姿だけでも、その存在が絶対的であることが十分に伝わってきた。
 その背中を見ていると、王様をこの国で最も神に近い存在だと言って崇める人の気持ちも少しだけ分かる。比喩でも誇張でもなくて、紛れもない真実だったのかもしれない。王様の背中には、そう思わせるだけの説得力があった。
 それに比べて、俺には紋様以外に神子としての説得力はどこにもなかった。確かに植物を成長させることはできたけど、それ以外にこの目で神秘的な光景を目にしたことは一度もない。

「……はぁ」

 無意識のうちにため息をついていた。
 ナイーブになっているせいもあって、一度悩み出すと物事をとことん悪いほうへ考えてしまう。
 我ながら、ウジウジしていて良くないとは思うのだ。

「明彦……」

 ネガティブ思考な俺のことを、明彦はそういうところも好きだと言ってくれた。賢ちゃんは優しいからね、そう言って俺のことを肯定してくれた明彦は、今では半ばライバルのようなポジションにいる。
 それもこれも結局は王様のせいだと思うと、一度収まっていたはずの鬱憤が胸の中で渦を巻いた。とはいえ、面と向かって文句を言う勇気はとっくに尽きている。
 それに、今王様の気分を害してしまえば、お城に帰れなくなってしまう。そんな最悪の事態はなんとしても避けたいので、文句を言う代わりに王様の背中を睨むことにした。
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