病み彼

ふわパカ

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何で泣いてんだろう俺

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お父さん?お母さん?久し振りに見た気がする。二人が手を広げて待っていた。俺は二人の元に駆け寄ろうとする。けど届かない。二人は笑顔を浮かべて上へ上へと行ってしまう。行かないで。何処にも…

二人が消えてしまうと辺りは真っ暗で何も見えない。怖くて心細くて俺はしゃがみこんだ。

そっと肩に何かが触れる気がしてふと見上げると轟がいた。今までに見た事のないくらい眩しく穏やかな笑顔だった。

俺の耳元で幸せに….って囁いた。俺が轟の腕を掴んでも轟は上へ上へと行ってしまう。何でお前迄…

また俺は独りぼっちになった。お父さんもお母さんも轟にももう会えない気がしてくる。何処か手の届かない遠くに行ってしまったように感じる。

独りは嫌だ。独りにしないで。


いつも俺は強がって生きてきた。どんなに嫌な事があっても顔に出さずに生活をしてきた。其れは誰かに嫌われて周りの人が自分から離れていくのが嫌だっただけ。独りになるのが怖かっただけだ。


来夢…そうだ、今の俺には来夢がいる。なのに何処にも居ない。来夢?来夢!俺は走り回った。探して探して探した。

隅でうずくまっている人が居るのを見つけた。来夢だ。来夢に近付くと来夢はいきなり立ち上がって俺に倒れ込んできた。いや、倒れて来たんじゃない。俺を刺した…んだ。何で…来夢…

来夢は其の侭何処かに行ってしまう。嫌だ、行かないで。お前まで行っちまったら俺は…

「来夢…っ」

俺はがばっと飛び起きた。手に違和感を感じて手を見遣ると手錠をされていた。いつの間に…

どうやら俺は夢を見ていたらしい。俺は夢の中で来夢に刺されたんだ。そして来夢は何処かに行ってしまった。

夢の事を思い出すと途端に不安になってきた。本当に俺の大切な人が居なくなってしまったら如何しよう。

いきなりドアが開いた。其処には来夢が立っていた。良かった…来夢がいる。俺は独りじゃない。

「先輩…?何で泣いてるんですか?」

「え…?」

泣いてる?俺が?涙はポロポロと零れて止まらない。何で泣いてんだよ俺は。

「ごめん………何で泣いてんだろう俺」

「先輩…」

来夢は俺を力強く抱き締めた。抱き締め返そうとしたけど手錠に繋がれている俺は抱き締め返す事も出来なかった。でも其れでも良い。此の温もりを感じていられるなら…
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