病み彼

ふわパカ

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多分本当は

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今日もバイトだ。昨日の兄さんの事を思い出すと手が止まってしまう。今日は何回も「ぼーっとしてるね」とバイトの人に言われてしまった。駄目だな、迷惑掛けないように頑張らないと。


「体調でも悪い?今日ずっとぼーっとしてるけど」

足立さんが俺をじっと見つめてきた。今はお昼休憩だ。休憩室に俺と足立さんの二人きり。

「あ、いや元気です」

「じゃあ如何したの?ぼーっとしてて…何かあった?」

「いえ何も…」

まさかここで兄さんの事を言えるわけない。兄さんに襲われてわけも分からず俺が泣いた事なんて。足立さんには俺と兄さんが付き合ってるなんて事も言ってない。

「嘘は駄目だよ愛空君。君は嘘が隠せない子だからバレバレだよ」

何も言い返せない。この人は人を見る目があるんだと思う。ズバズバと言い当ててくる。

「深く追求したりはしないけど何かあったらいつでも言いなよ」

足立さんは俺の頭を撫でてくれた。その優しさが嬉しい。足立さんって良い人だよな。

「ありがとうございます」

俺が笑って見せると足立さんも微笑んでくれた。安心感を与える笑顔だ。

「よし、残りの仕事も頑張ろう!終わったらパーっと気晴らしにカラオケにでも行こうか」

「はい!」

カラオケというワードでテンションが上がる。俺は歌が好きだからカラオケも大好きだ。友達や家族ともカラオケによく行っていた。でも高校に入ってからは忙しくてなかなか行けてなかったから久し振りだ。


無事に仕事を終え久し振りにカラオケに来た。兄さんにメールしなきゃな。


足立さんの声はかっこいいから全て歌う歌がかっこよく聞こえた。二人でデュエットしたり楽しい時を過ごした。


「いやー楽しかったね。愛空君歌上手いから聞き入っちゃったよ」

「楽しかったです。足立さんも歌上手ですよね。それに凄くイケボ」

「はは、イケボなの?俺って」

「自分はそう思いますよ」

「じゃあさ…こうやって耳元で囁かれたらドキってしちゃう?」

足立さんは急に俺の腰を引き寄せ耳元で囁いた。低く甘い声が俺の鼓膜に届いて少しドキリとしてしまった。今が夜で良かった。顔が赤くなっているのがバレずに済む。

「あ、足立さんそういうのは女の人にしてくださいよ」

「好きな人にしかしたくないな俺は」

前に足立さんに好きって言われたっけ。あの時サラッと言われて足立さんはするそのまま直ぐに去ってしまったから俺は何も言えなかった。

「足立さん…その…あの、」

「俺が好きって言った事は本当だよ。男同士とかそんなの俺には関係ない。愛空君の事が好きだよ」

真っ直ぐに見つめてくる足立さんからは嘘をついているようには思えない。逸らしたいのに逸らせない。

「足立さん…でも俺…」

「分かってる。君に恋人が居るってのは前に聞いたしね。それでも諦められない俺を嘲笑ってくれても構わない。でも俺は自分の気持ちに嘘はつきたくないから」

自分の気持ちに嘘を吐かない…凄く胸に響いた。この人は俺の事を本気で好きなのかな。熱い想いが伝わってくる。

俺は兄さんと付き合ってるけど本当の自分の気持ちは如何なんだろう?兄さんの事は勿論好きだけど恋愛感情ではない気がする。記憶を少し失ってるからそういう好きって気持ちがないのだろうか。忘れてしまってるだけ?でも人を好きな気持ちを簡単に忘れるものなんだろうか。

「あ、ごめんね。困らせちゃってるよね。愛空君を困らせるつもりはないんだ。一つ聞きたい事があるんだけど」

「すみません。色々考えちゃって…聞きたい事って何ですか?」

「愛空君は本当に今付き合ってる人の事が好き?」

「え…」

今さっき自分が考えていた事を聞かれて俺は固まってしまう。何て答えれば良いんだろう?俺の本当の気持ちは何なんだろう?

「リア充の人からって自然と幸せオーラが出てるけど君の場合そういうのがない気がするんだよね。だから本当に好きなのかなって…変な事聞いてごめん」

「俺は……多分本当は…」

俺が本当の気持ちを言おうとした時だった。いきなり後ろから声を掛けてくる人がいた。

「愛空?」

「兄…さん?」

兄さんが俺と足立さんを交互に見遣る。足立さんは兄さんに頭を下げた。そういえば二人は会った事ないもんな。

「愛空この方は?」

「バイト先の先輩」

「初めまして。足立魂です」

「あぁ、バイト先の先輩だったんだ。いつも愛空がお世話になってます。愛空の兄の黒金優空です」

二人は笑顔で握手を交わした。俺は二人をそっと見守る。

「愛空、帰ろう」

「う、うん…でも足立さんも帰り道途中まで一緒だよ」

「じゃあ三人で帰ろうか」

俺たちは三人で帰路についた。何なんだこのメンツは。
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