天国の君へ別れを告げて、俺は、彼女と共に行く

タケノコタンク

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4話

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 理解者のいない戦士は、弱い。
 クラスA、灰の剣士の天号を持つカルム・アッシュフィールドは第3教導院から送られてきた書簡と資料に目を通しながら、そんな思考を巡らせていた。
 アルトリウス・マーシャル。かつての天才少年剣士。
(そういえば、俺も昔優勝したっけ)
 当時の自分は彼ほど有名人ではなかったが。
 カルムも共和国主催全星剣術大会少年の部で優勝したとは言え、半世紀も前の話である。
 圧倒的な力というのは、それも、武術ともなれば、心得のないものには理解されない。
 当時のカルムは淡々と勝ち続けたので、面白みがなかったのだ。
 全ての敵を一撃で倒すような漫画が真面目な雰囲気では受けないように。
(格下とも、互角の勝負を演じられる繊細な剣。あの天才はそれを持っていた)
 如何なる理由によって、身につけたのか理解できないが、兎に角あの剣技を扱えるアルトリウスをカルムは当時から天才と認めていた。
(ま、天才だからって強いソルジャーズではないんだけど)
 如何に美しいスポーツカーも、星間航行する宇宙船には追いつけない。
 教導院からの書簡にはこう書いてあった。
(アルトリウス・マーシャルは、クラスAの実力を取り戻したと考えられる。灰の剣士には、彼の能力測定を依頼する)
 クラスAの評価はクラスAにしか叶わないというのが通説だ。
(クラスBである教員たちで、評価できないのだからクラスAであることは明らか。しかし、クラスAの中でどの位置かはクラスAの更に上澄みでなければわからない)
 その上澄みが、カルムのように、天号を与えられたソルジャーズだった。
(もしも、アルトリウス・マーシャルが俺を凌駕する才能を持つのなら、俺の命が危ないんだがね)
 政府、民衆からしたら、強力な兵器が更に強力な兵器にアップデートされるだけのことではあるが、カルムにとっては命懸けの任務である。
「要するに、かつての天才剣士と試合しろってことだろ」
 カルムがわざわざ考えを口に出したのは、格好を付けてのことではない。
 もう1人。執務室に従卒がいたからだ。
「閣下も天才でしょう? 天号を持つ閣下に敵うものなどありえません」
「天号は天才の証じゃないよ」
「そう考えているのは、閣下だけです」
 従卒の女は、カルムの膝にまたがった。
「……うん。そういう気分じゃないから」
「あら? 声をかけたのだからそういう意味かと」
「40年も一緒に居るのに、お前は俺のことを理解してくれないねぇ」
「理解されなくても、心地がいいから私を傍に置いているのでしょう?」
「違うよ。お前の能力が、必要だから傍に置いているんだ」
 カルムは従卒を追い払うと、支度を始めた。第3教導院に向かう宇宙船を手配させて。
「お気を付けて閣下」
「いや、お前も来るんだよ」
「アルトリウス・マーシャルはそれ程の剣士ですか?」
「そうかもしれない。そうじゃないかもしれない。兎に角、生き残る為に最大限の準備はする」
「はぁ」
「嫌そうな顔すんなよ! 仕事だ仕事! それに」
 カルムは一呼吸置いた。
「そういう準備を怠らないのが、強いソルジャーズ、強い戦士だ!」
「閣下の哲学など理解できませんわ」
 カルムは呆れて、ブラインドの向こう側の空を見た。
(さて、アルトリウス・マーシャル。お前は理解者を得たから、強さを取り戻したのか。それとも、孤独なままトラウマを乗り越えたのか)
 カルムは彼が後者であることを望んだ。
 カルムの哲学としては、前者の方が強大な戦士であるからだ。
 そして、カルムの傍には理解者はいない。

 アルトリウス・マーシャルは、近縁の惑星で恐るべき戦士が狙いを定めていることなどつゆ知らず、喫茶店でお茶していた。
「ごめん。アルちゃん、委員長に話しちゃった」
「あっはは! 2人きりのときはそう呼ばせているんだ!」
「何の話でござる?」
 両手と背中に花といった感じで、ベルタ・クロイツァー、委員長、ミチル・ミヤモトと同席していながら、彼はため息をついた。
「なんでばらしちゃうかなぁ」
「ごめん……」
 それは、アルトリウスが委員長の好意に気が付いていない証左であり、ベルタが恋愛的な勝負で委員長に既に勝っていると改めて伝えるには十分な言葉だった。彼女は机に額を当てた。
「どうしたでござるか? 委員長」
「何でもない」
 委員長は、左半身をプラズマで焼かれ、胴体を上下に分断されてなお、生存し元気にデラックスパフェを頬張るミチルを横目で見た。
 制服の下には痛ましい傷跡が十字に刻まれていることを、委員長は、知っていて少し気持ち悪くなった。
「あんな状態でも、ソルジャーズって生き残れるんだね」
「拙者もびっくりでござる。先生も奇跡だと言っていたでござるよ」
 それは、アルトリウスの剣筋が余りにも鋭く、縫合しやすかったことと、なんとか、身を捻って、ミチルが即死を回避したからだ。
「俺も、ミヤモトを殺さなくてよかったよ」
 本当か? と委員長は、いぶかしんだが、テレパシー能力者にして彼の理解者であるベルタが柔らかい笑みで頷いたので、本心だと悟るのだった。
 同時に、また、敗北感を味わって机に頭をぶつけるのだが。
「まぁでもよかった」
「何が?」
「マーシャル。貴方が力を取り戻したことが」
「完全ではないんだけどね」
「そうなの?」
「ずっと、全力を出そうとすると身体が重かったんだ。ミヤモトとのあの試合で軽くはなったけど、まだ、重い」
 アルトリウスは目の前を横切ろうとした蝶の羽を掴んだ。
「うん。重い」
「いや、いまさらっととんでもないことしたよね」
 アルトリウスが指を開くと蝶は何事もなかったように飛んで行った。
「少し鱗粉を落としてしまった」
 蝶を素手で捕まえる。それは、速度域的にはソルジャーズには容易いことだが、あのような薄い羽を傷つけることなく、それも、自分たちでは目で追えない速さで行うなど、委員長からは、神業としか呼べなかった。
「拙者には、まだまだ届かない世界があると知れて嬉しかったでござる」
「一生無理だけど? 多分」
 アルトリウスは残酷な真実をミチルに伝えた。
「お前のソルジャーズ能力の素養はやっぱりクラスBだよ。この先、クラスAになることはない」
 それは、本調子ではないもののクラスAの世界に戻ったアルトリウスの確信だった。
「常識ではそうであろうな」
 ミチルにもわかっていることだ。それ程、最後の攻防は一方的なものだった。
 ミチルにはわかっていた。あの激震という技が、ミチルが生きるか死ぬかのラインを見極め、調節されたものであったことを。
「しかし、マーシャル殿はクラスCの能力のまま拙者と互角に渡り合った。同じことがクラスAのマーシャル殿に同じ様に対抗できる可能性があるのではないか?」
「確かにな。そう思うのも、行動するのもお前の自由だし」
 アルトリウスは紅茶の液面を見ながら自問した。
(あんな負け方をして、まだ、前を向いて生きていけるんだなコイツ。本当に)
「主人公みたいな奴」
(そういうところが……)
 アルトリウスが憤っていることにベルタだけが気が付いていた。
 他人のいる前なのに、彼女の白い手がアルトリウスの頬を撫でた。
「恥ずかしいって」
「本気で照れてる」
 アルトリウスはこのところ、ベルタに押され気味だった。
 何か、彼女にもいい変化があって前向きになったんだろうと、気恥ずかしさと共にやすらぎと彼女の幸せを嚙み締めた。
 
 数日後のある屋外テラス。
 カルムは従卒と共に、ある女性と面会していた。
「これほどのもてなしをして頂けるとはね」
 ヴィンテージワイン、星付きレストランのフルコース。
「天号とは、それだけの価値があるものでしょう?」
「そんなものではないだろう」
 左肘をついて、右手を掃う。
「いらないよ」
「では閣下。私がいただきます」
「あ」
 従卒が手を付けてしまうのだが。
「ぷはぁ!」
「あぁ! あぁ! あぁ! そんな高いワイン!」
「美味しいれふぅ」
「仕事しに来たの! やめなさい!」
(あー! あ! あー! こんな従卒付けるなんて、軍は何考えてんだ!)
 と、愚痴ること40年である。
「別にこんなもてなしはいい」
「では、無償で? 貴方は噂よりもずっと欲のない方なのですね」
「別に、これも給料のうちと、考えているわけではない」
「では。何を求めて?」
 カルムはブロンドの妙齢の女性即ち、第3教導院の学長を指差した。
「私……?」
「夜の遊び相手になってよ」
「貴方は!? なんて」
「破廉恥とでも?」
 こういう動揺から女性にアプローチするのがカルムのやり方だった。
「そうです。閣下は破廉恥で最低です」
 その破廉恥人間への貢ぎ物を頬張りながら言う台詞ではない。
「いいか? 学長。こっちは、戦場でもないのに命を賭けろと言われているんだ。美女の1人でも夜伽の相手をいてもらわにゃ割に合わんよ」
 カルムは、軍に縛られている身だが、本質的には自由人であった。
「ですから、こうして食事や暮らし、報酬に色を付けているのです」
「貴女の美貌はそれを凌駕すると言っているんだ。……既に相手がいたかね。なら、仕方がないから、食事と金品で我慢するがね」
「……相手など」
「なら決まりだ」
(アルトリウス・マーシャル……。どうかこの男を打倒しなさい! 私の貞操が掛かっています!)
「あっはは!」
 笑うカルムを冷ややかに従卒が軽蔑していた。

 アルトリウスとベルタの蜜月は、彼女の家の中だけではない。学内試験も終わり、むしろこちらの比率の方が大きくなっていた。
「はあああああ!」
「甘い!」
 アルトリウスは簡単にベルタの剣を取り上げた。
「たああ!」
「ナイス!」
 武器を失っても立ち向かってくるベルタを褒めながら、腕を取り、宙へ投げる。
「きゃああ!?」
 それを受け止めたのは、アルトリウスの異能だった。
「実戦で宙に浮いたら死ぬよ」
「……はーい」
 姫をエスコートするように軽やかに着地させた。
「はーやっぱり凄いわー。出力をクロイツァーさんに合わせるとか。その上、余裕で勝ってるし」
 傷1つ与えずに。委員長は腕組みしながら
「あぁ! マーシャル殿の剣技を見ていると傷跡がうずくでござる」
 眼帯の同級生は両手で身体を抱いて身もだえる。
「やめい! 卑猥な! お前ら暇か!」
「「だって」」
「ハモんな!」
 何故自分が説教しているのか。2人をうざがりながら、ベルタが視線を落としていることに気が付いた。
「ベルタ?」
「私も、傷つけられたい」
(えー?)
 今のアルトリウスにとっては、ベルタは宝物であるからその様なことはできない。
「わざと、負った傷じゃミヤモトのよりダサいよ?」
「う」
「拙者の傷は特別でござる~」
 ベルタがミチルに覆いかぶさった。
「はっは! くすぐったいでござる~。ベルタ殿ぉ」
「こ、殺す!」
 ベルタは本気で命を取ろうとしているのだが、あっさりと攻守は入れ替わり、犬の相手をするようにベルタの腹をさすった。
「や、やめなさい!」
「ベルタ殿は可愛いのぉ」
「やめい! 俺の恋人に触れんな!」
「あう!」
 アルトリウスはミチルの脳天にチョップを喰らわせた。
「お前は! 格下と優しく戦える技術なんてもの、持ってないだろ! ベルタに怪我させたら!」
「今のが実戦だったら」
「死んでたわね」
 委員長とミチルは、改めて今のアルトリウスの実力を実感するのだった。
「およ? というか、マーシャル殿とベルタ殿はお付き合いされてたのでござるな」
「「「今更かよ……」」」
 アルトリウスは今日はここまでかと、帰り支度を始めた。

 第三教導院の敷地を抜けると城下町のように、発展した街並みが広がっている。
 大通りを進んで4人はそれぞれの家を目指した。
「いっそのこと。皆で外食する?」
「アルちゃん、今日の分のご飯冷蔵庫にあるよ」
「じゃあやめとこ」
 最早、アルトリウスの帰る場所は男子寮ではなくなっていた。
 食器類が割れる音が、右手側からした。
「うわああああ!? ソルジャーズが暴れてるぅ!?」
「ああああ! 止めて止めて!」
 客たちが退避してきた。
「ベルタ! 飛んで!」
「え? あ、うん!」
 ソルジャーズの中では平均以下のベルタもやはり超人で、アルトリウス、委員長、ミチルに一手遅れて飛び上がった。
「よっと」
 アルトリウスは念動力でビルの壁に張り付き、そして、ベルタを引き寄せた。
「マーシャル! ベルタ! 無事ぃ!?」
 反対のビルの屋上へ登った委員長からだった。
「当たり前!」
 アルトリウスは、溢れ出た衆群が逃げ切って落ち着きを見せると、重力加速度とは異なるゆっくりとした加速度で、着地した。
「あっはははははははは! 閣下ぁ! ここの酒最高ですぅ!」
「ぎゃっははははははは! じゃんじゃん持ってこーい!」
 木造チックなテナントの真ん中で、軍服の妙齢の女性、全身灰色のコーディネートの若い男が乾杯していた。
 2人の首元には鈍い銀色の首輪が嵌められていた。
「こいつらか。この騒ぎの現況は」
「おお!? 学生がぁ! こんなところに何用でぇ!」
「何用でぇ!」
 灰色の男に、緑を基調とした軍服の女が追従した。
「あ、貴方たちぃ!? 私の話を聴いていてぇ!?」
 騒ぎの中心にはもう1人いたようだ。銀色の首輪を彼女もしている。
「「え?」」
 アルトリウスとベルタは、驚愕するしかない。あの金髪碧眼の美女は
「学長先生じゃん!」
「うん……」
 まさか、この街の軍事的な最高権力者が騒ぎの中心とは、2人は夢にも思わなかった。
「ううん! 聴いてるよぉ! 学長ちゃーん! だからさぁ! そんなの忘れてさぁ!」
「閣下ぁ……。私を慰めてくれるんですか?」
「もちろんだよぉ! 学長ちゃーん! おお! おお! おお!」
「じゃんじゃん持ってこーい!」
 生き恥とは正にこれ。アルトリウスは透かさず、グラスを掲げ、ぶん投げた学長の痴態を撮影した。
「あああああ! カシャーって! 今カシャーって音がしたー! 私の人生終わったー!」
「大丈夫だよぉ! 首になったら養うよぉ!」
「キャー! 閣下素敵ぃ!」
 灰色の青年に、学長が抱き着いた。
「「「じゃんじゃん持ってこーい」」」
「ベルタ? どうしたらいいと思う?」
「警察呼ぶ?」
「そしたら、学長の人生マジで詰むけど」
「「「終わったーーーー! ヒャッハー!」」」
(うるせぇ)
 誰かの気配がある。
「お、おおおたすけぇ!」
「もうかえれよぉ!」
 どうやら、何人かバーカウンターの裏に逃れていたようだ。
「ベルタ」
 ベルタは、すぐにアルトリウスの心の中を読んで彼らを逃がそうとする。
「おうおう! バーテンダーが仕事からにげだすたぁ! 何事だぁ!」
「「何事だぁ!」」
 男は、髪も虹彩も灰色で、何処か浮世離れしていた。その灰色の男に女性2人が追従する流れが続いていた。
「あああ!」
 学長がアルトリウスを指差した。
「アルトリウス・マーシャル! 問題児!」
「アンタは問題教師だろ」
 アルトリウスが冷静にツッコミを入れると静寂が訪れた。
 灰色の男がアルトリウスをぼーっと見つめていた。
「な、なんだよ」
 急に黙ったものでアルトリウスは少し後ずさった。
「アル、アルコール……。じゃなくて、あ、あ」
「アルコール・マージャンです。閣下」
(いやちげーよ!)
 軍服の女が冷静な顔で間違った注釈を入れた。
「あ、アルえーと」
「アルトリウス・マーシャルれすぅ!」
「あーそーだー。元天才のぉ」
 学長の一声で彼はこちらの正体に気が付いたようだ。
「天才って……。アンタも昔の俺を知ってる感じ?」
「しぃってる! しぃってる! すんげえ曲芸するなぁって感心したよぉ!」
「曲芸?」
 それは、相手に合わせて自在に力を制御できる剣技のことだろう。
 アルトリウスにとっては、それは、妹に触れる為に必死に磨いた宝物であるから、彼は一瞬で灰色の男を嫌悪した。
「どへんたーい!」
「「どへんたーい!!!」」
(殺したい)
 灰色の男の視線と交錯した。
「駄目だよぉ! アルトリアちゃーん!」
 それが、戦いの火蓋だった。
「殺したいじゃなくてぇ! 殺すと思って剣を取らなきゃさー! ソルジャーズはさぁ!」
 それを聞き取れたのは、恐らく灰色の男と同じ時間流に生きるアルトリウスだけであった。
 鞘を持ち抜刀。スローモーションで迫ってくる。
 アルトリウスはバックでその斬撃を避けた。しかし
(二の太刀はそれが産んだ衝撃波!?)
 テナントの中の全てが舞い上がった。

「あり? 避けられちった?」
 カルムは酒の酔いを一瞬で覚ました。降り注ぐ瓦礫の中に赤い髪の少女がいる。
 彼女だけは、カルムの一撃によって宙を舞わなかった。
「かー。アイツの能力念動力だったわー」
 カルムは停止したような時間の中で従卒と学長を見つけ抱えるとカルムの気配を追った。
「逃げながらも女守るってやるじゃん。アルトリアちゃん」
 カルムは、標的の名を女性系に弄って呼ぶ。それは、過去のトラウマによって成長を止めたアルトリウスの女々しい精神性を揶揄してのことだった。

 アルトリウスは念動力でベルタを守りつつ、向かいのビルを駆けのぼる。
 そして、屋上の2人の生きる時間に意識を合わせた。
「マーシャル!?」
「マーシャル殿!?」
「下にベルタと、何人か人がいる! 救助任せた」
「マーシャル殿!?」
「借りてくぞー!」
 アルトリウスはいつもミチルが帯剣している業物を持って行った。
 
 アルトリウスは、念動力で飛行する。
(俺と同じ速度で動けるアイツは、恐らくクラスA。こんな街中じゃ戦えない)
 斬撃の気配がした。
(まさか!?)
 迫るそれを避けると地鳴りの音がした。
「激震を使ったのか!」
「ああそうだよ!」
 灰色の流星が迫る。アルトリウスは、居合の要領で刃を合わせた。
 灰色の剣士は、ビルディングをなぎ倒しながら墜落していった。
(くそ! 跳ね上げるつもりがはたきおとす結果になった!)
 念動力によって、空中でも地上と同じ様に戦えるアルトリウス。灰色の剣士はその劣勢を剣技で埋めていた。
(兎に角。学園に急がないと!)
 また、激震の余波で街が壊れてしまう。ソルジャーズの守るべき街と普通の人々が壊されてしまう。

 やっと、問題なく力を振るえるフィールドにたどり着いた。
「はっは! 若いねぇ!」
 それが、街や人々を気にかけて戦う自分に向けられたものだとアルトリウスは気が付いていた。
「アンタ! クラスAだろ! なんで、民を守るアンタが街を破壊するんだよ!」
「民? 違うよぉ。アルトリアちゃん。俺たちが守ることを期待されているのは、国益だよぉ」
「だったとしても!」
「あぁん? ガキがよぉ! お前、自分とあの街どっちが大切かわかってねえなあ!」
「は?」
 その虚を見逃す灰色の男ではない。カルムは、まともに振り下ろしを剣で受け止めてしまい吹き飛ばされた。更に追撃がくるが
「念動力ぅ? 飛べるってのは白兵戦でチートだろーが!」
「ふっ!」
 滑るように潜り込む灰色の男をアルトリウスは、念動力で身を捻って躱す。その勢いのまま業物を振るう。芝生が衝撃波で舞うが、灰色の男から赤色が滲みだすことはなかった。
「アルトリウス・マーシャルお前の価値は、あの街よりもずっと上なんだよぉ!」
「アンタに何がわかる!」
「価値がわかる! 国によって与えられた天号! 灰の騎士の異名に誓って!」
「天号!?」
「太刀筋が寝ぼけている!」
 また吹き飛ばされた。
「がっは!」
 今度は念動力によって踏みとどまれず叩きつけられた。
「今ので墜ちないぃ!? しぶといなぁ!」
「あああああ!」
 黒髪のアルトリウスと灰色のカルムはお互い閃となって駆ける。
「はははは! いいぞぉ!」
(くそ! 向こうの速度が上がってきているのに、合わせて上がっていない!)
 念動力による飛行、膂力の補助があってなお、アルトリウスは、押されていた。
「まだぁ、曲芸を続けるかぁ?」
「また、曲芸って! 馬鹿にして!」
「褒めてるって!」
 大薙ぎ、激震といった特別な技を互いに繰り出さないのは、互いにとってそれが致命の隙になるからだ。
「お前はわかってる!」
「何が!」
 アルトリウスとカルムは唾ぜりあった。
「大技とは、決め技ではなく、ただ、隙を生むための見せ札だと」
「そんな当たり前のこと!」
「それを肌感覚で理解しているんだろう?」
 アルトリウスは、カルムに念動力で絡みつき無理やり体勢を崩そうとした。
「はははは! 所詮、その念動力はお前の想像を超えられない!」
「だったら何だよ!」
 アルトリウスが押し込まれ始めた。
「お前のぉ! 潜在能力はお前の想像以上のはずだ!」
「は?」
「わかる。お前と同じく肌感覚で理を理解した俺には」
 アルトリウスの膝が地に着いた。
「何が蓋をしている? 妹と触れ合う為に力を磨いた誇りか? それとも、愛する理解者と次元の異なるステージに立つことか?」
(剣を通して俺の心を読んで!?)
しかし、アルトリウスは、カルムの思考が読めなかった。
(なら、もう向こうの方が決定的に上のはずだ。なんで、街を巻き込んで、民を巻き込んでまで拘る?)
「俺も、クラスC程度までなら出力を落とせる。でもなぁ!」
(そんなことが強さの何の証明になる!?)
「俺にはぁ! クラスIまで出力を落として試合を演じるなんて真似できねぇんだよぉ!」
 カルムの踏みしめる大地の方が、耐えられなくなっていく。
「カルム・アッシュフィールド」
 カルムはようやく名乗った。
「お前の意識の蓋を外し、真にお前を目覚めさせる戦士の名だ!」
 カルムが切り上げて、隙が生まれる。
 灰色の外套を脱ぎ捨てた。
 アルトリウスは、その灰色の中に確かに赤い、見慣れた糸の束を見た。
 アルトリウスの心を照らす赤い色。
 唯一無二の理解者、ベルタ・クロイツァーの髪だった。

 アルトリウスの中で何かが切れた。
 それは、理性だったのか、アルトリウスを支える過去の記憶だったのか、まだ、身体を縛るトラウマなのか。
「ふひゃひゃひゃ!」
「ベルタぁ!!!」
 コイツは、自分の理解者をどうした?
 それは、アルトリウスが対峙してきた数々の戦士たちの卵に向けたことのない感情だった。
「お前はぁ! お前の想像する世界を超えた! だぁが!」
 アルトリウスは真っ直ぐ突っ込む自分の衝撃波を置いた。
 躱したカルムを本体のアルトリウスが襲う。
「俺だって、できるんだよぉ!」
 アルトリウスも読んで避けた。
 互いに殺傷能力を持った残像をぶつけ合い、周囲の雑木林をなぎ倒しながら加速していた。
 そして、互いに同じ時点で加速が止まった。
「これがぁ! 俺の世界の限界だぁ!」
「追いついた!」
「足りないんだよぉ! これはぁ! 俺が半世紀の間に何度も死にかけてたどり着いた世界だ! まだ、死の淵を本当の戦場を知らずにお前はここまで来た!」
「だったとしてぇ!」
 互いの刃が、互いの頬を薄く切った。どちらも紙一重で見極めているから起きる。ほんの少しずれただけでどちらかの頭蓋骨が砕けていた。
「まだ、お前を縛る理性がある! それを崩さないと!」
「これ以上! 俺から何を奪うんだ! 初めての約束、初めての理解者も俺から奪っていてぇ!」
『お前の栄光』
 それは、剣を通して聞こえた声だった。
 これは、あの決勝戦で経験した剣を通した語らいと同じ現象だった。
 あの記憶はアルトリウスの栄光の象徴だ。
 それが、崩されるということは。
 ずっと、考えないようにしていたことがある。何故、かつて決勝で語らったもう1人の天才剣士の名を耳にしないのか。あの女の子なら、自分と違って余計なものに足を取られず順調に成長していたはずだ。
(やめろ)
『お前と同じ、もう1人のクラスAは』
(友人の未来を思い描くことすら、俺には)
『死んだよ。戦場に出て』
 魂が絶叫した。

 何故? 何故? 何故?
 アルトリウスの心から漏れ出したのは、それだけだった。
 哀しみも怒りも働きすぎた。今、動けるのは、生きる為に、答えなどないという事実に向き合わない為に封印していた疑問の感情だった。
 
 アルトリウスの力が、自分のものを超えたことをカルムは悟った。
(自らの死ではなく。他者の死によってそこまでの力を引き出せるお前はやっぱり天才だよ)
 カルムの言葉は全て賛辞の裏返しだった。
 カルムの激震に匹敵する斬撃が襲う。
(これほどか! だが、これは布石。俺もアイツもわかっている)
 どれだけ力を高めようと、怒りによって紡がれた、思考のない剣技は見切れる。
 例え、想像を超える脅威が迫ろうと、強き戦士は対処する。自力とセンスと思考を組み合わせなければ、強い戦士とは呼べない。
 化け物のような力を振るうただ、それだけのものはただ、対処され、狩られるだけの獣である。
 強き戦士でなければ天号を預かった自身には敵わない。カルムは勝利を確信し、アルトリウスの能力を正確に評価するという仕事を今、終えたのだ。
 化け物同士の戦いなら、アルトリウスの虚しい勝利が訪れただろう。
 しかし、カルムがアルトリウスの余分を取り払ったことで、これは、化け物と戦士の戦いになった。
(その化け物の力を理でもって、制した時。お前は―――)
 カルムは避けられない。その状況になってようやく足を止め、彼は彼の異能を始めて行使した。
「全ては灰に」

 アルトリウスの無数の剣閃は確かに、カルムの身体を捉えた。
 しかし、余りにも手ごたえがない。残像か?
 否、貫かれたカルムは今なお笑いこちらに踏み出していた。
「全ては灰に。見たものも自らの身体も全てを灰に変えて操るのが俺の異能だ」
 全ては無駄かと、疑問も尽きて空っぽになったカルムは膝を折った。
「お前が、その全力を、理の下に支配し、真なる戦士となり、天号を受け取って始めてお前の剣技は俺の命に届くだろうさ」
 剣の形を取った灰がゆっくりと胸に突き立てられる。
「安心しろよ。俺の外道の振る舞いは全部演技だ。誰も俺たちの余波で死んでいないし、お前の理解者は生きている。一房髪を切らせて貰ったがね」
 意識が薄れていく。
「俺は、お前の心の澱みを拭い、お前の真の才能を見極める仕事をしに来ただけだ」
「でも……。剣を通して伝わってきたあれは、間違いなく」
「さあ? どうだろうね。俺の剣は絶望を与える黒でもなく、未来を照らす白でもない。俺の、俺の灰の剣はただモノクロの像を作るもの」
「はは……。噓つきの剣、てわけか」
「そう!」
 この日、アルトリウスはソルジャーズとして、初めての敗北を味わった。
 意識を失ったアルトリウスを尻目に、カルムはこの星の衛星を見上げた。
「理解者のいない戦士は弱い。既に、理解者を得ているお前は強くなるよ」
 孤独なまま大人になったカルムはそう吐き捨てて、従卒の到着を待った。

「閣下ぁ……。どこに行かれたのですかぁ」
 カルムの従卒の声がした。
(まだ、あの人酔ってるのかなぁ)
 どこか、高級ホテルのようだった。
「あそこから、医療班が間に合うとは思えない」
「あぁ! 起きたんですね!」
「どうして、俺の胸の傷塞がってんの?」
「私の異能です! 死後30分以内なら例え死んでいても蘇らす事ができます! それで、死者ゼロです!」
 ただ、身体重く、全体に鈍い痛みが走った。全力を出した反動。筋肉痛のような代謝だろう。
「私は、万が一にも閣下が命を落とされた時の保険なんです」
「それが、天号の従卒の役割?」
「いえ、本当は天号の精神の安定を図る存在なのですが、あの方は噓つきですから」
「理解者がいない」
 それで、あの強さなのだから、彼こそ最高のソルジャーズなのだろうとカルムは評した。
(向こうは終始理性的なまま、全力を出した。俺は、アルトリウスという人間性を失ってから肉体の限界を引き出した。あちらの方が何倍も上手だったな)
「閣下を目指されるのはやめたほうがいいですよ。あの方は人でなしですから」
「俺も一番守りたいものを守れなかった人でなしだけど」
「その真面目な考え方の時点で、道は分かたれていますぅ」
(その意見が出てくるなら、貴女はカルムの理解者ではないのか?)
「兎に角、ベルタさんを呼んで私は閣下ところにいかなくては」
「手立てはあるの?」
「私、一応彼の監視役なので、首輪の位置情報を追えるんです」
「なるほどなー」
「あー!」
 カルムの従卒が声を上げた。
「ラブホテル! まさか、私にアルトリウスくんの看護を任せて学長とぉ!?」
「アイツのこと好きなの?」
「当然!」
 自分はベルタ一筋で生きよう。そう心に決めたアルトリウスだった。
 そして、少し減ったが、赤髪の少女がやってきて彼は本当の試験が終わったことを実感。抱擁するのだった。
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