33 / 241
33話 忠告【アリシア視点】
しおりを挟む
「ううっ……。ひどいよぉ……。やっぱり、わたしなんかじゃ無理だよぉ……」
わたしは、校舎の裏で座り込んでいた。
「貴族の皆さん、怖すぎる……。わたしが何をしたって言うの……?」
入学式の当日を迎えて、少しはしゃいでしまったのは事実だ。
だけど、それだけであんな風に言われるなんて思ってなかった。
「もう、やだぁ。帰りたいよう」
ママに楽をさせたかっただけなのに。
ただ、ママに喜んでもらいたかっただけなのに。
どうして、わたしはいつもうまくいかないんだろう。
村でも、鈍くさいわたしは、みんなの足を引っ張っていた。
たまたまわたしに魔法の適性があることが判明して、いつの間にかこの王立学園への入学手続きが進められていたのだ。
「このまま帰っちゃおうかな……」
そんな考えが頭をよぎった時、不意に声がかけられた。
「こんなところで何をしているのですか? …………アリシア・ウォーカーさん」
「ひゃあっ!?」
わたしは驚いて飛び上がった。
振り向いた先に立っていたのは、一人の少女だった。
美しい顔立ちの少女で、高貴な雰囲気を纏っている。
「ごめんね、驚かせるつもりはなかったのだけど……。私は、イザベラ・アディントンというの。イザベラと呼んでくださいね」
「はい、イザベラ様……」
この人が貴族の中でどれくらい偉い人なのかは知らないけれど、たぶんかなり偉い人だ。
雰囲気でわかる。
思わず様付けで呼んでしまった。
「それで、アリシアさんはなぜここにいるのかしら? もうすぐ入学式が始まるわよ?」
「それは、その……」
わたしは言葉に詰まってしまった。
正直に話すと、また怒られるかもしれない。
「そろそろ講堂に向かった方がいいのではないかしら?」
「はい……」
「それと、私からも一つ忠告をさせてもらうわね。そのスカート丈は、あまり感心できないわ。貴女はまだ子供なのだし、もう少し長い方が可愛らしく見えると思うの。それに、髪飾りも付けていないみたいね。せっかく綺麗な髪をお持ちなんだから、きちんと手入れをしなくては駄目よ。化粧も覚えなさい。素材はすごくいいわ。そばかすさえ消せば、あなたは絶世の美女にだって見えるわよ」
「……はい」
わたしは素直に返事をした。
なぜかわからないけど、この人の言うことは正しいと思ったから。
「いい子ね」
イザベラ様は微笑んでくれた。
「ほら、これを使いなさい。涙は人前では流さないものよ」
そう言って、イザベラ様はハンカチを手渡してくれた。
「あ、ありがとうございます」
「いえ、気にしないで」
イザベラ様は優しく笑みを浮かべる。
そして、そのまま踵を返した。
「あ、あの!」
わたしは思わず呼び止めてしまった。
「どうしたのかしら?」
イザベラ様は不思議そうな顔をする。
「イザベラ様はどうして、わたしに声をかけてくれたんですか? わたしなんて、半分は平民の出ですし、全然貴族っぽくないし……」
わたしの言葉を聞いたイザベラ様は、ふっと表情を和らげた。
「別に大したことじゃないのよ。ただ、あなたがとても悲しげな目をしていたものだから、放っておくことができなかっただけ」
「え?」
わたしは、自分がどんな目をしていたのか想像できなかった。
「それじゃあ、私は行くから。あなたには期待しているわよ。アリシアさん」
そう言って、イザベラ様は去って行った。
わたしは慌てて立ち上がり、その後姿を見送った。
「イザベラ・アディントン……様」
名前を口にすると、不思議と勇気が出てきたような気がした。
「わたし、頑張ります!」
貴族様にも、あんな素敵で優しい人がいるなんて。
イザベラ様のように素敵な女性になりたいと、わたしは思った。
そのために、それにママのためにも、この王立学園で頑張らないと。
わたしはそう決意したのだった。
わたしは、校舎の裏で座り込んでいた。
「貴族の皆さん、怖すぎる……。わたしが何をしたって言うの……?」
入学式の当日を迎えて、少しはしゃいでしまったのは事実だ。
だけど、それだけであんな風に言われるなんて思ってなかった。
「もう、やだぁ。帰りたいよう」
ママに楽をさせたかっただけなのに。
ただ、ママに喜んでもらいたかっただけなのに。
どうして、わたしはいつもうまくいかないんだろう。
村でも、鈍くさいわたしは、みんなの足を引っ張っていた。
たまたまわたしに魔法の適性があることが判明して、いつの間にかこの王立学園への入学手続きが進められていたのだ。
「このまま帰っちゃおうかな……」
そんな考えが頭をよぎった時、不意に声がかけられた。
「こんなところで何をしているのですか? …………アリシア・ウォーカーさん」
「ひゃあっ!?」
わたしは驚いて飛び上がった。
振り向いた先に立っていたのは、一人の少女だった。
美しい顔立ちの少女で、高貴な雰囲気を纏っている。
「ごめんね、驚かせるつもりはなかったのだけど……。私は、イザベラ・アディントンというの。イザベラと呼んでくださいね」
「はい、イザベラ様……」
この人が貴族の中でどれくらい偉い人なのかは知らないけれど、たぶんかなり偉い人だ。
雰囲気でわかる。
思わず様付けで呼んでしまった。
「それで、アリシアさんはなぜここにいるのかしら? もうすぐ入学式が始まるわよ?」
「それは、その……」
わたしは言葉に詰まってしまった。
正直に話すと、また怒られるかもしれない。
「そろそろ講堂に向かった方がいいのではないかしら?」
「はい……」
「それと、私からも一つ忠告をさせてもらうわね。そのスカート丈は、あまり感心できないわ。貴女はまだ子供なのだし、もう少し長い方が可愛らしく見えると思うの。それに、髪飾りも付けていないみたいね。せっかく綺麗な髪をお持ちなんだから、きちんと手入れをしなくては駄目よ。化粧も覚えなさい。素材はすごくいいわ。そばかすさえ消せば、あなたは絶世の美女にだって見えるわよ」
「……はい」
わたしは素直に返事をした。
なぜかわからないけど、この人の言うことは正しいと思ったから。
「いい子ね」
イザベラ様は微笑んでくれた。
「ほら、これを使いなさい。涙は人前では流さないものよ」
そう言って、イザベラ様はハンカチを手渡してくれた。
「あ、ありがとうございます」
「いえ、気にしないで」
イザベラ様は優しく笑みを浮かべる。
そして、そのまま踵を返した。
「あ、あの!」
わたしは思わず呼び止めてしまった。
「どうしたのかしら?」
イザベラ様は不思議そうな顔をする。
「イザベラ様はどうして、わたしに声をかけてくれたんですか? わたしなんて、半分は平民の出ですし、全然貴族っぽくないし……」
わたしの言葉を聞いたイザベラ様は、ふっと表情を和らげた。
「別に大したことじゃないのよ。ただ、あなたがとても悲しげな目をしていたものだから、放っておくことができなかっただけ」
「え?」
わたしは、自分がどんな目をしていたのか想像できなかった。
「それじゃあ、私は行くから。あなたには期待しているわよ。アリシアさん」
そう言って、イザベラ様は去って行った。
わたしは慌てて立ち上がり、その後姿を見送った。
「イザベラ・アディントン……様」
名前を口にすると、不思議と勇気が出てきたような気がした。
「わたし、頑張ります!」
貴族様にも、あんな素敵で優しい人がいるなんて。
イザベラ様のように素敵な女性になりたいと、わたしは思った。
そのために、それにママのためにも、この王立学園で頑張らないと。
わたしはそう決意したのだった。
53
あなたにおすすめの小説
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる