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34話 新入生代表

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「……であるからして……。新入生の諸君におかれましては……」

 入学式はつつがなく進行していた。
 今は、学園長の挨拶が行われているところだ。
 私はぼんやりと壇上を見上げながら、さっきの出来事を思い出していた。

(アリシア・ウォーカーさん……。これからどう動いてくるのかしら?)

 アリシアさんは、『ドララ』のヒロインだ。
 エドワード殿下、フレッド、カイン、オスカーといった四大イケメンルートを攻略するキャラである。
 ちなみにこの私イザベラは、今さら言うまでもなく、悪役令嬢ポジションだ。
 アリシアとエドワード殿下が恋に落ちる以前から、彼の婚約者として学園内で幅を利かせている。
 イザベラは『ドララ』において、ヒロインをいじめてばかりの悪女として描かれている。

(まぁ確かに、悪役令嬢としてはある意味正解の行動を取っているかもしれないけれど……)

 そんなことをしていては身の破滅を招くことになるだけだ。
 ゲームの中のイザベラは、権力を振りかざしてやりたい放題だった。
 その結果、エドワード殿下との仲を引き裂かれた挙句、国外追放にまで追い込まれるのだ。
 予知夢では、なぜか国外追放ではなくて殺されたけど。

(そういった結末だけは絶対に避けないとね)

 だから、わたしは決めたんだ。
 できるだけ、アリシアさんのことはそっとしておこうと。
 さっき最低限のアドバイスはしてあげたし、あれで十分だろう。
 彼女には悪いけれど、わたしは自分の身を守ることに精一杯なのだ。
 私は心の中でアリシアさんに謝った。

「それでは、新入生代表挨拶。イザベラ・アディントン。前へ」

 司会の教師が声を上げた。
 私は我に返る。

「はい!」

 返事をして立ち上がる。
 壇上に上がると、会場中の視線が集まった。

「(あの方が今年の主席合格者か……)」

「(実家ではポーション販売などで辣腕を振るっていたらしいが……)」

「(素晴らしい美貌だな……)」

 生徒達のそんな呟きが聞こえてくる。
 私は、彼らの前で深々と頭を下げた。
 そして、用意してきた原稿を読み上げる。

「暖かな春の訪れと共に、私達王立学園の新入生は、本日こうして晴れやかな気持ちで入学式を迎えることができました。これもひとえに、教職員の方々、並びに保護者の皆様方からの温かいご支援のおかげと存じます。本当にありがとうございます。また、このような盛大な式典を催していただき、誠に光栄に思います」

 私はそこで一度言葉を切り、息を吸ってから続けた。

「私は、貴族として生まれたことを誇りに思っています。貴族に生まれた以上、領民のために生きることが私の使命だと心得ております。その義務を果たすためにも、日々精進していきたいと考えています。教職員の方々や先輩方にも、どうかご指導のほどよろしくお願いいたします。最後になりますが、学園生活を充実させるためにも、友人をたくさん作ろうと思っております。皆様、仲良くしてくれると嬉しいです。新入生代表の挨拶を終わります。どうぞ、宜しくお願い致します」

 私はもう一度深く礼をしてから、席に戻った。
 パチパチと拍手が起こった。
 私は、ほっと胸を撫で下ろす。
 よかった、ちゃんとできたみたいだ。

(バッドエンド回避に向けた初手は成功ね)

 予知夢での私は、フレッドの毒によって動きが鈍くなり、カインによって腕の腱を切り裂かれ、オスカーの氷魔法により拘束された。
 最後はエドワード殿下の剣によって胸を深々と貫かれ、絶命したのだ。

(主犯は四大イケメン達……。でも、それだけじゃないのよね……)

 この四人以外にも、注意を払うべき相手はいる。
 まずはヒロインのアリシアさん。
 エドワード殿下に頼まれて少し面倒を見てあげたけれど、これ以上踏み込むつもりはない。
 しばらくは遠巻きに様子を伺って、彼女の動向を観察したい。

(そして、一般生徒達にも注意しないと……)

 予知夢における一般生徒達は、エドワード殿下が私を断罪するイベントを止めるわけでもなく、むしろ嬉々として見ていた。
 未成年の少女が殺されるところを見て歓声を上げるなんて、普通の感覚じゃない。
 よほどイザベラは嫌われていたと見える。

(皆と仲良くなっておけば、私がピンチになった時に助けてくれるでしょう)

 私はそんなことを考えながら壇上を下りる。
 同学年の新入生達が、眩しいものを見るかのような視線を私に向けている。
 私は満足感を抱きつつ、自分の席に戻ったのだった。
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