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38話 ユイとの一騎打ち

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 龍之介がユイから強烈なサーブを顔面に受けた、その数日後――。

「うふふ。わたくしの鉄壁の守備を突破できるでしょうか?」

「くっ……! やっぱりユイ先輩は手強いです……!!」

 桃色青春高校の第一体育館では、今日もバレーボール部の練習が行なわれている。
 ユイは、バレー部のエースだ。
 彼女が練習を引っ張ることで、部全体が活気に満ちているように見える。

「ふーむ……。やはりユイの動きは素晴らしいな……」

 龍之介が呟く。
 彼は、あの日からユイに執心している。
 野球部の練習を一通り終えた後は、彼女をスカウトするべくずっと偵察しているのだ。

「特筆するべきは、あのサーブか……。間違いなく肩の筋肉が発達している。ボールを受け止める能力も素晴らしい。加えて、一見すると貧乳にも見えるあの胸部も実は……。うん、ユイは文句なしだ」

 龍之介は満足気に頷く。
 すると、そんな彼の背後から1人の女子生徒が現れた。

「あっ! 今日も来ているわね! この覗き魔!!」

「ユイ先輩のストーカーめ! 来るなって言っているでしょう!!」

 ユイのチームメイトである女子生徒が叫ぶ。
 彼女たちから龍之介への心証はあまり良くないようだ。

「おいおい、人聞きの悪いことを言うな。俺は別に覗きをしたわけじゃない」

「ふ、ふん! そんな言い逃れをしても無駄なんだから!!」

「そうよ! 早く、私たちのユイ先輩を諦めなさい!!」

 女子生徒が龍之介の腕を引っ張る。
 しかし、彼は腐っても中学時代の野球大会の覇者。
 簡単に引きずられたりはしない。

「こら! あなたたち、何をしているのかしら!?」

 と、そこにユイの怒声が飛ぶ。
 彼女はチームメイトを押し退けると、龍之介にずんずんと歩み寄った。

「またあなたですの? ずいぶんと諦めが悪いようですわね。わたくし、あなたに興味はありませんの」

「いいや、君は俺のことを好きになるはずだ。俺と一緒に甲子園を目指そうぜ!」

 龍之介はユイに向かって右手を差し出す。
 しかし、彼女はそれを払い除けた。

「はぁ……。まったく懲りない人ですわね。お断りと言っているでしょう?」

「ユイ先輩の言う通りよ! いい加減にしないと、本当に通報するわよ!?」

 ユイのチームメイトが龍之介を睨みつける。
 そんな彼女たちに向かって、ユイは笑顔を向けた。

「みなさん、安心してくださいまし。この人の相手をするのはわたくしだけで十分ですわ」

「先輩……」

「この人の相手をするですって……?」

 ユイの言葉に、チームメイトたちが言葉を失う。
 一方の龍之介は、目を輝かせていた。

「お……おお! さすがはユイだぜ!! 俺の期待通りに動いてくれるな!!!」

「勘違いしないでくださいな。わたくしは、あなたの心を完膚なきまでにへし折る策を思いついただけですわ」

 ユイが龍之介を睨みつける。
 彼女の背後には、静かながらも鬼神の如きオーラが漂っていた。

「策……だと……? いったい何をする気だ?」

「ふふ……それはですわね……」

 ユイは微笑むと、右手の人差し指を龍之介に突きつける。
 そして――

「わたくしと、バレーボールで一騎打ちをしなさい!!」

 そう言い放った。

「バレーボールで……一騎打ちだと!?」

 ユイの宣言に、龍之介は顔を強張らせる。
 そんな彼に対して、彼女は不敵に笑った。

「ええ、そうですわ! 1対1の変則バレーで10点先取です。あなたがわたくしに勝てたら、野球部の臨時メンバーになるのを考えてさしあげますわ」

「な、なんだと!?」

 ユイからの突然の提案に、龍之介は動揺した。
 そんな彼に畳みかけるように、ユイが続ける。

「あら? お嫌でしたら別に構いませんわよ? それならそれで、二度とわたくしの視界に入らないでくださいな」

「嫌とは言っていない! いいぜ! その勝負、受けて立つ!!」

「うふふ……。あなたの威勢の良さだけは認めて差し上げますわ」

 ユイが不敵な笑みを浮かべる。
 そして、少々の準備の後、さっそく彼女のバレーボールによる勝負が始まった。

「来い! ユイ!!」

「ええ! 全力で叩き潰してあげますわ!!」

 ユイは強烈なサーブを放った。
 その速度はかなり速い。
 だが――

「へへっ! さすがに、何度も顔面に受けてたまるかよ!!」

 龍之介は見事にボールを弾き返した。
 彼は既に2度も強烈なサーブを顔面に受けているが、あれは不意打ちの要素も大きかった。
 万全の態勢でコートに立っている状況なら、サーブを返すことは可能である。

「まだですわっ!!」

「は、速――へぶっ!?」

 龍之介が返した甘いボールに、ユイが強烈なスパイクを叩き込む。
 そのボールは、やはりと言うべきか龍之介の顔面に吸い込まれていった。

「うふふ……。バレーボール部の練習を邪魔したのが運の尽きでしたわね。野球部員や恋人役は、他の部やクラスの方たちを当たってくださいまし」

 ユイが冷たい視線で龍之介を見下ろす。
 そんな彼女を、龍之介は鼻から流れる血を拭いながら見上げた。

「はぁ……はぁ……。ま、まだだ……! まだ俺はやられていないぞ……!!」

「この1球で実力の差が分からなかったのですか? 諦めの悪い殿方は嫌われますわよ?」

 ユイが冷たい視線を向けてくる。
 そんな彼女の態度に、龍之介はニヤリと笑った。

「ふ……ふふ……。諦めないのが俺のポリシーでな。諦めの悪さなら、俺は誰にも負けない自信があるぜ」

「……いいでしょう。では、何度でも顔面に打ち込んで差し上げます! 顔が変形しても後悔なさらないことですね!!」

 ユイがボールを構える。
 こうして、2人の一騎打ちは続いていくのだった。
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