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17話 赤いネックレス

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「やあ、ユイ。今日も魔石を買い取ってほしいのだが」

 シンヤは冒険者ギルドの受付嬢に声をかける。
 別に誰に話しかけてもいいのだが、シンヤは彼女を優先的に指名していた。
 手際がいいし、最初に登録を処理してもらった縁もある。
 何より、見目が麗しい。

「はい。それではこちらにお願いします」

「うむ」

 シンヤは袋を取り出し、中に入っている大量の魔石を見せる。
 ただし、それらの大きさは豆粒大だ。
 一階層のスライムを狩ってドロップする魔石は、これぐらいが相場である。

「わわ! これはまた、ずいぶんとたくさんですね。この量はちょっと予想外でした」

「ふん。俺達を甘く見てもらっては困るな。なあ、ミレア」

「そうだヨ。シンヤは最強なんだカラ」

 ミレアは得意げに胸を張る。
 実際、一階層とはいえ二人だけでこれだけの量の魔石を集めたのだから、大したものである。

「えへへ。失礼しました。では査定を致しますね」

「まあ待て。こっちの魔石も頼む」

 シンヤは別の袋から一回り大きな魔石を取り出し、机の上においた。
 こちらは一階層ボスのスライムを狩って得たものだ。

「……こちらは結構大きいですね。いったいどうやって?」

「一階層ボスのビッグスライムの魔石だ」

「えええっ!? お二人だけでボスを倒したんですか? すごいです!!」

「そんなにか? 所詮は一階層だろう」

「でも、シンヤさんとミレアさんが潜り始めてから、まだ一週間ほどしか経ってませんよね。こんな短期間で一階層のボスを倒すなんて、普通じゃありません!」

 ユイは興奮気味に語る。
 確かに、シンヤ達が迷宮に入ってからまだ一週間ほどだ。
 しかも、念のためにと数日おきに休みを入れたため、実質的に潜っている期間はもう少し短い。

「そうか……。だが、俺達はもっと深い階層に進む予定だ。いつまでも一階層のボスで時間を潰してはいられないからな」

「なるほど。さすがはシンヤさんです。魔力測定の水晶を壊したのは伊達ではありませんね。クリムゾンボアを倒したと豪語されるだけはあります」

「当然だ。俺は強いぞ」

 自信満々に言い放つシンヤ。
 実際に彼は強いのだ。
 魔力の容量に関しては、この世界でも有数である。
 魔力量が多い者は強力な攻撃魔法を使える他、治療魔法や探知魔法、それに身体強化魔法も使いこなすことができる。

「シンヤは最強ダ。それでこそ、あたしの旦那に相応しいというものサ!!」

「ふっ。ミレアは元気だな」

「ああ。元気だけはシンヤにも負けてられない」

 ミレアはニッコリ笑う。
 彼女もまた、優れた才能を持つ戦士だった。
 身体能力の強化魔法が得意で、拳や脚に魔力を纏わせ戦う。

「ええ!? 旦那様、ですか?」

「そうダ。毎晩のように可愛がってもらってイル。赤猫族の女、自分の恩人には絶対服従スル。あたしの全てはシンヤのものダ」

「な、なんという……」

 顔を真っ赤にするユイ。
 彼女はシンヤ達の会話を盗み聞きしていたわけではないが、二人の関係については薄々気付いていた。
 しかし本人達に確認したことはなかった。
 ここまで名言されてしまうと、色恋沙汰の経験に乏しいユイは付いていけない。

「そ、それでは査定の方を始めますね」

 ユイは話を逸らすために、慌てて作業を開始した。
 査定が進められていく。

「終わったか?」

「はい。こちらが今回の買い取り額になります」

 ユイはカウンターの下から革袋を取り出す。
 そしてそれをシンヤに手渡した。

「うむ。確かに受け取った」

「ありがとうございました。またの買取をお待ちしております」

 ユイは深々と頭を下げる。
 シンヤは彼女に見送られながら、冒険者ギルドを後にするのであった。




 冒険者ギルドを出た後、二人は商店街へと足を運んだ。
 そこで日用品や食料などを買い込む。

「今日はこれぐらいにしておこうか」

「そうだネ。もうすぐ暗くナル」

「では屋敷に戻るか」

 シンヤは屋敷の方向に向かい始める。
 だが、ミレアが足を止めていることに気付いた。

「ミレア?」

「…………」

 彼女がとある露店の前で立ち止まっていたからだ。
 その視線の先にあるものは、赤い宝石のネックレスだった。

「これが欲しいのか?」

「あ……うん。ちょっとだけ、見てもいいカナ」

「もちろんだ」

 シンヤはミレアと一緒に露店の前に陣取る。
 すると、店主らしき人物が声をかけてきた。

「いらっしゃい。何かお探しかい?」

「この娘に合う宝石を少し見せてもらっているだけだ」

「そうか。ゆっくりと見てくれよ」

 店主は微笑みを浮かべ、他の客の対応に回った。
 シンヤはミレアと共に陳列品を見て回る。
 様々な種類のアクセサリーがあった。

「さっき見ていたこれが特に綺麗じゃないか?」

 シンヤは赤い宝石付きのネックレスを手に取る。
 それはルビーのような輝きを放つ、見事な装飾品だった。

「そうだナ。赤くて綺麗ダ……」

「悪くないな。買っていこうか」

「なにっ!?」

 ミレアは目を丸くして驚く。
 シンヤはそんな彼女の様子に首を傾げた。

「どうした? 何かおかしいことを言ったか?」

「いや、奴隷のあたしにそんな高級な宝石は不相応ダ。見せてもらっただけでも満足してイル」

 ミレアは自分のお腹に手をやる。
 そこには隷属の紋様が刻まれている。
 主人に逆らえないよう、行動を制限するための刻印だ。

「そうなのか。俺としては、ミレアに似合いそうなものを贈りたいのだが……」

「いいんダ! 気持ちだけで十分ダ。それに、お金にもそんなに余裕がないだろウ?」

「確かに金はあまりないな……」

 シンヤとミレアがグラシア迷宮に潜り始めて、まだ一週間ほど。
 二人だけの新人コンビとしてはかなり稼いでいる方だが、それでも高級な宝石を購入できるほどの蓄えはまだなかった。
 今の現金資産は金貨五枚程度だ。

「おうおう、兄ちゃん。ここは女の子にいいところを見せようとする場面じゃねえか。男ならドカンといってやれや!」

 シンヤ達の会話を聞いていたのか、店主が話しかけてきた。

「確かにそうだな。ミレアが欲しがっているのなら、俺はどんなものでも買うぞ。店主、このネックレスはいくらだ?」

「銀貨五枚だ」

「ふむ? 意外に安いな。もっと高級な宝石かと思ったが……」

 シンヤは不思議そうに呟く。
 銀貨五枚であれば、一日の稼ぎ以下だ。
 それぐらいの蓄えなら彼にもある。

「宝石だって? 嬉しいことを言ってくれるじゃねえか。だけどよ、これはガラス細工なんだ。本物の宝石とは違うんだよ」

「ふむ。ガラス細工か」

 シンヤは改めて赤いガラス細工付きのネックレスを見る。
 その輝きは本物と遜色なく、むしろそれ以上であるように感じた。

「よくできているな。本当にただのガラスで作られているのか?」

「ああ。まあ、ただのガラスってわけでもねえけどよ。その辺は秘密だ。それで、買うのか?」

「うーん。ミレアは宝石の方が良かったか?」

 彼は隣のミレアを見つめる。

「シンヤが買ってくれるものなら、あたしは何でも構わナイ。ありがたく頂戴スル」

「分かった。では、これを貰おうか」

「まいど!!」

 シンヤは銀貨五枚を差し出す。
 店主はニッコリ笑ってそれを受け取った。
 シンヤはネックレスを持ち、ミレアに向き直る。
 そして、彼女の首にネックレスを掛けた。

「すまんな。いつか本物の宝石を買ってプレゼントするからな」

「不要ダ。シンヤに買ってもらったこれが、あたしの宝物。これ以上のものはナイ」

 ミレアは満面の笑みを浮かべ、シンヤに感謝の言葉を述べた。
 シンヤは照れたように頬を掻く。
 すると、ミレアが彼の腕に抱き着いてきた。

「ミレア?」

「……少しだけこのままでいさせてクレ」

「仕方のない奴め」

 シンヤは苦笑いしながら、彼女の好きにさせることにした。
 ミレアは幸せそうな表情をして、屋敷までの道中でシンヤの腕を抱き締め続けるのであった。
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