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明暗
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「う……っ」
気づいたら、朝になっていた。
チュンチュンと囀る雀の囀りに思わず眉を寄せると身を起こす。
正直、朝は嫌いだ。
無駄に眩しいし、うるさいし、色んな物が活動的になる。
そのさざめきが耳障りで鬱陶しい。
日向という、いかにも昼間は活動的でありそうな名前を持っていても、苦手なものは苦手なのだ。
「あれ……」
重たい瞼を擦りあげ、ゆっくり働かない頭で周囲を見回す。
そこは、リビングのソファーの上だった。
(俺、いつの間にリビングで寝てたんだ……)
昨日のことを、ゆっくりと思い出す。
友人達と念願のカフェに行って、美味いケーキをしこたま食べ、帰ってからはずっと自室にこもっていた。
でも、夜中にふとカフェで聞いた話を思い出して……気持ちが苦しくなって、それで……。
「あ……!」
ザアと顔面から血の気が引く。
昨夜の寝る前のことを思い出し、慌ててソファーから上階の自室へと向かう。
今ならまだ、日景も起きてきていない筈だ。
料理は日景で、掃除の類いは俺という分担制。だからこそ早いうちに諸々のことを片付けておかなければ――。
「ったく、馬鹿か。俺は」
もう餓鬼じゃない筈だ。なのに、寂しくなったからってあんな……。
(思い出したくもない……)
ギリッと歯噛みをしては、上階の自分の部屋の扉を開いた瞬間だった。
「ひッ、あああああぁ…………!」
中から、女のような甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「な……!」
(誰かが俺の部屋にいるのか?)
いや、誰かなんて決まっている。
この家には俺と、日景の二人しか住んでいないのだから。
だが、それでもなんで日景が俺の部屋なんかにいるんだ……!
「日景! お前っなんで、俺の部屋に――、え?」
「え……?」
扉を開けた目の前の光景。それは昨日寝る前にしていたこと、そのままだ。
その中に、一つ盛り上がった場所があった。ベッドの上で、驚きと怯えと申し訳なさそうな、複雑な表情が入り交じった顔をして、へたり込んでいる人物がいる。
けれど、それは日景の顔じゃない。
双子だからこそ、判る。幼い頃から毎日、嫌というほど見てきた顔だ。
目の前にいるのは俺の日景じゃない。
目の前にいるのは――、
「俺が、いる……?」
「僕が、いる……?」
まったく同時に、言葉が重なった。
「……で、いったいどういうことだ」
「う……、わから、ないよ」
追求しようにも、どこから追求していくべきか。
改めて上から下まで見比べると、残念なことに全てが全て、日景だった。
寝間着も俺が使っている物とは違う。
意識して耳をそばだてて見れば、自分の声も少し高いように思える。
それこそ、日景のように――。
「クッソが……どうなってんだ!」
苛立ちから、思わず口汚くなる。
その苛立ちを含んだ声に怯えてか、目の前の日向はビクッと身を竦ませた。
「ひ、日向……。ごめん、あの……」
「いい。俺も良く判ってない……だから、謝んな。鬱陶しい」
「……っ」
つい、苛立った感情そのままに口を開くと余計なことを言ってしまう。
普段ならそれで黙り込み、引き下がる日景だが、今日は珍しく違った。日景らしくなく、食い下がってきた。
「あ、あの……日向」
「ンだよ。口開くな」
「ご、ごめん……でも、あの――」
「チッ、……さっさと言え。なんなんだよ!」
「……お風呂、入ってきて、いい」
「………………」
その一言で、黙り込むのは俺のほうだった。
肯定も否定もできないまま、顔面が熱くなるのを見せないよう顔を背けると、足早に脇を俺の顔をした日景がすり抜けて行った。
「――サイアク、だ」
誰に言うでもなく吐き捨てると、俺は日景の身体のまま、自分の部屋のシーツやらを洗濯するためにむしり取っていった。
気づいたら、朝になっていた。
チュンチュンと囀る雀の囀りに思わず眉を寄せると身を起こす。
正直、朝は嫌いだ。
無駄に眩しいし、うるさいし、色んな物が活動的になる。
そのさざめきが耳障りで鬱陶しい。
日向という、いかにも昼間は活動的でありそうな名前を持っていても、苦手なものは苦手なのだ。
「あれ……」
重たい瞼を擦りあげ、ゆっくり働かない頭で周囲を見回す。
そこは、リビングのソファーの上だった。
(俺、いつの間にリビングで寝てたんだ……)
昨日のことを、ゆっくりと思い出す。
友人達と念願のカフェに行って、美味いケーキをしこたま食べ、帰ってからはずっと自室にこもっていた。
でも、夜中にふとカフェで聞いた話を思い出して……気持ちが苦しくなって、それで……。
「あ……!」
ザアと顔面から血の気が引く。
昨夜の寝る前のことを思い出し、慌ててソファーから上階の自室へと向かう。
今ならまだ、日景も起きてきていない筈だ。
料理は日景で、掃除の類いは俺という分担制。だからこそ早いうちに諸々のことを片付けておかなければ――。
「ったく、馬鹿か。俺は」
もう餓鬼じゃない筈だ。なのに、寂しくなったからってあんな……。
(思い出したくもない……)
ギリッと歯噛みをしては、上階の自分の部屋の扉を開いた瞬間だった。
「ひッ、あああああぁ…………!」
中から、女のような甲高い悲鳴が聞こえてきた。
「な……!」
(誰かが俺の部屋にいるのか?)
いや、誰かなんて決まっている。
この家には俺と、日景の二人しか住んでいないのだから。
だが、それでもなんで日景が俺の部屋なんかにいるんだ……!
「日景! お前っなんで、俺の部屋に――、え?」
「え……?」
扉を開けた目の前の光景。それは昨日寝る前にしていたこと、そのままだ。
その中に、一つ盛り上がった場所があった。ベッドの上で、驚きと怯えと申し訳なさそうな、複雑な表情が入り交じった顔をして、へたり込んでいる人物がいる。
けれど、それは日景の顔じゃない。
双子だからこそ、判る。幼い頃から毎日、嫌というほど見てきた顔だ。
目の前にいるのは俺の日景じゃない。
目の前にいるのは――、
「俺が、いる……?」
「僕が、いる……?」
まったく同時に、言葉が重なった。
「……で、いったいどういうことだ」
「う……、わから、ないよ」
追求しようにも、どこから追求していくべきか。
改めて上から下まで見比べると、残念なことに全てが全て、日景だった。
寝間着も俺が使っている物とは違う。
意識して耳をそばだてて見れば、自分の声も少し高いように思える。
それこそ、日景のように――。
「クッソが……どうなってんだ!」
苛立ちから、思わず口汚くなる。
その苛立ちを含んだ声に怯えてか、目の前の日向はビクッと身を竦ませた。
「ひ、日向……。ごめん、あの……」
「いい。俺も良く判ってない……だから、謝んな。鬱陶しい」
「……っ」
つい、苛立った感情そのままに口を開くと余計なことを言ってしまう。
普段ならそれで黙り込み、引き下がる日景だが、今日は珍しく違った。日景らしくなく、食い下がってきた。
「あ、あの……日向」
「ンだよ。口開くな」
「ご、ごめん……でも、あの――」
「チッ、……さっさと言え。なんなんだよ!」
「……お風呂、入ってきて、いい」
「………………」
その一言で、黙り込むのは俺のほうだった。
肯定も否定もできないまま、顔面が熱くなるのを見せないよう顔を背けると、足早に脇を俺の顔をした日景がすり抜けて行った。
「――サイアク、だ」
誰に言うでもなく吐き捨てると、俺は日景の身体のまま、自分の部屋のシーツやらを洗濯するためにむしり取っていった。
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