純心パラドックス

櫻木 いづる

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嫉妬と告白

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 ★☆★☆

 秋の連休初日。
 その始まり方は生まれてきてから今までの中で、一番最悪なモノとなった。
 お互い、黙ったまま諸々のコトをして――ようやく一息吐けたのは、時計が12時を回った頃だった。
 友人と遊ぶ計画を立てていたのを全てドタキャンし、いったいどれ位ぶりか判らないほど、久しぶりに日景と一緒のソファーに座っていた。
(どこからどう見ても……俺だ)
 横目に、隣りにいる日景を見る。
 その姿は見間違いようもない。俺の顔だ。
 なのに、気まずそうに萎縮している。
(気まずいのは、こっちだっての……)
 朝の光景を再び思い返すと、目眩がしてくる。
 いっそのこと、倒れられたら楽なのだが……日景の身体のままではそうもいかない。
 なにより、これから互いのコトを話し合わなければ、前には進めないのだ。
(なんで、よりにもよって日景の身体なんだよ……)
「はぁ……」
 日景の身体でなければもう少し色々、冷静に考えられたかも知れない。同じ顔で、同じ身体の筈なのに、落ち着かない。日景の身体は、俺よりも少しだけ華奢に思えてしまう。変に動いて、怪我でもしたら目も当てられない。
「……」
 重い沈黙が、秋晴れの明るい室内を暗く包み込む。だが、不意にその静寂を切り裂くきっかけがあった。
 
「ごめん……」
 
 先に口を開いたのは、日景だった。
 そしてその口から零れ落ちたのは、謝罪の言葉。
「なんで、謝るんだ。心当たりでもあるってのか」
「心当たり、はないけど……」
「なら、謝ンな」
「でも……、きっと僕のせいだと思うから」
 そう言って俯く日景の姿に、眉を寄せる。
 そんな姿に、日景の身体のままでも、俺は苛立った。
 身体の芯から熱い怒りが沸き立つのを感じた。
(なんで、こうなんだ。日景は……っ!)
 いつもそうだ。
 自分がやったコトでもないのに、必要以上に自分を責める。
 初めからまるで、自分が犯人であるかのように決めつけて。
 不必要な罪悪感に、身も心も雁字搦がんじがらめになっていく。
 自分が悪者にさえなれば、他の全員が救われるとでも信じているのか。
「日景……っ」
 そんな考えが透けて見えてしまう。
 半身《ふたご》だから判るのか。兄弟ふたごだから解るのか。
 どちらにせよ、今はそんなことは関係ない。
 普段からろくに目を合わせることのなかった日景の顎を掴むと、真っ正面から睨みつけた。
「テメェが謝るのは勝手だがな……。自分のせいでもないことを、自分のせいだと思って諦めてるつもりか? 聞き分けの良い自分を演じて満足して、良い子を気取って気持ちイイつもりか? ふざけんな!」
「……!」
「テメェがそれで良くてもな――俺は嫌なんだよ。なんで全部、日景が被ってやがるんだ……そんなこと、ずっと続けてたら……いつか、潰れるだろ」
「日向……」
「だから、アンタが嫌いなんだよ!」
 人当たりの良い日景あにが嫌いだ。
 誰にでも優しくて、分け隔て無い。損な役回りをしても嫌な顔一つしない。
 昔から見てきた、日景あにの姿。
 昔は大好きだった。自慢の兄だった。
 なのに、そんな博愛主義の兄の姿に、嫉妬した。
 優しくて、いつも俺のことを見ていてくれた兄を、いつしか独占したいと思ってしまった。周り全員に優しくするのではなく、じぶんだけを見ていて欲しいと……。
 そう、願ってしまった。
 そう、望んでしまった。
「日景のそんな姿を見てたくなくて……。ずっと、ずっと……!」
 歪んだ、醜い感情であることを自覚して、後悔した。
 でも、感情を抑え込んでも不安ばかりが募って――だから敢えて冷たく接することで遠ざけてきたというのに。それが、こんな形で瓦解するとは思わなかった。
「クッソ……」
 気づけば、視界が歪んでいた。
 ポタポタと熱い雫が目元から溢れ、頬を伝っていく。
 泣きたくないのに、身体は感情に正直だった。
「泣かないで……。日向」
 そっと、指先が俺の目元を優しく拭う。
「ごめんね……。そんなふうに、思ってくれてたんだね……」
 ごめん、と再び謝罪の言葉が紡がれる。
 その言葉に、ズキズキと自分の身体でもないのに胸が痛んだ。
「謝ん、な……。その言葉、嫌いなんだよ……っ」
「うん。でも、今は言わせて……」
 何度も何度も涙を拭われる。
 優しい声。優しい手つき。それに、不覚にも緊張する。
  そんな自分の緊張を察したのか、日景は不意にその言葉を口にした。
「僕ね、ずっと日向と仲直りをしたかったんだよ」
「え……」
 不意に紡がれた言葉に、唖然とする。
 仲直り。別に真っ向から喧嘩をした訳ではない。自分が一方的に遠ざけてたのに、それをまるで自分も悪いことをしたかのように話している。
「自分が何かしたんじゃないかって。日向の嫌がることをしたんじゃないかって」
「そ、れは……っ」
「でも、ろくに話すことも出来なくなって――ずっと、ずっと後悔してた」
「…………」
「日向は、僕のことを想ってくれてたのに。僕は自分が何かしたんじゃないかって、自分のことしか考えられてなかった。自分のことばかり考えて、責めてた」
 酷い奴だよね、そう苦笑交じりに呟く日景の言葉に、再び視界が涙でクシャンと歪んだ。
「日向」
 不意に名前を呼ばれた。
 涙をなんとか自分で拭って、真正面にある日景の姿を見る、
「日向は、僕のこと――好き?」
 辿々しく、不安げな表情で問うその言葉に、言葉が詰まる。
 嗚咽で、言葉が喉奥に引っかかる。
 それでも今の気持ちを伝えようと、今までの気持ちを伝えようと、小さく頷き応えた。
 独占したくなるほど。
 ずっとずっと、好きだった。
 けれど間違いを犯してしまいそうで、嫉妬に狂ってしまいそうでどうしようも無かったのだと、感情全てを吐き出した。
「嫉妬……するくらい、好きだ」
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