5 / 15
第二章 モーリアン辺境地にて
4 左京の能力
しおりを挟む
それから私は1ヶ月に一度、施設にいた頃と同じように、左京と一緒に薬草摘みや狩りに出かけるようになった。
左京は弓を扱えるようになっていたので、秋になるとうさぎやイノシシなどを狩ってきてくれた。
そして「授業で習ったんだ」と言って、野営飯をご馳走してくれた。野営飯はあまり試せる機会がないようでめずらしいとのことで、左京のルームメイトであるエドワードこと、テディも一緒に食べることになった。
テディは大柄な男の子で、左京より2歳年上らしい。つまり私の5歳年上だ。髪型は金髪に領地でよく見る流行りのツーブロックで、ぶっきらぼうだが接してみると怖い感じはない。そして意外と手際が良かった。
狩りに行かない日はトーストを焼いて食べたりした。左京は甘党だ。ベリージャムはもちろん、トーストにチーズとはちみつをかけて食べるのが好きなようだ。施設にいた頃はお金がなかったから、ジャムも手作りだったし、チーズもはちみつも贅沢品だった。おいしそうに食べる姿が微笑ましくて、私も一緒に食べたりした。
*
しばらく穏やかな日常が過ぎていった。私は相変わらず美しい所作を身につけるためにマナー講座を繰り返し学んでおり、その過程で薬学を学んでいた。毒に慣れる過程で役に立つと思い、授業を取ったのだった。
「戦争に行かないなら必要ないのに」
オリビアにはそう言われたが、私は左京と会わない日はできるだけ忙しくしていたかった。その方が嫌な事を考えなくて済むから。
*
そしてついに左京がモリガン様と契約する日が来た。ドキドキしながら彼の無事を祈った。
稀に、モリガン様の能力に身体が耐えきれなくて、死んでしまう人がいるらしい。そうならないための10歳からの訓練と体力作りだと言われているけれど、不安なものは不安だ。
それに、どんな能力を授かるかも気になっている。私は左京とそういった類いの話をしたことがない。
「どうか有翼人ではありませんように...」
私は神様に強く強くそれを願った。
なぜ有翼人は駄目なのか。それは戦場に行くとほぼ間違いなく死ぬからだ。
戦場で有翼人は爆弾を運ぶ任務を命じられる。しかし爆弾は重たいので、持った状態で高く空に飛び上がることができない。そのため爆弾を落とす際に爆発に巻き込まれて一緒に死んでしまうのだ。
なので有翼人になった兵士は「戦場への片道切符」と言われていた。これは辺境地でも有名な話だった。
しかし、私の願いは届かなかった。モリガン様と契約した左京は立派な羽を羽ばたかせて、私の目の前にやってきた。
「うさこ!見て!無事モリガン様と契約できたんだ」
嬉しそうに言う左京に対して怒りたくなったが、グッと堪えた。そして
「良かったね」
と震える声で何とか言葉を絞り出して、左京を抱きしめた。
――ああ、左京。あなたはどうしてそんなにも急いでどこかへ行ってしまおうとするの。戦場へ行ったらもう、会えなくなってしまうじゃない。一体何を考えているの?
有翼人の任務は失敗が許されない。爆弾が誤作動して陣地内で爆発したら、部隊が全滅するからだ。そのため訓練の時間が少し長いと話に聞く。
――たぶん、あと数年。あと数年なら一緒にいられる。私はあと3年でモリガン様と契約できる。その時まで左京は辺境地にいるかしら。それなら、私はモリガン様にお願いしよう。左京の気持ちが理解できるようになりたいって。
*
左京は能力に適応するのが早く、自分の羽を手足のように使っていた。誰よりも速く空を駆け抜け、重たい荷物を軽々と持ち運んでいた。
訓練と言ってテディをお姫様抱っこして空を飛びまわっている姿も見受けられた。正直少し羨ましい…。
ある日、左京とテディと三人で狩りに出かけた日、私は左京の膝の上に座らされて、ご飯を食べていた。テディは
「残りの肉を食堂に持っていく。新鮮な方がいいだろう」
と言って先に屋敷に帰ってしまった。私たちは二人でゆったりとした時間を過ごしていたのだった。
「うさこ、おいしい?」
「うん、おいしい…」
あたたかい作り立てのご飯、今日は小鹿を捕まえることに成功したので、鹿肉を焼いたり、スープにしたりしたのだ。
「ふふ、テディは料理が上手だよね」
左京は嬉しそうに言った。その時
「くしゅん…!」
と情けない声が聞こえた。私がくしゃみをしてしまったのだ。
「ごめんなさい…」
私が言うと、左京はバサッと羽を広げた。そして私の身体ごと私を包み込むように羽を丸めた。
「あたたかい…」
「本当?」
「うん、左京の羽、あたたかいね」
「ふふ、ありがと」
ご飯を食べ終わると、左京は用具をしまったかばんを持ったまま、私を抱き上げて空を飛んだ。空を飛んでいるときは落ちないように、首に手をまわしてぎゅっと抱き着くような形で左京に捕まった。左京の心音が聞こえてくる。
――左京、また筋肉増えたな。なんだかドキドキする…。
そんなことを考えながら、部屋まで送ってもらった。
*
数か月後、あたたかくなってきたころ、左京は思いもかけないプレゼントを持ってきた。
「うーさこ!うさこは寒がりでしょ?僕、布団を作ったんだ!」
なんと、自分の抜けた羽根を布につめて、布団を作ったようだった。たしかにふわふわであたたかいけれど…
「左京、もう春だよ?」
「だって、羽根貯めるの時間がかかったんだもん…!」
どうやら毛繕い?ならぬ、羽繕い?して羽根を地道にためていったらしい。
「モリガナの羽根はあたたかいから、たくさんためて布に詰めたら布団になるって聞いたんだよね。うさこ、僕の羽に包まれるの好きでしょう?」
――確かにそれは好きだけど…まさか布団を作ってくるなんて。
でも左京がいないときでも、左京のぬくもりを感じることができる。私は布団に顔を埋めて言った。
「ありがと…、大事にするね」
私は照れる顔を隠そうとしたが、たぶん隠せていなかったと思う。左京は満足げに笑って、私のおでこにキスをした。
左京は弓を扱えるようになっていたので、秋になるとうさぎやイノシシなどを狩ってきてくれた。
そして「授業で習ったんだ」と言って、野営飯をご馳走してくれた。野営飯はあまり試せる機会がないようでめずらしいとのことで、左京のルームメイトであるエドワードこと、テディも一緒に食べることになった。
テディは大柄な男の子で、左京より2歳年上らしい。つまり私の5歳年上だ。髪型は金髪に領地でよく見る流行りのツーブロックで、ぶっきらぼうだが接してみると怖い感じはない。そして意外と手際が良かった。
狩りに行かない日はトーストを焼いて食べたりした。左京は甘党だ。ベリージャムはもちろん、トーストにチーズとはちみつをかけて食べるのが好きなようだ。施設にいた頃はお金がなかったから、ジャムも手作りだったし、チーズもはちみつも贅沢品だった。おいしそうに食べる姿が微笑ましくて、私も一緒に食べたりした。
*
しばらく穏やかな日常が過ぎていった。私は相変わらず美しい所作を身につけるためにマナー講座を繰り返し学んでおり、その過程で薬学を学んでいた。毒に慣れる過程で役に立つと思い、授業を取ったのだった。
「戦争に行かないなら必要ないのに」
オリビアにはそう言われたが、私は左京と会わない日はできるだけ忙しくしていたかった。その方が嫌な事を考えなくて済むから。
*
そしてついに左京がモリガン様と契約する日が来た。ドキドキしながら彼の無事を祈った。
稀に、モリガン様の能力に身体が耐えきれなくて、死んでしまう人がいるらしい。そうならないための10歳からの訓練と体力作りだと言われているけれど、不安なものは不安だ。
それに、どんな能力を授かるかも気になっている。私は左京とそういった類いの話をしたことがない。
「どうか有翼人ではありませんように...」
私は神様に強く強くそれを願った。
なぜ有翼人は駄目なのか。それは戦場に行くとほぼ間違いなく死ぬからだ。
戦場で有翼人は爆弾を運ぶ任務を命じられる。しかし爆弾は重たいので、持った状態で高く空に飛び上がることができない。そのため爆弾を落とす際に爆発に巻き込まれて一緒に死んでしまうのだ。
なので有翼人になった兵士は「戦場への片道切符」と言われていた。これは辺境地でも有名な話だった。
しかし、私の願いは届かなかった。モリガン様と契約した左京は立派な羽を羽ばたかせて、私の目の前にやってきた。
「うさこ!見て!無事モリガン様と契約できたんだ」
嬉しそうに言う左京に対して怒りたくなったが、グッと堪えた。そして
「良かったね」
と震える声で何とか言葉を絞り出して、左京を抱きしめた。
――ああ、左京。あなたはどうしてそんなにも急いでどこかへ行ってしまおうとするの。戦場へ行ったらもう、会えなくなってしまうじゃない。一体何を考えているの?
有翼人の任務は失敗が許されない。爆弾が誤作動して陣地内で爆発したら、部隊が全滅するからだ。そのため訓練の時間が少し長いと話に聞く。
――たぶん、あと数年。あと数年なら一緒にいられる。私はあと3年でモリガン様と契約できる。その時まで左京は辺境地にいるかしら。それなら、私はモリガン様にお願いしよう。左京の気持ちが理解できるようになりたいって。
*
左京は能力に適応するのが早く、自分の羽を手足のように使っていた。誰よりも速く空を駆け抜け、重たい荷物を軽々と持ち運んでいた。
訓練と言ってテディをお姫様抱っこして空を飛びまわっている姿も見受けられた。正直少し羨ましい…。
ある日、左京とテディと三人で狩りに出かけた日、私は左京の膝の上に座らされて、ご飯を食べていた。テディは
「残りの肉を食堂に持っていく。新鮮な方がいいだろう」
と言って先に屋敷に帰ってしまった。私たちは二人でゆったりとした時間を過ごしていたのだった。
「うさこ、おいしい?」
「うん、おいしい…」
あたたかい作り立てのご飯、今日は小鹿を捕まえることに成功したので、鹿肉を焼いたり、スープにしたりしたのだ。
「ふふ、テディは料理が上手だよね」
左京は嬉しそうに言った。その時
「くしゅん…!」
と情けない声が聞こえた。私がくしゃみをしてしまったのだ。
「ごめんなさい…」
私が言うと、左京はバサッと羽を広げた。そして私の身体ごと私を包み込むように羽を丸めた。
「あたたかい…」
「本当?」
「うん、左京の羽、あたたかいね」
「ふふ、ありがと」
ご飯を食べ終わると、左京は用具をしまったかばんを持ったまま、私を抱き上げて空を飛んだ。空を飛んでいるときは落ちないように、首に手をまわしてぎゅっと抱き着くような形で左京に捕まった。左京の心音が聞こえてくる。
――左京、また筋肉増えたな。なんだかドキドキする…。
そんなことを考えながら、部屋まで送ってもらった。
*
数か月後、あたたかくなってきたころ、左京は思いもかけないプレゼントを持ってきた。
「うーさこ!うさこは寒がりでしょ?僕、布団を作ったんだ!」
なんと、自分の抜けた羽根を布につめて、布団を作ったようだった。たしかにふわふわであたたかいけれど…
「左京、もう春だよ?」
「だって、羽根貯めるの時間がかかったんだもん…!」
どうやら毛繕い?ならぬ、羽繕い?して羽根を地道にためていったらしい。
「モリガナの羽根はあたたかいから、たくさんためて布に詰めたら布団になるって聞いたんだよね。うさこ、僕の羽に包まれるの好きでしょう?」
――確かにそれは好きだけど…まさか布団を作ってくるなんて。
でも左京がいないときでも、左京のぬくもりを感じることができる。私は布団に顔を埋めて言った。
「ありがと…、大事にするね」
私は照れる顔を隠そうとしたが、たぶん隠せていなかったと思う。左京は満足げに笑って、私のおでこにキスをした。
10
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる