戦争に行った幼馴染に恋する孤児の少女は、娼婦として育てられる。

‪α‬缶

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第二章 モーリアン辺境地にて

4 左京の能力

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 それから私は1ヶ月に一度、施設にいた頃と同じように、左京と一緒に薬草摘みや狩りに出かけるようになった。

 左京は弓を扱えるようになっていたので、秋になるとうさぎやイノシシなどを狩ってきてくれた。

 そして「授業で習ったんだ」と言って、野営飯をご馳走してくれた。野営飯はあまり試せる機会がないようでめずらしいとのことで、左京のルームメイトであるエドワードこと、テディも一緒に食べることになった。

 テディは大柄な男の子で、左京より2歳年上らしい。つまり私の5歳年上だ。髪型は金髪に領地でよく見る流行りのツーブロックで、ぶっきらぼうだが接してみると怖い感じはない。そして意外と手際が良かった。

 狩りに行かない日はトーストを焼いて食べたりした。左京は甘党だ。ベリージャムはもちろん、トーストにチーズとはちみつをかけて食べるのが好きなようだ。施設にいた頃はお金がなかったから、ジャムも手作りだったし、チーズもはちみつも贅沢品だった。おいしそうに食べる姿が微笑ましくて、私も一緒に食べたりした。

*

 しばらく穏やかな日常が過ぎていった。私は相変わらず美しい所作を身につけるためにマナー講座を繰り返し学んでおり、その過程で薬学を学んでいた。毒に慣れる過程で役に立つと思い、授業を取ったのだった。

「戦争に行かないなら必要ないのに」

 オリビアにはそう言われたが、私は左京と会わない日はできるだけ忙しくしていたかった。その方が嫌な事を考えなくて済むから。

*

 そしてついに左京がモリガン様と契約する日が来た。ドキドキしながら彼の無事を祈った。

 稀に、モリガン様の能力に身体が耐えきれなくて、死んでしまう人がいるらしい。そうならないための10歳からの訓練と体力作りだと言われているけれど、不安なものは不安だ。

 それに、どんな能力を授かるかも気になっている。私は左京とそういった類いの話をしたことがない。

「どうか有翼人ではありませんように...」

 私は神様に強く強くそれを願った。

 なぜ有翼人は駄目なのか。それは戦場に行くとほぼ間違いなく死ぬからだ。

 戦場で有翼人は爆弾を運ぶ任務を命じられる。しかし爆弾は重たいので、持った状態で高く空に飛び上がることができない。そのため爆弾を落とす際に爆発に巻き込まれて一緒に死んでしまうのだ。

 なので有翼人になった兵士は「戦場への片道切符」と言われていた。これは辺境地でも有名な話だった。

 しかし、私の願いは届かなかった。モリガン様と契約した左京は立派な羽を羽ばたかせて、私の目の前にやってきた。

「うさこ!見て!無事モリガン様と契約できたんだ」

 嬉しそうに言う左京に対して怒りたくなったが、グッと堪えた。そして

「良かったね」

と震える声で何とか言葉を絞り出して、左京を抱きしめた。

 ――ああ、左京。あなたはどうしてそんなにも急いでどこかへ行ってしまおうとするの。戦場へ行ったらもう、会えなくなってしまうじゃない。一体何を考えているの?

 有翼人の任務は失敗が許されない。爆弾が誤作動して陣地内で爆発したら、部隊が全滅するからだ。そのため訓練の時間が少し長いと話に聞く。

 ――たぶん、あと数年。あと数年なら一緒にいられる。私はあと3年でモリガン様と契約できる。その時まで左京は辺境地にいるかしら。それなら、私はモリガン様にお願いしよう。左京の気持ちが理解できるようになりたいって。

*

 左京は能力に適応するのが早く、自分の羽を手足のように使っていた。誰よりも速く空を駆け抜け、重たい荷物を軽々と持ち運んでいた。

 訓練と言ってテディをお姫様抱っこして空を飛びまわっている姿も見受けられた。正直少し羨ましい…。

 ある日、左京とテディと三人で狩りに出かけた日、私は左京の膝の上に座らされて、ご飯を食べていた。テディは

「残りの肉を食堂に持っていく。新鮮な方がいいだろう」

と言って先に屋敷に帰ってしまった。私たちは二人でゆったりとした時間を過ごしていたのだった。

「うさこ、おいしい?」

「うん、おいしい…」

 あたたかい作り立てのご飯、今日は小鹿を捕まえることに成功したので、鹿肉を焼いたり、スープにしたりしたのだ。

「ふふ、テディは料理が上手だよね」

 左京は嬉しそうに言った。その時

「くしゅん…!」

と情けない声が聞こえた。私がくしゃみをしてしまったのだ。

「ごめんなさい…」

 私が言うと、左京はバサッと羽を広げた。そして私の身体ごと私を包み込むように羽を丸めた。

「あたたかい…」

「本当?」

「うん、左京の羽、あたたかいね」

「ふふ、ありがと」

 ご飯を食べ終わると、左京は用具をしまったかばんを持ったまま、私を抱き上げて空を飛んだ。空を飛んでいるときは落ちないように、首に手をまわしてぎゅっと抱き着くような形で左京に捕まった。左京の心音が聞こえてくる。

 ――左京、また筋肉増えたな。なんだかドキドキする…。

 そんなことを考えながら、部屋まで送ってもらった。

*

 数か月後、あたたかくなってきたころ、左京は思いもかけないプレゼントを持ってきた。

「うーさこ!うさこは寒がりでしょ?僕、布団を作ったんだ!」

 なんと、自分の抜けた羽根を布につめて、布団を作ったようだった。たしかにふわふわであたたかいけれど…

「左京、もう春だよ?」

「だって、羽根貯めるの時間がかかったんだもん…!」

 どうやら毛繕い?ならぬ、羽繕い?して羽根を地道にためていったらしい。

「モリガナの羽根はあたたかいから、たくさんためて布に詰めたら布団になるって聞いたんだよね。うさこ、僕の羽に包まれるの好きでしょう?」

 ――確かにそれは好きだけど…まさか布団を作ってくるなんて。

 でも左京がいないときでも、左京のぬくもりを感じることができる。私は布団に顔を埋めて言った。

「ありがと…、大事にするね」

 私は照れる顔を隠そうとしたが、たぶん隠せていなかったと思う。左京は満足げに笑って、私のおでこにキスをした。

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