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新年会

震え…。

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 黒龍は聖を待っている間、別館にある聖の部屋を使わせてもらっていた。
 話によると、そろそろ顔合わせが終わる時間帯だ。
 黒龍が手洗いに出て、戻る途中の廊下の窓から、本館から別館に歩いて戻ってくる聖の姿が見えた。
「終わったんだな…。迎えに行くか…」
 聖の仕事だと言った手前、お疲れさまと出迎えるのは、俺の仕事だよな…。
 そう思いながら別館の玄関へ向かった。
 が、待っても聖が戻ってこない。
 あの距離からだと、すでに着いている筈なのに、聖が来ない。
 黒龍は心配になって下駄を履き、外に出ると、聖の声がした。
「離せ!」
 姿は見えないが、普段そんな大きな声を出す聖ではない。
 黒龍は嫌な予感がして、慌てて声のする方に向かうと、聖の腕を掴む男がいた。
「聖!?」
 黒龍は慌てて駆け寄り、男の腕を聖から引き離し、泣きそうな潤んだ聖の顔を見て、思わず抱きしめてしまう。
 聖は腕の中にすっぽりと収まって、身体が震えていた。
「…クロ…」
 聖は涙目になって黒龍の腕にしがみ付いてきた。
「誰だお前…。俺が誰だと思って…」
 酔っ払っているのか、ろれつが少しおかしい男が、こちらを睨み付けてくる。
 聖はますます震えて、黒龍の身体にしがみつく。
「俺はこの宿の見習いだ。聖が嫌がっているだろ!」
「…見習い?…客に楯突くとは、…お前は首だ!」
 男はそんな事を叫んでいる。
「勝手に決めないでもらえますか」
 そう言って、本館からやって来た大輔が割って入った。
 …良かった。
 俺では客の扱いをどうしたら良いのかわからない。
「聖を連れて部屋へ戻れ」
 大輔に言われて、黒龍へ聖を促す。
「ああ。行こう聖」
 黒龍は聖を抱きしめたまま、別館に向かって歩き出す。
 男が何か、言っていたが無視した。
 それより、怯えきった聖の方が大切だ。
 まだ、聖の黒龍をの服を掴む手が震えている。
 別館に入り、聖の部屋に戻っても、聖は黒龍から手を離さなかった。
 部屋の真ん中に胡座あぐらをかいて座り、その上に向かい合って跨ぐように聖を座らせた。
 黒龍は聖の手を取り、手に口付けする。
「怖かった?」 
 聖は頷く。
「腕を…捕まれて…気持ち…悪かった…」
 黒龍は聖の上着を脱がせ、フリルの付いたシャツの袖口のボタンを外し、袖を捲り上げると、剥き出しになった腕に何度も口付けた。
「んっ…っ…」
「もう、気持ち悪くない?」 
 聖はうつ向いたまま頷く。
 黒龍は冷えきった聖の頬を撫で、唇に軽く口付ける。
「帰りたくなくなるな…」
「…泊まっていかないの?」
 すがるように聖が見上げてくる。
 …我慢、我慢…。
「…明日の朝、早いんだ。ここに泊まったら起きれなくなる」
「…。」
 聖が寂しそうに見上げてくる。
「そんな顔をするなって。…一緒に泊まったら、眠るだけでは済まないだろ。それに、ここの壁は薄いし、声が響く。…誰かが急に入ってくるかも知れないし…」
 そこまで言われて、何のことか分かり、聖が頬を染めた。
 思い出せないくらい、気持ち良くさせてやりたいのに…。
「それに、紗羅ちゃんや紅緒さんに見られたくないだろ?それとも見てもらいたい?」
「やだ!」
 聖は顔を赤くして、うつ向く。
 …ダメだ。可愛い…。
 せめて聖を気持ち良くさせてあげたい。
「声…押さえれるか?」
「…少しだけなら…」
 聖が頬を染め、そう答えると、黒龍は口付けをした。
 
  
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