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出会いはビーフシチューの味わいと共に③
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『次は、吉祥寺、次は、吉祥寺~』
機械的なアナウンスの後に電車が減速する。手すりにもたれていた体を起こしてしっかりと立つと、停車に備えて足を踏ん張った。プシューと音がして開いたドアから足を踏み出す。ホームと電車の隙間を飛び越えて、吉祥寺駅に降り立った。
井の頭公園口の改札を出て目当ての友人を探す。人でごった返す駅構内でその友人はすぐに見つかった。
一花は友人へ近寄り、声をかける。
「桃子」
「一花、やっほぉ」
スマホから顔を上げた友人は甘ったるい声を出しながら満面の笑顔で一花に挨拶をする。彼女のパッチリとした二重の目とぽってりとした唇を存分に引き立てるメイクを施し、ミルクティーブラウンのふわふわロングヘアー、初夏の装いは雑誌から飛び出してきたかのように流行の最先端を行くもので、足元のパンプスはオープントゥ。覗く爪はバッチリとフットネイルが施されている。
全身隙のない格好の彼女は成瀬 桃子。
同じ油絵学科の二年生で、入学時からの友人である。
「あーん、会いたかったよぉ一花」
桃子はそんな事を言いながら一花の腕にじゃれつき頭をこてんと一花の肩に乗せて再会を喜んだ。
「同じ学科なんだからほとんど毎日会ってるじゃん」
「でもでも~、今日は初めて会ったでしょ? 久々の再会!」
「大げさ……」
「大げさじゃないもん」
小動物のように潤んだ瞳で見上げてくる桃子に一花はため息をつき、よしよしと頭を撫でてやる。すると桃子は満足したようにホワンとした笑みを浮かべた。その顔は、まるで天使のそれである。女子同士でもドキッとしてしまう微笑みだ。
桃子は顔が可愛いだけでなく人との距離感が近い。男女分け隔てなく甘ったるい言葉遣いと激しめのボディタッチで接するために入学したてより男子にモテまくっていた。よって、女子のやっかみを受けるので女友達がほとんどいない。むしろ高校までは女友達は一人もいないと聞いている。
腕にしがみついたまま桃子は一花の隣を歩き出し、駅外に通じるエスカレーターを降りて行く。
「今日行く店は決まってるの?」
「勿論。最近出来たカフェだよ、かき氷が美味しいんだって~」
「流行ってるよね、かき氷」
「天然氷と果物を使って作ったシロップがウリでね、絶対美味しいと思うんだぁ」
ルンルンとしながら桃子は歩き、その店まで移動する。井の頭公園に向かう途中の道を折れ曲り、小道に入ったところの雑居ビル四階へと上がると目当ての店が現れた。
「いらっしゃいませ、お二人様ですか?」
「はい」
「こちらのお席へどうぞ」
言われて案内されたのは、井の頭公園がよく見えるテラス席だった。
「あっ、私奥の席に座っていーい?」
「うん」
言って桃子はいそいそと公園側の奥の席に腰掛け、スマホを抜き出してバッグをテーブル下の荷物置きに押し込んだ。メニューを手渡され、二人で眺める。
「桃子、決まった?」
「私、桃シロップのかき氷~」
桃子がその可愛らしいネイルを塗った指先で写真を指し示した。それはホイップクリームと桃のアイスがトッピングされた、ピンク色の淡いかき氷だ。
「桃子らしいね」
「でしょう~? 一花はどれにするの?」
「黒蜜きな粉抹茶かき氷」
聞かれてすかさず指差した写真は、抹茶色のかき氷の上にバニラアイスが乗り、そこに黒蜜ときな粉がかけられた一品だった。
「渋いっ。さすが一花ちゃん」
「それ、褒めてんの?」
「褒めてるよぉ~」
「すみません、注文お願いします」
一花は素早く店員を呼ぶと、さっさと二人分の注文を済ませた。
「で、桃子は最近圭人との仲はどうなの」
「ん、ラブラブ」
桃子はピースサインをしてご機嫌に言う。
「今日もこの後、会うんだぁ」
「それは良かった。二人が別れると私の寝覚めも悪いから」
圭人というのはこれまた油絵学科の同級生である。入学したての時に桃子に一目惚れしたらしく、当初より凄まじい猛アタックをしていたのだが全然相手にされておらず、桃子の唯一の女友達である一花に泣きついてきた。巻き込まれた一花は、流歌も巻き込んでこの恋の成就に一役買い、二人は一年生の終わり頃から付き合い始めたというわけだ。
一花、桃子、流歌、圭人の四人は学内でもよく行動を共にする四人組だ。
「あ、そうだ、一花も一緒に会いに行く?」
「いや、デートに混じったら圭人にぶっ飛ばされるからやめておく」
聞かれた一花は速攻で断った。何が悲しくて友人のデートにお邪魔しなければならないのか。一花の顔を見た瞬間に圭人の機嫌が悪くなるのは目に見えている。
「ねえ、一花も彼氏作ったらどう? 流歌くんなんていいんじゃない?」
「やめてよ、流歌はただの友達だよ」
「またまた~。流歌くんは絶対一花の事、好きだと思うよ!」
ノリノリの桃子に一花は白い目を送った。圭人の猛アタックに全く気がつかなかった桃子に、恋愛について語る資格はないと一花は思った。
基本的に桃子は人の善意にも悪意にも疎い。やばいくらいに鈍感ちゃんだった。話を聞く限り、おそらく高校まで女子にいじめられていたっぽいのだが、それに心を痛めている感じもあまりしなかった。鈍感が一周回ってメンタルタフネスになっている。
話は逸れたが、流歌との間柄は断じて恋仲ではないと一花は自信を持って言える。あいつは単に一緒にカラオケに行ってくれる人間を探しているだけだ。そしてそれだけはご勘弁願いたい。
機械的なアナウンスの後に電車が減速する。手すりにもたれていた体を起こしてしっかりと立つと、停車に備えて足を踏ん張った。プシューと音がして開いたドアから足を踏み出す。ホームと電車の隙間を飛び越えて、吉祥寺駅に降り立った。
井の頭公園口の改札を出て目当ての友人を探す。人でごった返す駅構内でその友人はすぐに見つかった。
一花は友人へ近寄り、声をかける。
「桃子」
「一花、やっほぉ」
スマホから顔を上げた友人は甘ったるい声を出しながら満面の笑顔で一花に挨拶をする。彼女のパッチリとした二重の目とぽってりとした唇を存分に引き立てるメイクを施し、ミルクティーブラウンのふわふわロングヘアー、初夏の装いは雑誌から飛び出してきたかのように流行の最先端を行くもので、足元のパンプスはオープントゥ。覗く爪はバッチリとフットネイルが施されている。
全身隙のない格好の彼女は成瀬 桃子。
同じ油絵学科の二年生で、入学時からの友人である。
「あーん、会いたかったよぉ一花」
桃子はそんな事を言いながら一花の腕にじゃれつき頭をこてんと一花の肩に乗せて再会を喜んだ。
「同じ学科なんだからほとんど毎日会ってるじゃん」
「でもでも~、今日は初めて会ったでしょ? 久々の再会!」
「大げさ……」
「大げさじゃないもん」
小動物のように潤んだ瞳で見上げてくる桃子に一花はため息をつき、よしよしと頭を撫でてやる。すると桃子は満足したようにホワンとした笑みを浮かべた。その顔は、まるで天使のそれである。女子同士でもドキッとしてしまう微笑みだ。
桃子は顔が可愛いだけでなく人との距離感が近い。男女分け隔てなく甘ったるい言葉遣いと激しめのボディタッチで接するために入学したてより男子にモテまくっていた。よって、女子のやっかみを受けるので女友達がほとんどいない。むしろ高校までは女友達は一人もいないと聞いている。
腕にしがみついたまま桃子は一花の隣を歩き出し、駅外に通じるエスカレーターを降りて行く。
「今日行く店は決まってるの?」
「勿論。最近出来たカフェだよ、かき氷が美味しいんだって~」
「流行ってるよね、かき氷」
「天然氷と果物を使って作ったシロップがウリでね、絶対美味しいと思うんだぁ」
ルンルンとしながら桃子は歩き、その店まで移動する。井の頭公園に向かう途中の道を折れ曲り、小道に入ったところの雑居ビル四階へと上がると目当ての店が現れた。
「いらっしゃいませ、お二人様ですか?」
「はい」
「こちらのお席へどうぞ」
言われて案内されたのは、井の頭公園がよく見えるテラス席だった。
「あっ、私奥の席に座っていーい?」
「うん」
言って桃子はいそいそと公園側の奥の席に腰掛け、スマホを抜き出してバッグをテーブル下の荷物置きに押し込んだ。メニューを手渡され、二人で眺める。
「桃子、決まった?」
「私、桃シロップのかき氷~」
桃子がその可愛らしいネイルを塗った指先で写真を指し示した。それはホイップクリームと桃のアイスがトッピングされた、ピンク色の淡いかき氷だ。
「桃子らしいね」
「でしょう~? 一花はどれにするの?」
「黒蜜きな粉抹茶かき氷」
聞かれてすかさず指差した写真は、抹茶色のかき氷の上にバニラアイスが乗り、そこに黒蜜ときな粉がかけられた一品だった。
「渋いっ。さすが一花ちゃん」
「それ、褒めてんの?」
「褒めてるよぉ~」
「すみません、注文お願いします」
一花は素早く店員を呼ぶと、さっさと二人分の注文を済ませた。
「で、桃子は最近圭人との仲はどうなの」
「ん、ラブラブ」
桃子はピースサインをしてご機嫌に言う。
「今日もこの後、会うんだぁ」
「それは良かった。二人が別れると私の寝覚めも悪いから」
圭人というのはこれまた油絵学科の同級生である。入学したての時に桃子に一目惚れしたらしく、当初より凄まじい猛アタックをしていたのだが全然相手にされておらず、桃子の唯一の女友達である一花に泣きついてきた。巻き込まれた一花は、流歌も巻き込んでこの恋の成就に一役買い、二人は一年生の終わり頃から付き合い始めたというわけだ。
一花、桃子、流歌、圭人の四人は学内でもよく行動を共にする四人組だ。
「あ、そうだ、一花も一緒に会いに行く?」
「いや、デートに混じったら圭人にぶっ飛ばされるからやめておく」
聞かれた一花は速攻で断った。何が悲しくて友人のデートにお邪魔しなければならないのか。一花の顔を見た瞬間に圭人の機嫌が悪くなるのは目に見えている。
「ねえ、一花も彼氏作ったらどう? 流歌くんなんていいんじゃない?」
「やめてよ、流歌はただの友達だよ」
「またまた~。流歌くんは絶対一花の事、好きだと思うよ!」
ノリノリの桃子に一花は白い目を送った。圭人の猛アタックに全く気がつかなかった桃子に、恋愛について語る資格はないと一花は思った。
基本的に桃子は人の善意にも悪意にも疎い。やばいくらいに鈍感ちゃんだった。話を聞く限り、おそらく高校まで女子にいじめられていたっぽいのだが、それに心を痛めている感じもあまりしなかった。鈍感が一周回ってメンタルタフネスになっている。
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