19 / 43
バイトしますよ、賄い付きなら⑤
しおりを挟む
「おおーい、一花」
「一花ぁ、来たよぉ~」
「お前から呼び出しなんて珍しいな」
「流歌、桃子、圭人」
バイトすると決めた約二時間後、一花が呼び出した同級生三人が店へとやって来た。興味深そうに店内へ入って来た三人は、キョロキョロと中をうかがい見る。
「ふーん、これが一花の新しいバイト先? こう言っちゃ何だが、汚ねえな」
「一花ちゃん、大丈夫? この店すぐに潰れそうじゃない?」
「常に金策に奔走しているお前にしては博打に出たな」
「ははは……まあ、これから綺麗になるから。それにシェフの料理の腕は確かだし! こちら、店のオーナー兼シェフの進藤歩さん! 進藤さん、ご挨拶!」
「うううぅ……さ、最近の大学生は正直すぎる……」
「進藤さん、背筋伸ばしてくださいよ! ほらほら、名乗ってください‼︎」
「進藤 歩です。よろしく……」
来たばかりで言いたい放題に言われた進藤は早速心を折られて、猫背気味でボソボソと挨拶をした。一花はそんな進藤の背中をバンバンと叩く。
「進藤さん、せっかく背が高くて男前なんですからもっとシャキッとして下さいよ」
「そうは言われても……」
「笑って下さい!」
「無理だ……後は一花君に任せるから、僕は厨房に引っ込んでいていいかい」
「まだ皆の名前すら聞いてないのに⁉︎」
コミュ障を全開にしている進藤を前に何かを察したのか、三人は明るく自己紹介を始めた。
「あ、俺、長谷川 流歌です。一花と同じくM美大の油絵学科二年。趣味はカラオケ。よろしくお願いします」
「よ、よろしく。君すごい髪の色してるが……ヘアゴムもそれ、一体何なんだい」
「これは俺の妹に借りたミニーちゃんのヘアゴムです」
言って流歌は前髪を結んでいるドット柄の赤いリボンをつまんだ。はずみに前髪がピョンピョンと跳ねている。派手な髪色だが真面目な自己紹介をする流歌に進藤は完全に困惑している。わかる。一花も最初、流歌の見た目と中身のギャップには驚いた。
「はいっ、次。成瀬 桃子です! 一花と流歌君と同じM美大の油絵学科二年で、お天気キャスターやっています」
「あ、もしかして水曜日の朝のニュース番組に出てくる……?」
「見てくれてるんですか? ありがとうございます」
桃子がにこりと微笑むと、進藤の表情がごくわずかに緩んだ。わかる。桃子の笑顔は天使の笑顔だ。
そんな進藤の変化を感じ取った圭人が桃子の前に立ちはだかると、その天使の微笑みを完全に隠し通し、代わりに鬼のような形相で自己紹介を始める。
「菅原 圭人。同じくM美大の油絵学科二年で桃子の彼氏であり、将来の旦那予定だ」
「えっ、旦那⁉︎」
「おう。今、結婚に向けて貯金をしてる」
「さ、最近の学生はそんな事になってるのか⁉︎ 僕なんてつい最近フラれたばかりだというのに……」
「進藤さん、圭人の言葉は半分くらい妄想なので聞き流して下さい」
「妄想じゃねーって! なぁ、桃子⁉︎」
「うんうん、圭人くん大好きだよぉ」
「俺も大好きだ!」
圭人は桃子に抱きついた。一花と流歌にとっては日常茶飯事な光景で、「またか」と思う。面食らっているのは進藤だけだ。彼はリア充二人を目の当たりにしてショックを受け、頭を抱えてその場にうずくまった。
「ああああ……僕も可愛い彼女が欲しい……二人三脚で店を切り盛りしてくれる、頼りになる奥さんが欲しい……」
「進藤さん、錯乱してないで立って下さい」
「ううぅ……」
一花はそんな進藤に容赦ない言葉を浴びせると、腕をとって無理やり立ち上がらせた。グスグスと鼻をすする進藤に構わず、流歌と、未だ桃子と抱き合っている圭人に向き直る。
「はーい、じゃ、二人もそろそろ離れよっか」
言うと流歌が圭人の肩を掴み、ベリベリと桃子から引き剥がす。非常に名残惜しそうな圭人をよそに、別段何とも思っていなさそうな桃子は話を聞く体制に入った。
「さっきメッセで送った通りにこの小汚い店をこれから私たち四人でピカピカにしようと思うんだけど。中の掃除と、外壁塗装ね」
「掃除は桃子に任せてっ」
「外壁塗装かぁ。ちょっと外見せてくんないか」
流歌の一言で皆でぞろぞろと外に出る。進藤は自分の店だと言うのに肩身が狭そうで、長身を縮ませながらついて来た。
流歌は壁を触りながら状態を確かめていく。圭人もそれに続いた。
「だいぶん色が落ちてるし、禿げてるところも多い。確かに塗り直した方がいいな」
「汚れがひどいから先に掃除からしないと駄目そうだ」
「となると道具が必要かー。買いに行かないとな」
「この辺にホームセンターあったっけ」
言いながら圭人がスマホでホームセンターの場所を確認し始める。一花は後ろで居心地悪そうにしている進藤に話しかけた。
「進藤さん、買い物必要そうなんですけど、車持ってたりします?」
「あぁ、あるけど……というか君達、どうして当然のように壁の塗り直しの事を話し合ってるんだ? やった事あるのかい?」
進藤の疑わしげな眼差しに、壁の状態を確認していた流歌があっさりと答える。
「ありますよ。こういう普通の塗り直しじゃないけど、美大に依頼があって、近隣の市と協力してそこら辺のブロック塀に壁面アートしたりするんですよ」
「カンバスに描くのとはまた違う面白さがあるんすよね」
「アート……いや、今回はアートはやめてくれよ⁉︎ 塗り直すなら普通にっ普通に頼むっ」
「大丈夫大丈夫」
七色の髪を持つ男・長谷川 流歌が満面の笑みでそう言うと進藤は不安が増したようで、一花に話しかけて来た。
「ほ、本当かい⁉︎ 一花君、君達を信じて大丈夫なのかい⁉︎」
「大丈夫です」
「何だか笑顔が、胡散臭い!」
「失礼な……大丈夫ですって」
「信じるぞ⁉︎」
「はーい、ダイジョウブですー。じゃ、行きましょうか。車出して下さい」
「あ、一花。この裏に停まってる車そうじゃねえか?」
「NEW MINI じゃん。カッケー」
「君達っ、勝手に触らないでくれえええ」
「ねー一花ちゃん。進藤さんって面白い人だねえ」
進藤の車を見つけた流歌と圭人が勝手に触ろうとすると、進藤がそれを慌てて止めに行った。その様子を見ながら桃子はのほほんとそんな感想を口にする。
一花は心の底からの気持ちをそのまま述べた。
「面白い? まあ確かに面白いけど……あれは変人って言うんじゃないかな」
「一花ぁ、来たよぉ~」
「お前から呼び出しなんて珍しいな」
「流歌、桃子、圭人」
バイトすると決めた約二時間後、一花が呼び出した同級生三人が店へとやって来た。興味深そうに店内へ入って来た三人は、キョロキョロと中をうかがい見る。
「ふーん、これが一花の新しいバイト先? こう言っちゃ何だが、汚ねえな」
「一花ちゃん、大丈夫? この店すぐに潰れそうじゃない?」
「常に金策に奔走しているお前にしては博打に出たな」
「ははは……まあ、これから綺麗になるから。それにシェフの料理の腕は確かだし! こちら、店のオーナー兼シェフの進藤歩さん! 進藤さん、ご挨拶!」
「うううぅ……さ、最近の大学生は正直すぎる……」
「進藤さん、背筋伸ばしてくださいよ! ほらほら、名乗ってください‼︎」
「進藤 歩です。よろしく……」
来たばかりで言いたい放題に言われた進藤は早速心を折られて、猫背気味でボソボソと挨拶をした。一花はそんな進藤の背中をバンバンと叩く。
「進藤さん、せっかく背が高くて男前なんですからもっとシャキッとして下さいよ」
「そうは言われても……」
「笑って下さい!」
「無理だ……後は一花君に任せるから、僕は厨房に引っ込んでいていいかい」
「まだ皆の名前すら聞いてないのに⁉︎」
コミュ障を全開にしている進藤を前に何かを察したのか、三人は明るく自己紹介を始めた。
「あ、俺、長谷川 流歌です。一花と同じくM美大の油絵学科二年。趣味はカラオケ。よろしくお願いします」
「よ、よろしく。君すごい髪の色してるが……ヘアゴムもそれ、一体何なんだい」
「これは俺の妹に借りたミニーちゃんのヘアゴムです」
言って流歌は前髪を結んでいるドット柄の赤いリボンをつまんだ。はずみに前髪がピョンピョンと跳ねている。派手な髪色だが真面目な自己紹介をする流歌に進藤は完全に困惑している。わかる。一花も最初、流歌の見た目と中身のギャップには驚いた。
「はいっ、次。成瀬 桃子です! 一花と流歌君と同じM美大の油絵学科二年で、お天気キャスターやっています」
「あ、もしかして水曜日の朝のニュース番組に出てくる……?」
「見てくれてるんですか? ありがとうございます」
桃子がにこりと微笑むと、進藤の表情がごくわずかに緩んだ。わかる。桃子の笑顔は天使の笑顔だ。
そんな進藤の変化を感じ取った圭人が桃子の前に立ちはだかると、その天使の微笑みを完全に隠し通し、代わりに鬼のような形相で自己紹介を始める。
「菅原 圭人。同じくM美大の油絵学科二年で桃子の彼氏であり、将来の旦那予定だ」
「えっ、旦那⁉︎」
「おう。今、結婚に向けて貯金をしてる」
「さ、最近の学生はそんな事になってるのか⁉︎ 僕なんてつい最近フラれたばかりだというのに……」
「進藤さん、圭人の言葉は半分くらい妄想なので聞き流して下さい」
「妄想じゃねーって! なぁ、桃子⁉︎」
「うんうん、圭人くん大好きだよぉ」
「俺も大好きだ!」
圭人は桃子に抱きついた。一花と流歌にとっては日常茶飯事な光景で、「またか」と思う。面食らっているのは進藤だけだ。彼はリア充二人を目の当たりにしてショックを受け、頭を抱えてその場にうずくまった。
「ああああ……僕も可愛い彼女が欲しい……二人三脚で店を切り盛りしてくれる、頼りになる奥さんが欲しい……」
「進藤さん、錯乱してないで立って下さい」
「ううぅ……」
一花はそんな進藤に容赦ない言葉を浴びせると、腕をとって無理やり立ち上がらせた。グスグスと鼻をすする進藤に構わず、流歌と、未だ桃子と抱き合っている圭人に向き直る。
「はーい、じゃ、二人もそろそろ離れよっか」
言うと流歌が圭人の肩を掴み、ベリベリと桃子から引き剥がす。非常に名残惜しそうな圭人をよそに、別段何とも思っていなさそうな桃子は話を聞く体制に入った。
「さっきメッセで送った通りにこの小汚い店をこれから私たち四人でピカピカにしようと思うんだけど。中の掃除と、外壁塗装ね」
「掃除は桃子に任せてっ」
「外壁塗装かぁ。ちょっと外見せてくんないか」
流歌の一言で皆でぞろぞろと外に出る。進藤は自分の店だと言うのに肩身が狭そうで、長身を縮ませながらついて来た。
流歌は壁を触りながら状態を確かめていく。圭人もそれに続いた。
「だいぶん色が落ちてるし、禿げてるところも多い。確かに塗り直した方がいいな」
「汚れがひどいから先に掃除からしないと駄目そうだ」
「となると道具が必要かー。買いに行かないとな」
「この辺にホームセンターあったっけ」
言いながら圭人がスマホでホームセンターの場所を確認し始める。一花は後ろで居心地悪そうにしている進藤に話しかけた。
「進藤さん、買い物必要そうなんですけど、車持ってたりします?」
「あぁ、あるけど……というか君達、どうして当然のように壁の塗り直しの事を話し合ってるんだ? やった事あるのかい?」
進藤の疑わしげな眼差しに、壁の状態を確認していた流歌があっさりと答える。
「ありますよ。こういう普通の塗り直しじゃないけど、美大に依頼があって、近隣の市と協力してそこら辺のブロック塀に壁面アートしたりするんですよ」
「カンバスに描くのとはまた違う面白さがあるんすよね」
「アート……いや、今回はアートはやめてくれよ⁉︎ 塗り直すなら普通にっ普通に頼むっ」
「大丈夫大丈夫」
七色の髪を持つ男・長谷川 流歌が満面の笑みでそう言うと進藤は不安が増したようで、一花に話しかけて来た。
「ほ、本当かい⁉︎ 一花君、君達を信じて大丈夫なのかい⁉︎」
「大丈夫です」
「何だか笑顔が、胡散臭い!」
「失礼な……大丈夫ですって」
「信じるぞ⁉︎」
「はーい、ダイジョウブですー。じゃ、行きましょうか。車出して下さい」
「あ、一花。この裏に停まってる車そうじゃねえか?」
「NEW MINI じゃん。カッケー」
「君達っ、勝手に触らないでくれえええ」
「ねー一花ちゃん。進藤さんって面白い人だねえ」
進藤の車を見つけた流歌と圭人が勝手に触ろうとすると、進藤がそれを慌てて止めに行った。その様子を見ながら桃子はのほほんとそんな感想を口にする。
一花は心の底からの気持ちをそのまま述べた。
「面白い? まあ確かに面白いけど……あれは変人って言うんじゃないかな」
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
道化たちの末路
希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる