うらぶれビストロ料理店、美大生四人組が手伝います

佐倉涼

文字の大きさ
20 / 43

変人シェフと美大生①

しおりを挟む
 進藤と美大生四人組による店再生プロジェクトが始まった。
 進藤の駆るNEW MINIでホームセンターへ行った四人はまず必要な道具を全て買い揃え、進藤のカード払いで支払いを済ませた後、店に戻って作業に取り掛かる。

「一花と桃子は店の中の掃除な」

 手に軍手をはめ、頭にタオルを巻いた流歌がそんな事を言うので一花は反論する。

「えーっ、私も塗装やりたいんだけど!」
「外暑すぎるから駄目だ。熱中症で倒れたらシャレになんねえだろ」
「こんくらい平気だし」
「バーカ、夏の暑さをナメんなよ」
「桃子も、日焼けしたら大変だから中にいてくれ」
「うーん、圭人君がそう言うなら……」
「一花。桃子をあのシェフと二人きりにしないためにもお前も中の作業しろ。なっ」
「……わかったよ」
「君達、くれぐれも外壁をレインボーカラーに塗ったりしないでくれよ⁉︎」
「大丈夫です、そんな事しませんって」
「じゃあその足元に置いてある、カラフルな塗料は何なんだい⁉︎」

 進藤が悲痛な声で叫びながら流歌の足元に置いてある塗料を指差す。そこには赤や紫、黄色、緑といった非常に多様な色の塗料が積まれていた。
 流歌はその塗料を一瞥してから、進藤を見上げてにこりと微笑む。

「これはまあ、気にしないで下さい」
「すごい気になるんだが!」
「気にしないで下さい。どうぞ中に入ってて下さい」

 言いながら流歌は、進藤の長身をグイグイと押して店の中へと引っ込ませた。ばたりと閉じられた扉を見て、進藤は不安に顔を歪ませる。

「一花君、あの二人に任せて本当に大丈夫なのか⁉︎」
「大丈夫ですって。髪型はあんなんですけど、流歌は割と真面目なんで」
「そうか……だが……」
「それより進藤さん、店の中のテーブルと椅子、床掃除の邪魔なので一旦外に運び出すの手伝って下さい」
「あ、ああ」

 一花と桃子は椅子を持ち上げ、進藤はテーブルをひょいと担いで外に出る。次々に運び出すと、道の脇、流歌と圭人の作業の邪魔にならない場所に積み上げる。
 二人はホースで水をかけながら、脚立に上って豪快にタワシでガッシュガッシュと壁を擦っていた。本日流歌は暑さ対策のためにアルパカの描かれたつなぎの上を脱ぎ、腰で縛っている。圭人の方も同じくつなぎの上部分を脱いで腰に巻いていた。

 ちなみに圭人のつなぎには背中にハートマークが描かれ、真ん中には「桃子」と書かれているのだが、それを嫌じゃないのかと桃子に尋ねたところ「愛を感じる」と喜んでいた。別れたらどうするつもりなのだろう、と一花は思ったが、二人は今の所ラブラブなので余計なお世話というものだ。別れたらきっと、買い直すのだろう。いや、圭人の事だから別れても未練たらしくそのまま着続けているかもしれない。愛が重い。
 全て運び終え、店内がすっきりしたところでバケツに水を汲んで二人掛かりで店を磨き上げていく事にした。さて作業に取り掛かろうかというところで、非常にバツが悪そうに進藤が話しかけてきた。

「あのう……僕は一体何をすれば」
「とりあえず照明の電気変えてもらえますか」
「ああ」

 言って進藤はつい今しがた購入して来た電球を袋から取り出した。長身を生かしてホーローのランプシェードの真ん中にある電球を回して外すと、危うい手つきで変えていく。

「一花ちゃん、床と壁、どっち磨きたい?」
「そうだねえ。壁かな」
「じゃあ私は床を磨くねっ」
「よろしく」

 一花は店内の壁をぐるりと見回した。店の壁には絵がかけられていたり、作り付けの棚に皿や飾りが置かれていたりしている。まずはこれをどかさねばならないだろう。

「一花君、照明全部変えたよ」
「ありがとうございます」

 言われて照明をつけると、店の中は一気に明るくなる。

「わぁ、明るいね」
「こうして明るくなると、店の汚れ具合がより一層悲惨に見えますね」
「うぅ……」

 かすかに見える奥の厨房だけが別次元のように綺麗に磨かれているのも、なんとも言えない。

「次は何をすれば……」
「壁の絵とインテリアを下ろして下さい」

 背の高い進藤は一花が背伸びをしても届かない場所に楽々手が届くので、とても有難い。ハンディモップを用意していると、またもや進藤が話しかけてくる。

「一花君、終わったが、次は……」
「……まさかいちいち私に聞いてくるつもりですか?」

 ハンディモップにホコリ取り部分を装着しながら一花が尋ねると、進藤は肩身が狭そうに縮こまる。

「すまない、何をすればいいか本当にわからないんだ……」

 店のオーナーは、なぜかこの場において最も弱々しい態度で一花の顔色を伺ってくる。
 これでは一花の作業が捗らない。店はそこまで広く無いので壁の掃除など、一花一人がいれば十分だ。
 何か進藤を追い払ういい案はないだろうかと考える。

「うーん……あっ、あれです。私たちの賄いを用意して下さいよ」
「賄いを?」
「はい。もう十七時ですし、夕食がわりの賄いがあると嬉しいです。どうでしょう」

 すると進藤はパアッと表情を輝かせて勢いよく頷いた。

「任せてくれっ。ひとまず買い出しに行ってくる!」

 それまでの指示待ち人間から一転して生き生きとした笑顔でそう言うと、厨房奥にかけてあったバッグをひっつかんで進藤は店から飛び出した。

「一花ちゃん、進藤さんに頼られてるね~」

 桃子は雑巾をバケツの上で絞りながらのほほんと言う。一花はハンディモップをめいいっぱい伸ばしながら飾り棚の埃を落としつつ、返事をする。

「オーナー兼シェフなんだから、もっとしっかりして欲しいんだけど……」

 無理そうかな、と一花は思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

おばちゃんダイバーは浅い層で頑張ります

きむらきむこ
ファンタジー
ダンジョンができて十年。年金の足しにダンジョンに通ってます。田中優子61歳

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

道化たちの末路

希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。

処理中です...