墓から生まれた少女

米騒動

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非日常

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 今は少しばかりマシになったといえるが、子供の頃の俺はひどく臆病な性格だった。外との交流にはとことん消極的で、まともに会話ができるのは家族と幼馴染みの栞。そして歳の離れたいとこの姉だけだった。

 俺は人と話すのを極端に怖がっていた。

 そうなったきっかけは保育園に入園した時だった。

 俺はたんぽぽ組に配属された。

 保育園は初めて社会と接触する機会であると言っても、閉鎖的であることには変わりない。

 俺はリーダー格の子に遊びを誘われ、無事に馴染むことが出来たのだった。

 それからの毎日は幸せの絶頂だった。鬼ごっこ。お絵描き。砂遊び。永遠にも続く楽しい日々はあっという間だった。

 しかし、入園して一月ほど経ったある日のこと。

 家から持ってきた本がずぶ濡れになっていたのだ。父親から買って貰った昆虫図鑑で、大事にロッカーに入れていたはずだったのに。

 その時の俺は悲しさよりも怒りが勝っていたのだろう、皆に図鑑の惨状を訴え、犯人を見つけようとした。

 しかし、誰に聞いてもやっていない。知らないとしか答えは返ってこなかった。すると、リーダー格の子がこう言い出した。「皆がそんなことするはずがない。きっと他の組の子達がやったんだ。」

 と、そう彼が言った刹那――嘘だ。と、思った。

 そもそも俺はたんぽぽ組以外の誰かと遊んだことはなかったし、少なくとも俺がこの本を読んでいることを知っているのはたんぽぽ組の連中だけであったはずだ。だからこれは嘘だ。

 そう確信した瞬間、目から涙がこぼれ落ちた。

 怒りに隠されていた悲しみが一挙に押し寄せてきた。

 友達だと信じていた者の裏切り。それを断罪出来ない悔しさが頭中をぐるぐる廻っていた。

 多分、この時の俺はこの中に犯人が居ることを聞く前から分かっていたんだと思う。

 でも、聞いたらきっと――ごめん!本を勝手に借りてたらバケツをこぼしちゃったんだ。悪気はなかったんだよ。と、手を合わせて申し訳なさそうに謝ってくれるだろうと。そう言ってくれるはずだと思っていた。 



「本なんていくらでもあるんだから元気出しなよ!」



 しかし、そんな淡い期待はあえ無く霧散した。

 なぜ彼は自分の前で平静を保っていられるのか?

 なぜ彼は、嘘をついて笑っていられるのか?と。

 ――その理由を考えた時、一つの考えに至った。彼の浮かべる笑顔は仮面だ。ひとたびその仮面を外すと醜悪な悪鬼が姿を現す。

 彼はその醜悪な顔を。さも人間らしい、笑顔という名の仮面をつけて隠しているに過ぎないんだ、と。

 ―――あいつは人間じゃない。――

 涙はもう止まっていた。







「……え? き、記憶?記憶がないの?」

「……そう、なの……」



 えらいことになってしまったな……

 日向はその場で固まり懊悩してしまう。

 兎にも角にも、少女が覚えている必要な情報を聞き出さなければ始まらないよな……

 日向は膝を地面につけて少女の目線に合わせ、



「えっと……お名前は?」

「……」

「じゃあ、お父さんとお母さんは?」

「……」

「お家は? どこから来たの?」

「……」



 返事なし。



「よし、じゃあお兄ちゃんと一緒におまわりさんの所に行こうか」



 そう言った瞬間、



「嫌……」



 しっかりとした意志が感じられる反応が返ってきた。やはり、意思疎通は取れるようだ。

 さて、どうするか……



「俺の家……来る?」



 思わず口から言葉が漏れる。言ってから気づく自分の言葉の軽率さ。ここは無理矢理にでも警察か児童保護施設に連れていくべきだったと思い至る。

 日向は少女への後ろめたさから視線を逸らす。



「……うん」

「え?」

「……行き……たい」



 少女は日向を見つめる。切実な目だ。



「分かった。じゃあお兄ちゃんの家行こうか」

「……(コクリ)」



 日向は手のひらを前に出す。少女はすぐに手のひらを重ねた。そして、2人は手を繋いで歩き出した。

 その時、



「そこの君、ちょっと待ちなよ」



 ――突然、何者かの声。日向はすぐさま後ろを振り向く。するとそこには、口から上を覆面で隠し黒いマントで身を包んだ、さも不審者ですと言いたげな格好の男が居た。

 日向は応える。



「……誰ですか貴方は? もしかしてこの子の保護者か何かですか?」



 雰囲気からして保護者ではなさそうだが……トラブルを避けるため、相手を刺激しないよう慎重に言葉を選ぶ。



「あぁ、そうなんだよ。その通りなんだよ。だからその子から離れて貰えないかな?」



 離れろって……保護者がそんなこと言うはずないだろ。

 チラリと横目に少女を見る。少女は手を強く握り、小刻みに震えていた。



「……あんな奴……知らないッ!」



 少女は小さい声で力強くそう言った。



「この子は貴方のことを知らないと言っていますけど?」

「知らなくてもしょうがないよ。僕はその子の親から頼まれてるんだ。家に連れて帰って来いってね」



 ――嘘だ。



「……」

「……君に嘘は通じないよね。まぁいい、とにかくその子を渡して貰おうか」

「残念ながら、お気持ちに添えかねます」

「……そうか。君に手荒な真似をするつもりはなかったんだけど。あんまり聞き分けが悪いと少し痛い目を見てもらわないといけなくなるね」



 日向は考える。男がどんな凶器を隠し持ってるかも分からない上に体格もあちらが断然上。闘ったらまず勝てない。かと言って、少女を連れて逃げても逃げ切れないだろう。どうすれば……



「……さぁ、その子を渡してもらおう」



 そして、男が歩みを進めた。その時、

 ボン!と、男の足元で爆発音がすると同時に火花が飛び散った。



「――ッッ!!」



 男は瞬時に爆発した場所から後方に距離をとる。すると、



「即席で作った割になかなかの出来。さすが私!」



 声の主のいた方向を見る。

 するとそこには、転校生。四月一日柑奈がそこに居た。

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