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第二章 モモとダンジョン

第45話 モモ(4)

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「ヘリター神父、お久しぶりです」

 先頭を歩く若い女性が神父さんを見ると、微笑みながら挨拶をした。そして私にも天使のような微笑みを向け、二人の年配のシスターを従えてこちらへと向かってくる。
 なんて美しい人なんだろう。私はその碧い瞳に心を奪われつつも、立ち上がると彼女に挨拶を返した。

「おお、これはシスター・マール。いや、シスター・マール・アントワーとお呼びすべきでしょうか」

 神父さんが彼女を見るなり、そう言って出迎える。

「もう、中央教会に行ったからって……マールで結構です」

 彼女は神父さんに向かってそう言うと、少し可愛らしく拗ねてみせた。
 どうも二人は知り合いらしく、親し気に話しだす。

「お久しぶりですね」

「はい、2年ぶりかしら。ローゴ以来ですね」

「はい。あの時は……」

 二人はこの辺では一番大きな都市ローゴで一緒だったらしい。そこから当時の話をいろいろと話し始めた。
 それをじっと後ろで見守る、二人の年配のシスターと私が目を合わせる。
 すると話の途中でシスター・マールがはっとしたように、彼女たちの方へと振り返った。

「ごめんなさい、荷物はそこに置いて。後は自由していいわよ」

 その言葉に彼女たちは会釈をすると、彼女の荷物と思われる鞄を机の上に置いた。そして振り返り、ゆっくりと歩き出すと扉から出て行く。
 お祈りでもしてくるのだろうか、そのまま礼拝室のほうへと向かったみたいだ。

「あら、これって聖女アーネフ様の……」

 シスター・マールは私が読んでいる本を見て、一目でそれをアーネフ様の本だと気がつくと言った。

「はい。聖女アーネフ様の本です」

 裏返して本の装丁を見せると、彼女は目を輝かせる。

「私も好きでよく読んでるわ……あっ、そうだ」

 彼女は何かを思い出したように、さっきの鞄のところへと向かっていく。そして、中から何かを取りだした。

「よかったら、これ」

 彼女は一冊の本を、私に向かって差し出す。エルフの肌もかなり白いが、それにも負けないほどの美しい手。私が彼女のその手に見とれていると、小首をかしげ、不思議そうな目で私を見つめた。

「いいのよ。手に取って」

「あっ、は、はい」

「お名前は?」

「あっ、モモといいます」

「いい名前ね」

 彼女のその答えに嬉しくなって、私はつい笑顔がこぼれる。
 その綺麗な青い装丁の本をしっかりと受け取ると、私は本の題名を確認した。なんだろう、見た事のないつづり。

「すみません、これは何と読むのですか?」

 私のその質問に神父様が答えようとすると、シスターが私のすぐ横へと移動して、本を覗き込む。
 そして題名のところを指で指し示しながら、こう言った。

「『勇者アレフモーネ』、この物語は勇者様と聖女アーネフ様の冒険のお話ね」

「勇者様……アーネフ様の本に少しだけでてくる。あの……」

「そうね。その本だと記述は1ページだけね」

 ここにあるアーネフ様の本に出てくる勇者様のお話は、優しくて偉大な人だったぐらいの記述ぐらいしかなく、容姿とかもあいまいである。

「きっと、こっちの物語のほうが有名よ。その聖女アーネフ様の本は、この本を補足する形で書かれたんじゃないかしら」

 そうなのか……アーネフ様の話の中でも冒頭部分、勇者様との冒険談は、教会にある本にはあまり詳しくは書かれていなかった。この後に旅をしながら行った、布教活動のほうが主に書かれている。

「きっと気に入ると思うから読んでみて」

 そう言ってにっこりと笑うと、彼女はまた神父さんと話をしだしたのだった。
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