調教ホテル 堕ちる夜

黒猫と夜

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第二章 崩壊と再生

第一節:疑念(翔太視点)

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ひと月ぶりに会えた美咲は、外見も仕草も変わらないように見えた。
笑顔も、声の調子も、まるでいつもの彼女のまま。

だが――夜を共にしたその瞬間、胸の奥に言葉にできない違和感が残った。

自分は、正直に言って夜の営みが得意ではない。
ぎこちなく、決して上手いとは言えない。
それでも、美咲はいつもそれを理解して包み込んでくれていた。
彼女の優しさに守られて、繋がりを感じることができていた。

けれど、あの夜は違った。
同じように寄り添ってくれているはずなのに、ふとした瞬間――美咲の目が、自分を見ていなかった。
焦点の合わない瞳が、虚空のどこかを見つめているように思えてならなかった。

(気のせいだ……きっと疲れていただけだ……)

そう自分に言い聞かせたが、昼間の彼女にも同じ影を感じた瞬間があったことを思い出す。
「気のせい」という言葉ではごまかせない、奇妙なざわめきが心に残った。

その違和感を払拭できないまま日々が過ぎた。
美咲とは定期的に会い、会えば笑顔を見せてくれる。
やはり考えすぎなのか――そう思う一方で、胸の奥では疑念が静かに膨らんでいった。

決定的だったのは、ある日届いた差出人不明の郵便物。

中には、一言だけ書かれたメッセージカードと、一枚の写真。

「お前の知らない顔が、そこにある」

震える指で写真を掴んだ瞬間、頭が真っ白になった。

そこには――鏡に映る美咲がいた。
首輪とリード、亀甲縛りの姿で、涙を流しながらも感じている表情を浮かべ、四つん這いになっている。
後ろからは顔の見えない男が迫り、美咲を後ろから貫いている接合部まではっきりと写されていた。

(これは……無理やり……?)
(いや……でも……美咲の表情は……)

怒りと困惑が入り混じり、心臓を握りつぶされるような苦しさに襲われた。

「……確かめなきゃ」

自分の目で真実を見なければ、彼女を信じることも疑うこともできない。
そうして翔太は、美咲を尾行する決意を固めた。

尾行を始めて数日間――何の手がかりも得られなかった。
美咲は普段通りに仕事へ行き、普段通りに帰宅していた。
会えば笑顔を見せ、翔太を気づかう言葉もかけてくれる。

(やっぱり俺の勘違いなのか……)

そう思いかけた矢先――決定的な日が訪れた。

その日は、仕事終わりに会う約束をしていた。
だが、美咲から届いたメッセージは、初めての言葉だった。

「ごめん、今日は会えない。急に残業が入っちゃって……」

今まで一度もなかった理由。
翔太の胸に、冷たいものが走った。

(本当に残業……?)

確かめなければならない。
翔太はそのまま、美咲の職場の前に向かった。

やがて、定時を迎えた社屋のドアが開いた。
そこから現れたのは――紛れもなく美咲の姿だった。

(残業じゃない……)

息を呑み、足を忍ばせて尾行を続ける。
彼女が向かった先は、繁華街を抜けたホテル街だった。

色とりどりのネオンが光を放ち、どの建物も同じように見える。
その中のひとつに、美咲は迷いなく入っていった。

翔太の心臓は、破裂しそうなほどに鼓動していた。

(まさか……本当に……?)

ホテルのロビーを抜け、美咲がエレベーターに消えていくのを確認した。
翔太は少し遅れて後を追い、廊下の物陰に身を潜めた。

やがて、美咲がカードキーを手に、指定された部屋に入ろうとするのが見えた。
その背中に声をかけようと、一歩踏み出した瞬間――

「ゴッ!」

鈍い音とともに、頭に強烈な衝撃が走った。
視界が揺れ、全身の力が抜けていく。

(……なに……? 誰……)

振り返る間もなく、闇に引きずり込まれる。

最後に見えたのは、廊下の奥でカードキーを差し込む美咲の姿。
彼女がこちらを振り返ることはなかった。

(……美咲……待て……まだ……確かめて……ない……)

意識は、そこで途切れた。

翔太が気絶したことを、美咲は知らない。
ただ男の指示に従い、別の部屋へ向かおうとしていた。

その裏で、翔太は完全に嵌められたのだった。

すべては――彼女を奪った男の計画の一部に過ぎなかった。
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