調教ホテル 堕ちる夜

夜のオフィス街。
時刻はすでに深夜に差しかかろうとしている。

総務課の美咲は、足取りもおぼつかなくフラフラと帰ってきていた。
取引先との接待。乾杯を何度も重ね、気がつけばグラスを手放すこともできなくなっていた。
強い酒に火照った頬は紅潮し、足元は揺れて、視界はぼやける。

「……つかれた……」

デスクに鞄を置き、椅子に沈み込む。

(少し、休もう……)

そう思った瞬間、心の奥に沈んでいた黒い言葉が、アルコールにほだされて浮かび上がる。
口にしてはいけないはずの言葉。
絶対に、誰にも聞かれてはいけない秘密。

それが、美咲の唇からこぼれた。

――「……課の経費を横領した……。もしバレたら解雇、裁判……終わりだ……」

酒のせいだと分かっている。
酔いに任せて、心の奥底の不安を口にしてしまった。
誰もいないと思い込んでいたから、余計に無防備に声が漏れた。

だが、その油断は致命的だった。

「……なるほど。終わり、か」

背後から、低く湿った声。
美咲の肩がビクリと跳ねる。
振り返った瞬間、血の気が引いた。

そこには一人の男が立っていた。
スーツ姿、手にはスマートフォン。
黒い瞳が光を反射し、獲物を見下ろす捕食者のように冷酷だった。

「き……聞いて……たの……?」

酔いで舌が回らない。
掠れた声は震え、言葉にならない。

男はスマートフォンを掲げてみせる。
画面に浮かぶのは、録音中を示す赤いアイコン。

「証拠は、もう手に入れた」

その一言で、美咲の心臓がどくんっと大きく跳ねた。
頭の奥がじんじんと痺れ、呼吸が荒くなる。

(だめ……これが……外に出たら……私は……)

家族、職場、すべてが崩れる光景が頭をよぎる。
言い訳はできない。確かに口にしてしまったのだから。

「やめて……お願い……」

震える声。涙で濡れた目が男を見上げる。
だが、返ってくるのは冷たい笑みだけだった。

「従え。逆らえば、この録音はすぐに世間に曝け出す」

その瞬間、美咲の背筋を冷たいものが這い上がった。
自分の未来を、人差し指一つで握られている――その現実が、体を硬直させる。

恐怖と羞恥と、どうしようもない無力感が、彼女を締めつけていた。

――こうして始まる。
美咲が「堕ちる理由」の物語が。
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