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「シ、シリル……!? 貴様、帝国の軍隊を連れてきたのか!?」
崩壊した地下牢の瓦礫の山で、アラン王子が裏返った声で叫んだ。
もうもうと立ち込める土煙の中、シリル・ヴァン・ノワール公爵が不敵に微笑む。
「軍隊? 人聞きの悪い。私はただの『弁護士団』を連れてきただけだ」
シリルが指をパチンと鳴らすと、彼の背後に控えていた黒服の集団が一斉に進み出た。
総勢五十名。全員が身長二メートル近い巨漢。
漆黒のスーツにサングラス、手にはアタッシュケース。
そして、その筋肉はスーツが悲鳴を上げるほど隆起している。
「異議ありぃぃぃ!!」
弁護士(?)たちが一斉に咆哮した。
その声圧だけで、王城の窓ガラスがビリビリと震える。
「我々は『ノワール帝国法務部・特別執行部隊』である!」
「グラッセ・ド・ラズベリー氏への不当逮捕は、国際法および『銀河系全宇宙基本的人権条約(当社比)』への重大な違反である!」
「直ちに釈放し、賠償金として国家予算の三倍を支払え!」
「さもなくば……『物理的解決』を行う!」
弁護士たちがアタッシュケースを構える。
その中から出てきたのは、六法全書ではない。
『鉄球付きの鎖』や『巨大なハンマー』だ。
「ど、どこが弁護士だ!」
アラン王子がツッコミを入れる。
「黙れ! 我が国の法律では、勝った方が正義だ!」
一人の弁護士(筋力Sランク)がハンマーを一振りすると、地下牢の鉄格子が飴細工のようにひしゃげた。
「ひぃぃっ!」
王子とミナが抱き合って震える。
シリルは瓦礫の上を優雅に歩き、私の手を取った。
「待たせたな、グラッセ。……君を助けるために、少しばかり手荒な真似をした」
「手荒? いいえ、素晴らしい『実力行使』ですわ」
私はシリルの頬についた煤(すす)をハンカチで拭った。
「ですが、壁の修理費は請求しますよ?」
「……相変わらずだな。まあいい、経費で落とそう」
シリルは私を横抱き(お姫様抱っこ)にすると、弁護士団に命令を下した。
「総員、進め! 進路上の障害物はすべて『違憲』として排除せよ!」
「「「御意!!」」」
黒服の集団が雪崩のように動き出す。
「ま、待て! 行かせるか! 近衛兵、出会えー!」
アラン王子が叫ぶと、廊下の奥から近衛騎士たちが駆けつけてきた。
しかし、その先頭にいるガストン団長は、チラリと私を見てウィンクした。
(社長、やっちゃってください!)
(了解よ、団長)
私はシリルに耳打ちする。
「シリル、正面突破で。あの騎士たちは『給料未払い』で戦意喪失中だから、適当に脅せば道を開けるわ」
「承知した」
シリルは片手を上げ、騎士たちに向かって叫んだ。
「我々の行く手を阻む者は、グラッセ社長による『来期のボーナス査定』に響くぞ!」
その一言の効果は絶大だった。
「ボ、ボーナス……!?」
「査定に響く……だと……?」
騎士たちの動きがピタリと止まる。
「ど、どうしても通るというなら……俺を倒してから行けぇ!(棒読み)」
ガストン団長が、わざとらしく槍を構えて突進してくる。
しかしその足取りは、誰が見ても「どうぞ避けてください」という軌道だ。
シリルは軽く身をかわし、すれ違いざまにガストンの肩をポンと叩いた。
「ご苦労。……後で『危険手当』を振り込んでおく」
「あざっす!」
ガストン団長は「ぐわぁぁぁ!」と派手な声を上げて、自ら壁に激突して気絶(したフリを)した。
「団長ぉぉぉ!?」
「逃げろ! 最強の弁護士軍団には勝てない!」
騎士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「な、なんだと……!? 僕の近衛兵が!」
アラン王子が呆然と立ち尽くす。
「さあ、アラン殿下。あなたもご一緒に」
弁護士の一人が、アラン王子の首根っこを猫のように掴み上げた。
「離せ! 僕は王子だぞ!」
「貴様には『被告人』として法廷に出てもらう。逃亡の恐れがあるため、拘束する!」
「ミナ! 助けてくれ!」
王子が助けを求めるが、ミナはすでに弁護士団の最後尾で、「私は最初からグラッセ様の味方でした」という顔をして行進に参加していた。
「……あの女、変わり身が早すぎる」
シリルが苦笑する。
私たちは王城の廊下を、凱旋パレードのように進んでいく。
向かう先は、王都の中央にある『最高裁判所』。
「グラッセ。法廷の準備は?」
「完璧です。私が投獄されている間に、優秀な判事を『買収』……いえ、説得しておきました」
私は懐から、一枚の切り札を取り出した。
アラン王子がでっち上げた『王家特別法』。
これを逆手に取り、彼を完膚なきまでに叩き潰すための、最強の論理武装(ロジック)は完成している。
「シリル。私、思うの」
「ん?」
「法廷こそが、最高にスリリングな『オークション会場』だって」
「……どういう意味だ?」
「『正義』という商品を、どちらが高値で競り落とすか。……負けませんよ、私は」
私はシリルの腕の中で、凶悪な笑みを浮かべた。
「さあ、行きましょう。アラン王子の『引退興行』の開幕よ!」
私たちは城門を突破し、太陽の下へと躍り出た。
沿道には、すでに噂を聞きつけた民衆が集まっている。
「見ろ! グラッセ様だ!」
「悪徳王子を裁きに行くぞ!」
「ラズベリー・ランド万歳!」
歓声の中、私たちは裁判所へと向かう馬車(という名の護送車)に乗り込んだ。
アラン王子は荷台に放り込まれ、「覚えてろー!」と叫んでいるが、誰も聞いていない。
これが、国を揺るがす「世紀の裁判」の幕開けだった。
崩壊した地下牢の瓦礫の山で、アラン王子が裏返った声で叫んだ。
もうもうと立ち込める土煙の中、シリル・ヴァン・ノワール公爵が不敵に微笑む。
「軍隊? 人聞きの悪い。私はただの『弁護士団』を連れてきただけだ」
シリルが指をパチンと鳴らすと、彼の背後に控えていた黒服の集団が一斉に進み出た。
総勢五十名。全員が身長二メートル近い巨漢。
漆黒のスーツにサングラス、手にはアタッシュケース。
そして、その筋肉はスーツが悲鳴を上げるほど隆起している。
「異議ありぃぃぃ!!」
弁護士(?)たちが一斉に咆哮した。
その声圧だけで、王城の窓ガラスがビリビリと震える。
「我々は『ノワール帝国法務部・特別執行部隊』である!」
「グラッセ・ド・ラズベリー氏への不当逮捕は、国際法および『銀河系全宇宙基本的人権条約(当社比)』への重大な違反である!」
「直ちに釈放し、賠償金として国家予算の三倍を支払え!」
「さもなくば……『物理的解決』を行う!」
弁護士たちがアタッシュケースを構える。
その中から出てきたのは、六法全書ではない。
『鉄球付きの鎖』や『巨大なハンマー』だ。
「ど、どこが弁護士だ!」
アラン王子がツッコミを入れる。
「黙れ! 我が国の法律では、勝った方が正義だ!」
一人の弁護士(筋力Sランク)がハンマーを一振りすると、地下牢の鉄格子が飴細工のようにひしゃげた。
「ひぃぃっ!」
王子とミナが抱き合って震える。
シリルは瓦礫の上を優雅に歩き、私の手を取った。
「待たせたな、グラッセ。……君を助けるために、少しばかり手荒な真似をした」
「手荒? いいえ、素晴らしい『実力行使』ですわ」
私はシリルの頬についた煤(すす)をハンカチで拭った。
「ですが、壁の修理費は請求しますよ?」
「……相変わらずだな。まあいい、経費で落とそう」
シリルは私を横抱き(お姫様抱っこ)にすると、弁護士団に命令を下した。
「総員、進め! 進路上の障害物はすべて『違憲』として排除せよ!」
「「「御意!!」」」
黒服の集団が雪崩のように動き出す。
「ま、待て! 行かせるか! 近衛兵、出会えー!」
アラン王子が叫ぶと、廊下の奥から近衛騎士たちが駆けつけてきた。
しかし、その先頭にいるガストン団長は、チラリと私を見てウィンクした。
(社長、やっちゃってください!)
(了解よ、団長)
私はシリルに耳打ちする。
「シリル、正面突破で。あの騎士たちは『給料未払い』で戦意喪失中だから、適当に脅せば道を開けるわ」
「承知した」
シリルは片手を上げ、騎士たちに向かって叫んだ。
「我々の行く手を阻む者は、グラッセ社長による『来期のボーナス査定』に響くぞ!」
その一言の効果は絶大だった。
「ボ、ボーナス……!?」
「査定に響く……だと……?」
騎士たちの動きがピタリと止まる。
「ど、どうしても通るというなら……俺を倒してから行けぇ!(棒読み)」
ガストン団長が、わざとらしく槍を構えて突進してくる。
しかしその足取りは、誰が見ても「どうぞ避けてください」という軌道だ。
シリルは軽く身をかわし、すれ違いざまにガストンの肩をポンと叩いた。
「ご苦労。……後で『危険手当』を振り込んでおく」
「あざっす!」
ガストン団長は「ぐわぁぁぁ!」と派手な声を上げて、自ら壁に激突して気絶(したフリを)した。
「団長ぉぉぉ!?」
「逃げろ! 最強の弁護士軍団には勝てない!」
騎士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「な、なんだと……!? 僕の近衛兵が!」
アラン王子が呆然と立ち尽くす。
「さあ、アラン殿下。あなたもご一緒に」
弁護士の一人が、アラン王子の首根っこを猫のように掴み上げた。
「離せ! 僕は王子だぞ!」
「貴様には『被告人』として法廷に出てもらう。逃亡の恐れがあるため、拘束する!」
「ミナ! 助けてくれ!」
王子が助けを求めるが、ミナはすでに弁護士団の最後尾で、「私は最初からグラッセ様の味方でした」という顔をして行進に参加していた。
「……あの女、変わり身が早すぎる」
シリルが苦笑する。
私たちは王城の廊下を、凱旋パレードのように進んでいく。
向かう先は、王都の中央にある『最高裁判所』。
「グラッセ。法廷の準備は?」
「完璧です。私が投獄されている間に、優秀な判事を『買収』……いえ、説得しておきました」
私は懐から、一枚の切り札を取り出した。
アラン王子がでっち上げた『王家特別法』。
これを逆手に取り、彼を完膚なきまでに叩き潰すための、最強の論理武装(ロジック)は完成している。
「シリル。私、思うの」
「ん?」
「法廷こそが、最高にスリリングな『オークション会場』だって」
「……どういう意味だ?」
「『正義』という商品を、どちらが高値で競り落とすか。……負けませんよ、私は」
私はシリルの腕の中で、凶悪な笑みを浮かべた。
「さあ、行きましょう。アラン王子の『引退興行』の開幕よ!」
私たちは城門を突破し、太陽の下へと躍り出た。
沿道には、すでに噂を聞きつけた民衆が集まっている。
「見ろ! グラッセ様だ!」
「悪徳王子を裁きに行くぞ!」
「ラズベリー・ランド万歳!」
歓声の中、私たちは裁判所へと向かう馬車(という名の護送車)に乗り込んだ。
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