悪役令嬢(演技)の卒業公演が、婚約破棄だった件について

恋の箱庭

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「……ううっ、ひっ、ひぐっ……。どうして、どうして私がこんな目に……!」

劇場の薄暗い楽屋の隅で、セラフィーナさんが膝を抱えて泣き崩れていました。
かつての真っ白なドレスは暗殺者騒動の余波でボロボロ、自慢の金髪も埃にまみれています。
暗殺教唆の証拠をレオナード様に握られ、教会からもトカゲの尻尾切りに遭った彼女に、もはや逃げ場はありません。

私はそんな彼女の前に、カツン、カツンとヒールの音を響かせて歩み寄りました。
そして、手に持っていた「黄金のモップ」を彼女の足元に放り投げます。

「セラフィーナさん。いつまでその『悲劇のヒロイン(笑)』の練習を続けていらっしゃるの? 演出家がいないところでいくら泣いても、ギャラ(同情)は一銭も発生しませんわよ」

「……ヨレン様! 貴女、私を笑いに来たのね!? 私を処刑台へ送るつもりなんでしょう!? ああっ、神様、どうかこの残酷な悪女に天罰を……!」

セラフィーナさんが天を仰いで叫びます。
私は深いため息をつき、手元の扇で彼女の顎をクイッと持ち上げました。

「処刑? そんな退屈なシナリオ、私の劇場では上演いたしませんわ。貴女にはもっと『長く、苦しく、そして泥臭い』役を用意して差し上げましたの。……ほら、そのモップを拾いなさい」

「……モップ?」

「ええ。今日から貴女は、このマニエール国立大劇場の『掃除番・兼・下っ端雑用係』ですわ。芸名は『タワシ』。……どうかしら、斬新な役どころでしょう?」

私が不敵な笑みを浮かべると、背後の影からレオナード様がヌッと現れました。
彼はすでに「演出家ノート」の新しいページを開いています。

「……素晴らしい! 没落した聖女が、かつて見下していた床を磨くことで、自らの魂を磨き直すというビルドゥングス・ロマン(成長物語)だね。セラフィーナ君、今の君の『絶望と混乱が混ざり合った虚無な表情』、なかなか味があるよ。……だが、モップの持ち方が甘いな。もっと『人生の重み』を柄に乗せて!」

「レオナード様、彼女に高度な演技指導はまだ早すぎますわ。まずは『床の汚れを落とす』というリアリズムを追求させなくては」

レオナード様と私が勝手に話を進めていると、廊下からアリスター殿下が顔を出しました。
彼はセラフィーナを一瞥しましたが、すぐに視線を私へと戻しました。

「ヨレン、彼女の再教育はいいが、あまり無理をさせるなよ? ……いや、彼女が君の厳しさに耐えかねて、また変なアドリブ(陰謀)を始めないか心配なんだ」

「殿下、ご安心を。この劇場の床は、私の監視の目が光る『舞台』そのものですわ。彼女がサボれば、即座に客席(劇団員一同)からブーイングが飛びますもの」

セラフィーナさんは、信じられないという顔で私たちを見回しました。

「わ、私が掃除……!? 聖女と呼ばれたこの私が!? 冗談じゃないわ、こんな汚らわしい仕事……!」

「あら、汚らわしい? その言葉、毎日この劇場をピカピカに磨いてくれているスタッフたちへの侮辱と受け取ってよろしいかしら? ……いいこと、セラフィーナさん。舞台っていうのはね、華やかな演者だけで成り立っているんじゃないのよ。……掃除一つ満足にできない女に、人の心を動かす『奇跡』なんて演じられるはずがないわ」

私は冷徹な声で言い放ち、彼女の目の前に一枚の契約書を突きつけました。

「拒否するなら、今すぐ憲兵団へ引き渡しますわ。暗殺教唆の罪、重いわよ? ……でも、ここで『床磨きのタワシ』として修行に励むなら、貴女のこれまでの悪行、私の演出で『必要な挫折』として書き換えて差し上げてもよくてよ?」

セラフィーナさんは、プルプルと震えながら契約書を見つめました。
憲兵団か、モップか。
……数秒後、彼女は血の涙を流さんばかりの形相で、ペンを握りました。

「……やり、やればいいんでしょう!? 見てなさい、世界一の掃除番になって、貴女の鼻を明かしてやるんだから!!」

「あら、良い気合ですわね。……リゼ! この『新人』に、まずはトイレ掃除の基本(演出)を叩き込みなさい!」

「はい、お師匠様! タワシさん、こちらへ! 腰の入れ方がなっていませんわよ!」

リゼに引きずられていくセラフィーナ……いえ、タワシさんの背中を見送りながら、私は満足げに扇を広げました。

「……ふふ。悪役を倒す一番の贅沢は、彼女を『物語の脇役』として使い倒してあげることですわね」

「ヨレン君、君は本当に最高のプロデューサーだ。……さて、次は彼女がバケツをひっくり返して泣きじゃくるシーンの照明(ライティング)について打ち合わせをしようか」

「レオナード様、それは演出ではなくただの事故ですわ……」

私たちの愉快な劇場経営は、新たな「迷役者」を加えて、さらにカオスな方向へと加速していくのでした。
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