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「待ちなさい! レオナード様の婚約者として、このような野蛮な見世物は断じて認めませんわ!!」
興奮冷めやらぬ楽屋。
舞台衣装を脱ごうとした私の元に、大音量の「ソプラノ・ボイス」が飛び込んできました。
現れたのは、淡い水色のドレスを完璧に着こなし、一筋の乱れもない縦ロールを揺らす美少女。
隣国デトモルトの王女、シルヴィア様です。
彼女はハンカチを握りしめ、今にも倒れそうな「可憐な乙女」のポーズで私を指差しました。
(……あら、新しいキャラ。今度は『清純派の悲劇のヒロイン』担当かしら?)
私は扇を手に取り、ゆっくりと彼女に向き合いました。
舞台を終えた直後の私は、まだ「闇の皇妃」のメイクを落としておらず、威圧感だけは無駄にあります。
「……おやおや、レオナード様。こちらの可愛らしいお嬢様は、貴方の『共演者』のリストに載っていませんでしたわね?」
「ヨレン君、誤解しないでくれ。彼女は父上が勝手に決めた……いや、幼馴染のシルヴィアだ。……シルヴィア、君は実家で大人しく『おままごと』でもしているはずではなかったのか?」
レオナード様が、心底面倒くさそうな顔でため息をつきました。
シルヴィア様は顔を真っ赤にし、レオナード様の腕にしがみつこうとしました。
「おままごと!? 失礼な! 私は貴方の正妃になるべく、毎日三時間の『淑女らしい溜息』の練習を欠かさなかったのですよ! それなのに、貴方はこんな毒々しい女の脚本に溺れるなんて……!」
「三時間の溜息……? リゼ、今の台詞メモした?」
「はい、お師匠様! 『努力の方向性が狂っているライバル』という新ジャンルとして記録いたしましたわ!」
リゼが筆を走らせます。
シルヴィア様は、その様子を見てさらに憤慨したようです。
「ヨレン・ド・マニエール! 貴女のような『悪役』しか演じられない女が、レオナード様の隣にふさわしいはずがありませんわ! 本物の淑女というものが、どれほど気高く、そして『儚い』ものか……今ここで教えて差し上げます!」
シルヴィア様は、おもむろに楽屋の長椅子に身を投げ、片手を額に当てました。
「ああ……。あまりのショックで、私の繊細な心臓が……止まってしまいそう……。……レオナード様、どうか私に『真実の愛の口づけ』を……。そうしなければ、私はこのまま冷たい彫刻になってしまいますわ……」
(……古い。古すぎるわ。百年前のメロドラマかしら?)
私は呆れ果てて、レオナード様を見ました。
すると、彼は震える手で鼻を覆っているではありませんか。
「……っ!! 素晴らしい! シルヴィア、君、いつの間にそんな『時代遅れのベタな演技』を極めたんだ! 一周回って斬新だよ! その、わざとらしい睫毛の震わせ方……! まさに『伝統芸能』としてのヒロイン像だね!」
「レオナード様……!? 褒めてくださるのですか……?」
「ああ! 今の君なら、私の劇場の『悲劇の犠牲者A』の役を完璧にこなせるはずだ!」
「犠牲者A!? 私はヒロインになりに来たのですわよ!!」
シルヴィア様が椅子から跳ね起きました。
どうやら、この国の男たちは、女性の必死なアプローチをすべて「演技」として査定する不治の病にかかっているようです。
「シルヴィア様。……貴女のその演技、基礎はできていますけれど、いかんせん『毒』が足りませんわ」
私は彼女に歩み寄り、至近距離でその瞳を覗き込みました。
「清純を演じるなら、その裏にある『計算高さ』を観客にチラつかせなさい。ただの可哀想な女なんて、今の観客(レオナード様)は一分で飽きますわよ。……ねえ、本当は貴女、レオナード様のことが好きで好きで、脚本を全部燃やしてしまいたいほど嫉妬しているのでしょう?」
「な、ななな……何を仰いますの! 私はただ、王女としての義務を……」
「あら、耳の裏が赤くなっていてよ? その『本音を隠しきれない王女』という役柄……。今の貴女よりも、ずっと魅力的に演じられるはずですわ」
私は不敵に微笑みました。
シルヴィア様は、毒気に当てられたようにふらりとよろめきました。
「……ヨレン、君。……今の彼女へのアドバイス、最高だったよ。……シルヴィア、どうだ。この劇場で、君の『本心を見抜かれたくない王女』としてのデビュー公演をしてみないか?」
「レオナード様……。……わ、私は……」
シルヴィア様は、悔しそうに私を睨みつけましたが、その瞳には役者としての好奇心が、わずかに混ざり始めていました。
「……やってやりますわ! 貴女のその傲慢な演出を、私の『本気の純愛演技』で上書きして差し上げます! 覚悟なさいませ!」
「受けて立ちますわ。……リゼ、すぐにシルヴィア様の衣装合わせを。あ、タワシ(セラフィーナ)さんにも手伝わせて。……『元・聖女』と『現・王女』の競演なんて、チケット代が三倍に跳ね上がりますわね」
「承知いたしました、お師匠様!!」
こうして、劇場の楽屋にまた一人、面倒な「主役志望」が増えたのでした。
「……あ。ヨレン、私の出番は? 私はまだ、君の騎士としての立ち位置を確保できていないんだが……」
隅っこで忘れ去られていたアリスター殿下が、寂しそうに声を上げましたが、私はそれを華麗にスルーしました。
「さあ、皆様! 次は『嫉妬と陰謀の三重奏』の稽古を始めますわよ!!」
私の高笑いが、嵐の予感と共に劇場に響き渡りました。
興奮冷めやらぬ楽屋。
舞台衣装を脱ごうとした私の元に、大音量の「ソプラノ・ボイス」が飛び込んできました。
現れたのは、淡い水色のドレスを完璧に着こなし、一筋の乱れもない縦ロールを揺らす美少女。
隣国デトモルトの王女、シルヴィア様です。
彼女はハンカチを握りしめ、今にも倒れそうな「可憐な乙女」のポーズで私を指差しました。
(……あら、新しいキャラ。今度は『清純派の悲劇のヒロイン』担当かしら?)
私は扇を手に取り、ゆっくりと彼女に向き合いました。
舞台を終えた直後の私は、まだ「闇の皇妃」のメイクを落としておらず、威圧感だけは無駄にあります。
「……おやおや、レオナード様。こちらの可愛らしいお嬢様は、貴方の『共演者』のリストに載っていませんでしたわね?」
「ヨレン君、誤解しないでくれ。彼女は父上が勝手に決めた……いや、幼馴染のシルヴィアだ。……シルヴィア、君は実家で大人しく『おままごと』でもしているはずではなかったのか?」
レオナード様が、心底面倒くさそうな顔でため息をつきました。
シルヴィア様は顔を真っ赤にし、レオナード様の腕にしがみつこうとしました。
「おままごと!? 失礼な! 私は貴方の正妃になるべく、毎日三時間の『淑女らしい溜息』の練習を欠かさなかったのですよ! それなのに、貴方はこんな毒々しい女の脚本に溺れるなんて……!」
「三時間の溜息……? リゼ、今の台詞メモした?」
「はい、お師匠様! 『努力の方向性が狂っているライバル』という新ジャンルとして記録いたしましたわ!」
リゼが筆を走らせます。
シルヴィア様は、その様子を見てさらに憤慨したようです。
「ヨレン・ド・マニエール! 貴女のような『悪役』しか演じられない女が、レオナード様の隣にふさわしいはずがありませんわ! 本物の淑女というものが、どれほど気高く、そして『儚い』ものか……今ここで教えて差し上げます!」
シルヴィア様は、おもむろに楽屋の長椅子に身を投げ、片手を額に当てました。
「ああ……。あまりのショックで、私の繊細な心臓が……止まってしまいそう……。……レオナード様、どうか私に『真実の愛の口づけ』を……。そうしなければ、私はこのまま冷たい彫刻になってしまいますわ……」
(……古い。古すぎるわ。百年前のメロドラマかしら?)
私は呆れ果てて、レオナード様を見ました。
すると、彼は震える手で鼻を覆っているではありませんか。
「……っ!! 素晴らしい! シルヴィア、君、いつの間にそんな『時代遅れのベタな演技』を極めたんだ! 一周回って斬新だよ! その、わざとらしい睫毛の震わせ方……! まさに『伝統芸能』としてのヒロイン像だね!」
「レオナード様……!? 褒めてくださるのですか……?」
「ああ! 今の君なら、私の劇場の『悲劇の犠牲者A』の役を完璧にこなせるはずだ!」
「犠牲者A!? 私はヒロインになりに来たのですわよ!!」
シルヴィア様が椅子から跳ね起きました。
どうやら、この国の男たちは、女性の必死なアプローチをすべて「演技」として査定する不治の病にかかっているようです。
「シルヴィア様。……貴女のその演技、基礎はできていますけれど、いかんせん『毒』が足りませんわ」
私は彼女に歩み寄り、至近距離でその瞳を覗き込みました。
「清純を演じるなら、その裏にある『計算高さ』を観客にチラつかせなさい。ただの可哀想な女なんて、今の観客(レオナード様)は一分で飽きますわよ。……ねえ、本当は貴女、レオナード様のことが好きで好きで、脚本を全部燃やしてしまいたいほど嫉妬しているのでしょう?」
「な、ななな……何を仰いますの! 私はただ、王女としての義務を……」
「あら、耳の裏が赤くなっていてよ? その『本音を隠しきれない王女』という役柄……。今の貴女よりも、ずっと魅力的に演じられるはずですわ」
私は不敵に微笑みました。
シルヴィア様は、毒気に当てられたようにふらりとよろめきました。
「……ヨレン、君。……今の彼女へのアドバイス、最高だったよ。……シルヴィア、どうだ。この劇場で、君の『本心を見抜かれたくない王女』としてのデビュー公演をしてみないか?」
「レオナード様……。……わ、私は……」
シルヴィア様は、悔しそうに私を睨みつけましたが、その瞳には役者としての好奇心が、わずかに混ざり始めていました。
「……やってやりますわ! 貴女のその傲慢な演出を、私の『本気の純愛演技』で上書きして差し上げます! 覚悟なさいませ!」
「受けて立ちますわ。……リゼ、すぐにシルヴィア様の衣装合わせを。あ、タワシ(セラフィーナ)さんにも手伝わせて。……『元・聖女』と『現・王女』の競演なんて、チケット代が三倍に跳ね上がりますわね」
「承知いたしました、お師匠様!!」
こうして、劇場の楽屋にまた一人、面倒な「主役志望」が増えたのでした。
「……あ。ヨレン、私の出番は? 私はまだ、君の騎士としての立ち位置を確保できていないんだが……」
隅っこで忘れ去られていたアリスター殿下が、寂しそうに声を上げましたが、私はそれを華麗にスルーしました。
「さあ、皆様! 次は『嫉妬と陰謀の三重奏』の稽古を始めますわよ!!」
私の高笑いが、嵐の予感と共に劇場に響き渡りました。
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