悪役令嬢(演技)の卒業公演が、婚約破棄だった件について

恋の箱庭

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劇場のベルが三度鳴り、客席の灯りがゆっくりと落ちていきます。

今夜の演目は『三色の愛憎劇 ~偽りの乙女と真実の毒~』。
舞台上には、教会のステンドグラスを模した大道具と、重厚な玉座が配置されています。

「……リゼ、開演よ。あの子たちの立ち位置(バミリ)は?」

「完璧ですわ、お師匠様。シルヴィア様もタワシ……いえ、セラフィーナ様も、緊張を通り越して『ゾーン』に入っております」

私は漆黒のベールを被り、舞台中央へと踏み出しました。
観客席には、我が国の国王陛下と、隣国のフレデリック陛下が並んで座り、身を乗り出しています。

「……さあ、光の乙女たち。私を断罪しに来たというのなら、その覚悟を見せてごらんなさいな」

私が低く、地を這うような声で台詞を吐くと、舞台の両袖からシルヴィア様とセラフィーナ様が登場しました。
二人は純白のドレスを纏い、背中合わせでポーズを決めます。

「悪しき皇妃ヨレン! 貴女の支配もここまでですわ。あたくしの清らかな愛が、貴女の闇を浄化いたします!」

シルヴィア様の声は、三日間の特訓のおかげで、以前とは比較にならないほど芯が通っていました。

「左様ですわ! 貴女に踏みにじられた人々の涙を、私が聖なる祈りで光に変えてみせます!」

セラフィーナ様も、かつての「嘘くさい聖女」ではなく、内なる執念を「聖なる情熱」へと見事に変換しています。
……素晴らしいわ。二人とも、期待以上の「共演者(ライバル)」に育ってくれました。

舞台は進み、クライマックスの「決闘」のシーンへ。
レオナード様演じる公爵と、アリスター殿下演じる騎士が、私たち三人の間で揺れ動く場面です。

「……おお、誰を選べばいいのだ! ヨレンの毒ある魅力か、シルヴィアの無垢な愛か、それともセラフィーナの慈悲か!」

アリスター殿下が頭を抱えて叫びました。
台本ではここで私が二人を蹴散らすはずでしたが、ここでシルヴィア様が予定にない「アドリブ」を仕掛けてきました。

「……いいえ、騎士様! あたくしが愛しているのは、貴方でもレオナード様でもありませんわ!」

シルヴィア様が、レオナード様を突き飛ばして(!?)私の方へ歩み寄ってきました。

「あたくしが求めているのは、あたくしをここまで磨き上げた、貴女のその冷徹な『演出』なのですわ! ヨレン様、あたくしを貴女の専属ヒロインにしてくださらない!?」

「なっ……!?」

私は役を忘れ、目を見開きました。
すると、セラフィーナ様までもがモップ……ではなく、聖杖を放り投げて私に跪いたのです。

「私もですわ! 王子なんてどうでもいい! 私は貴女に叱られている時が、一番自分が『聖女』らしく輝いていると感じるのです! お師匠様、一生貴女の掃除番として仕えさせてください!!」

会場は水を打ったように静まり返りました。
……脚本が、脚本が木っ端微塵ですわ!

「ちょ、ちょっとお二人とも、何を仰って……」

私が戸惑っていると、舞台袖からレオナード様が満面の笑みで飛び出してきました。

「ブラボー!! 究極のどんでん返しだ! 愛のベクトルが全て『悪役』に集中するという、前代未聞の叙述トリック!! ヨレン君、君の魅力はついに性別も立場も超越したんだね!!」

「レオナード様、感心している場合ではございませんわ!!」

「私もだ、ヨレン! 彼女たちが君を慕うなら、私も負けてはいられない! 私は君の『下僕』として、この舞台の一部になりたいんだ!」

アリスター殿下まで膝をつき、舞台上は私を中心に四人の男女が跪くという、もはや何の劇だか分からない惨状になりました。

客席のフレデリック陛下が、立ち上がって机を叩きました。

「はっはっは!! 面白い! これぞ真の芸術! 脚本を超えた『魂の暴走』だ!!」

国王陛下も「ヨレンよ、お前はどこまで人を狂わせれば気が済むのだ……」と、呆れながらも爆笑しています。

「……お師匠様。これ、どうやって幕を降ろしましょう……?」

舞台袖でリゼが真っ青な顔でカンペを出していますが、そんなもの、今の四人の耳には届きません。

「……よろしいわ、皆様。そこまで仰るなら、私の『王国』で一生飼い殺して差し上げますわよ!!」

私は開き直り、扇をバサリと広げて、四人をまとめて見下ろしました。
これぞ、究極の「悪役令嬢」の凱旋。

「さあ、喝采をなさい! 脚本のない、私だけの物語の始まりですわ!!」

私の叫びと共に、劇場が崩れんばかりの大歓声と拍手に包まれました。
愛も、憎しみも、執着も、全てを舞台の上の「演出」として飲み込み、私は最高のフィナーレ(仮)を飾ったのでした。

……まあ、終演後にシルヴィア様とセラフィーナ様が「どっちがヨレン様の隣で寝るか」という本気の取っ組み合いを始めた時は、本気で舞台の幕を下ろしましたけれど。
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