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「やった……やったわ……!」
翌朝。
クロック公爵家の自室で、私はベッドの上でガッツポーズを決めていた。
枕元には、ふかふかのクッション。
昨夜は一晩中、このクッションに顔を埋めて泣き明かした。
目が腫れてパンパンだし、頭も痛い。
けれど、私の心はこれ以上ないほどの達成感に満たされていた。
「成功よ! 完璧な作戦勝ちだわ!」
私はベッドから飛び起き、ドレッサーの鏡に向かってVサインを作った。
鏡の中の私は、ひどい顔をしている。
泣きはらした目、ボサボサの髪。
まさに『婚約破棄されて絶望する女』のビジュアルそのものだ。
「ふふふ……これなら誰が見ても、私が『惨めに捨てられた元婚約者』に見えるはずよ」
昨夜の夜会での出来事を思い出す。
ワインまみれになりながら、私は殿下に罵声を浴びせ(たつもり)、身を引くことを提案した。
そして殿下は、あの氷のような冷徹な声で告げたのだ。
『望み通りにしてやろう』と。
「ああ、あの時の殿下のお声……ゾクゾクするほど冷たくて素敵だったわ……」
思い出すだけでご飯三杯はいける。
私のこの汚れた存在が、殿下の視界から消去された瞬間。
それはつまり、殿下の輝かしい未来から『シミ』が取り除かれたということ。
「これで殿下はミナ様と結ばれる。私はその尊いカップリングを、遠くから見守るモブAになれるのね!」
なんて素晴らしいハッピーエンド。
私は鼻歌交じりにクローゼットを開け、荷造りを始めた。
婚約破棄された以上、この王都に私の居場所はない。
実家の領地――それも、一番端っこにあるド田舎の別荘へ『追放』されることになるだろう。
「追放……いい響きだわ。悲劇のヒロインっぽくて最高じゃない」
そこへ、コンコンとノックの音がした。
「お嬢様、お客様です」
メイドの声に、私は手を止める。
「お客様? こんな朝早くに?」
「はい。近衛騎士団長のアレク様が、王太子殿下からの『通達』をお持ちになりました」
「!!!」
来た。
正式な『婚約破棄通知書』、もしくは『国外追放命令書』だわ!
私は慌てて髪を整え(あえて少し乱れたままにして悲壮感を演出)、部屋を出た。
◇
応接室に入ると、アレク様が眉間に深い皺を寄せて座っていた。
その顔色は悪く、まるで三日三晩徹夜したようなやつれようだ。
「……ごきげんよう、アレク様」
私は殊勝な態度で頭を下げた。
アレク様は私を見ると、深いため息をついた。
「ラヴィニア嬢。……昨夜はよく眠れましたか?」
「ええ、おかげさまで。(泣き疲れて気絶するように)熟睡しましたわ」
「そうですか。こちらは殿下が荒れに荒れて、一睡もできていないというのに」
「あら……」
私は口元を押さえた。
殿下が荒れている?
「やはり、私の無礼な振る舞いに腹を立てていらっしゃるのですね? 『あんな女と婚約していたなんて黒歴史だ』と、怒り狂っていらっしゃるのですね!?」
「……まあ、怒り狂っているのは事実ですが」
「やりましたわ!」
私は思わず拳を握りしめた。
「ありがとうございます! 殿下にそこまで嫌われるなんて、悪役冥利に尽きます!」
「……」
アレク様が、ゴミを見るような、あるいは理解不能な宇宙生物を見るような目で私を見ている。
「はあ……。貴女という人は、本当に……」
彼は懐から、王家の紋章が入った封筒を取り出した。
「殿下からの沙汰です」
「はいっ!」
私は正座をして(ドレスだけど)、うやうやしく受け取った。
ついに来た。私の処刑宣告。
震える手で封を開け、中身を取り出す。
そこには、殿下の流麗な筆跡でこう書かれていた。
『ラヴィニア・クロックとの婚約を白紙に戻す』
「やったぁぁぁぁぁ!!」
私は歓喜の雄叫びを上げた。
「見ましたかアレク様! 白紙ですって! 完全なる破局! ジ・エンド!」
「……最後まで読みなさい」
「え?」
アレク様に促され、私は続きに目を落とした。
『つきましては、ラヴィニア・クロックに謹慎を命じる。北の離宮……いや、さらに遠方、クロック領の最北端にある別荘にて、頭を冷やすように』
「最北端の別荘……!」
私は目を輝かせた。
そこは『終わりの地』と呼ばれるほどのド田舎だ。
冬は雪に閉ざされ、夏は虫の声しか聞こえない、世捨て人の楽園。
「素晴らしいわ! 最高の追放先ね! 殿下は私の好みを完全に把握していらっしゃる!」
「……あの場所は、何もないところですよ? 娯楽も、煌びやかな社交界も」
「それがいいのです! 殿下のグッズ(隠し撮り写真や自作の肖像画)に囲まれて、静かに余生を過ごす。これぞ私の求めていたスローライフ!」
私は書類を抱きしめてうっとりした。
アレク様はこめかみを指で揉んでいる。
「……ラヴィニア嬢。一つだけ言っておきますが、殿下は本気で怒っていますよ」
「ええ、存じております。私の顔も見たくないのでしょう?」
「見たくない、というか……」
アレク様は言い淀み、苦々しい顔をした。
「『俺の気持ちも知らないで、勝手にシナリオを進めるな』と仰っていました」
「ふふっ、殿下ったら。私の完璧な悪役演技に、プライドを傷つけられたのね」
私はポジティブに解釈した。
有能な殿下にとって、婚約者ごときにコントロールされるのは我慢ならないはず。
だからこその『謹慎処分』。
「伝えてください、アレク様。『二度と殿下の前に現れません。どうぞミナ様とお幸せに』と」
「……伝えませんよ。火に油を注ぐだけですから」
アレク様は立ち上がった。
「出発は明日です。護衛の騎士をつけますから、大人しくしていてください」
「護衛!? 監視役までつけてくださるなんて、殿下の手回しの良さには感動ですわ!」
「……もう勝手にしてください」
アレク様は疲れ切った背中を見せて帰っていった。
私は一人、応接室で小躍りした。
「明日出発! 急いで準備しなきゃ!」
部屋に戻り、私はトランクに荷物を詰め込んだ。
ドレス? いらないわ、田舎では動きやすい服が一番。
宝石? 置いていくわ、向こうでは木の実が宝石よ。
一番大事なのは――。
「殿下の幼少期の肖像画(模写)、殿下が初めてスピーチした時の新聞の切り抜き、殿下が使っていた羽ペンの羽(落ちてたのを拾った)……」
私のコレクションを丁寧に梱包する。
これさえあれば、無人島でも生きていける。
「さようなら、王都。さようなら、私の推し」
窓の外、王宮の方角を見つめる。
胸の奥がチクリと痛んだが、私はそれを無視した。
「これでいいの。私は物語の退場者。あとはハッピーエンドを見守るだけ……」
涙が一粒こぼれそうになったが、私はそれを笑顔で拭った。
◇
一方その頃。
王城の執務室では、書類の山に埋もれたフリード王太子が、青い炎のようなオーラを放っていた。
「……行ったか、アレク」
戻ってきた騎士団長に、書類から目を離さずに問う。
「はい。通達は渡しました」
「あいつの反応は?」
「……大喜びでした。『最高の追放先だ』と」
バキッ。
フリードの手の中で、高級な羽ペンがへし折れた。
「……そうか。そんなに俺から離れられて嬉しいか」
フリードは折れたペンを投げ捨て、椅子に深く沈み込んだ。
その美しい顔は、怒りと、それ以上の執着で歪んでいる。
「ラヴィニア……お前は勘違いしている」
彼は昨夜の彼女を思い出していた。
ワインに濡れ、震えながら「私を捨ててください」と言った彼女。
その瞳が、悲痛なほどに彼への愛を叫んでいたことを、彼は見逃してはいなかった。
『嫉妬に狂った』? 嘘だ。
彼女は自分を悪者に仕立て上げ、身を引こうとしたのだ。
なぜか。
『私のような女は相応しくない』という、彼女特有の卑屈すぎる思考回路のせいで。
「俺が好きなのはお前だ。昔から、お前以外いないというのに……」
フリードは額に手を当て、低い唸り声を上げた。
「なぜ伝わらない? これほど愛しているのに、なぜあいつは俺を『神棚』に飾ろうとするんだ?」
「殿下、ラヴィニア嬢にとって貴方は人間ではありませんからね。信仰対象ですから」
アレクが冷静にツッコミを入れる。
「うるさい。……だが、いい機会だ」
フリードは顔を上げた。
その瞳には、獲物を追い詰める狩人の光が宿っていた。
「あいつは一度、頭を冷やした方がいい。俺への過剰な崇拝心と、自己評価の低さを矯正する必要がある」
「まさか、あの別荘送りは……」
「冷却期間(クールダウン)だ。物理的に距離を置いて、少しは俺のありがたみを……いや、違うな。俺がいない寂しさを味わわせる」
フリードはニヤリと笑った。
「そして、寂しくて泣いているところに俺が現れ、救い出す。そうすれば、あいつも少しは俺を『男』として意識するだろう」
「……歪んでますね」
「愛ゆえだ」
フリードは立ち上がり、窓の外を見つめた。
「逃がさないぞ、ラヴィニア。お前がどんなに逃げようと、俺の手のひらの上だ」
彼の背後には、黒いオーラと共に『絶対に捕まえる』という執念の文字が浮かんでいるようだった。
「準備をしておけ、アレク。一週間後、俺も別荘へ行く」
「……は? 公務はどうするんです?」
「今から徹夜で片付ける。死ぬ気でやれ」
「ひえっ」
王太子の恋の暴走は、まだ始まったばかりだった。
そんなこととは露知らず、私は翌日、ウキウキ気分で王都を旅立つのだった。
翌朝。
クロック公爵家の自室で、私はベッドの上でガッツポーズを決めていた。
枕元には、ふかふかのクッション。
昨夜は一晩中、このクッションに顔を埋めて泣き明かした。
目が腫れてパンパンだし、頭も痛い。
けれど、私の心はこれ以上ないほどの達成感に満たされていた。
「成功よ! 完璧な作戦勝ちだわ!」
私はベッドから飛び起き、ドレッサーの鏡に向かってVサインを作った。
鏡の中の私は、ひどい顔をしている。
泣きはらした目、ボサボサの髪。
まさに『婚約破棄されて絶望する女』のビジュアルそのものだ。
「ふふふ……これなら誰が見ても、私が『惨めに捨てられた元婚約者』に見えるはずよ」
昨夜の夜会での出来事を思い出す。
ワインまみれになりながら、私は殿下に罵声を浴びせ(たつもり)、身を引くことを提案した。
そして殿下は、あの氷のような冷徹な声で告げたのだ。
『望み通りにしてやろう』と。
「ああ、あの時の殿下のお声……ゾクゾクするほど冷たくて素敵だったわ……」
思い出すだけでご飯三杯はいける。
私のこの汚れた存在が、殿下の視界から消去された瞬間。
それはつまり、殿下の輝かしい未来から『シミ』が取り除かれたということ。
「これで殿下はミナ様と結ばれる。私はその尊いカップリングを、遠くから見守るモブAになれるのね!」
なんて素晴らしいハッピーエンド。
私は鼻歌交じりにクローゼットを開け、荷造りを始めた。
婚約破棄された以上、この王都に私の居場所はない。
実家の領地――それも、一番端っこにあるド田舎の別荘へ『追放』されることになるだろう。
「追放……いい響きだわ。悲劇のヒロインっぽくて最高じゃない」
そこへ、コンコンとノックの音がした。
「お嬢様、お客様です」
メイドの声に、私は手を止める。
「お客様? こんな朝早くに?」
「はい。近衛騎士団長のアレク様が、王太子殿下からの『通達』をお持ちになりました」
「!!!」
来た。
正式な『婚約破棄通知書』、もしくは『国外追放命令書』だわ!
私は慌てて髪を整え(あえて少し乱れたままにして悲壮感を演出)、部屋を出た。
◇
応接室に入ると、アレク様が眉間に深い皺を寄せて座っていた。
その顔色は悪く、まるで三日三晩徹夜したようなやつれようだ。
「……ごきげんよう、アレク様」
私は殊勝な態度で頭を下げた。
アレク様は私を見ると、深いため息をついた。
「ラヴィニア嬢。……昨夜はよく眠れましたか?」
「ええ、おかげさまで。(泣き疲れて気絶するように)熟睡しましたわ」
「そうですか。こちらは殿下が荒れに荒れて、一睡もできていないというのに」
「あら……」
私は口元を押さえた。
殿下が荒れている?
「やはり、私の無礼な振る舞いに腹を立てていらっしゃるのですね? 『あんな女と婚約していたなんて黒歴史だ』と、怒り狂っていらっしゃるのですね!?」
「……まあ、怒り狂っているのは事実ですが」
「やりましたわ!」
私は思わず拳を握りしめた。
「ありがとうございます! 殿下にそこまで嫌われるなんて、悪役冥利に尽きます!」
「……」
アレク様が、ゴミを見るような、あるいは理解不能な宇宙生物を見るような目で私を見ている。
「はあ……。貴女という人は、本当に……」
彼は懐から、王家の紋章が入った封筒を取り出した。
「殿下からの沙汰です」
「はいっ!」
私は正座をして(ドレスだけど)、うやうやしく受け取った。
ついに来た。私の処刑宣告。
震える手で封を開け、中身を取り出す。
そこには、殿下の流麗な筆跡でこう書かれていた。
『ラヴィニア・クロックとの婚約を白紙に戻す』
「やったぁぁぁぁぁ!!」
私は歓喜の雄叫びを上げた。
「見ましたかアレク様! 白紙ですって! 完全なる破局! ジ・エンド!」
「……最後まで読みなさい」
「え?」
アレク様に促され、私は続きに目を落とした。
『つきましては、ラヴィニア・クロックに謹慎を命じる。北の離宮……いや、さらに遠方、クロック領の最北端にある別荘にて、頭を冷やすように』
「最北端の別荘……!」
私は目を輝かせた。
そこは『終わりの地』と呼ばれるほどのド田舎だ。
冬は雪に閉ざされ、夏は虫の声しか聞こえない、世捨て人の楽園。
「素晴らしいわ! 最高の追放先ね! 殿下は私の好みを完全に把握していらっしゃる!」
「……あの場所は、何もないところですよ? 娯楽も、煌びやかな社交界も」
「それがいいのです! 殿下のグッズ(隠し撮り写真や自作の肖像画)に囲まれて、静かに余生を過ごす。これぞ私の求めていたスローライフ!」
私は書類を抱きしめてうっとりした。
アレク様はこめかみを指で揉んでいる。
「……ラヴィニア嬢。一つだけ言っておきますが、殿下は本気で怒っていますよ」
「ええ、存じております。私の顔も見たくないのでしょう?」
「見たくない、というか……」
アレク様は言い淀み、苦々しい顔をした。
「『俺の気持ちも知らないで、勝手にシナリオを進めるな』と仰っていました」
「ふふっ、殿下ったら。私の完璧な悪役演技に、プライドを傷つけられたのね」
私はポジティブに解釈した。
有能な殿下にとって、婚約者ごときにコントロールされるのは我慢ならないはず。
だからこその『謹慎処分』。
「伝えてください、アレク様。『二度と殿下の前に現れません。どうぞミナ様とお幸せに』と」
「……伝えませんよ。火に油を注ぐだけですから」
アレク様は立ち上がった。
「出発は明日です。護衛の騎士をつけますから、大人しくしていてください」
「護衛!? 監視役までつけてくださるなんて、殿下の手回しの良さには感動ですわ!」
「……もう勝手にしてください」
アレク様は疲れ切った背中を見せて帰っていった。
私は一人、応接室で小躍りした。
「明日出発! 急いで準備しなきゃ!」
部屋に戻り、私はトランクに荷物を詰め込んだ。
ドレス? いらないわ、田舎では動きやすい服が一番。
宝石? 置いていくわ、向こうでは木の実が宝石よ。
一番大事なのは――。
「殿下の幼少期の肖像画(模写)、殿下が初めてスピーチした時の新聞の切り抜き、殿下が使っていた羽ペンの羽(落ちてたのを拾った)……」
私のコレクションを丁寧に梱包する。
これさえあれば、無人島でも生きていける。
「さようなら、王都。さようなら、私の推し」
窓の外、王宮の方角を見つめる。
胸の奥がチクリと痛んだが、私はそれを無視した。
「これでいいの。私は物語の退場者。あとはハッピーエンドを見守るだけ……」
涙が一粒こぼれそうになったが、私はそれを笑顔で拭った。
◇
一方その頃。
王城の執務室では、書類の山に埋もれたフリード王太子が、青い炎のようなオーラを放っていた。
「……行ったか、アレク」
戻ってきた騎士団長に、書類から目を離さずに問う。
「はい。通達は渡しました」
「あいつの反応は?」
「……大喜びでした。『最高の追放先だ』と」
バキッ。
フリードの手の中で、高級な羽ペンがへし折れた。
「……そうか。そんなに俺から離れられて嬉しいか」
フリードは折れたペンを投げ捨て、椅子に深く沈み込んだ。
その美しい顔は、怒りと、それ以上の執着で歪んでいる。
「ラヴィニア……お前は勘違いしている」
彼は昨夜の彼女を思い出していた。
ワインに濡れ、震えながら「私を捨ててください」と言った彼女。
その瞳が、悲痛なほどに彼への愛を叫んでいたことを、彼は見逃してはいなかった。
『嫉妬に狂った』? 嘘だ。
彼女は自分を悪者に仕立て上げ、身を引こうとしたのだ。
なぜか。
『私のような女は相応しくない』という、彼女特有の卑屈すぎる思考回路のせいで。
「俺が好きなのはお前だ。昔から、お前以外いないというのに……」
フリードは額に手を当て、低い唸り声を上げた。
「なぜ伝わらない? これほど愛しているのに、なぜあいつは俺を『神棚』に飾ろうとするんだ?」
「殿下、ラヴィニア嬢にとって貴方は人間ではありませんからね。信仰対象ですから」
アレクが冷静にツッコミを入れる。
「うるさい。……だが、いい機会だ」
フリードは顔を上げた。
その瞳には、獲物を追い詰める狩人の光が宿っていた。
「あいつは一度、頭を冷やした方がいい。俺への過剰な崇拝心と、自己評価の低さを矯正する必要がある」
「まさか、あの別荘送りは……」
「冷却期間(クールダウン)だ。物理的に距離を置いて、少しは俺のありがたみを……いや、違うな。俺がいない寂しさを味わわせる」
フリードはニヤリと笑った。
「そして、寂しくて泣いているところに俺が現れ、救い出す。そうすれば、あいつも少しは俺を『男』として意識するだろう」
「……歪んでますね」
「愛ゆえだ」
フリードは立ち上がり、窓の外を見つめた。
「逃がさないぞ、ラヴィニア。お前がどんなに逃げようと、俺の手のひらの上だ」
彼の背後には、黒いオーラと共に『絶対に捕まえる』という執念の文字が浮かんでいるようだった。
「準備をしておけ、アレク。一週間後、俺も別荘へ行く」
「……は? 公務はどうするんです?」
「今から徹夜で片付ける。死ぬ気でやれ」
「ひえっ」
王太子の恋の暴走は、まだ始まったばかりだった。
そんなこととは露知らず、私は翌日、ウキウキ気分で王都を旅立つのだった。
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