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本編

8:優しい魔王

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 メディが部屋から出ていって、扉が閉まる。

 残されたのは俺とヒルドの二人。

 わ、若い二人でゆっくりって何したらいいんだろうか……?

 二人っきりになった部屋でどうしようか迷っていると、ヒルドが繋いだままの俺の手を柔らかく握る。

「っ……!」

 彷徨わせていた視線をヒルドへと向ければ、ヒルドが口を開いた。

「母がすまない。普段からあの調子でな……旅の途中でも迷惑をかけたのではないか?」
「そ、そんな事ない! メディがいたから、なんとか旅を続けてこれたんだ!」

 元一般人が勇者なんて辛い事だらけだ。勇者としての役目しか興味のないカルラとアンヌ。敵を殺す事を強要され、命を奪う重圧を軽くしてくれたのはメディだった。

「一緒に飲んで、愚痴も聞いてくれて……逃げてもいいって、逃がしてやるって言ってくれたから……成り行きで仲間になったメディに迷惑かけられないと思って、頑張ってたけど……こっち側だったのならさっさと連れてきてもらった方が良かったかもな」

 捨て駒として、爆散させようとした人間側より、庇ってくれたヒルドや支えてくれたメディの居る魔族側が良心的なのは確かだ。

 メディに言われるままに逃げていれば……俺が奪った命を減らす事ができたのかもしれない。

「……実を言うと、母から勇者の事は聞いていた。共に飲んでいて楽しい男だが、優しい努力家だと」

 報告がいっていたのは、少し気恥ずかしい。たぶん、俺の不甲斐ない話もいってるだろうし……。

 でも、優しいとか、努力家って褒められるのは嬉しくもあり、恥ずかしくもありだ。

 それに……本当は、逃げる勇気もなかっただけな気もするし……。

「異なる世界から来たヒカルからしたらこの世界は、厳しいものだっただろう。お前は頑張った。途中で力尽きる事無く我が城までたどり着いたのだ。それは、誇っていい」

 優しく俺を認めてくれる言葉。じわりと心が暖かくなり、ぼろりと涙がこぼれた。

「あんた……これ以上俺を好きにさせてどうすんだよ」

 かっこよくて、優しくて。一目惚れだけじゃなく、ヒルドの人柄も好きになっていく。

「好ましく思ってもらえるのは嬉しい」

 ヒルドが俺の手を包んでいた方の手を伸ばして、頬に伝う涙を拭う。

「同時に、我もヒカルの事をよく知りたい。どうかヒカルの口からお前自身の事を聞かせて貰えないだろうか」
「い、いくらでも教える~……」

 俺自身の事とか、元の世界……地球の事とか、この世界で嬉しかった事とか……。

 いっぱいいっぱい話したい。そして……。

「ヒルドの、事も……聞かせて、くれるんだよな?」
「もちろんだ。互いに語ろう」

 涙を拭っていたヒルドの手が、俺の頬を優しく撫でる。

 涙で濡れた指先はつるりとして、どこか冷えていたけど……あたたかな温もりを感じた気がした。
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