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二章:二度目の幽世

14:初出勤の洗礼

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 渉が一通り説明を受けた頃、渉に仕事を教えていた店長が渉へと尋ねる。

「どう?やっていけそう?」
「はい、仕事はなんとか」
「それならよかった。さ、これから忙しくなる時間だから頑張ろう。いやー、ピークが来る前に説明できてよかったー」

 覚えの早い渉に一安心といった様子の店長が言葉を続けた。

「八時に昼のフリータイムが終わるんだけどさ。そこから夜のお客さんも増えて忙しくなるんだよねぇ」

 店長の言葉からすると時間が夕方から夜へと変わり、客層も変わるのだろうと渉は察する。

 そして、その渉の考えは当たっていて、昼間は、安く遊びたい学生がフリータイムを利用する事が多い為、フードや酒類が出る事は少ないが夜は、飲み会や飲み会からの二次会でつまみや酒類が多く出るようになると店長は渉へと説明した。

「面接でも言ったけど、夜はお酒入ったお客さんも多いから、何か問題起きたら遠慮なく僕を呼んでね。休みの日とか、出勤前とかだったら電話してもいいからバイトだけでなんとかしようとしないで」
「わかりました」
(ありがたいけど……店長って大変だなぁ……)

 過去の厄介な客を思い出したのか苦笑する店長に、渉は管理職って大変だと思いながら、相槌を打つ。

「あとは……普通に危ないと思ったら迷わずに警察呼んでもいいしね。怪我だけはしないように気を付けて」
「はい」
(……町でのバイトってどうなるか不安だったけど、こうやって言ってくれるだけいい所……かな?)

 高校時代は、部活をしていたのでバイトはしてこなかった渉だが、夏休みなどで実家や近所の農家を手伝う事があった。それがバイト代わりだった為、小遣いに困る事はなかったがこうして他所で働くのは初めて。初心者も初心者だった。

 それゆえにどんなバイトをするか迷ったのだが……せっかくなのだから町でしかできないバイトをしようと考えた結果のカラオケ店でのバイトを選んだのだ。

 夜勤の給料は高めだし、学校からも駅からも近い。店長の言ったように酔っぱらいの対応などは心配だが、店長から受けた説明はわかりやすいものだった為、今のところの印象はそれほど悪いものではなかった。

 とは言うものの……店長の言う通り忙しいのは事実であり、渉もその忙しさの洗礼を受けるのであったが。

 店長の語っていたピークタイム。アルコールの飲み放題に入っている部屋が多いせいか、渉はビールからハイボール、各種カクテルなど、作っては運び、作っては運びを繰り返し続けた。

 しかも、客達の飲み切るペースの早い事早い事。入ったオーダーを順番に各部屋に配膳した後、また最初の部屋から次のオーダーが入るのは当たり前。

 行きは、中身の入ったグラスでいっぱいのトレイ。帰りは、空になったグラスでひしめき合ったトレイ。それを落とさないように行ったり来たり。

 目の回るような忙しさが落ち着いたのは深夜も過ぎた頃だった。
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