転生したので前世の大切な人に会いに行きます!

本見りん

文字の大きさ
11 / 62

レーベン王国 会議 その壱

しおりを挟む



「ラングレー侯爵が……、筆頭魔法使いが目を覚ましたのだろう!? 早く王宮に出仕させるのだ!」

 そう叫ぶのはこのレーベン王国の宰相。
 それを聞いた若干18歳で本来まだ学生であるハインツ ラングレーは苦々しい思いで答える。


「我が父は目覚めたとはいえ未だ起き上がる事もままなりません。約一年の昏睡状態で身体は痩せ衰え当時の面影もない程なのでございます」


 その答えに会議会場は騒然とした。筆頭魔法使いであった父の力は飛び抜けていて、もし倒れる事なくあのままその立場に居たのなら街の復興は勿論の事、魔物によって荒らされた田畑や河川の復旧も随分と進んでいた事だろう。

「そんな……! 筆頭魔法使いもそのような状態、そして次期筆頭と言われた嫡男も亡くなるとは……。我が国はいったいどうすればよいのだ」

「既に一年以上経つというのに国内はまだこの状態。残る我らの力だけでは国の復興は、いったいいつまでかかるか分からんぞ……」

 弱音を吐くばかりの大臣達だが、今のこの国の不安材料はそれだけではない。近隣諸国の動向。この国がここまで弱り切っている状況を知られたら、周辺国にはこれ幸いと攻め込まれ属国とされる恐れもある。

 しかしそれを分かっていたとしても、皆敢えてそれを言い出せずにいた。あれから一年経ってもこの国の復興がほとんど進んでいないからだ。大多数の国民が酷い状況に置かれている今、戦力の増強などに力を入れれば今度は内側から国民の暴動が起こるだろう。今この国はそれ程切羽詰まった状況なのだ。


「それならば……、魔物を殲滅させた魔法使いを早く見つけ出すのだ!」

 一つの声があがる。

「あれだけの魔物を殲滅させる力を持っておきながら、その後その姿を現さぬ身勝手な魔法使いを探すのだ!」

「そうだ! なんと薄情な奴なのだ! さっさと我が国の復興の為にその力を使うべきであるというのに!」

「いやそもそも、何故これ程の被害が出るまで力を行使せず魔物達を放置したのか……!」


 更に会議は紛糾した。

 ハインツは心の中で呆れてその様子を見ていた。

 ……彼らは、自分たちがどれだけ自分勝手な都合の良い事を言っているのか分かっていないのか?

 これまでレーベン王国の為に身を粉にして尽くした我が父。一年もの昏睡状態から目覚めてまだ思うように動けないその父を気遣うどころか仕事をしろ?

 そしてあの大災害時この国を救ったとされる謎の魔法使い……。その者に感謝をするどころかこのように戦犯扱いをするとは。


 ……我が国を襲った未曾有の事態に現れたとされる、まるで伝説の巨大な魔法力を持った魔法使い。
 初めはこの国の魔法使いの誰かが命と引き換えにでもして大きな力を引き出し魔物を殲滅したのではと考えられたのだ。だがその様な該当者もいない為今では謎の魔法使いが現れたとの説が有力だ。

 ……我が国には伝説がある。この国に危機が訪れる時には偉大な魔法使いが生まれるという。
 しかしあの時この国で一番強い力を持っていたのは父ラングレー侯爵であったし、おそらくその次は死んだ我が兄。その2人でさえあれ程大群の魔物達にいきなり襲われてはまるで太刀打ちできなかった。

 それが、何者か強力な力を持つ魔法使いが一瞬のうちにあの魔物の大群を殲滅した。それを、人々は『伝説の魔法使い』ではないかと言い出しているのだ。

 王国のお偉い方達は今の救いのないこの状況から目を逸らし、何とかその伝説の魔法高いとやらに縋り付き救いを求めているのだろうが……。


「ラングレー侯爵家の長女シルビア嬢は確か奇跡的に生き残られたのですな? 屋敷に住む他の家族が亡くなって彼女だけが生きているのは、もしやシルビア嬢が伝説の魔法使い、という事ではないのか!?」

 元から国一番の魔法使いの家系である我が家では、一番その『伝説の魔法使い』説を疑われている。ハインツも随分と怪しまれたが、残念ながら彼にそこまでの力がない事は明らかだった。

「……何度も説明しました様に、姉は屋敷の地下室におりましたので無事だっただけなのです」

 ハインツはもう何度目になるか分からない説明をする。

「……それなのだが……。何故シルビア嬢は地下室にいて無事であったのに、侯爵夫人は亡くなられたのだ?」

 不躾な質問だが、これも今まで何度も問われた。

「……おそらくは魔物達を娘の隠れる地下に行かせないよう、囮になるために母は出たのではないかと」

 ハインツも、これまでと同じ答えを返す。

 ……実は近頃姉にはこのレーベン王国のクリストフ王子との縁談が上がっている。
 姉は王子よりも2歳年上で特別優秀な訳ではない。通常ならば候補に上がる事はないのだろうが、この非常時に優秀な魔法使いの血筋を王家に残す為、そして他の有力な候補が悉く亡くなった為に姉の名が上がってきている。
 だからこそ姉のその人となりを確かめる為に余計にこの様な質問がされるのだ。

 姉には公爵家嫡男の婚約者がいたが、あの魔物騒動で亡くなった。であるから、一定数姉を王子妃候補にと推す貴族達がいる。


 そこに、ハインツが今までにされた事のない質問が飛び出した。


「……それでは、何故セリーナ嬢は死んだのだ?」


 今まで黙っていた、この国の王子クリストフだった。


 ……セリーナ? 何故殿下がアレの事を?

 そう一瞬疑問に思いクリストフ王子の顔を見る。王子は真剣な顔でハインツを見ていた。

 ……そうだ。この方はいつぞやの茶会でセリーナをお気に召したのだった。見かけだけはかなり美しい少女であった妹。
 ……その時のゴタゴタでアレを領地に押し込めようと家族で決めた。……その晩に魔物達が襲って来たのだったな。


「妹もおそらくは初めは共に地下室に行ったのだと思いますが……」

 ……そうだ。何故あの時セリーヌは地下に居なかったのだろう。姉シルビアとの部屋は近いし、初めは共に避難したはずだ。

「……母である侯爵夫人に、ついて行ったのではないでしょうか。あの子は母にとても懐いておりましたので……」

 ……あの非常時に母を案じ共についていったのだとしたら、アレも案外可愛いところもあったのだな。

 などと、ハインツは呑気に考えていたのだが。


「……それを、侯爵夫人は止めなかったというのか? 娘を案じ命をかけてまで囮になろうとした母親が、安全な地下から娘が共に出る事を許したと?」

 王子は鋭く追及してきた。ハインツはドクリと嫌な胸騒ぎの様な不安が起こる。

 ……確かに。母は地下室を出る時に魔法で鍵を閉めたはずだ。娘を救う為に囮として外へ出たのなら当然そうしただろう。そして魔法の使えないセリーナにそれを開けてまで追う事は不可能だ。


「……それは……。では最初に地下から飛び出したのはセリーナで、それを母が追いかけたのでは……」

「……初めにもその地下室には鍵がかけられていたはずであろう、いったい誰がその鍵を開けたというのだ? セリーナ嬢には魔法の鍵を開ける事は出来なかったはずだ」


 戸惑いながらも答えたハインツに、王子がそう畳み掛けた。


 ハインツは今まで考えもしなかった可能性に気付き動揺していた。
 ……『誰が』魔法の鍵を開けたのか。母でなく、魔法の使えないセリーナでもないのだとしたら……。


 ……そして、ハインツは不意に何故か思い出していた。

 幼い頃、夜中に妙な魔法の気配を感じ部屋を出たハインツが見た、1人廊下を歩く姉シルビアを。セリーナの部屋から出て来たいつもは優しいはずの姉の、……あの恐ろしい横顔を。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com
恋愛
 完結しました。 説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。  気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。  原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。  えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!  腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!  私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!  眼鏡は顔の一部です! ※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。 基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。 途中まで恋愛タグは迷子です。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ
恋愛
 侯爵令嬢のアンネマリーは流行り病で生死を彷徨った際に、前世の記憶を思い出す。前世では地球の日本という国で、婚活に勤しむアラサー女子の杏奈であった自分を。  病から回復し、今まで家や家族の為に我慢し、貴族令嬢らしく過ごしてきたことがバカらしくなる。  また、自分を蔑ろにする婚約者の存在を疑問に感じる。 「あんな奴と結婚なんて無理だわー。」  無事に婚約を解消し、自分らしく生きていこうとしたところであったが、不慮の事故で亡くなってしまう。  そして、死んだはずのアンネマリーは、また違う人物にまた生まれ変わる。アンネマリーの記憶は殆ど無く、杏奈の記憶が強く残った状態で。  生まれ変わったのは、アンネマリーが亡くなってすぐ、アンネマリーの従姉妹のマリーベルとしてだった。  マリーベルはアンネマリーの記憶がほぼ無いので気付かないが、見た目だけでなく言動や所作がアンネマリーにとても似ていることで、かつての家族や親族、友人が興味を持つようになる。 「従姉妹だし、多少は似ていたっておかしくないじゃない。」  三度目の人生はどうなる⁈  まずはアンネマリー編から。 誤字脱字、お許しください。 素人のご都合主義の小説です。申し訳ありません。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...