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宴たけなわと盛り上がる大広間は別にして、その他の場所では疲労のためバタバタと使用人達が抜けていった。
その後の見通しもついてきたため、前日から夜通し働き続けた彼らもやっと交代で休憩に入ることが出来る――宴が終われば、それはそれでまた雑事に追われることとなるので、先を争うようにして皆休憩に入った。
けれども、昼間学び舎へ行っていたヴィーネに、休憩の許可は恐らく出ない。
それを見越して、ヴィーネは急にまばらとなった使用人達の目をかいくぐり、大事な夜のお楽しみの籠を厨房から運び出し、無事隠すことに成功した。
ほっとしたのもつかの間、すぐにまた大広間の手前まで料理を運ぶように言いつけられる。
今度は、山のような補充の料理をよろめきながら、次々と運ぶ――大広間の手前の扉で料理の受け渡しをする刹那、大広間の奥で意外な場面を見ることになったヴィーネは驚いた。
(ルシィが宴に出席してる……)
しかも隣には赤毛の騎士が座り、甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
二人とも楽しそうに話しながら、料理を味わっている様子――
(――とっても、楽しそう。……良かった。御馳走も食べられたみたいね)
ほっとして、ヴィーネは柔らかく微笑んだ。
その瞬間、大広間の中央にいた銀髪の青年、シリウスと目が合う。
豪華な衣装に身を包んだ、とても印象的な紫の瞳を持つ青年――
(……ひょっとして、あれがはた迷惑なこの騒動の中心人物?)
浮世離れしたヴィーネにとって、貴族や何だという称号はあまり意味をなさない。
例え素養があろうとも、完全実力主義の賢者紋を持つ者にとっては、血筋よりも何を自らが成したかの方がずっと重視されるからだ。
鵜の目鷹の目でシリウスを狙う、アルフェール一族の者が聞けば、泡を吹いてひっくり返る様な感想を胸の中で呟きながら、ヴィーネは淡々と作業を進めていく。
しかしその時、服の下にいつも下げている母から譲り受けた大切な珠が、淡く輝きながら小さく瞬いていたことに気付くことはなかった――
一方、一見それと分からずとも、ようやく探し求める彼の者との遭遇が叶ったシリウスは、首を傾げていた。
(何だ? 何かが心に引っ掛かったのだが……?)
急に心の琴線に触れられたような気がして、扉の方向を見たシリウスは、影に佇む少女に気付いた。
同時に少女も顔を上げ、こちらを見た。
(――あれか? あれに何の意味がある?)
自らに問いかけるも、勿論答えなど持たない。
しかし、自らの直感を信ずるシリウスは、人を掻き分けそちらに向かう。
(うわぁ、何かこちらにやってくる……?!)
不穏な気配を察し、今は誰も側にいないから、といつもの倍速の動きで作業を終わらせるヴィーネ。
そして、周りに苦手なマリアーナとその親族を引き連れてやってくる青年を見て取るや、身を翻した。
それから、小走りで扉から遠ざかり、厨房へ続く廊下を曲がりほっと息を吐いた途端、急に声をかけられた。
「ヴィーネ、頼みがある」
何とも珍しいことに、従兄のアンソニーだった。
「ルシィをここまで連れてくるから、部屋まで送ってしばらくついていてくれないか? ――休憩を貰えるよう手配しておくから」
ヴィーネにとっては、願ってもない話である。
一も二もなく頷くと、アンソニーが興奮気味のルシアーナを連れて戻って来た。
「後を頼む」と、短く言い残して、アンソニーはまた大広間へ戻って行った。
ルシアーナは部屋に戻っても、ご機嫌だった。
「余程楽しかったのね? ……そういえば、御馳走を籠に取り分けてあるの。今から、食べる? 取ってこようか?」
「いらないわ、ヴィーお姉さま。あのね、わたし、ロッド様とた~くさん頂いたの。もう、お腹と胸が一杯で何も入らないわ! だから、後でお姉さまが食べて」
上機嫌のルシアーナは、赤毛の騎士のことがかなり気に入ったらしい。
大広間での出来事を興奮気味に息つく間もなく話し続けていたが、やがて、ふっと正気に戻ったのか、ヴィーネの様子を心配そうに見た。
「ヴィーお姉さま、……顔色が悪いわ。大丈夫? わたし、もう休むから、ヴィーお姉さまも休んで?」
興奮した色が消え、心配そうにこちらを見つめるはしばみ色の瞳に、ヴィーネは安心させるように微笑んだ。
「ありがとう、ルシィ。そうさせてもらうね。――お休みなさい」
就寝の挨拶を交わし、ルシアーナの部屋の扉を閉めたヴィーネはよろめき、壁に手を付きながら呟く。
「…………だけど、お腹が空いた。お腹が空きすぎて、寝れないかも……」
そして、よし、せめてあの御馳走を少しでも食べてから仮眠を取ろう、と心に決め、籠を隠した場所めがけて駆けだした。
その後の見通しもついてきたため、前日から夜通し働き続けた彼らもやっと交代で休憩に入ることが出来る――宴が終われば、それはそれでまた雑事に追われることとなるので、先を争うようにして皆休憩に入った。
けれども、昼間学び舎へ行っていたヴィーネに、休憩の許可は恐らく出ない。
それを見越して、ヴィーネは急にまばらとなった使用人達の目をかいくぐり、大事な夜のお楽しみの籠を厨房から運び出し、無事隠すことに成功した。
ほっとしたのもつかの間、すぐにまた大広間の手前まで料理を運ぶように言いつけられる。
今度は、山のような補充の料理をよろめきながら、次々と運ぶ――大広間の手前の扉で料理の受け渡しをする刹那、大広間の奥で意外な場面を見ることになったヴィーネは驚いた。
(ルシィが宴に出席してる……)
しかも隣には赤毛の騎士が座り、甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
二人とも楽しそうに話しながら、料理を味わっている様子――
(――とっても、楽しそう。……良かった。御馳走も食べられたみたいね)
ほっとして、ヴィーネは柔らかく微笑んだ。
その瞬間、大広間の中央にいた銀髪の青年、シリウスと目が合う。
豪華な衣装に身を包んだ、とても印象的な紫の瞳を持つ青年――
(……ひょっとして、あれがはた迷惑なこの騒動の中心人物?)
浮世離れしたヴィーネにとって、貴族や何だという称号はあまり意味をなさない。
例え素養があろうとも、完全実力主義の賢者紋を持つ者にとっては、血筋よりも何を自らが成したかの方がずっと重視されるからだ。
鵜の目鷹の目でシリウスを狙う、アルフェール一族の者が聞けば、泡を吹いてひっくり返る様な感想を胸の中で呟きながら、ヴィーネは淡々と作業を進めていく。
しかしその時、服の下にいつも下げている母から譲り受けた大切な珠が、淡く輝きながら小さく瞬いていたことに気付くことはなかった――
一方、一見それと分からずとも、ようやく探し求める彼の者との遭遇が叶ったシリウスは、首を傾げていた。
(何だ? 何かが心に引っ掛かったのだが……?)
急に心の琴線に触れられたような気がして、扉の方向を見たシリウスは、影に佇む少女に気付いた。
同時に少女も顔を上げ、こちらを見た。
(――あれか? あれに何の意味がある?)
自らに問いかけるも、勿論答えなど持たない。
しかし、自らの直感を信ずるシリウスは、人を掻き分けそちらに向かう。
(うわぁ、何かこちらにやってくる……?!)
不穏な気配を察し、今は誰も側にいないから、といつもの倍速の動きで作業を終わらせるヴィーネ。
そして、周りに苦手なマリアーナとその親族を引き連れてやってくる青年を見て取るや、身を翻した。
それから、小走りで扉から遠ざかり、厨房へ続く廊下を曲がりほっと息を吐いた途端、急に声をかけられた。
「ヴィーネ、頼みがある」
何とも珍しいことに、従兄のアンソニーだった。
「ルシィをここまで連れてくるから、部屋まで送ってしばらくついていてくれないか? ――休憩を貰えるよう手配しておくから」
ヴィーネにとっては、願ってもない話である。
一も二もなく頷くと、アンソニーが興奮気味のルシアーナを連れて戻って来た。
「後を頼む」と、短く言い残して、アンソニーはまた大広間へ戻って行った。
ルシアーナは部屋に戻っても、ご機嫌だった。
「余程楽しかったのね? ……そういえば、御馳走を籠に取り分けてあるの。今から、食べる? 取ってこようか?」
「いらないわ、ヴィーお姉さま。あのね、わたし、ロッド様とた~くさん頂いたの。もう、お腹と胸が一杯で何も入らないわ! だから、後でお姉さまが食べて」
上機嫌のルシアーナは、赤毛の騎士のことがかなり気に入ったらしい。
大広間での出来事を興奮気味に息つく間もなく話し続けていたが、やがて、ふっと正気に戻ったのか、ヴィーネの様子を心配そうに見た。
「ヴィーお姉さま、……顔色が悪いわ。大丈夫? わたし、もう休むから、ヴィーお姉さまも休んで?」
興奮した色が消え、心配そうにこちらを見つめるはしばみ色の瞳に、ヴィーネは安心させるように微笑んだ。
「ありがとう、ルシィ。そうさせてもらうね。――お休みなさい」
就寝の挨拶を交わし、ルシアーナの部屋の扉を閉めたヴィーネはよろめき、壁に手を付きながら呟く。
「…………だけど、お腹が空いた。お腹が空きすぎて、寝れないかも……」
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