緑の塔とレオナ

岬野葉々

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 母との対面を終えたヴィーネは、しばらく絶対安静に、とリアスに言い渡され、寝台へと戻された。

 半ば放心状態で横たわりながら、宙を見上げるヴィーネ。

(レオナとしての役目を果たす――わたしが? ……母様もいないのに、一人で? 今のわたしに何が出来るというの……?)

 これから、しなくてはならないことが山積みになっていることは、ヴィーネにも分かっていた。
 実際とても気になっていて、やらなくては、してあげたい、とも切実に思う。

 けれども、どんなにしっかりしているようでも、優秀であったとしても、ヴィーネはまだ成人前の十四歳の少女だった。

 母は静養していると信じ、母との約束を胸に抱き、ひたすらルルスで頑張り続けた二年間。
 そして、その末に思いもよらぬ展開により、母を助けるために緑の塔へ駆けつけ、真実を知った。
 力の限りを尽くして、星々を緑の塔の封印から解放した結果、手にしたのは、先程の残酷な現実だった――

 今は母の姿とリアスの声がちらついて、とても先を考えることが出来ない。

 ちゃんと前を向いて大丈夫だよ、と笑っていたいのに、自分の身体も心も今はヴィーネの思い通りにならなくて……

 悔しさと情けなさで唇を噛みしめた途端、ヴィーネの瞳に涙が浮かんだ。
 それにより、次々と起きた事態の大きさと明かされる事実の衝撃の中で、凍り付き後回しにされていた感情もまた徐々に浮かび上がってくる――

(――母様、……母様が……! あんな状態に、――!)

 もっと悪い、最悪の事態も在り得たことは、ヴィーネにも分かっていた。
 この世にはもっと悲しい思いをする人々もいて、銀の癒し手にあそこまで言って診てもらえる母は幸運であり、決して悲観することはない、ということも……。

 それでも、ヴィーネにとって唯一の肉親であり、ここ二年間の心の支えであった母の変わり果てた姿に、涙をこらえることが出来ない――

(――今だけ、今だけは思いっきり泣いてしまおう。明日からは、ちゃんと前を向くから――レオナとして、……だから、母様、今だけは)

 込み上げてきた感情のままに、ヴィーナは声を上げて泣いた。




(シヴァ、緑の子、泣いてる)(たいへん)(早く行かないと)

 シリウスを慕い、絶えず後を追ってくる風の精霊達がささやいた。

 風の精霊達は、基本自由だ。
 自分達の望むことを、自由気ままに追及する。
 噂好きでお節介な性分はシリウスとは異なるが、シリウスの気にしている人物事柄等を自らの意思で調べ情報を渡してくれるので、今までシリウスは重宝してきた。

 今回もまた、シリウスが気にかけているヴィーネの、後を追った精霊がいたのだろう。

 シリウスは眉を上げ、精霊達に了解の意を告げる。

(ヴィーネの意識が戻ったのか――? 先程、銀の癒し手が急に退席したな。それに気づいてのことか? いや、彼はよく唐突に姿を消すし、……説明不足も甚だしい。違うかもしれぬが、とにかくヴィーネの元へは彼を通さねば、行けぬな)

 懐に入れたままの珠を握りしめ、辺りを見回しながら、シリウスは思案に暮れた。

 先日発覚した薬草の件により、導師と愛弟子達三人は急きょリアスに薬草採取における猛特訓を受けている。
 謎の多い貴重な薬草のこと、ありとあらゆる事態を想定し、最も効果的に効率的に採取せねばならない、とリアスは主張した。

 ……リアスの目の輝き具合で、私情も多々含まれていそうだ、とシリウスは薄々感づいていたが、手に出来た薬草の量により今後の復興の速度が決まる、といっても過言ではない現況下では、互いの利害は完全に一致している。
 喜んで彼らを生贄としてリアスに捧げた後、シリウスは状況に合わせ応援部隊の配置を含め幾通りかの計画を練っていた。

(今後の復興においても、そして国、いや世界の未来においても、ヴィーネは中心人物、鍵となる人間だ。意識が戻ったのならば、早々に話し合っておきたい)

 何より自分が早くあの青い瞳を見たいのだ、と心の中で呟き、シリウスは足早にリアスを探しにその場を去って行った。


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