緑の塔とレオナ

岬野葉々

文字の大きさ
56 / 69

55

しおりを挟む
「決めなければならないこと、だと? 何度もいっただろう。ヴィーネは絶対安静だ。疲れさせるような話は容認できない」

「ならば、顔を見るだけで良い。……貴殿が忙しくヴィーネに付き添えないのならば、私が付き添っていよう」

 シリウスの申し出に、リアスは思いっきり顔をしかめた。

「……何故、大事な娘に、虫が近づく許可を出すと? 在り得ぬ」

 今度はシリウスが顔をしかめる。

「虫とは、私のことか? しかも、大事な娘? ――どういう意味だ?」

「言葉通りだ! 将来、大事な家族となるべき娘だ! 断じて、易々と貴様のような輩を近づけさせるものか」

 父性溢れるリアスの言葉は、しかし異なる意味合いを持って、シリウスに伝わった。
 一瞬、驚愕で大きく目を見開いた後、シリウスは仮面を被ったように無表情になる。

「選ぶのは、彼女だ」と淡々と告げるシリウスに、

「ああ。この件が落ち着いたら、今度こそリアを口説き落としてみせる!」とリアスは熱く答えた。

 シリウスは自分の滅多にない勘違いを悟った。
 脳裏に浮かぶのは、自分がヴィーネの母を触れようとしたときのリアスの剣幕と、その後のしかと抱きしめていた様子だ。
 思わず、自嘲しながら考える。

(……どれだけ焦っていたのか。ここは、冷静にならなくては。――リアスの最愛は、ヴィーネの母リーシアか。こんな舅はごめんだが、……ヴィーネが狙いよりは良い。実際、ヴィーネの母が口説き落とされるかどうかは、未定だからな。ならば、遣りようはある)

「そうか。ならば、リーシア殿には、少しでも早く良くなってもらわねばならないな。ヴィーネも心の底から、それを望んでいるだろう――それには、これが役に立つかもしれぬ」

 シリウスは、懐からリーシアがヴィーネに渡していた珠――緑の塔の継承の間で拾ったものを取り出した。

「それは――!」

 思わず差し出したリアスの手を掻い潜って、シリウスはなおも言葉を続ける。

「この珠は、ヴィーネと母君とを繋いでいた、と聞いている。今、その力がどうなっているのかは分からぬが、力の路は残っている筈だ。――私はこう見えても、多才でね。様々な学問を修めたものだが、その中に媒介石を使う風紋学がある。それを使い、この珠を分析すれば、同じような術式でもう一つの珠を新たに作ることも可能かもしれぬな。それこそ、ヴィーネから母リーシア殿への贈り物として――」

 暗にヴィーネから新たな珠を介しリーシアへ力を送ることも可能とほのめかすと、リアスは物凄い勢いで食いついてきた。

「それは、どれくらいで出来るのか? ヴィーネの負担はどうなる?」

「さて、それは何とも。まずは、ヴィーネに会わぬことには、な」

 シリウスが肩を竦めると、リアスは葛藤しつつもヴィーネを案じる。

「……本当に、無理は禁物なのだが。――少なくとも、あと数日は絶対に」

「もとより、無理をさせるつもりは毛頭ない。……今日は、顔を見るだけでも良い」

「見舞いといえど、年頃の娘の病室に、其方一人で行かせるのは……」

「ならば、此処に控える騎士、ガイと共にならば、どうだ?」

 懸命に空気と化してその場に控えていたガイは、突然の指名に驚いたが、自分に鋭い眼差しを向けたリアスに軽く頭を下げる。

 リアスはそのまま長い間ガイを見ながら考えていたが、やがて渋々頷いた。
 そこへ、またもやシリウスが追い打ちをかける。

「珠を作成するとなると、――やはりヴィーネの体調を毎日確認する必要があるな。誓って、彼女に無理はさせない。だが、無理なく進めるためにも、毎日いつでも彼女の部屋へ入ることの出来る許可を貰おうか」

 リアスはシリウスを睨んだが、既に彼の心の天秤はリーシアに傾いたようだった。
 けれども、精一杯刺々しくシリウスとガイに向かって言い募る。

「――よかろう。ただし、部屋の認証は、其方ら二人でさせてもらう。二人揃わねば、決して扉は開かぬ。そして、自らの発言に責任を持ち、ヴィーネを無理させぬよう、必ず珠を作成せよ……早めに」

「はっ」

 跪き、騎士の礼を取ったガイだったが、心の中は文句たらたらだった……。

(俺、巻き込まれ――?! この忙しい時に……。しかも、最後の言葉、明らかに矛盾してるだろう?!)

 それに対し、ガイの主は頷きも応えもせず、ただ満面の笑みを持って応えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

処理中です...