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リアスはシリウスとガイを連れて、緑の塔上部へと続く螺旋階段の入口へとやって来た。
「ここに在る緑の塔の紋章の緑石に、手をかざしてもらおうか」
シリウスが手を出すと緑石は淡く輝き、続いてガイが同様にすると、一瞬の浮遊感と共に見知らぬ扉の前に着いた。
そして、その扉の上部にも、同じ紋章が刻まれていた。
「――今日は手順を省くが、これからは扉を叩き中から許しが出たときのみ、この紋章が浮かび上がる仕組みへと変えるからな。さあ、先程と同様に、この紋章に手をかざせ」
リアスに促され、二人は同様に紋章に手をかざすと、次の瞬間に三人は部屋の中にいた。
石畳に白い壁の素朴で居心地の良い空間の端には、木で作った寝台と脇机、そして二客の椅子が置いてあった。
「――ああ、やはり、眠ってしまっていたか……」
驚く程優しい、穏やかな声でリアスが呟いた。
寝台の上には、ヴィーネが小さく丸まって眠っていた。
思わず、シリウスは寝台へ向かって一歩を踏み出すと、リアスに鋭く、けれど、ヴィーネを起こさぬよう小声で制止された。
「近づくな! ……今日は、顔を見るだけだと言っただろう?」
そのくせ、リアスは無造作にヴィーネに近づき、顔を覗き込む。
その様子にシリウスは胸がむかつき、足音と気配を消して、同じように寝台へと近づいた。
「おいっ!」とリアスが睨んでも、
「あそこからでは、顔が見えないからな」と、シリウスはしれっと言い放ち、また同じようにヴィーネの顔を覗き込んだ。
ヴィーネの顔には痛々しい涙の跡が残り、枕はしっとりと濡れていた――
(シヴァ、遅い)(緑の子、たくさん、泣いてた)(何してたの?)
風の精霊達が咎めるように、シリウスにささやく。
シリウスはヴィーネの様子に胸が締め付けられ、懐からヴィーネの珠と銀に輝く羽を取り出した。
そして、そのままそっとヴィーネの枕元にそれらを置く――
(遅くなって、悪かった――せめて夢の中では、穏やかに休めるように)
祈りを込めると、銀の羽は柔らかく光を放つ。
心なしかヴィーネの顔が和らぐのを見て、シリウスが手を伸ばすが、しかし、その手は途中でがしっとリアスに止められた。
「触るな」
絶対零度の眼差しで、にらみ合う二人――不穏な気配を感じたのか、ヴィーネが小さく呟いた。
「……かあさま」
新たな涙が頬を伝うのを見たリアスは舌打ちし、あっという間に三人の周りの景色が変わる――
シリウスとガイは気づけば、螺旋階段の間に戻っていた。
リアスの姿は、既にない。
「ガイ、戻るぞ!」と紋章に手をかざし、ガイを促すも、ガイはゆっくりと首を振った。
「駄目でしょう。……扉の前まで行けたとしても、中へは入れません。それとも、ヴィーネを叩き起こし、無理やり入りますか? 主よ」
シリウスは大きく目を見開き、ふっと自嘲した。
「……私は、少しおかしいみたいだ。愚かだな」
ガイはまたもやゆっくりと首を振った。
「そうは思いません。――今日は、あの羽を通して、ヴィーネの眠りを守れるでしょう。愚かとは、思いません。決して」
むしろ、ガイは嬉しかった。
優秀すぎるほど優秀で、どこかいつも冷めていた主。その心にいつの間にか入り込み、年相応の様々な表情を引き出す存在に、主が出会えたことを側近として喜ばしく思う。
「けれども、控えの間にて、シリウス様の決裁待ちの書類が山積みとなっております。――どうかお早目のお目通しを。応援部隊は明後日には着くのですから」
ガイがにこやかに有無を言わさず言い切ると、シリウスは嫌そうに顔をしかめたが、「そうだな。今のうちに進めておくか」と呟き、大人しく部屋へと戻って行った。
「ここに在る緑の塔の紋章の緑石に、手をかざしてもらおうか」
シリウスが手を出すと緑石は淡く輝き、続いてガイが同様にすると、一瞬の浮遊感と共に見知らぬ扉の前に着いた。
そして、その扉の上部にも、同じ紋章が刻まれていた。
「――今日は手順を省くが、これからは扉を叩き中から許しが出たときのみ、この紋章が浮かび上がる仕組みへと変えるからな。さあ、先程と同様に、この紋章に手をかざせ」
リアスに促され、二人は同様に紋章に手をかざすと、次の瞬間に三人は部屋の中にいた。
石畳に白い壁の素朴で居心地の良い空間の端には、木で作った寝台と脇机、そして二客の椅子が置いてあった。
「――ああ、やはり、眠ってしまっていたか……」
驚く程優しい、穏やかな声でリアスが呟いた。
寝台の上には、ヴィーネが小さく丸まって眠っていた。
思わず、シリウスは寝台へ向かって一歩を踏み出すと、リアスに鋭く、けれど、ヴィーネを起こさぬよう小声で制止された。
「近づくな! ……今日は、顔を見るだけだと言っただろう?」
そのくせ、リアスは無造作にヴィーネに近づき、顔を覗き込む。
その様子にシリウスは胸がむかつき、足音と気配を消して、同じように寝台へと近づいた。
「おいっ!」とリアスが睨んでも、
「あそこからでは、顔が見えないからな」と、シリウスはしれっと言い放ち、また同じようにヴィーネの顔を覗き込んだ。
ヴィーネの顔には痛々しい涙の跡が残り、枕はしっとりと濡れていた――
(シヴァ、遅い)(緑の子、たくさん、泣いてた)(何してたの?)
風の精霊達が咎めるように、シリウスにささやく。
シリウスはヴィーネの様子に胸が締め付けられ、懐からヴィーネの珠と銀に輝く羽を取り出した。
そして、そのままそっとヴィーネの枕元にそれらを置く――
(遅くなって、悪かった――せめて夢の中では、穏やかに休めるように)
祈りを込めると、銀の羽は柔らかく光を放つ。
心なしかヴィーネの顔が和らぐのを見て、シリウスが手を伸ばすが、しかし、その手は途中でがしっとリアスに止められた。
「触るな」
絶対零度の眼差しで、にらみ合う二人――不穏な気配を感じたのか、ヴィーネが小さく呟いた。
「……かあさま」
新たな涙が頬を伝うのを見たリアスは舌打ちし、あっという間に三人の周りの景色が変わる――
シリウスとガイは気づけば、螺旋階段の間に戻っていた。
リアスの姿は、既にない。
「ガイ、戻るぞ!」と紋章に手をかざし、ガイを促すも、ガイはゆっくりと首を振った。
「駄目でしょう。……扉の前まで行けたとしても、中へは入れません。それとも、ヴィーネを叩き起こし、無理やり入りますか? 主よ」
シリウスは大きく目を見開き、ふっと自嘲した。
「……私は、少しおかしいみたいだ。愚かだな」
ガイはまたもやゆっくりと首を振った。
「そうは思いません。――今日は、あの羽を通して、ヴィーネの眠りを守れるでしょう。愚かとは、思いません。決して」
むしろ、ガイは嬉しかった。
優秀すぎるほど優秀で、どこかいつも冷めていた主。その心にいつの間にか入り込み、年相応の様々な表情を引き出す存在に、主が出会えたことを側近として喜ばしく思う。
「けれども、控えの間にて、シリウス様の決裁待ちの書類が山積みとなっております。――どうかお早目のお目通しを。応援部隊は明後日には着くのですから」
ガイがにこやかに有無を言わさず言い切ると、シリウスは嫌そうに顔をしかめたが、「そうだな。今のうちに進めておくか」と呟き、大人しく部屋へと戻って行った。
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