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カーレルの問いにより、キールとシャールの脳裏に、当時の傷だらけで血まみれのディンの姿が蘇る。
崖下から吹き上げる風に身体を揺らされ、けれども、身体全体で花を庇ったディンの姿――あれを見ていて、そして、自らその植物の世話を申し出ておいて、私欲のために咲いた花を摘もうという考えが出るわけがない。
今回のように、ディンが認めた上、価値ある行動といえるなら別だが……。
そう述べた二人に対し、カーレルは肩を揺らして笑った。
「ははっ、成程。そういう心根であったからこそ、かもしれませんね」
それから、カーレルは表情を真剣なものに変え、二人に向き直る。
「……そもそも、『プレケス』の株分けが可能であったことからして、異例で類を見ない出来事なのです。そこへ、今回の件が持ち上がった、いえ、正しくは、緑の塔の救済のために、新たに発覚した、でしょうか。いずれにしても、それは天の配剤。私はその機会を決して逃したくはないのです」
その意見には、キールもシャールも素直に頷く。
「それは、同感だ。あの人達を救えるのならば、僕達も全力を尽くす」
「だからこその、特訓だった筈でしょ?」
緑の塔で癒し手に施された、嫌になるほど細かな、様々な場面ごとを想定した特訓の手順を思い出し、双子は顔をしかめた。
「あの方は、――銀の癒し手殿は、学術的興味・観点から今回の採取を考えておられます。推論に基づき非常に細かな指示を頂いておりますが、それは主に『プレケス』の謎を解き明かそうとするもの。私にとっても興味は尽きないのですが、……私の依頼主は、公爵様です。公爵様の要求は、出来得る限り多くの量を確保せよ。つまり、最も採取の成功の可能性の高い方法から試し、それが成功したならば、他は必要ない、ということなのです」
双子は揃って、首を傾げた。
「私は、緑の紋を持つ薬師です。私には、……見ただけで薬草の凡その効能を悟る力があります。この件に抜擢されたのは、この力を見込まれてのこと。なので、採取が成功したか否かは、側で見ていれば分かります。そして、今回の採取で成功する可能性が最も高いと思われるのは、初めて『プレケス』の株分けに成功した、ディンさんなのです」
無論、ずっと世話をしていたキールさん、シャールさんも無事採取出来る可能性は高いのですが、とカーレルは話を続けながらも、シャールがディンに対する懸念を持ち出すと、今度はひたすらにディンの体調を気にしだした。
そして、ディンを案じる深刻なカーレルとシャールの様子を見るに、もはやキールが軽々しく口出し出来る雰囲気では無い。
(おい、ディン。落ち込んでる場合じゃないぞ?! どうする? 何だか大事になってきた……)
確証はないが、親友の心の内を話すべきか否かをキールが葛藤している間に、カーレルは重々しく二人に告げた。
「ルルスへ到着次第、フォンス家に伺い、取り急ぎ採取を執り行う予定でしたが、皆様は少し休んで、体調を整えた方が良いかもしれませんね。……分かりました。フォンス家の薬草には、公爵家の影が見張りに付き、何人たりとも触れることの出来ない体制を整えた、と聞いております。なので、あと数日、採取が遅くなっても大丈夫でしょう。――皆様がルルスに到着して二日後に採取を行うよう、申請してまいります」
こと『プレケス』に至っては、万全の態勢で臨まねば、取り返しのつかないことになりますから、と言いつつ、心を決めたカーレルは、晴れ晴れしく笑って踵を返した。
……キールが内心、公爵家の影の見張りって何のことだ?! と、動揺している内に――
斯くして、導師達一行はルルス到着後、各自宅にて、丸二日の強制休養期間を設けられることが決定された。
崖下から吹き上げる風に身体を揺らされ、けれども、身体全体で花を庇ったディンの姿――あれを見ていて、そして、自らその植物の世話を申し出ておいて、私欲のために咲いた花を摘もうという考えが出るわけがない。
今回のように、ディンが認めた上、価値ある行動といえるなら別だが……。
そう述べた二人に対し、カーレルは肩を揺らして笑った。
「ははっ、成程。そういう心根であったからこそ、かもしれませんね」
それから、カーレルは表情を真剣なものに変え、二人に向き直る。
「……そもそも、『プレケス』の株分けが可能であったことからして、異例で類を見ない出来事なのです。そこへ、今回の件が持ち上がった、いえ、正しくは、緑の塔の救済のために、新たに発覚した、でしょうか。いずれにしても、それは天の配剤。私はその機会を決して逃したくはないのです」
その意見には、キールもシャールも素直に頷く。
「それは、同感だ。あの人達を救えるのならば、僕達も全力を尽くす」
「だからこその、特訓だった筈でしょ?」
緑の塔で癒し手に施された、嫌になるほど細かな、様々な場面ごとを想定した特訓の手順を思い出し、双子は顔をしかめた。
「あの方は、――銀の癒し手殿は、学術的興味・観点から今回の採取を考えておられます。推論に基づき非常に細かな指示を頂いておりますが、それは主に『プレケス』の謎を解き明かそうとするもの。私にとっても興味は尽きないのですが、……私の依頼主は、公爵様です。公爵様の要求は、出来得る限り多くの量を確保せよ。つまり、最も採取の成功の可能性の高い方法から試し、それが成功したならば、他は必要ない、ということなのです」
双子は揃って、首を傾げた。
「私は、緑の紋を持つ薬師です。私には、……見ただけで薬草の凡その効能を悟る力があります。この件に抜擢されたのは、この力を見込まれてのこと。なので、採取が成功したか否かは、側で見ていれば分かります。そして、今回の採取で成功する可能性が最も高いと思われるのは、初めて『プレケス』の株分けに成功した、ディンさんなのです」
無論、ずっと世話をしていたキールさん、シャールさんも無事採取出来る可能性は高いのですが、とカーレルは話を続けながらも、シャールがディンに対する懸念を持ち出すと、今度はひたすらにディンの体調を気にしだした。
そして、ディンを案じる深刻なカーレルとシャールの様子を見るに、もはやキールが軽々しく口出し出来る雰囲気では無い。
(おい、ディン。落ち込んでる場合じゃないぞ?! どうする? 何だか大事になってきた……)
確証はないが、親友の心の内を話すべきか否かをキールが葛藤している間に、カーレルは重々しく二人に告げた。
「ルルスへ到着次第、フォンス家に伺い、取り急ぎ採取を執り行う予定でしたが、皆様は少し休んで、体調を整えた方が良いかもしれませんね。……分かりました。フォンス家の薬草には、公爵家の影が見張りに付き、何人たりとも触れることの出来ない体制を整えた、と聞いております。なので、あと数日、採取が遅くなっても大丈夫でしょう。――皆様がルルスに到着して二日後に採取を行うよう、申請してまいります」
こと『プレケス』に至っては、万全の態勢で臨まねば、取り返しのつかないことになりますから、と言いつつ、心を決めたカーレルは、晴れ晴れしく笑って踵を返した。
……キールが内心、公爵家の影の見張りって何のことだ?! と、動揺している内に――
斯くして、導師達一行はルルス到着後、各自宅にて、丸二日の強制休養期間を設けられることが決定された。
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