(あやかし御用達)民泊始めます~巫女になれ?!無理です!かわりに一泊いかが?

岬野葉々

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……そんなの、決められないよ 1

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 ただ事ではない、驚愕と畏怖の込められた三つ目の大音声に、その場にいた全てが美月に注目する。

 中でも、此処狭間に入るにあたって、必要以上に闇の影響を受けぬよう、わざと感覚を鈍らせていたモノどもも、その声を聞いて巫女様の一大事とばかりに、その感覚を開放した。

 凝った闇の塊の中に佇む二つの影――――その一つはまだらに闇に侵食されつつも今なお堂々とそびえ立つ巨大な灰色の三つ目の影。そして、もう一つは、闇の中でもその輝きを失わない、闇の中に白く浮かび上がる美月の影。

 しかし、その美月の白く輝く影の一部――――主に左手の辺りが真っ黒に染められていた。

(あわわわ……!た、大変じゃ!巫女様の左手が――?!)
(や、闇に憑りつかれてしもうたのか――?!)
(阿呆め、よく視ろ!あれは、……何か抱えておられるのか?)
(はややや……み、巫女様、早うソレを捨てなされ――!)
(ソレは、ダメじゃ!持っては帰れん!)
(早う、ポイするのじゃ!)(ポイじゃ、ポイっ!)
(早う)(早う――!)

 周りのあやかし達の騒めきに、美月の左手に抱えられていたツキは、小さな身体をさらに小さくするように縮こまり、深く深く項垂れた。

 その様子を見て、美月は慌てて否定する。

「だ、ダメだよ、そんなの――!だって、この子はもう、家の子にするんだもん!お家に連れて帰るんだから――!!」

 美月の力強いその言葉に、ツキは項垂れていた小さな頭を少しだけ上げ、上目遣いにその金色の瞳を見開いた。

 側に居た三つ目は、ツキのその瞳を見て、息を飲む――――その時、その場にあやかしではない、第三の声が響いた。

「――星野美月。そのモノ達が言う通り、ソレを早く手放しなさい」

 その声に周りのあやかし達がざっとそちらへ向き直ると、其処には淡い水色の膜におおわれた二つの影が新たに現れていた。

(何奴か――?!)

 鋭く誰何されたその人物の一人は、微笑んでお辞儀をした。

「私は五月雨学園の教師である、霖雨 響と申す者です。――貴方方のお仲間からの要請で、こちらへと駆け付けました。本校の生徒であるそちらの星野美月の救出に尽力して頂き、誠に感謝しております」

 すらりとした長身にさらりとした黒髪を後ろで一つにくくった霖雨と名乗った男性教師は、あやかし達には丁寧な物腰で対応しながらも、打って変わって美月には厳しい眼差しを向ける。

「――さあ、早くソレを置いて、こちらへ来なさい」

 静かで有無を言わさないその口調は、気を抜いたらすぐに美月が従ってしまいそうな謎の迫力に満ちていた。

(――おい、あ奴、巫女様に対し、術を使っておるぞ?)
(なんと不敬な!……じゃが、やはりこのままでは、ちと不味いの)
(ううむ――葛藤じゃ!あ奴の言う通りなのじゃが、巫女様に術をかけるのは……)

 美月はその謎の迫力に抗うのに必死で、周りのあやかし達の言葉も耳に入ってこない。
 それでも、首を振り続け、左手のモノを手放さない美月を見て、霖雨教師は苦笑した。

「もはや既に、闇に取り込まれ操られている、……という訳でもなさそうですね。この濃い闇の中で意識を保ち続けるだけでも、称賛ものですが、さらに私の術に抗い自らの意思を貫けるとまでいうと――――さて、君は一体何故、特別面接で対象外とされたのでしょうか……?」

 やれやれ、と首を振った霖雨教師は、その後ふっと全身の力を抜き、美月に気遣わし気な眼差しを送った。

「……狭間は、此処にいる間は時間がなくて、けれども出た瞬間からそこで過ごした時間の重みを感じる処。少しでもダメージを避けるべく、出来得る限り短時間で終わらせたかったのですが、仕方がありません。星野さん、あなたは自分が納得しない限り、ソレを離しそうにありませんから――」

 霖雨教師は、美月を真っすぐに見つめながら、言った。

「星野さん、あなたが後生大事に抱えているソレは、この狭間の核ともいえるモノ。それを抱えている限り、あなたはそこから一歩も動けませんよ?」
 



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