50 / 80
脱出
しおりを挟む
三つ目は言い終わるや否や、美月とツキを抱えたまま、物凄い勢いで駆けだした。
一拍置いて、我に返った妖し第十班もそれに続く――――
(はややや――――い、急げ、急げーー!)
(一角のに、後れを取るなよ~~!)
(くけけけ、……一角のが、此処に気に入られんで良かったわい)
(さよう、さよう!此処は、無垢なるモノを求めていたわけじゃな~~)
(無垢なるモノ、……巫女様によって、此処は、この狭間は新しく生まれかわるぞいっ!)
(やれ、めでたき事、良き事哉――――!)
(――――その末は、新しき異界となれるやも?)
軽口を叩きながら、風のように去って行く妖しどもを見て、霖雨教師は慌てて湊を促す。
「防御膜に包まれた我らとて、狭間の閉鎖に巻き込まれたならば、ただでは済みません!さあ、行きますよ――――?!」
しかし、湊はすぐには動かず、懐に手を入れて何事かを唱え、何かを放つ。
「――――何をしているのです?!せっかく手元へ戻って来た、貴重な式を…………!」
「お待たせしました。さあ、行きましょう」
素知らぬ顔で今度は霖雨教師を促す湊に、諦めたように大きくため息をついた霖雨教師は、大きく頷いた。
「行きますよ。――――遅れぬよう、気を付けて」
早駆けの姿勢を取り、前を向いた霖雨教師に続いた湊は、最後にちらりと光の中で青々と茂りつつある新たな主を視て呟いた。
「――――秋霖の名において、此処に雨の加護を。……浄化の泉を絶やさぬように、しっかりな」
恐らく今生の別れとなる湊の命に応え、微かに式が青く瞬くのを確認した湊は、すぐに霖雨教師の後を追い、その一歩を踏み出した。
一方、物凄い勢いで此処を脱出すべく、狭間を駆け抜けていた妖しの一団だったが、思わぬ事態に声を上げる。
(――――ない!導きの標が、ない――――?!)
(……どういうことじゃ?!つい、先程まで、あったろう?!)
先達の残した命綱ともいえる標が、ひとつ残らず消えている。
しかも、今振り返ってみれば、駆けてきた道も微妙に変わっている、いや、変わりつつある――――
(不味い、不味い展開じゃ……)
(この狭間自体、大きく変わろうとしている真っ最中じゃからな……)
(くっ……ここまで来て、この有様とは――――!)
その場で項垂れ座り込むモノ、地団駄踏んで悔しがるモノ、様々なアクションを示す妖し達をみた美月は、不安げに三つ目を見上げる。
「……三つ目さん?」
心細げな美月の声に何とか応えたいと、三つ目はぐぬぬぬ、と唸りつつ、焦りで血走った三つの目でぎょろぎょろと見渡すが、肝心要の標は影も形も見当たらない。
そこへ、速歩の術であっという間に美月達に追いついた後続の二人のうち、霖雨教師が声をかける。
「――――何を休んでいるのですか?早く境界を抜けないと、もうじきに此処は閉鎖されますよ?」
(――――ええい、そのようなこと、分かっておるわ!今すぐにでも境界を抜けたいのは山々じゃが、……我らが残しておいた標が見つからん!)
「何ですって――――?!」
血相を変えた霖雨教師が懐に手を遣り、ぱっといくつもの光を放つも、光はぐるぐると迷走し、やがて全部消えて無くなった。
「……何てことです。…………狭間の代替わりなど、極めて稀なこと。ましてや、その最中、どの様な事態が起こるかなど、誰に予測出来ましょうか。私の、認識予測不足でした」
そう言って、霖雨教師は美月を真っすぐに見た。
「――――星野さん、今すぐこちらへ。私と彼の防御膜を繋げば、何とかあなただけは救い上げられるかもしれません……」
その言葉を聞くとすぐに、三つ目は抱き上げていた美月とツキをそちらへ下ろそうとする。
それに抗い、大きく首を振った美月に、湊が口を開く。
「星野さんが、正しい。君はそのまま、その妖しの腕の中にいるべきだ」
「何を言い出すのです!私は教師として、生徒の安全を確保する義務があります!――たとえ、このまま此処に一時は閉じ込められようとも、取り込まれなければまだ脱出する機会はある筈――――」
湊は霖雨教師の言葉を遮り、彼にしては珍しく大きな声でその場にいるモノ全てに語りかける。
「聞け――――!間もなく、この狭間は代替わりにより閉鎖される。だが、まだ此処には、山蛍神がいらっしゃる――――!この空間の何処かに、必ず、異界へ通ずる道はある。今はただ変化の歪みにより、視えなくなっているだけだ!此処が閉鎖される前に、神は境界を通り抜け、自らの属する処へとお帰りになられる筈――――その瞬間を、神の光の道を、決して見逃すな――――!」
湊の言葉に、皆のモノ全ての瞳に生気が戻る。
そして、全てのモノが立ち上がり、集中してその時を待つ――――すると、訪れた時と同じ微かな羽音と光の渦がこちらへと向かってくる。
「――――あそこだ!飛び込め――――!!」
湊の号令と共に、その場にいた全ての人モノ達がそこへと飛び込んだ――――
一拍置いて、我に返った妖し第十班もそれに続く――――
(はややや――――い、急げ、急げーー!)
(一角のに、後れを取るなよ~~!)
(くけけけ、……一角のが、此処に気に入られんで良かったわい)
(さよう、さよう!此処は、無垢なるモノを求めていたわけじゃな~~)
(無垢なるモノ、……巫女様によって、此処は、この狭間は新しく生まれかわるぞいっ!)
(やれ、めでたき事、良き事哉――――!)
(――――その末は、新しき異界となれるやも?)
軽口を叩きながら、風のように去って行く妖しどもを見て、霖雨教師は慌てて湊を促す。
「防御膜に包まれた我らとて、狭間の閉鎖に巻き込まれたならば、ただでは済みません!さあ、行きますよ――――?!」
しかし、湊はすぐには動かず、懐に手を入れて何事かを唱え、何かを放つ。
「――――何をしているのです?!せっかく手元へ戻って来た、貴重な式を…………!」
「お待たせしました。さあ、行きましょう」
素知らぬ顔で今度は霖雨教師を促す湊に、諦めたように大きくため息をついた霖雨教師は、大きく頷いた。
「行きますよ。――――遅れぬよう、気を付けて」
早駆けの姿勢を取り、前を向いた霖雨教師に続いた湊は、最後にちらりと光の中で青々と茂りつつある新たな主を視て呟いた。
「――――秋霖の名において、此処に雨の加護を。……浄化の泉を絶やさぬように、しっかりな」
恐らく今生の別れとなる湊の命に応え、微かに式が青く瞬くのを確認した湊は、すぐに霖雨教師の後を追い、その一歩を踏み出した。
一方、物凄い勢いで此処を脱出すべく、狭間を駆け抜けていた妖しの一団だったが、思わぬ事態に声を上げる。
(――――ない!導きの標が、ない――――?!)
(……どういうことじゃ?!つい、先程まで、あったろう?!)
先達の残した命綱ともいえる標が、ひとつ残らず消えている。
しかも、今振り返ってみれば、駆けてきた道も微妙に変わっている、いや、変わりつつある――――
(不味い、不味い展開じゃ……)
(この狭間自体、大きく変わろうとしている真っ最中じゃからな……)
(くっ……ここまで来て、この有様とは――――!)
その場で項垂れ座り込むモノ、地団駄踏んで悔しがるモノ、様々なアクションを示す妖し達をみた美月は、不安げに三つ目を見上げる。
「……三つ目さん?」
心細げな美月の声に何とか応えたいと、三つ目はぐぬぬぬ、と唸りつつ、焦りで血走った三つの目でぎょろぎょろと見渡すが、肝心要の標は影も形も見当たらない。
そこへ、速歩の術であっという間に美月達に追いついた後続の二人のうち、霖雨教師が声をかける。
「――――何を休んでいるのですか?早く境界を抜けないと、もうじきに此処は閉鎖されますよ?」
(――――ええい、そのようなこと、分かっておるわ!今すぐにでも境界を抜けたいのは山々じゃが、……我らが残しておいた標が見つからん!)
「何ですって――――?!」
血相を変えた霖雨教師が懐に手を遣り、ぱっといくつもの光を放つも、光はぐるぐると迷走し、やがて全部消えて無くなった。
「……何てことです。…………狭間の代替わりなど、極めて稀なこと。ましてや、その最中、どの様な事態が起こるかなど、誰に予測出来ましょうか。私の、認識予測不足でした」
そう言って、霖雨教師は美月を真っすぐに見た。
「――――星野さん、今すぐこちらへ。私と彼の防御膜を繋げば、何とかあなただけは救い上げられるかもしれません……」
その言葉を聞くとすぐに、三つ目は抱き上げていた美月とツキをそちらへ下ろそうとする。
それに抗い、大きく首を振った美月に、湊が口を開く。
「星野さんが、正しい。君はそのまま、その妖しの腕の中にいるべきだ」
「何を言い出すのです!私は教師として、生徒の安全を確保する義務があります!――たとえ、このまま此処に一時は閉じ込められようとも、取り込まれなければまだ脱出する機会はある筈――――」
湊は霖雨教師の言葉を遮り、彼にしては珍しく大きな声でその場にいるモノ全てに語りかける。
「聞け――――!間もなく、この狭間は代替わりにより閉鎖される。だが、まだ此処には、山蛍神がいらっしゃる――――!この空間の何処かに、必ず、異界へ通ずる道はある。今はただ変化の歪みにより、視えなくなっているだけだ!此処が閉鎖される前に、神は境界を通り抜け、自らの属する処へとお帰りになられる筈――――その瞬間を、神の光の道を、決して見逃すな――――!」
湊の言葉に、皆のモノ全ての瞳に生気が戻る。
そして、全てのモノが立ち上がり、集中してその時を待つ――――すると、訪れた時と同じ微かな羽音と光の渦がこちらへと向かってくる。
「――――あそこだ!飛び込め――――!!」
湊の号令と共に、その場にいた全ての人モノ達がそこへと飛び込んだ――――
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…
senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。
地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。
クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。
彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。
しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。
悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。
――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。
謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。
ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。
この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。
陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる