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第12章「王都への召喚」
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証拠を入手してから二日が経った。
建吾たちは、国王への謁見を求めていた。宰相の裏切りを示す書簡を直接渡すためだ。
しかし、宰相の妨害は執拗だった。
謁見の申請は却下され、王宮への立ち入りも禁じられた。宰相は、建吾を「詐欺師」「逃亡犯」として指名手配にしていた。
「正面からは無理か」
建吾は、宿屋の一室で腕を組んでいた。
「ギルドの連中が、王宮の門を固めている。証拠を持っていても、中に入れなければ意味がない」
「別の方法はないのか」
ゴルドが、焦った様子で言った。
「明日にはクーデターが起きる。今夜中に何とかしないと……」
「わかっている」
建吾は、考え込んだ。
王宮に入る方法。正門が駄目なら、裏口。裏口も駄目なら——
「隠蔽部だ」
「また、あの臭い通路か」
「ああ。配管スペースを使えば、城内に入れる。問題は、国王の居室までたどり着けるかどうかだ」
シルヴァが、考え込みながら言った。
「国王の居室は、本殿の最上階にあります。配管スペースは、地下と一階にしか通じていません」
「なら、地下から侵入して、内部で移動する」
「見つかれば、即座に捕まります」
「そうだな」
建吾は、窓の外を見た。
夕日が、王都の街並みを赤く染めている。
時間がない。
明日の夜には、クーデターが起きる。それまでに、国王に証拠を渡さなければならない。
その時、部屋の扉を叩く音がした。
リーゼロッテだった。
彼女の顔は、緊張していた。
「ケンゴ様。一つ、方法があります」
「何だ」
「今夜、王宮で舞踏会が開かれます。国王陛下と、各地の貴族たちが集まる場です」
「舞踏会……」
「私は、グライフェンベルク辺境伯として招待されています。同伴者を一名、連れていくことができます」
建吾は、リーゼロッテの意図を理解した。
「俺を、同伴者として連れていくつもりか」
「はい。舞踏会の最中であれば、宰相も手を出しにくいはずです。その間に、国王陛下に証拠を渡すことができます」
「だが、俺は指名手配されている。顔が割れているだろう」
「仮面舞踏会です」
リーゼロッテは、わずかに微笑んだ。
「参加者全員が、仮面をつけています。顔は隠せます」
建吾は、リーゼロッテを見つめた。
彼女は、自分の立場を危険にさらしてまで、建吾を助けようとしている。
もし発覚すれば、グライフェンベルク家は反逆者として処罰されるかもしれない。
「いいのか」
「構いません」
リーゼロッテは、きっぱりと言った。
「この国を守るためなら、どんな危険も厭いません。それに……」
彼女の目が、わずかに潤んだ。
「私は、ケンゴ様を信じています」
◇ ◇ ◇
舞踏会の準備は、大急ぎで行われた。
リーゼロッテは、建吾のために正装を用意した。黒のフロックコートに、白いシャツ。銀の仮面。
建吾が着替えると、ゴルドが口笛を吹いた。
「おい、見違えたぞ。まるで貴族だ」
「馬子にも衣装だ」
「謙遜するな。似合ってるぞ」
シルヴァも、感心したように頷いた。
「人間は、服装で印象が大きく変わりますね。私は三百年経っても、人間のその習性に驚かされます」
建吾は、鏡を見た。
確かに、見違えるような姿だった。普段の作業着姿とは、別人のようだ。
だが、中身は同じだ。
俺は、内装工だ。
その事実は、何を着ても変わらない。
「行くか」
建吾は、リーゼロッテの方を向いた。
彼女も、正装していた。深い青のドレスに、銀の装飾。同じく銀の仮面。
美しかった。
建吾は、自分がそう感じたことに、少し驚いた。
これまで、リーゼロッテを「仕事の依頼主」としてしか見ていなかった。だが、今夜は違う感情がある。
それが何なのかは、まだわからない。
「参りましょう」
リーゼロッテが、手を差し出した。
建吾は、その手を取った。
◇ ◇ ◇
王宮の大広間は、煌びやかな光に満ちていた。
巨大なシャンデリア。金箔を貼った壁。大理石の床。そして、数百人の貴族たちが、豪華な衣装と仮面を身につけて踊っている。
建吾は、その光景を見ながら、別のことを考えていた。
このシャンデリア、固定が甘いな。落ちてきたら危険だ。
壁の金箔、一部が剥がれかけている。湿気が原因だろう。
床の大理石、目地が汚れている。定期的な清掃が必要だ。
職業病だ、と建吾は自分で思った。
だが、この視点が、今夜は役に立つかもしれない。
「国王陛下は、奥の玉座にいらっしゃいます」
リーゼロッテが、小声で言った。
「踊りながら、少しずつ近づきましょう」
「踊る?」
「ええ。舞踏会ですから」
リーゼロッテは、建吾の手を引いて、ダンスフロアに向かった。
建吾は、踊りの経験がなかった。元の世界でも、この世界でも。
だが、リーゼロッテがリードしてくれた。彼女の動きに合わせて、体を動かす。
「お上手ですね」
「嘘をつくな。俺は素人だ」
「でも、リズム感はあります。それに、体の動きに無駄がない」
「仕事で体を使っているからな」
二人は、踊りながら会話を続けた。
周囲の貴族たちは、二人に特に注意を払っていない。仮面のおかげで、建吾の正体は隠せている。
少しずつ、玉座に近づいていく。
国王は、玉座に座って舞踏会を見守っていた。五十代くらいの、威厳のある男だ。その隣には——
宰相ヴェルナーが立っていた。
「まずいな」
建吾は、宰相の姿を見て呟いた。
「国王の傍に、宰相がいる。あいつがいたら、証拠を渡せない」
「どうしましょう……」
「作戦を変える。宰相を引き離す方法を考えないと」
その時、音楽が止まった。
大広間の入り口から、誰かが入ってきた。
それは、兵士たちだった。
ギルドの紋章をつけた兵士が、十人ほど。先頭に立っているのは——
「見つけたぞ、墨田建吾」
宰相ヴェルナーの声が、大広間に響いた。
「仮面で顔を隠しても、無駄だ。お前の体格と動きは、報告を受けている」
建吾は、舌打ちをした。
見つかった。誰かに、密告されたのだ。
兵士たちが、建吾を取り囲むように近づいてくる。
リーゼロッテが、建吾の前に立ちはだかった。
「お待ちください。この方は、私の同伴者です。何の罪もない方です」
「罪がない?」
ヴェルナーは、冷たく笑った。
「この男は、王宮から逃亡した罪人だ。さらに、偽造文書を作成し、私を陥れようとした詐欺師だ」
「偽造文書ではありません! あの書簡は、あなた自身が書いたものです!」
「証拠はあるのか」
「あります!」
建吾は、懐から書簡を取り出した。
「この書簡だ。宰相が魔王軍と密通している証拠だ」
大広間が、ざわめいた。
貴族たちが、驚きの声を上げている。
「魔王軍と密通……?」
「宰相が、裏切り者……?」
ヴェルナーの顔色が、わずかに変わった。
だが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「馬鹿馬鹿しい。そんな偽造文書を証拠だなどと……」
「偽造かどうかは、調べればわかる」
建吾は、国王に向かって声を上げた。
「陛下! この書簡をお調べください! 宰相の筆跡と、封蝋を照合すれば、真偽がわかるはずです!」
国王は、玉座から立ち上がった。
「その書簡を、見せよ」
「陛下!」
ヴェルナーが、慌てた様子で言った。
「このような場で、詐欺師の言葉を……」
「黙れ、ヴェルナー」
国王の声は、冷たかった。
「私は、この男の話を聞く。邪魔をするな」
ヴェルナーの顔が、強張った。
建吾は、兵士たちの間を縫って、国王の前に進み出た。
そして、書簡を差し出した。
国王は、書簡を受け取り、じっくりと目を通した。
その表情が、次第に険しくなっていく。
「これは……」
国王は、ヴェルナーに向き直った。
「ヴェルナー。この書簡に書かれていることは、事実か」
ヴェルナーは、一瞬、言葉を失った。
それから——
「今だ!」
彼は、叫んだ。
同時に、大広間の扉が開いた。
黒い鎧を着た兵士たちが、なだれ込んでくる。
魔王軍だ。
「クーデターか!」
国王が、剣を抜こうとした。
だが、ヴェルナーの方が早かった。
宰相の手には、小さなナイフが握られていた。それが、国王の喉元に突きつけられる。
「動くな! 動けば、国王は死ぬぞ!」
大広間が、恐怖と混乱に包まれた。
貴族たちが悲鳴を上げ、逃げ惑う。
魔王軍の兵士たちが、出口を塞いでいく。
「計画より一日早いが、まあいい」
ヴェルナーは、歪んだ笑みを浮かべた。
「どのみち、お前たちは全員、ここで終わりだ」
◇ ◇ ◇
建吾は、状況を分析していた。
大広間には、約三百人の貴族がいる。出口は四箇所。すべて、魔王軍に塞がれている。
兵士の数は、約五十人。貴族側には、護衛を含めても、戦える者は二十人程度だ。
数の上では、圧倒的に不利。
だが——
建吾は、大広間の構造を見回した。
柱の位置。壁の材質。天井の高さ。シャンデリアの固定方法。
そして、あの壁——
大広間の奥に、大きな壁がある。豪華な壁紙が貼られ、絵画が飾られている。
だが、建吾の目は、その裏側を見透かしていた。
あの壁は、薄い。石造りではなく、木枠に石膏を塗っただけの構造だ。パーティション——可動間仕切りに近い造りだ。
そして、その壁の向こうには——
「リーゼロッテ」
建吾は、小声で言った。
「あの壁の向こうに、何がある」
「あの壁……? 確か、隣室への通路があったはずです。普段は使われていませんが……」
「通路か。完璧だ」
建吾は、計画を立てていた。
あの壁を突破すれば、隣室に逃げられる。そこから、城内の他の場所に移動できる。
問題は、どうやって壁を破るか。そして、貴族たちを誘導するか。
「俺に任せろ」
建吾は、リーゼロッテに言った。
「合図をしたら、皆をあの壁に向かわせろ」
「何をするつもりですか」
「壁を、壊す」
建吾は、ゆっくりと歩き始めた。
周囲の貴族たちに紛れながら、シャンデリアの真下まで移動する。
そこには、シャンデリアを吊っているロープの固定金具がある。
建吾は、その金具を見た。
古い。錆びている。そして、固定が甘い。
もし、この金具を外したら——
シャンデリアは、落下する。
巨大なシャンデリアが落ちれば、大混乱が起きる。その隙に、壁を突破できる。
建吾は、懐から小さな道具を取り出した。
万力鋏だ。本来は針金を切るための道具だが、細いロープなら切れる。
シャンデリアのロープに、手を伸ばす。
切る。
パチン。
ロープが切れた。
しかし、シャンデリアは落ちない。複数のロープで吊られているからだ。
建吾は、次のロープに手を伸ばす。
パチン。
さらに、次。
パチン。
最後の一本——
パチン。
シャンデリアが、落下を始めた。
「うわああああっ!」
悲鳴が上がる。
巨大なシャンデリアが、大広間の中央に落下する。
轟音。砕け散るガラス。炎が散る。
大混乱だ。
「今だ!」
建吾は、叫んだ。
「リーゼロッテ! あの壁だ!」
リーゼロッテは、即座に動いた。
周囲の貴族たちに声をかけ、壁の方へ誘導する。
建吾は、壁に向かって走った。
壁紙を引き剥がす。下の石膏が現れる。
拳を振り上げ、壁を殴る。
バキッ。
石膏が砕けた。
穴が開く。その向こうに、暗い通路が見える。
「こっちだ! 逃げろ!」
建吾は、貴族たちを通路に導いた。
一人、また一人。続々と、壁の穴をくぐっていく。
魔王軍の兵士たちが、こちらに気づいた。
「逃がすな!」
兵士たちが、駆けてくる。
だが、混乱した大広間の中では、思うように動けない。倒れたシャンデリアが障害物になり、貴族たちが逃げ惑う人混みが邪魔をする。
「早く! 早く!」
建吾は、貴族たちを急かしながら、自分は最後まで残った。
リーゼロッテが、壁の穴から手を伸ばす。
「ケンゴ様! 早く!」
建吾は、穴に飛び込んだ。
直後、兵士の剣が、壁を突き刺した。
あと一瞬遅ければ、串刺しにされていただろう。
「逃げよう」
建吾は、リーゼロッテの手を取り、通路を駆け出した。
暗い通路。その先に、何があるかはわからない。
だが、後ろには敵がいる。
前に進むしかない。
建吾は、走りながら考えていた。
クーデターは、始まってしまった。
国王は、宰相に捕らえられている。
王城は、魔王軍に占領されようとしている。
最悪の状況だ。
だが、まだ終わりじゃない。
建吾には、仲間がいる。技術がある。そして、この城の構造を知っている。
空間を支配する者が、戦場を支配する。
その言葉が、建吾の頭の中で響いていた。
戦いは、これからだ。
建吾たちは、国王への謁見を求めていた。宰相の裏切りを示す書簡を直接渡すためだ。
しかし、宰相の妨害は執拗だった。
謁見の申請は却下され、王宮への立ち入りも禁じられた。宰相は、建吾を「詐欺師」「逃亡犯」として指名手配にしていた。
「正面からは無理か」
建吾は、宿屋の一室で腕を組んでいた。
「ギルドの連中が、王宮の門を固めている。証拠を持っていても、中に入れなければ意味がない」
「別の方法はないのか」
ゴルドが、焦った様子で言った。
「明日にはクーデターが起きる。今夜中に何とかしないと……」
「わかっている」
建吾は、考え込んだ。
王宮に入る方法。正門が駄目なら、裏口。裏口も駄目なら——
「隠蔽部だ」
「また、あの臭い通路か」
「ああ。配管スペースを使えば、城内に入れる。問題は、国王の居室までたどり着けるかどうかだ」
シルヴァが、考え込みながら言った。
「国王の居室は、本殿の最上階にあります。配管スペースは、地下と一階にしか通じていません」
「なら、地下から侵入して、内部で移動する」
「見つかれば、即座に捕まります」
「そうだな」
建吾は、窓の外を見た。
夕日が、王都の街並みを赤く染めている。
時間がない。
明日の夜には、クーデターが起きる。それまでに、国王に証拠を渡さなければならない。
その時、部屋の扉を叩く音がした。
リーゼロッテだった。
彼女の顔は、緊張していた。
「ケンゴ様。一つ、方法があります」
「何だ」
「今夜、王宮で舞踏会が開かれます。国王陛下と、各地の貴族たちが集まる場です」
「舞踏会……」
「私は、グライフェンベルク辺境伯として招待されています。同伴者を一名、連れていくことができます」
建吾は、リーゼロッテの意図を理解した。
「俺を、同伴者として連れていくつもりか」
「はい。舞踏会の最中であれば、宰相も手を出しにくいはずです。その間に、国王陛下に証拠を渡すことができます」
「だが、俺は指名手配されている。顔が割れているだろう」
「仮面舞踏会です」
リーゼロッテは、わずかに微笑んだ。
「参加者全員が、仮面をつけています。顔は隠せます」
建吾は、リーゼロッテを見つめた。
彼女は、自分の立場を危険にさらしてまで、建吾を助けようとしている。
もし発覚すれば、グライフェンベルク家は反逆者として処罰されるかもしれない。
「いいのか」
「構いません」
リーゼロッテは、きっぱりと言った。
「この国を守るためなら、どんな危険も厭いません。それに……」
彼女の目が、わずかに潤んだ。
「私は、ケンゴ様を信じています」
◇ ◇ ◇
舞踏会の準備は、大急ぎで行われた。
リーゼロッテは、建吾のために正装を用意した。黒のフロックコートに、白いシャツ。銀の仮面。
建吾が着替えると、ゴルドが口笛を吹いた。
「おい、見違えたぞ。まるで貴族だ」
「馬子にも衣装だ」
「謙遜するな。似合ってるぞ」
シルヴァも、感心したように頷いた。
「人間は、服装で印象が大きく変わりますね。私は三百年経っても、人間のその習性に驚かされます」
建吾は、鏡を見た。
確かに、見違えるような姿だった。普段の作業着姿とは、別人のようだ。
だが、中身は同じだ。
俺は、内装工だ。
その事実は、何を着ても変わらない。
「行くか」
建吾は、リーゼロッテの方を向いた。
彼女も、正装していた。深い青のドレスに、銀の装飾。同じく銀の仮面。
美しかった。
建吾は、自分がそう感じたことに、少し驚いた。
これまで、リーゼロッテを「仕事の依頼主」としてしか見ていなかった。だが、今夜は違う感情がある。
それが何なのかは、まだわからない。
「参りましょう」
リーゼロッテが、手を差し出した。
建吾は、その手を取った。
◇ ◇ ◇
王宮の大広間は、煌びやかな光に満ちていた。
巨大なシャンデリア。金箔を貼った壁。大理石の床。そして、数百人の貴族たちが、豪華な衣装と仮面を身につけて踊っている。
建吾は、その光景を見ながら、別のことを考えていた。
このシャンデリア、固定が甘いな。落ちてきたら危険だ。
壁の金箔、一部が剥がれかけている。湿気が原因だろう。
床の大理石、目地が汚れている。定期的な清掃が必要だ。
職業病だ、と建吾は自分で思った。
だが、この視点が、今夜は役に立つかもしれない。
「国王陛下は、奥の玉座にいらっしゃいます」
リーゼロッテが、小声で言った。
「踊りながら、少しずつ近づきましょう」
「踊る?」
「ええ。舞踏会ですから」
リーゼロッテは、建吾の手を引いて、ダンスフロアに向かった。
建吾は、踊りの経験がなかった。元の世界でも、この世界でも。
だが、リーゼロッテがリードしてくれた。彼女の動きに合わせて、体を動かす。
「お上手ですね」
「嘘をつくな。俺は素人だ」
「でも、リズム感はあります。それに、体の動きに無駄がない」
「仕事で体を使っているからな」
二人は、踊りながら会話を続けた。
周囲の貴族たちは、二人に特に注意を払っていない。仮面のおかげで、建吾の正体は隠せている。
少しずつ、玉座に近づいていく。
国王は、玉座に座って舞踏会を見守っていた。五十代くらいの、威厳のある男だ。その隣には——
宰相ヴェルナーが立っていた。
「まずいな」
建吾は、宰相の姿を見て呟いた。
「国王の傍に、宰相がいる。あいつがいたら、証拠を渡せない」
「どうしましょう……」
「作戦を変える。宰相を引き離す方法を考えないと」
その時、音楽が止まった。
大広間の入り口から、誰かが入ってきた。
それは、兵士たちだった。
ギルドの紋章をつけた兵士が、十人ほど。先頭に立っているのは——
「見つけたぞ、墨田建吾」
宰相ヴェルナーの声が、大広間に響いた。
「仮面で顔を隠しても、無駄だ。お前の体格と動きは、報告を受けている」
建吾は、舌打ちをした。
見つかった。誰かに、密告されたのだ。
兵士たちが、建吾を取り囲むように近づいてくる。
リーゼロッテが、建吾の前に立ちはだかった。
「お待ちください。この方は、私の同伴者です。何の罪もない方です」
「罪がない?」
ヴェルナーは、冷たく笑った。
「この男は、王宮から逃亡した罪人だ。さらに、偽造文書を作成し、私を陥れようとした詐欺師だ」
「偽造文書ではありません! あの書簡は、あなた自身が書いたものです!」
「証拠はあるのか」
「あります!」
建吾は、懐から書簡を取り出した。
「この書簡だ。宰相が魔王軍と密通している証拠だ」
大広間が、ざわめいた。
貴族たちが、驚きの声を上げている。
「魔王軍と密通……?」
「宰相が、裏切り者……?」
ヴェルナーの顔色が、わずかに変わった。
だが、すぐに落ち着きを取り戻した。
「馬鹿馬鹿しい。そんな偽造文書を証拠だなどと……」
「偽造かどうかは、調べればわかる」
建吾は、国王に向かって声を上げた。
「陛下! この書簡をお調べください! 宰相の筆跡と、封蝋を照合すれば、真偽がわかるはずです!」
国王は、玉座から立ち上がった。
「その書簡を、見せよ」
「陛下!」
ヴェルナーが、慌てた様子で言った。
「このような場で、詐欺師の言葉を……」
「黙れ、ヴェルナー」
国王の声は、冷たかった。
「私は、この男の話を聞く。邪魔をするな」
ヴェルナーの顔が、強張った。
建吾は、兵士たちの間を縫って、国王の前に進み出た。
そして、書簡を差し出した。
国王は、書簡を受け取り、じっくりと目を通した。
その表情が、次第に険しくなっていく。
「これは……」
国王は、ヴェルナーに向き直った。
「ヴェルナー。この書簡に書かれていることは、事実か」
ヴェルナーは、一瞬、言葉を失った。
それから——
「今だ!」
彼は、叫んだ。
同時に、大広間の扉が開いた。
黒い鎧を着た兵士たちが、なだれ込んでくる。
魔王軍だ。
「クーデターか!」
国王が、剣を抜こうとした。
だが、ヴェルナーの方が早かった。
宰相の手には、小さなナイフが握られていた。それが、国王の喉元に突きつけられる。
「動くな! 動けば、国王は死ぬぞ!」
大広間が、恐怖と混乱に包まれた。
貴族たちが悲鳴を上げ、逃げ惑う。
魔王軍の兵士たちが、出口を塞いでいく。
「計画より一日早いが、まあいい」
ヴェルナーは、歪んだ笑みを浮かべた。
「どのみち、お前たちは全員、ここで終わりだ」
◇ ◇ ◇
建吾は、状況を分析していた。
大広間には、約三百人の貴族がいる。出口は四箇所。すべて、魔王軍に塞がれている。
兵士の数は、約五十人。貴族側には、護衛を含めても、戦える者は二十人程度だ。
数の上では、圧倒的に不利。
だが——
建吾は、大広間の構造を見回した。
柱の位置。壁の材質。天井の高さ。シャンデリアの固定方法。
そして、あの壁——
大広間の奥に、大きな壁がある。豪華な壁紙が貼られ、絵画が飾られている。
だが、建吾の目は、その裏側を見透かしていた。
あの壁は、薄い。石造りではなく、木枠に石膏を塗っただけの構造だ。パーティション——可動間仕切りに近い造りだ。
そして、その壁の向こうには——
「リーゼロッテ」
建吾は、小声で言った。
「あの壁の向こうに、何がある」
「あの壁……? 確か、隣室への通路があったはずです。普段は使われていませんが……」
「通路か。完璧だ」
建吾は、計画を立てていた。
あの壁を突破すれば、隣室に逃げられる。そこから、城内の他の場所に移動できる。
問題は、どうやって壁を破るか。そして、貴族たちを誘導するか。
「俺に任せろ」
建吾は、リーゼロッテに言った。
「合図をしたら、皆をあの壁に向かわせろ」
「何をするつもりですか」
「壁を、壊す」
建吾は、ゆっくりと歩き始めた。
周囲の貴族たちに紛れながら、シャンデリアの真下まで移動する。
そこには、シャンデリアを吊っているロープの固定金具がある。
建吾は、その金具を見た。
古い。錆びている。そして、固定が甘い。
もし、この金具を外したら——
シャンデリアは、落下する。
巨大なシャンデリアが落ちれば、大混乱が起きる。その隙に、壁を突破できる。
建吾は、懐から小さな道具を取り出した。
万力鋏だ。本来は針金を切るための道具だが、細いロープなら切れる。
シャンデリアのロープに、手を伸ばす。
切る。
パチン。
ロープが切れた。
しかし、シャンデリアは落ちない。複数のロープで吊られているからだ。
建吾は、次のロープに手を伸ばす。
パチン。
さらに、次。
パチン。
最後の一本——
パチン。
シャンデリアが、落下を始めた。
「うわああああっ!」
悲鳴が上がる。
巨大なシャンデリアが、大広間の中央に落下する。
轟音。砕け散るガラス。炎が散る。
大混乱だ。
「今だ!」
建吾は、叫んだ。
「リーゼロッテ! あの壁だ!」
リーゼロッテは、即座に動いた。
周囲の貴族たちに声をかけ、壁の方へ誘導する。
建吾は、壁に向かって走った。
壁紙を引き剥がす。下の石膏が現れる。
拳を振り上げ、壁を殴る。
バキッ。
石膏が砕けた。
穴が開く。その向こうに、暗い通路が見える。
「こっちだ! 逃げろ!」
建吾は、貴族たちを通路に導いた。
一人、また一人。続々と、壁の穴をくぐっていく。
魔王軍の兵士たちが、こちらに気づいた。
「逃がすな!」
兵士たちが、駆けてくる。
だが、混乱した大広間の中では、思うように動けない。倒れたシャンデリアが障害物になり、貴族たちが逃げ惑う人混みが邪魔をする。
「早く! 早く!」
建吾は、貴族たちを急かしながら、自分は最後まで残った。
リーゼロッテが、壁の穴から手を伸ばす。
「ケンゴ様! 早く!」
建吾は、穴に飛び込んだ。
直後、兵士の剣が、壁を突き刺した。
あと一瞬遅ければ、串刺しにされていただろう。
「逃げよう」
建吾は、リーゼロッテの手を取り、通路を駆け出した。
暗い通路。その先に、何があるかはわからない。
だが、後ろには敵がいる。
前に進むしかない。
建吾は、走りながら考えていた。
クーデターは、始まってしまった。
国王は、宰相に捕らえられている。
王城は、魔王軍に占領されようとしている。
最悪の状況だ。
だが、まだ終わりじゃない。
建吾には、仲間がいる。技術がある。そして、この城の構造を知っている。
空間を支配する者が、戦場を支配する。
その言葉が、建吾の頭の中で響いていた。
戦いは、これからだ。
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しかし、彼を嘲笑う者たちは知らなかった。アリスティアが、既存の属性魔法など比較にならないほど高次の真理――世界の現象を数式として捉え、前提条件から書き換える『概念魔法(コンセプト・マジック)』の使い手であることを。
追放の道中、彼は石ころに「硬度:無限」の概念を付与し、デコピン一つで武装集団を粉砕。呪われた最果ての森を「快適な居住空間」へと再定義し、封印されていた銀嶺竜の少女・ルナを助手にして、悠々自適な研究生活をスタートさせる。
一方、彼を捨てた王国は、属性魔法が通用しない未知の兵器を操る帝国の侵攻に直面していた。「助けてくれ」と膝をつくかつての同級生や国王たちに対し、アリスティアは冷淡に告げる。
「君たちの誇りは、僕の昼寝より価値があるのか?」
これは、感情に流されない徹底した合理主義者が、己の知的好奇心のために世界の理を再構築していく、痛快な魔導ファンタジー。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
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神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
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ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
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