大切なのは、ただひとり

馬村 はくあ

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失いたくないのは

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「久しぶりだな」


トイレから出ると壁によりかかって、縁が立っていた。


「.......縁」

「莉央に会いたかったよ」

「.......っ、俺はあの時言ったように会いたくなんて.......!」


俺は縁への気持ちを隠し通す自信がなくて、縁から逃げたのにいまさらそれを覆すことなんかできない。


「ショックだったよ。莉央とはずっと仲良くいられると思ってたのに」

「もう何年経ったと思ってんだよ。お前だって楽しく過ごしてたんだろ?」


俺だって莉央とずっと仲良くいられたらどれだけ良かったか。
でも俺が抱えている思いを溜めたまま平然と過ごすなんてあの頃の俺にはできなかった。


「まぁ、そりゃね。いつまでもショックを受けてるわけにもいかないし、働かないとだしね」

「海外にいるんだろ?成功してよかったじゃん」


在学中から映画関係の仕事に就きたいと話していた縁。
三年のときのコンクールで大賞を取って、卒業後は海外に渡った。
俺が縁から離れたのはそれがきっかけでもある。


「莉央、また仲良くしてくれよ。俺、お前のこと本当に大事に思ってたんだぞ」


「俺はあの時と気持ちは変わってないから」


肩に伸ばされた手を掴んで俺から離す。
触れた指に嵌められた指輪にすこし胸を痛めながら。

海外に女がいて、その人とうまくいってるなら俺になんて構わないで欲しい。
そもそも俺の恋愛対象が男だなんて、縁は知らないのだけど。


「2回目の失恋だな。これは」

「は?失恋?」

「俺の気持ちに気づいたから、お前は俺から離れてったんだろ?悪かったな、気持ち悪くて」


ふんっと俺から顔を逸らして、そのまま背中を向ける。


「.......気持ち?なぁ、気持ちってなんだよ」


緑のことを追いかけて、腕を掴む。


「なんだ、分かってるくせに言わせたいのか?」

「分かってなんて.......何も見えねぇよ」


縁の気持ちなんて、なにもわかったことがない。
見えないから、モヤモヤしてばかりいたのに。


「は?俺の気持ちに気づいて離れてったんじゃねぇの?」

「知らないよ。縁の気持ちってなんだよ.......」

「莉央のことが好きだって気持ちだよ。何年経っても消えねぇんだよ」


はぁっとため息をついてその場にしゃがむ。


「え、縁?それってマジなのか.......?」

「こんな嘘つくとかどんな趣味してんだよ」

「縁、俺のことが好きだったのか?」

「好きだよ!恥ずかしいから何度も言わせんな!」


かぁーっと顔を赤くする縁。
それにつられて、俺の顔も赤くなっていく。

まさか縁と両思いだったなんて、知りもしなかった。
なのにあの時縁から逃げようとするなんて俺は何を考えていたのだろう。


「莉央は?俺のことなんとも思ってない?」

「俺は.......」


好きだと。ずっと好きだったと答えればいいのだろうけど、言葉に詰まってしまった。
浮かんできたのは、隼の顔。
いつの間にか、縁じゃなくて隼のことを好きになっていたのだろうか。


「お前、指輪してるだろ?相手……いるんじゃないのか?」


自分の気持ちをごまかして、先程みえた指輪の話を振る。
さっき指輪を嵌めていることを知ったときは胸が傷んだのに、いざとなると気持ちをハッキリと言えなかったのはなぜだろう。
俺は会えないあいだもずっと縁のことを好きでいたはずなのに。

会えていなかった期間が長いからか、はたまた会っている期間が長い相手に気持ちは移るのか。
でもそもそもの始まりが縁に似ているからだからか、その気持ちを認めることがなかなかできないでいる。


「この指輪は女避けだよ。これをしておけば誰も寄ってこなくなるからな」

「やっぱモテるんだな、縁は相変わらず」

「モテるのはお前だろ。可愛くて、放っておけなくなる」


そっと俺の頬に触れる縁。


「それは縁がおもってるだけだろ?」

「いや、俺だけじゃない。莉央は男にも女にもモテてしまうんだよ。本当は俺がずっと守っていきたかった」

「.......っ、そんな顔するなよ」


とても傷ついた顔をする縁につい、心が絆されそうになってしまう。
別に絆されたって、俺はずっと縁のことが好きだったわけだし、いいのだけどとうしても隼の顔がチラついてしまう。


「せっかく会えたのに、みすみす逃したくないんだよ」

「ごめん。縁の気持ちも知らないで離れてしまって」

「それはもういいんだよ。過ぎたことだし。でも悪いと思うならこれからのことを考えて欲しい」


縁の真剣な眼差しは嘘をついているようにはおもえなかった。
俺のことを好きだというのが嘘じゃないと縁の目が語っていた。


「ごめん、俺の恋愛対象は女なんだ」


どうしても縁の気持ちを受け入れて、失う関係が怖くてこうして嘘をついてしまった。
俺にとって、凄く嬉しいことのはずだったのに一緒にいる時間が長すぎて気がついたら隼といたいと思うようになっていたのかもしれない。


「バカだなぁ、俺」


縁が去っていく後ろ姿をみて、泣きそうになるなんて本当にバカだと思う。
でも、俺が失いたくないのは居心地のいい隼との関係の方だった。

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