大切なのは、ただひとり

馬村 はくあ

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目撃した衝撃

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「縁となんか話したのか?」

「え?」

「縁とそこですれ違ったからさ」


遅い俺の様子を見に来た桜庭が首を傾げる。


「好きだって言われたよ」

「お?両思いだったってわけか?」

「あまり驚かないんだな」

「知ってたからな。縁の気持ちは」

「は?じゃあ、教えてくれたらいいだろ」


もしも桜庭と出会った時に縁の気持ちを知っいたら、関係が変わっていたのだろうか。
その時はまだ隼に出会ってないから、縁以外に向かせる存在もいなかったから。

でもなにがどうであれ今の俺が大事だと思っているのは隼との関係ということは間違いがなかった。


「で?付き合うのか?」

「俺は女が好きだって言ったよ」

「は?せっかく両思いなのに?」

「.......わかんねぇんだけど、隼の顔が浮かんだんだ」


あの時、俺が考えていたのはもう縁ではなかった
いつから縁のことを考えなくなっていたのだろう。
いつから隼でいっぱいになっていたのだろう。


「ていうか、そろそろ移動だぞ?」

「二次会面倒だな.......」

「いや、お前行くって言っちまったろ」

「そうだった.......」


縁のことがあって脳内が疲れまくっていた俺は少し前の自分の発言を思い切り恨むしかなかった。


「三軒隣の店だってさ。行くぞ」

「はぁ、わかったよ」


桜庭が持ってきてくれたカバンを受け取り、ふたりでお店をあとにする。


「うわぁ、酔っ払ってるのかな?」


店を出た瞬間、店と店の間をみて桜庭がつぶやく。


「ん?」

「ほら。あーいう関係のってあんまり人目につかないとこでやんじゃないの?」

「あー.......」


そこでは男同士の激しいキス場面が見せられていた。


「まぁ、みんな酔ってるしそんなに見えてもいないんだろうけど。目のやり場に困るな」

「.......っ、うん。そうだな」


一瞬、キスとキスの合間に見えた彼らの横顔。
それは二人ともが俺の知っている人物だった。


「.......って、あれ縁?」

「あんま詮索すんなよ。行くぞ」

「悔しくないのかよ。さっき自分に言い寄ってきたんだぞ?」

「別に。そんなのは個人の自由だろ?」


そんなことはもうどうでもいい。
そんなことよりも俺が今気になっているのは、縁の相手だ。


「キッツ.......」


見えた横顔はどう見ても俺が毎週のように会っていた男の横顔だった。
俺が縁よりも大事な居場所だとついさっき感じた相手。
そんな相手と初恋の男のキスシーンをみて平然といられるわけがない。


「ん?どうした?」

「隼だった」

「なにが?」

「縁とキスしてた相手」


口にするとさっき見えた光景が現実だと思い知らされる。


「え、まじかよ」


さすがの桜庭も予想外だったようで足を止める。


「あの二人が繋がってるとか.......なんの運命だよ」


あいつらもまたサイトで知り合ったふたりなのだろうか。
隼に俺以外の相手がいるなんて考えたこともなかった。
俺らは名前とメッセージアプリのIDしか知らないんだからそれもそのはずだけど。
でも自分の初恋の相手とだなんて誰が考えるだろうか。


「こんな不安定な関係で隼のことが大事だとか思うなんて.......俺がどうかしてんのかもな」


隼に何かを言われたわけでもない。
俺が隼に何かを言ったわけでもない。
ただ、サイトで知り合って身体を重ねるだけの俺らの間には本当は何も存在しなかったのかもしれない。


「どうかはしてないだろ。こんなに長いこと一緒にいたら大事にならない方がおかしいだろ。そんなの男も女も変わらないと俺は思うよ」

「ありがとう、桜庭。二次会行くか」


とりあえず、もう今日は考えたって起こったことが変わるものでもない。
飲んでなかったことにできればいいとその時は思っていた。


「しかし、桜庭は俺から見たらめっちゃ良い奴なのにな」

「なんだよ、俺から見たらって。女から見たらダメみたいな言い方すんなよー」


はぁーっと項垂れて、俺の肩にもたれかかる。


「まぁ、その通りだけどな」


俺は桜庭と同期として出会えて、仲良くなれてよかったって思ってる。
初めのきっかけは縁のことだったけど。
「お前、縁のこと好きだったろ?」なんて聞かれたときは絶対に仲良くなれないって思っていたけど。

でも桜庭が俺のことを分かってくれたから、辛いときや悩んだときに話を聞いてもらえる相手に出会えた。
だから桜庭がいてくれてよかったって本当に思ってる。


「どうやったらお前みたいに女にモテんだよー。ずるいよなー」

「とりあえずモテたがるのをやめたらいいと思う」

「だってモテたいもんーーー」


大声でそんなことを叫びながら二次会のお店へと入っていく桜庭はやっぱりモテないと思う。
明るくて、人の気持ちも考えることができるのにそういうとこだけは必死すぎて、どうも空回りしている。

俺らみたいなノンケ以外からは人柄的にモテそうだけど、そんなこと言ったら怒られるから言わない。


「よーし、飲むぞ!莉央!」


その日は縁と隼のこともあって、酒がものすごく進んだ。
目撃した衝撃は簡単には酔ってもなくなってくれない。

けど普段の量よりも三倍くらいの量を飲んだ俺は次の日には今日の記憶なんて全部頭になくなって欲しいと願いながら眠りについた。

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