大切なのは、ただひとり

馬村 はくあ

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触れたい、触れられたい

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「しっかし、本当に豪華なホテルだな」

「会社の社員旅行に奮発しすぎだよな」


はははと笑いながらロビーを歩いていると、ふと「莉央?」と声をかけられる。


「縁じゃん」

「サクもいたのか」


サクとは桜庭のあだ名で中学の頃はみんなにそう呼ばれていたんだとか。


「.......こんなところで莉央に会えるなんて嬉しいよ」

「.......っ、縁」


隼のことが口から出てしまいそうで、でも名前を出すわけにはいかなくて、縁の名前を口にするだけにとどめる。


「偶然だな。旅行か?」

「社員旅行だよ」

「そっか。ふたりできたのかと思って、ヤキモチ妬くとこだったよ」

「おいおい、俺は女が好きだぞー?」

「そんなの、莉央もだろ?な?」


桜庭の言葉に俺の顔を覗き込む。


「そうだよ。行くぞ、桜庭」


近くなった縁との距離は簡単に俺の心臓を騒がせる。
本当に縁は初めて会った時から俺の好みだった。
そして、大人びた縁はさらに俺好みに成長を遂げていた。

隼はあの頃の縁を少し大人にした感じで、かつての同級生と身体の繋がりを持っている感覚に陥ることができて、すごく興奮していた。
そして、実際に会った縁もまたいまの隼ととても似ていた。


「あ、隼。遅いぞ」

「悪ぃ、トイレ混んでた」


そんな声が背後から聞こえる。
振り向きたい衝動にかられながらも、俺はエレベーターホールまで振り向かずに行くことに成功した。


「ほら、ここからなら隠れて見えるぞ」

「あ、あぁ」


仲睦まじげに縁と話している隼の姿。
今度はキスシーンじゃくなくて、ちゃんと姿を捉えることができた。
やっぱり、隼は俺の心をかっさらってしまうようで、頭の中は隼でいっぱいになった。


「俺、サッパリしたいから風呂でも入ってくるわ」


部屋に着いてすぐ、桜庭が出ていって俺は一人になる。
きっと、俺を一人にさせてくれたのだろう。


「隼.......が、好きだ.......」


もう、誤魔化せない。
俺は、縁じゃなくて隼のことが好きだったんだ。
あんなにずっと縁のことが忘れられないと思っていたのに、いつの間にか隼のことが好きになっていた。

それを、縁に気持ちを告げられて気づくなんて俺もバカだな。
縁に似ている隼のことを気に入ってるだけだと思い込んでいた。
いや、俺は自分の気持ちに気づかない振りをしていたのかもしれないな。


「.......隼.......っ」


さっき久しぶりにちゃんと隼の顔をみた。
たったそれだけのことで、なにもないのに膨れ上がった自身のソレに触れる。

意地でも隼とするまでは.......とかたくなに自分でも触ってこなかった。
というか、元々そこまでの性欲はなく隼といる時だけ興奮していた。
だから、ここ2週間ほどはまったく興奮することもなく単調な日々をすごしていた。


「少しみただけで、アイツの身体思い出して.......もうダメだ」


時計をちらっとみると、桜庭が出てからまだ5分も経っていない。


「いいよな.......っ、隼.......はぁっ」


こんなコソコソと自慰行為をするなんて学生の時以来かもしれない。
頭に浮かんでくるのは、俺を抱きしめる隼の腕。
いつも頭を撫でて「可愛い」と言ってくれて、そして優しく口付けをしてくれる。

たったこれだけ頭に浮かべただけで、隼にキスをされてる感覚に陥るから不思議だ。


「.......っ、はぁっ.......んっ.......」


隼がいつもしてくれるように自然と俺の指が後ろへと回る。


「.......しゅ、ん.......しゅん.......隼!」


自分しかいないのに、自分でやっている事なのに隼がそこにいるような、隼と戯れているようなそんな感覚に俺は支配される。


「好き.......隼.......好き」


こう、実際にも言えたらいいのに。
隼と戯れているときはこんなことは言えない。
「気持ちいい」と表現をするだけで精一杯だ。


「.......はぁっ、はぁっ.......」


隼のことをたくさん頭に浮かべて、俺はあっけなく果てた。


「隼に触れたい、触れられたい.......」


隼を思いながらじゃない、隼とふたりで感じたいし、また一緒に果てる瞬間を味わいたい。
やはり、隼とふたりで果てる瞬間が一番好きだ。
たとえ隼には他にも男がいたとしても、俺と隼の空間は俺たちだけにしか作り上げることできな空間だから。


「はやく、俺のところに来てくれよ.......」


しばらくとは一体どのくらいなのか。
1ヶ月、半年、はたまた一年。
そんなに待たされたら、俺はどうなるんだろうか。
でももう別に忘れられないからといって他の男となんて今更考えられない。
だから、はやく「俺がいい」と戻ってきてくれたらいいと思っていた。


「縁と.......してるのかな」


そう考えただけで、胸が苦しくなる。
どうやら俺は隼のことが好きで好きでたまらないようだった。
もっとはやく気がついて、気持ちを伝えていたら何かが変わっていたのだろうか。

名前とIDしか知らない俺らもほかの情報をお互いに言い合うことができていたのだろうか。
どうなっていたかなんて、すぎた今ではなにもわからないけど。

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