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救い出せたら、それでいい
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「……やってしまった」
ベッドの上で出る大きなため息。
「……悲しいこと言うなよ」
「……起きてたのか、縁」
「俺は嬉しかったのに、お前は違うんだ?」
「覚えてないから、わかんねぇ」
目を覚まして、隣をみると裸の縁が寝ていた。
状況を把握するのに時間はかかったけど、そういうことだろう。
同窓会までは覚えているのに、ここにこんな形でいることになっている記憶はまったくない。
「おかしいな……そんなに飲んでないはずなのに」
昨日のあの状況なら、セーブしていてもセーブできなくて、酔ってしまいそうだから弱いお酒をゆっくりと飲んでいたはずだった。
そして、もしかしたらと、そんな淡い期待ばかりがよぎって、あまり酒を飲むこともしなかった。
酔っていたら隼から連絡が来ても相手をしてあげられないから。
どうやら俺は都合のいい相手でもいいくらい隼のことが好きになってしまったようだ。
身体を繋げている頃は、俺の方が相手をしてやってる感じで立場が逆だったように思えるのに、離れて気づく俺はバカなんだろう。
「酔わせたからな。俺が」
「は?だって、お前がくれた酒.......は!?」
ここで縁に騙されたときづかないほど俺は馬鹿ではない。
「こういうことになりたくて酔わせた。お前に弱い酒って嘘ついて飲ませたよ」
「……っ、なんでそんなこと」
隼以外の男に身体を捧げるつもりなんて二度となかったのに。
好きでもない男に抱かれて喘いでいたのかと思うとそれだけで吐き気がする。
「気持ちよさそうに鳴いてたよ」
「うるせぇ。黙れ」
前なら縁とこういう関係になれて嬉しかったはずなのにいまは気持ち悪さしか残らないなんて、人の気持ちというのは移りやすいものだ。
「いいじゃん、今日休みだしもう1回しよ?」
「やめ……んっ」
俺の抵抗もむなしく、簡単に縁の力に負けてしまう。
「可愛い、本当に可愛い。昨日も可愛くて、何度も何度も……」
「何度もしたのかよ……どーりで……」
身体が重たいとは思ってた。
隼としたあとももちろいつも重たいけど、隼はいつも俺の身体をいたわってくれていたから。
あぁ、やっぱり俺は隼がいいとこんな時も思ってしまう。
「……っ、縁は他にも相手いんだろ」
「は?好きなのは莉央だけだよ?」
「じゃあ、遊びなのかよ。この前キスしてた相手は……」
「キス……あぁ」
一瞬考えたあと、思い出したように目を見開く。
「あれは、昔から俺の奴隷」
「奴隷……?」
俺が大切に思っている居場所である隼のことを「奴隷」と表現したことに腹が立って仕方なかった。
でも、隼のことを何も知らない俺がとやかくいう問題でもなくて、何も言えない自分が悔しかった。
「うん。あの日は莉央に振られた腹いせに抱いた」
「いつもそんなことしてんのかよ.......」
「そうだな。莉央の代わりにしてるね、基本的には」
「やめろよ、そーいうふうにやんの。奴隷なんて人に使う言葉じゃない」
なんとしてもそんなふうに隼のことを使ってほしくなんてなかった。
もう俺のところに戻ってきてくれなくても構わない。
ただ、隼が幸せに笑っていてくれればそれでいいから。
俺は以前縁に思っていたようなことを隼に思っていた。
縁もどこにいるのか、なにをしているのか分からなかったけど、会えなくても笑ってくれてればそれでよかったから。
「莉央が俺の気持ちに応えてくれたらいいんだよ。そうしたらあいつを使わなくてもいいんだ」
「.......っ、なんだよ。それ」
「だってそうだろ?俺があいつのこと奴隷にするのは莉央のせいなんだよ」
「俺の、せい.......」
俺のせいで隼が傷ついていると思ったら胸が苦しかった。
「はじめは、莉央が俺の元から去った日だよ」
「卒業式.......」
「あそこから、あいつとの関係が生まれたんだ。あいつを抱いていれば満たされた。莉央を重ねて満たされたんだ」
苦しそうな顔で話す縁はきっと俺があんなふうに去ったことで傷ついてきたのだろう。
だとすれば、やはり原因は俺にあるのかもしれない。
「でも、だからといって俺は縁とはもう会いたいとか思わないよ」
「なんでなんだ.......女なんかどうでもいいだろ。だって、お前気持ち良さそうだった.......」
俺の前に膝をついて、顔を俯かせる。
「俺はお前に嘘をついた」
「嘘?」
「俺は女なんかすきじゃないし、お前のことが好きだった」
こんな風になっている縁のことを放っておけなくて、つい手を伸ばす。
それが隼のことを助けることになるなら。
でも、だからといって縁の気持ちに応えるなんてできないから、ただ愛されてきた縁という存在を認めてあげたかった。
「俺を.......好き?」
「好きだから、離れた」
「じゃあ.......っ「でも、俺にはもう大事な存在がいるんだ。だからごめん。でもお前はあいされてきたんだから、そんなお前が人を傷つけることなんてするな。そんなお前は見たくない」
「.......莉央」
縁の目が見開かれていく。
「莉央にはいつも気付かされてばかりだな。こんなことしてても時間の無駄なんだよな.......」
「縁。お前は愛されてるよ。だから、俺のことを信じて」
「.......莉央」
縁は昔から愛情に満たされていない人間だった。
そんな縁の元を自己満足で離れた俺がきちんと縁のことを救い出してやらないとならない。そんな気がした。
「お前と付き合うとか、こういうことするとか考えられないけど.......友達としてならもう離れないから」
また、違う意味でやり直せたらそれでいい。
そして、隼のことを救い出せたらそれで。
ベッドの上で出る大きなため息。
「……悲しいこと言うなよ」
「……起きてたのか、縁」
「俺は嬉しかったのに、お前は違うんだ?」
「覚えてないから、わかんねぇ」
目を覚まして、隣をみると裸の縁が寝ていた。
状況を把握するのに時間はかかったけど、そういうことだろう。
同窓会までは覚えているのに、ここにこんな形でいることになっている記憶はまったくない。
「おかしいな……そんなに飲んでないはずなのに」
昨日のあの状況なら、セーブしていてもセーブできなくて、酔ってしまいそうだから弱いお酒をゆっくりと飲んでいたはずだった。
そして、もしかしたらと、そんな淡い期待ばかりがよぎって、あまり酒を飲むこともしなかった。
酔っていたら隼から連絡が来ても相手をしてあげられないから。
どうやら俺は都合のいい相手でもいいくらい隼のことが好きになってしまったようだ。
身体を繋げている頃は、俺の方が相手をしてやってる感じで立場が逆だったように思えるのに、離れて気づく俺はバカなんだろう。
「酔わせたからな。俺が」
「は?だって、お前がくれた酒.......は!?」
ここで縁に騙されたときづかないほど俺は馬鹿ではない。
「こういうことになりたくて酔わせた。お前に弱い酒って嘘ついて飲ませたよ」
「……っ、なんでそんなこと」
隼以外の男に身体を捧げるつもりなんて二度となかったのに。
好きでもない男に抱かれて喘いでいたのかと思うとそれだけで吐き気がする。
「気持ちよさそうに鳴いてたよ」
「うるせぇ。黙れ」
前なら縁とこういう関係になれて嬉しかったはずなのにいまは気持ち悪さしか残らないなんて、人の気持ちというのは移りやすいものだ。
「いいじゃん、今日休みだしもう1回しよ?」
「やめ……んっ」
俺の抵抗もむなしく、簡単に縁の力に負けてしまう。
「可愛い、本当に可愛い。昨日も可愛くて、何度も何度も……」
「何度もしたのかよ……どーりで……」
身体が重たいとは思ってた。
隼としたあとももちろいつも重たいけど、隼はいつも俺の身体をいたわってくれていたから。
あぁ、やっぱり俺は隼がいいとこんな時も思ってしまう。
「……っ、縁は他にも相手いんだろ」
「は?好きなのは莉央だけだよ?」
「じゃあ、遊びなのかよ。この前キスしてた相手は……」
「キス……あぁ」
一瞬考えたあと、思い出したように目を見開く。
「あれは、昔から俺の奴隷」
「奴隷……?」
俺が大切に思っている居場所である隼のことを「奴隷」と表現したことに腹が立って仕方なかった。
でも、隼のことを何も知らない俺がとやかくいう問題でもなくて、何も言えない自分が悔しかった。
「うん。あの日は莉央に振られた腹いせに抱いた」
「いつもそんなことしてんのかよ.......」
「そうだな。莉央の代わりにしてるね、基本的には」
「やめろよ、そーいうふうにやんの。奴隷なんて人に使う言葉じゃない」
なんとしてもそんなふうに隼のことを使ってほしくなんてなかった。
もう俺のところに戻ってきてくれなくても構わない。
ただ、隼が幸せに笑っていてくれればそれでいいから。
俺は以前縁に思っていたようなことを隼に思っていた。
縁もどこにいるのか、なにをしているのか分からなかったけど、会えなくても笑ってくれてればそれでよかったから。
「莉央が俺の気持ちに応えてくれたらいいんだよ。そうしたらあいつを使わなくてもいいんだ」
「.......っ、なんだよ。それ」
「だってそうだろ?俺があいつのこと奴隷にするのは莉央のせいなんだよ」
「俺の、せい.......」
俺のせいで隼が傷ついていると思ったら胸が苦しかった。
「はじめは、莉央が俺の元から去った日だよ」
「卒業式.......」
「あそこから、あいつとの関係が生まれたんだ。あいつを抱いていれば満たされた。莉央を重ねて満たされたんだ」
苦しそうな顔で話す縁はきっと俺があんなふうに去ったことで傷ついてきたのだろう。
だとすれば、やはり原因は俺にあるのかもしれない。
「でも、だからといって俺は縁とはもう会いたいとか思わないよ」
「なんでなんだ.......女なんかどうでもいいだろ。だって、お前気持ち良さそうだった.......」
俺の前に膝をついて、顔を俯かせる。
「俺はお前に嘘をついた」
「嘘?」
「俺は女なんかすきじゃないし、お前のことが好きだった」
こんな風になっている縁のことを放っておけなくて、つい手を伸ばす。
それが隼のことを助けることになるなら。
でも、だからといって縁の気持ちに応えるなんてできないから、ただ愛されてきた縁という存在を認めてあげたかった。
「俺を.......好き?」
「好きだから、離れた」
「じゃあ.......っ「でも、俺にはもう大事な存在がいるんだ。だからごめん。でもお前はあいされてきたんだから、そんなお前が人を傷つけることなんてするな。そんなお前は見たくない」
「.......莉央」
縁の目が見開かれていく。
「莉央にはいつも気付かされてばかりだな。こんなことしてても時間の無駄なんだよな.......」
「縁。お前は愛されてるよ。だから、俺のことを信じて」
「.......莉央」
縁は昔から愛情に満たされていない人間だった。
そんな縁の元を自己満足で離れた俺がきちんと縁のことを救い出してやらないとならない。そんな気がした。
「お前と付き合うとか、こういうことするとか考えられないけど.......友達としてならもう離れないから」
また、違う意味でやり直せたらそれでいい。
そして、隼のことを救い出せたらそれで。
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