生徒との1年間

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顧問2年目05月

顧問2年目05月 3

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 朝。立成の部屋。

 立成はベッドの上で寝ぼけている。先ほどまでは海の底に沈んでいるかのように眠っていたのだが、急にパチッと目が覚めてしまったのだ。
 若いときは休みの日に自然と目が覚めることなんてなかった。放っておかれると昼過ぎまで寝てしまうこともあるほど寝坊助だったのだ。そんな立成なのだが30代を過ぎたあたりから朝日を浴びると目が覚めることになるなんて立成自身も思ってもみなかったことだった。
 休日であるというのに目が覚めてしまった自分を忌々しく思うが、そこで。

(そうだ。今日は市の弓道大会に出るんだった)

 だらしなく生欠伸をしながら立成はスマホに手を伸ばす。画面に表示される時間はまだ早朝だ。
 せっかくの休日だ。自分の意志で大会にでることにしたとはいえ、こんな時間に起きるのは少し勿体ない。今日の準備として、弓道具や袴等は昨夜から整えてある。
 立成はまた瞳を閉じた。もう少し眠っても大丈夫だな時間だった。

 ゴロンと布団の中で寝返りをうつ。素肌が触れるシーツが心地よいが、少し身体が汗ばんでいるのを感じる。どうやら今日は幾分か温かいようだ。

「うーん」

 思わず寝ながら掛布団をガバっと剥ぎ取る。立成の身体が籠った熱からの解放を求めていた。
 寝間着代わりのTシャツが胸元までめくりあがる。腹が冷えるのはあまり好きではないが今は気持ちよい。シャツの首周りがうっすらと変色している。寝ている間に汗をかいたせいだろう。
 下もズボンを履いておらず下着姿だった。普段の下着はボクサーブリーフを愛用している立成には珍しくトランクスを履いていた。いつ購入したかもわからないほど古いものですっかり履きつぶしており生地ももうペラペラだ。ウエストのゴムもよれよれとなり、プリントされているよくわからないカラフルな柄も色味が薄くなってしまっている。

 そんなだらしない無防備な下着姿のまま、立成は寝床にあるクッションを無意識に抱きしめてしまう。立成が学生時代の20代前半のときに購入し、それ以降ずっと立成と一緒に眠っているものだ。寝るときには長年連れ添っているためか、ところどころその歴史を感じさせるような汚れがあり、どことなくくたびれた感じがしている。
 ちなみに、これはいわゆる『抱き枕』のような役割の商品であり、人やキャラクターの形状をしているものではない。細長い三日月のような形をしている、そんなクッションだった。
 その長いクッションに両手と両脚を回して抱き着く立成。腕も太股も毛深い逞しい体躯の男が柔らかなクッションにすがりつくように抱き着いている様子は、起床前のささやかな惰眠のタイミングとはいえ少し情けない。

「・・・」

 クッションに顔を埋めながら立成は何度も瞬きをする。あまり眠くはならなかった。しかし弓道大会まではまだまだ時間がある。今起きたとしても明らかに時間を持て余すだろう。
 カーテンの隙間から外の明るい日差しが入り込み、時折車の駆動音が聞こえてくる。休日らしい長閑な朝だった。
 どうしようか。どうしようか。
 立成は考え、そして・・・

「・・・んっ・・・」

 立成は下半身を揺らしていた。立成が横向きで抱き着いているその抱き枕に下半身を擦り付けている。
 立成が腰を横に、上下に振っている。それに合わせてプルプルと静かに揺れる立成の尻。トランクスから伸びる太股もクッションを挟んで離さない。
 トランクスの中の一物は、その先端をへそに向けられた状態でクッションをあてがい、腰の動きにより程よい刺激を与えられている。わずかに膨らんでいた程度であった立成の一物がこの刺激で目が覚め始めたかのように血が集まり始めていた。
 立成の自慰が始まっていた。独身男性なら誰しもが行うものであるが、今の立成がしている行為、それはいわゆる『床オナ』に近しい行為だった。実は立成がこのクッションででこんなことをするのは初めてではない。これまでの人生で一度も彼女ができたことのない立成が、特に人肌が恋しい夜なんかには決まってこのクッションを抱きしめ、疑似的な恋人と情交を結ぶかのような甘くそして寂しい夜を何度も過ごしていたのだ。

(うっ・・・気持ちいい・・・)

 立成はたまらない快感に震えていた。正直、朝から非常にむらむらしていた。5月に入ったとはいえ、年度始めは学校運営のために必要な書類も多く残業が続き、夜のプライベートも充実できていなかった。部活動の後も自主練する筒井を見送った後も職員室に残り、PC作業をする日々を送っていたため、最後に射精したのがいつかもわからないほどに立成の金玉は精子が溜まりに溜まっており、それらを放出するためにも自然と腰を動かしてしまっていた。
 立成の通常のセンズリは下着から一物を完全に露出させて、その亀頭を右手でセッセといじくりまわすものであるが、トランクスを履いたままクッションにスリスリと局部を擦ることで得られる快感は、右手で擦るのとはまた違ったものだ。自分の手以外の無機物と自分の下腹部に一物を挟み込むことで与えられる程よい圧迫感と、腰を動かして振動させて擦られることにより得られる快楽に、立成は久しぶりの悦びを噛みしめていた。

(はあっはあっ・・・・吉沢先生・・・)

 立成は股間を擦り付けながら、無意識に養護教師の吉沢のことを思っていた。
 立成がこのクッションを組敷いて情けない自慰行為をするときは、いつも誰かしらの女性を想像する。右手でするときよりも人を感じてしまうからだろうか、その女性と結ばれることを妄想しながら自慰行為に耽ってしまう。立成が学生時代のときからのお約束だった。童貞の男子学生らしい微笑ましい行為だ。そのときからすでに10数年たっているのだが、今も変わらずにまだ純潔を守ってしまっているため、今となっては悲しい習慣である。それでも立成は、この自慰のやり方をするときには思わず憧れの女性に自分の童貞を捧げる瞬間を思い描いてしまう。
 今日、立成が想像してしまったのは養護教師の吉沢だった。彼女とは職場で少し会話する程度の関係だ。会話といっても業務的なものばかりで特別な関係になっていないのだが、それでも立成の身勝手な妄想のネタにしてしまっている。
 吉沢の小柄で華奢な身体、そのせいでぶかぶかな白衣、綺麗な黒髪、無垢な瞳、そして微かに香る女性の香り・・・
 立成は職場で見る、感じる彼女の色々を思い返して、全力でイメージする。具体的に思うことができれば、それだけでどうしようもないほど興奮して一物のカリ首がもたげてしまう。身近な人をネタにしているからか、背徳感がさらに1人遊びのオナニーにスパイスとしてトッピングされる。実際の吉沢がどんなものかは関係なかった。全てが妄想だ。もっとも、童貞の立成にはそのくらいがちょうど良いのかもしれないが。
 こそばゆいような射精欲が沸き上がってくる。だが当然これだけでは出さない。早く射精して快楽を得たい気持ちと、より射精前の亀頭への刺激による快感を味わいたいき持ちそんな快楽と我慢に挟まれて立成は苦渋の表情を浮かべていた。

(ぐっ、もっと・・・もっとだ・・・)

 立成は吉沢に見立てたクッションを抱きしめたまま寝返りをする。そのクッションを組み敷くように覆い被さるような体勢をとる。それは女とまぐわうかのようだ。正常位をするときの男役の体勢だ。この状態だとより一層立成は情交を交わしている錯覚に陥るのだ。立成はメスをバックから犯している獣のように逞しい腰を振った。その力により立成の肉がはっきりと隆起し力を持つ。クッションと身体に挟まれる圧力により、亀頭だけでなく裏筋までも快楽が伝わり、未熟な立成の息子が危うく暴発しそうになってしまうのを制御しながらも、立成の妄想はさらに加速する。

(まずい、気を抜くと出ちまう・・・まだだ、まだだ・・・うっ・・・吉沢先生・・・きれいだ・・・)

 今や立成の思い描く世界では、彼も吉沢も全裸だった。白いベッドの上で重なり合っている2人。彼女は立成の世界では色白で美しい肌をしていた。彼女の小振りな乳房とそれに乗る控え目な乳首。
 自分が考えたイメージに思わず口の中で涎がたまる。唾を飲み込み太い首に浮かぶ男らしい喉仏がブルっと揺れる。頭の中がいやらしい気持ちであふれてクラッとしてしまう。
 
(本物の吉沢先生の胸はどんな形なんだろうなぁ・・・女のおっぱいってどんな柔らかさなんだろう・・・)

 思わず立成の両手が組み敷いているクッションを掴む。32歳とは思えないような情けない妄想に連動して、毛の生えた太い10本の指が這いずり回る虫たちのように動く。立成の中では女性の乳房を優しくそしていやらしいく愛撫しているつもりだ。しかし、その指の動きは緩急も何もなく、力も女性に向けたものではない。見るものが見れば、確実に女を知らない男だとわかる自己満足だけの手つきだった。

 まだ女性と交際したこともなく、実物の女性器に触れたことも見たこともない。あるのはアダルト向けコンテンツの画像や動画だけだ。風俗店にも行ったことが無いのだ。それでも仮想する吉沢の女陰部を妄想する。そこに一物を突き刺している自分を想像するとたまらない気分だ。自分が本当に男になったかのような、今まで自分の人生で背負い込んできた色々なものから解き放たれるような。そんな何とも言えない誇らしい気分になるのだ。
 今や立成のイメージでは、目の前に吉沢の男らしく勃起した竿で彼女に艶のある声を出させ、涙を流させるほど歓喜させ、『もっと、もっと』と強請らせる。想像の中では立成は立派な一人前の漢だ。
 横向きの時よりも立成の一物は膨れ上がりしっかりとした硬さになっていた。それでも亀頭はさらなる刺激を欲し、より強く、より激しく腰を振る。腰を振ってしまう。それに合わせるようにミシッ、ミシッとベッドが軋み、それだけを見ると男女が愛し合っているかのようだ。

(吉沢先生・・・吉沢先生に俺のチンポ、挿れられたら・・・)

 吉沢に見立てたクッションを組み敷きながら太い肢をガバっとガニ股に開く。背後から見るとカエルが泳いでいるような、情けない無防備な姿だが、より亀頭とクッションが密着する。肥大化した立成の一物も、亀頭だけでなく裏筋までも体重による圧を受ける体勢だ。
 そのまま、これまでは振るように動かしていた腰を、1回1回の腰の動きをより大きく動かす。女に挿入したときのピストンと同じ動きだ。擬似的なセックスだ。
 快感は絶大だ。クッションにスリスリしていたときの微弱な振動の気持ちいいが、気持ちまでも雄になったように思えて満足感も段違いだ。
 本能に従うとそのまま腰を振り続けてしまうところを無理やり止める。立成はその快感を噛み締めるように目をつぶる。加減しないと一気に達してしまいそうだ。我慢するために息を詰める。そのおかげで顔が上気し赤く染まる。
 それだけなんとか制御しようとしても、勃起しても包皮に包まれたままの立成の一物は、その先にある鈴口からは我慢汁がトロトロとあふれ出てきている。久しぶりの気持ちよさによる歓喜なのか、その量はトランクスの表面にもじわっと染み出してしまうほどだった。

(やべっ・・・ティッシュティッシュ・・・)

 立成は慌てて左手でティッシュボックスから4枚ほどティッシュ紙を抜き取る。それらを丁寧に重ね合わせ、膨張した亀頭の先とトランクスに挟み込んだ。いつ放出に至ってもいいように、こういう風に圧迫させて自慰をするときの立成のルーティンだった。いざ放出するその時が来ても、下着もクッションも汚れないのだ。時折、オナニーに夢中になってしまいティッシュが間に合わずに暴発してしまい、下着をカルキ臭くしてしまうこともあるのだが。

(吉沢先生の身体、きっと柔らかいんだろうなぁ・・・触りてぇ・・・どんなまんこなんだろう)

 立成の妄想は再び始まる。普段は振り払いたくなるような下品な妄想も、このときばかりは止まらない。職場でしか会ったことのない、少ししか会話したことのない彼女の美しくもいやらしい肢体を勝手に思い浮かべ、その身体に身を溺れさせる。
 妄想の世界。全裸の吉沢が立成を誘う。触れてくれる。包み込む。
 そんな立成の妄想に応えるかのように、動きを止めない腰により与えられる刺激もあってか、立成の一物は嬉し涙を流しながらもしっかりといきり勃っていた。 

(吉沢先生・・・俺とセックスしてくれ・・・俺に・・・セックス教えてくれぇっ・・・)

 熱が入りすぎ、自分しかいないとはいえ、妄想の世界の中で立成は思わず自分の恥部をひけらかしてしまう。
 教師である自分、男である自分がひた隠しにしていること。童貞であること。

 学生時代から立成は女性とはあまり縁がなかった。そもそも周囲には女の子があまりいなかったし、男といる方が楽で楽しかった。女性への欲情を自覚してからであっても、自分に好意を寄せる女性がいたのかどうかはわからなかった。ロマンティックな告白なんてされたこともないし、バレンタインも義理チョコがもらえたら万々歳だった。そんなセピア色の学生時代だったが、その当時は、まぁ、人によるし自分もいつか・・・そんな風に思っていたのだが、そのままいつしか30を越える年齢になってしまっていた。周りの友人の大半はいつの間にか嫁をもらい、立派な家庭を築いている。学生時代は皆自分と同じ童貞で彼女なんていなかったはずであるのに。今でも彼らは友人であるのは変わらないはずなのだが、いつの間にか人生で、男として、負い目を感じるようになっていた。そんな友人たちにも、立成は未だに自分が童貞であることは明かしていない。きっと彼らもまさか30を超えて立成が未経験だとは思ってもいないだろう。

 そんな恥ずかしい自分が童貞である事実を、立成はオナニーの時だけは隠そうともしない。むしろそれを興奮のネタにさえしてしまっている。恥部を晒すことで恥を感じ、その恥でまた昂らせていた。少しでも精神的な刺激を欲するあまりの、行き過ぎた妄想だった。
 
(吉沢先生・・・俺っ、実は童貞っす。はじめてなんです、あぁっすみません、こんな俺でごめんなさい)

 場面が変わっていた。急に妄想の方向性が変わっていた。
 性行為をしていたはずなのに、立成は吉沢に自分の童貞チンポを披露していた。
 仮性包茎で勃起しても皮に守られた亀頭。
 肌色のままで変色しておらず、未使用であることがわかりやすい一物。
 見栄もプライドも何もない、ただの未熟な男であることを吉沢に示してしまっていた。
 それは、そんな自分を、そんな自分であっても受け入れられたいという、立成の裏側の願望によるものなのかもしれない。 

 立成は妄想の世界で思い描く台詞に羞恥した。
 自分で勝手に語っているのに恥ずかしく思ってしまった。

 確かに興奮していた。身体も火照っている。もう少しで絶頂に上り詰めそうにもなっていた。
 しかし、なぜか今は少し気分が乗れていなかった。何か心にチクッとしていた。
 あまりにも自分の負の面を自慰行為のネタにし過ぎた余り、モチベーションが下がってしまったのかもしれない。

 暫く動きを止める立成。
 このまま機械的にクッションに擦り続けていれば、あっさりと達してしまいそうな気配はある。
 しかし・・・
 このまま射精するのもちょっと勿体ないような気がした。

「うーん・・・」
(今からオカズをスマホで探すか?・・・そんな気分じゃないな。もう面倒だ、出すだけ出してしまおうか?)

 このままでも射精は問題なくできそうだ。しかし、久方ぶりの射精だ。本当に久しぶりなのだ。どうせ出すならもっと興奮したい。もっと気持ちよくなりたい。もっと・・・

 ふっと立成の脳裏に先月のことが思い浮かんだ。筒井に教室で尻を思い切り引っぱたかれた。その痣は何とか消えていたが、思い出すだけで身体が震えてしまう。
 なぜあんなに自分が燃え上がったのか。そう考えると、またも筒井に言われたあのフレーズが頭の中で湧いてくる。まるで耳もとで囁かれたかのように。

『淫乱ですね』

 思い出しただけでカーーッと顔が熱くなった。

(そうだ、あのときは筒井に散々ケツを叩かれた挙句、ケツに指を突っ込まれて、俺は、け、ケツを振って、振りまくったんだ・・・)

 おぞましい悪夢のようだった。自分の事ながらひどい醜態だ。
 それでも、あの時の快感は本物だ。
 そう考えていた立成に、ある欲望がふっと芽生え始める。

(・・・ちょっとだけ、触ってしまおうか?)
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