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「しょ……召喚……って……」
え、なんで?私が聖女役をして瘴気や魔脈の乱れの問題は収束したはず。なんでまた召喚なんて。
「また、国の中で問題が?」
私で何とかできることならしよう。
もう既に人生を狂わされてしまった私がここにいるのだから、これ以上増やす必要はない。
召喚される人を思いやってとか、この国を守るためならとかでは全くない。
ただ嫌なのだ。また召喚が行われるかもしれないと考えただけで身の毛がよだつほどに嫌なのだ。
召喚にまつわるすべてに嫌悪感があり、拒否感がある。
理屈じゃない。ただ、とにかく嫌だ。
兄王子が召喚否定派なのは知っていた。私が呼び出される時も召喚に反対していたと聞いている。
「いや、災いが起こっているわけではない。聖女殿があまりにも有能だったがためだ」
「意味が分からない」
「聖女殿は、こちらの理論でもある瘴気の浄化を全うしただけでなく、聖水晶や聖粒子を生み出し新たなアプローチで魔脈を正常化させた。そればかりか神霊山への入山を許され神霊獣と語り、魔脈の乱れの根本から解消した。これまでこの世界で生まれた聖女には成し得なかったことだ」
「それに何の問題が……?」
兄王子は宥めるように私の肩に手を置いてゆっくりと語る。
「新しい魔法や魔道具を生み出し、この世界にはない考え方を持つ君は権力があるものや野望を持つものにはとても魅力的に映るだろう。或いは知の信徒にとっては君という存在自体が渇望の対象となるだろう」
確かにプラークにラップをかけるような魔法は私が作り出したものだし、そのほかにも追尾式や熱追跡式の魔法も元の世界に知識を参考に作った。魔獣退治の時にそれらは大変役に立った。
マジックバッグは言うまでもなく大評判で、作る端から持っていかれるので作り方を教授した。
だが、私の知恵だけじゃ足らんということだろうか。確かにたいして頭はよくない。自分がいた世界にあるもの、漫画や小説のような想像の世界にあったものを作り出しただけで独自の発想なんて一個もない。
「君に乞えば良いのだが君は頑なで非協力的だ。私としては当たり前だと思うのだが、彼らとしては得心のゆかぬところであるらしい」
どこの世界に誘拐犯のお願いを聞く被害者がいるんだ。あ、いるか、ストックホルム症候群とかあるし。私には無縁だけど。
「だから、自分たちに従順で益になる人物を呼び出せばいいと彼らは考えたようだね。君という優秀な招かれ人を目の当たりにした者たちは、それを歓迎しているようだ。喚び出される者のことなど何も考えず」
「最初のころに聞いたんだけど、召喚ってその時に必要な人間……私に関しては瘴気をどうにかできる人間を連れてくるって話だったけど、自分の都合のいい人間を呼ぼうと思って呼べるの?」
「それは分からない。召喚自体がめったに行われるものではないし、君を召喚したときのように今いる人間ではどうにもならないという時にしか許されていない」
どうにもならなくて、それでも王様と兄王子は召喚を止めようとしてくれたんだよね。気持ちが有難い。この世界にもまっとうな人がいると思えるから。
「私利私欲で召喚が行われた事例はない、と。うんなるほど、私も噛む」
「噛む?」
「召喚の阻止。殿下は反対なんだよね、召喚」
「当たり前だ。己の利の為に他者を道具に使用などと人倫に悖る」
私自身は元の世界に戻ることを諦めたけれど、界覗きの訓練をした甲斐があった。
「なら召喚させよう」
「なんだと!?」
兄王子が気色ばるけど落ち着いて話は最後まで聞いてほしい。別に私は被害者増やして同盟組もうとかしているわけじゃないんで。
「反対して妨害していたらこっそりやるにきまってる。私を召喚したときがそうだったんだから。ならば失敗が続けば諦めるんじゃない?」
「失敗と言っても……。魔導士長は成功経験があるだけに次回も成功させる自信があるようだったが」
「召喚の瞬間に私が送還する」
呼び出された後ではどうにもならないが、召喚の場を見ることができれば被召喚者の世界にアンカーを打ち込める。召喚も送還も界渡りもやったことないけど、出来るという確信がある。
私ができると思ったことはこれまでみな出来た。今度も出来る。
「そんなことができるのか?」
疑いの眼で見られているけど、私は動じずに力強く頷く。そりゃね。聖女の力を持っていたって界に関してのアプローチなんて知っているわけがない。禁書庫まで漁って文献を紐解いても送還に関しては全く情報が無かったわけだし。
神霊獣に会わなければ私はいまも界を渡る方法を探していただろう。けど、私は亮君の姿をした神の使い的なアレに会って教えを受けた。人が足を踏み入れることすらかなわぬ神霊山に住まう神霊獣。会った事があるのは私だけ。そして神霊獣が知る界渡りの知識を伝授されたのも私だけ。
兄殿下が疑うのももっともだから、私は神霊山でのことを話した。
誘拐犯たちに話したらきっと知識を寄こせというだろうし、なんあら私に誘拐の片棒を担がせようとしただろうが兄王子ならそんなことはしないだろう。
「では……君は元の世界に戻ることができるのか」
「出来る、けど、しない。帰れない事情がある。理由は話したくない」
「ああ、もちろん、君が言いたくないことを無理に聞き出そうとは思わない」
物分かりがいい兄王子は、それ以上私の事情に触れることなく誘拐犯たち対策に話を変えてくれた。
「君が間違いなく送還できるのならば、召喚の日時を場所を抑えて失敗させたほうがいいというのには同感だ。強固に反対して知らぬところで召喚を行われては対処できない。それに失敗が続けば本人たちも周囲も召喚は”災い時にのみ許される”という教えのせいで召喚できないと思い諦めるだろう」
呼び出すためにわざと災いを起こすようなことをしなきゃいいけど。いや、フラグを立てようとしているんじゃないよ。
兄王子は誘拐犯たちに表立っては反対も賛成もせずに静観し、動向を探る。私は盗聴の魔法を構築して彼らの会話を傍受する。互いに役割分担をしてその日に備えることとした。連絡を取る方法として私が作った通信魔法を提案したが兄殿下は技術を取得していないという。
「しかし……私が表立って君の部屋に行ったり呼び出したりしては拙いだろう」
「私は気にしないけど、殿下は今後の縁談に差しさわりが、ねぇ」
ただでさえ王子×聖女の噂が出回っているのだ。それを助長するような行動をとっては兄王子が縁遠くなる。
「噂を本当にしても私は構わないよ?」
「お断り」
嘘くさいほどに良い笑顔で言う兄王子を一刀両断して、通信の魔道具を作ること、それを渡すために一度だけ面会申請してもらうことに決まった。
「通信の魔道具か、君は本当に自由な発想を持っている」
「いや私の発想じゃなくて、あっちにそういう機械やシステムがあったってだけ」
あとは、召喚の間に監視カメラを仕掛けるか。流石に召喚時立ち会うのは不自然だし誘拐犯たちと行動を共にすることも、被召喚者に彼らの仲間と思われることも遠慮したい。
誘拐されたと認識できる前に送還するつもりだけどもね。
え、なんで?私が聖女役をして瘴気や魔脈の乱れの問題は収束したはず。なんでまた召喚なんて。
「また、国の中で問題が?」
私で何とかできることならしよう。
もう既に人生を狂わされてしまった私がここにいるのだから、これ以上増やす必要はない。
召喚される人を思いやってとか、この国を守るためならとかでは全くない。
ただ嫌なのだ。また召喚が行われるかもしれないと考えただけで身の毛がよだつほどに嫌なのだ。
召喚にまつわるすべてに嫌悪感があり、拒否感がある。
理屈じゃない。ただ、とにかく嫌だ。
兄王子が召喚否定派なのは知っていた。私が呼び出される時も召喚に反対していたと聞いている。
「いや、災いが起こっているわけではない。聖女殿があまりにも有能だったがためだ」
「意味が分からない」
「聖女殿は、こちらの理論でもある瘴気の浄化を全うしただけでなく、聖水晶や聖粒子を生み出し新たなアプローチで魔脈を正常化させた。そればかりか神霊山への入山を許され神霊獣と語り、魔脈の乱れの根本から解消した。これまでこの世界で生まれた聖女には成し得なかったことだ」
「それに何の問題が……?」
兄王子は宥めるように私の肩に手を置いてゆっくりと語る。
「新しい魔法や魔道具を生み出し、この世界にはない考え方を持つ君は権力があるものや野望を持つものにはとても魅力的に映るだろう。或いは知の信徒にとっては君という存在自体が渇望の対象となるだろう」
確かにプラークにラップをかけるような魔法は私が作り出したものだし、そのほかにも追尾式や熱追跡式の魔法も元の世界に知識を参考に作った。魔獣退治の時にそれらは大変役に立った。
マジックバッグは言うまでもなく大評判で、作る端から持っていかれるので作り方を教授した。
だが、私の知恵だけじゃ足らんということだろうか。確かにたいして頭はよくない。自分がいた世界にあるもの、漫画や小説のような想像の世界にあったものを作り出しただけで独自の発想なんて一個もない。
「君に乞えば良いのだが君は頑なで非協力的だ。私としては当たり前だと思うのだが、彼らとしては得心のゆかぬところであるらしい」
どこの世界に誘拐犯のお願いを聞く被害者がいるんだ。あ、いるか、ストックホルム症候群とかあるし。私には無縁だけど。
「だから、自分たちに従順で益になる人物を呼び出せばいいと彼らは考えたようだね。君という優秀な招かれ人を目の当たりにした者たちは、それを歓迎しているようだ。喚び出される者のことなど何も考えず」
「最初のころに聞いたんだけど、召喚ってその時に必要な人間……私に関しては瘴気をどうにかできる人間を連れてくるって話だったけど、自分の都合のいい人間を呼ぼうと思って呼べるの?」
「それは分からない。召喚自体がめったに行われるものではないし、君を召喚したときのように今いる人間ではどうにもならないという時にしか許されていない」
どうにもならなくて、それでも王様と兄王子は召喚を止めようとしてくれたんだよね。気持ちが有難い。この世界にもまっとうな人がいると思えるから。
「私利私欲で召喚が行われた事例はない、と。うんなるほど、私も噛む」
「噛む?」
「召喚の阻止。殿下は反対なんだよね、召喚」
「当たり前だ。己の利の為に他者を道具に使用などと人倫に悖る」
私自身は元の世界に戻ることを諦めたけれど、界覗きの訓練をした甲斐があった。
「なら召喚させよう」
「なんだと!?」
兄王子が気色ばるけど落ち着いて話は最後まで聞いてほしい。別に私は被害者増やして同盟組もうとかしているわけじゃないんで。
「反対して妨害していたらこっそりやるにきまってる。私を召喚したときがそうだったんだから。ならば失敗が続けば諦めるんじゃない?」
「失敗と言っても……。魔導士長は成功経験があるだけに次回も成功させる自信があるようだったが」
「召喚の瞬間に私が送還する」
呼び出された後ではどうにもならないが、召喚の場を見ることができれば被召喚者の世界にアンカーを打ち込める。召喚も送還も界渡りもやったことないけど、出来るという確信がある。
私ができると思ったことはこれまでみな出来た。今度も出来る。
「そんなことができるのか?」
疑いの眼で見られているけど、私は動じずに力強く頷く。そりゃね。聖女の力を持っていたって界に関してのアプローチなんて知っているわけがない。禁書庫まで漁って文献を紐解いても送還に関しては全く情報が無かったわけだし。
神霊獣に会わなければ私はいまも界を渡る方法を探していただろう。けど、私は亮君の姿をした神の使い的なアレに会って教えを受けた。人が足を踏み入れることすらかなわぬ神霊山に住まう神霊獣。会った事があるのは私だけ。そして神霊獣が知る界渡りの知識を伝授されたのも私だけ。
兄殿下が疑うのももっともだから、私は神霊山でのことを話した。
誘拐犯たちに話したらきっと知識を寄こせというだろうし、なんあら私に誘拐の片棒を担がせようとしただろうが兄王子ならそんなことはしないだろう。
「では……君は元の世界に戻ることができるのか」
「出来る、けど、しない。帰れない事情がある。理由は話したくない」
「ああ、もちろん、君が言いたくないことを無理に聞き出そうとは思わない」
物分かりがいい兄王子は、それ以上私の事情に触れることなく誘拐犯たち対策に話を変えてくれた。
「君が間違いなく送還できるのならば、召喚の日時を場所を抑えて失敗させたほうがいいというのには同感だ。強固に反対して知らぬところで召喚を行われては対処できない。それに失敗が続けば本人たちも周囲も召喚は”災い時にのみ許される”という教えのせいで召喚できないと思い諦めるだろう」
呼び出すためにわざと災いを起こすようなことをしなきゃいいけど。いや、フラグを立てようとしているんじゃないよ。
兄王子は誘拐犯たちに表立っては反対も賛成もせずに静観し、動向を探る。私は盗聴の魔法を構築して彼らの会話を傍受する。互いに役割分担をしてその日に備えることとした。連絡を取る方法として私が作った通信魔法を提案したが兄殿下は技術を取得していないという。
「しかし……私が表立って君の部屋に行ったり呼び出したりしては拙いだろう」
「私は気にしないけど、殿下は今後の縁談に差しさわりが、ねぇ」
ただでさえ王子×聖女の噂が出回っているのだ。それを助長するような行動をとっては兄王子が縁遠くなる。
「噂を本当にしても私は構わないよ?」
「お断り」
嘘くさいほどに良い笑顔で言う兄王子を一刀両断して、通信の魔道具を作ること、それを渡すために一度だけ面会申請してもらうことに決まった。
「通信の魔道具か、君は本当に自由な発想を持っている」
「いや私の発想じゃなくて、あっちにそういう機械やシステムがあったってだけ」
あとは、召喚の間に監視カメラを仕掛けるか。流石に召喚時立ち会うのは不自然だし誘拐犯たちと行動を共にすることも、被召喚者に彼らの仲間と思われることも遠慮したい。
誘拐されたと認識できる前に送還するつもりだけどもね。
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