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第2章
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しおりを挟む夏休みが明け、学校が始まった。
私は、家から徒歩十数分のところにある県立南ヶ丘高校、通称南高という高校に通っている。
最近、老朽化がひどくて校舎を建て替えるという話が出ているくらい古い歴史のある学校だ。
高校での私は、来未と出会う前の私だ。だれとも喋らず、ただ机に向かってノートとにらめっこして、街をふらふらして時間を潰してから帰る。
学校のだれも、私に話しかけてこない。空気のように扱う。けれど、中学のときのような、変に気を遣われる空気よりは今のほうが幾分マシだった。
私はもう、友達を作る気はない。どうせ卒業したら疎遠になるのだし、そもそも人と関わるのは面倒だ。
……それに、あんな思いをするのはもういやだから。
バッグから文庫本を取り出し、開いたときだった。
「榛名さん、おはよう!」
突然挨拶され、顔を上げると女の子が立っていた。長い黒髪の毛先は丁寧に切りそろえられていて、前髪もいわゆるパッツン前髪。
目鼻立ちがはっきりした女の子だ。
「……おはよう」
挨拶を返しながらも、内心戸惑う。だれだっけ。クラスメイトなのは分かるが、名前が分からない。彼女は私の前の席に座ると、くるりとこちらを向いて話しかけてきた。
「榛名さん、夏休みはどこか行った?」
「……ううん、特には」
「そっか」
「…………」
「…………」
しばらくお互い無言だった。女の子は気まずそうに瞬きをしながら視線を泳がせている。
まったく、用がないなら私なんかに話しかけてこなければいいのに、と思う。
「あっ、そうだ!」
ふと、思い出したようにカバンを漁り出した。
「あのね、榛名さん。これ、あげる」
と、女の子は、私に手のひらサイズのウサギのぬいぐるみを差し出した。
「え……?」
戸惑いがちに女の子を見る。
すると女の子はちょっと恥ずかしそうに頬を紅潮させながら、落ち着かない様子で私を見ている。私はぬいぐるみに視線を落とした。
渡されたぬいぐるみは、仮面舞踏会のようなゴージャスな仮面を付けていて、
「可愛い」
そう。可愛かった。
「微妙にキモいけど」
呟くと、彼女はパッと表情を明るくした。
「ほんと!? これね、ご当地ぬいぐるみなんだ。お盆に実家に帰ったときにたまたま見つけたんだけど、なんとなく榛名さんに似てて、可愛いなって思って」
「……え、私に似てるの?」
今私、キモかわいいって言ったんだけど。じっとぬいぐるみを見つめていると、女の子が慌て出す。
「あ、へ、へんな意味じゃないよ!? ただ、可愛いなって。ほら、おそろい」と、女の子は自分のカバンを見せてきた。そこには私にくれたものと同じ仮面をつけたネコバージョンのぬいぐるみキーホルダーがある。
「……ありがとう」
ぬいぐるみを見つめ、考える。彼女はどうして、私にこれをくれたのだろう。友達でもなんでもないのに。私なんて、あなたの名前も知らないのに。
「夏休み明けちゃってちょっとダルいけど、今月は文化祭だし楽しみだよね! これからまたよろしくね!」
「うん……」
無邪気な笑顔を向けてくる女の子に、私は目を細める。眩しく感じた。まるで太陽のようだ、と思う。
ちらりと覗いた教科書から、志田朝香という名前が見えた。
志田さんというのか。
ほんの少し、声が来未に似ている気がする。
「……よろしく」
志田さんがからりと笑う。
その笑顔が来未の笑顔とダブったのか、私の心は妙に胸がざわついていた。
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